再就職支援のパイオニア

【ECO】コーチング事例集

コーチング事例集

上司への信頼と部下自身の肯定感の醸成のために配慮の一言をいつも忘れずに。

職場の何気ない会話の中に、部下のやる気を削ぐ「種」はいくらでもあります。
I太君のように上司をロールモデルにしているようなケースでは、特に配慮が望まれます。I太君:
「係長、聴いてください!!(若干気持ちが高揚している感じ)課長ってひどいんですよ。僕が都合が悪いってしってるのに、飲み会セットしたんです」係 長:
「それは怒れるね。課長もひどいな」

I太君:
「そうですよね。僕、前から課長と呑みたいって言ってたし、課長が候補日を上げられたんで、都合が悪い日をちゃんとお伝えしたんです」

係 長:
「I太君は、ちゃんと都合が悪いことをお伝えしたんだね。それでも、その日にされたのは、何か理由があったんじゃないかな? 伺ってみた?」

I太君:
「はい、他の社員の参加が一番多い日に決めたっておっしゃってました。どうせ僕なんて、末端の末端の部下だから、仕方ないですよね」

係 長:
「I太君は、末端の末端の社員なんだろうか?」

I太君:
「そうですよ。僕は、まだ入社2年目ですし、他に誘われたのは、5年以上の社員ばっかりだから、その人たちの方が優先されるのは仕方がないです。でも、僕も予定聞かれたので、ちゃんとお伝えしたから・・・期待していたんです」

係 長:
「期待を損なわれたことに腹が立つんだね。僕が代わりに謝るのはおかしいことかもしれないけれど、僕の気持ちとしてお詫びしたい。申し訳ないことをしたね」

I太君:
「いえいえ、そんな・・・係長にお詫びしてほしいとは思ってないんです。それに、皆の都合を合わせるのは、たいへんだから、課長も仕方がない選択だったと思います。僕、課長のように仕事ができる人になりたくて・・・でも、僕なんか、まだまだ見積もりの一つも自分では作成できていないし。僕がきちんとお伝えしなかったかもしれないから。」

係 長:
「そうなんだ。I太君は、課長のような仕事ができる上司になりたいんだね。また、機会を作るよ。今度は僕が課長とI太君の二人の都合を調整するよう、約束しよう。」

職場の何気ない会話ですが、I太君のように、憧れの人からの声かけであれば、期待を損なわれた残念な気持ちが、自己肯定感を下げてしまう場合があります。
もし、課長が、飲み会の予定がI太君の都合に合わせられなかったことについて、申し訳ないという配慮を言葉で伝えることができていたら、更にI太君の課長への信頼と、自分への肯定感は上がっていたことでしょう。
上司は、いちいちそんなことは言葉で言わなくてもいいだろう…程度に考えることでも、部下の心は沈む場合があります。コーチングを学習することによって、相手の性格や才能に適した声がけができるようになるため、こういったコミュニケーションミスマッチを避けることができるようになるでしょう。

会話の行く先を常に意識することを忘れないようにしましょうね。

コーチングは、問題や課題を解決するために行うものではありません。
問題や課題を抱えている当人が、解決しようと決意し、どう行動するかを決めていく過程をサポートするために行うものです。
問題解決のために、上司と会話する場面が多いので、どうしても、上司が助言や指示を与えてしまいがちですが、部下の心の声は、果たしてそれを望んでいるのでしょうか?
( )の中は、それぞれの心情です。
今回は、そんなことを考えながら、お読みください。係長:「今年はどんな目標を立てたのかな?」
(今年も頑張ってほしいという期待を込めた質問)部下:「はい、わたしも今年で35歳。崖っぷち状態から脱出しようと思います」
(新年早々、何を聴かれるかと思えば、目標設定かぁ・・・重いな・・・)

係長:「崖っぷちにずっと立っているのかい?」
(そんなこと思っているのか?ちょっと驚いたな)

部下:「はい、ここ数年、思うように成果が上がっていません」
(ちょっと謙遜しておいたほうがよさそうだな)

係長:「成果が上がっていないと感じているのなら、改善策を考えたらいいのじゃないのかね?」
(おいおい、伸び盛りの君がそんなに気弱なことでどうする? ここはハッパをかけたほうがいいな)

部下:「いえ、改善策は考えているんですが、毎年、結果に結びつかないので」
(そんなことはとっくに考えてます!)

係長:「それは、改善策とは言えないんじゃないのか?」
(結果が伴わないなら、それは改善策ではないことくらい、彼なら理解していそうなのになぁ)

部下:「はぁ、そうかもしれませんが、アイデアはいいと思うんです」
(面倒なことになったな・・・しまったなぁ)

係長:「アイデアはいい?じゃ、何が悪いんだ?」
(本気でこの子は考えているんだろうか?)

部下:「はぁ、続かないんです」
(ヤバイから、本音を言って、話しを終えたいな)

係長:「続かないんじゃなくて、続けないんじゃないのかね?」
(おいおい、冗談じゃないよ。助言したほうがいいみたいだな)

部下:「・・・・」
(おお・・やっちまった!面倒なことになった 説教だなこのパターン)

係長:「主体的に考える癖がないように思うんだが・・・」
(自分の自己成長は自己責任で計画しなきゃダメじゃないか。自分は常にそうしてきたから、今があるのだ。わからせてやろう)

部下:「はぁ・・・・」
(だから何だって言うんだ。ちゃんと考えているけど、今は何を言ってもダメだな)

係長:「君に一番足らないことは、自分を信じるということじゃないのかね?
決めたことを決めたとおりに実行する。そこには、イレギュラーはない。
自分を大事にすることだな。今年は、君の自信を高めることが優先されるなぁ」
(自分で考えられないなら、指示を出そう。きっと自分を見失っているだけだ。落ち着けば、自分を取り戻すだろう)

部下:「ありがとうございます。自分を裏切ることに慣れているせいか、係長の言葉 はイマいちピンときませんが、自信が大事だという気持ちは湧いてきました」
(せめて、ちょっとは言い返しておこう。なんで新年早々説教なんだろう。なんで目標を指示されなきゃならないんだ?)

コーチングの難しさは、部下の話すことを、自叙伝的に聴いてしまうか、あるいは、自分の経験的知見で解決してあげようというおせっかいな気持ちが手放せないからでしょう。
また、会話の目的を見失わないよう、会話の行く先を常に意識することを忘れないようにしましょうね。

負のループを断ち切る人編

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
ヒントになっていますか?課長:「この頃、事務所に活気がないと思わないか?」
係長:「はぁ、そうですか?別に気づきませんが・・こんなもんじゃないですか」課長:「そうあなたは思うんだね。ところで、活気ってさっき言ったが、活気はどんなもんだと思ってる?何かに例えると何だろう」
係長:「そうですね・・例える?そんなこと考えたことないですよ。上司が活気と言ったら、元気よく返事するとか、挨拶するとか。それなら自分はできていますから。」

課長:「そうだね。あなたの返事や挨拶はいつも明るくて元気がある。それはとてもうれしいことだけど、活気とわたしが言ったのは、空気が元気に動いていて、その空気にみんなが押されて行動できるような、そんなイメージをわたしは持っている。ただ、それがうちの事務所には今はないと感じたんだが、どうだろう?」
係長:「空気感なんて、人によって感じ方が違うわけですから、そんな抽象的なことで、イマドキの若い奴らが理解するとは思えません。」

課長:「イマドキの社員に、あなたは加わってないの?と尋ねたいところだが、それは置いといたとして、活気が欲しいんだよ。わたしは。」
係長:「具体的にどうすればいいんですか?」

課長:「何を望むかではなく、何ができるか、自分たちで考えるよう促してくれないだろうか?」
係長:「自分たちで考えろと、わたしが指示を出したところで、すでに自主的ではないと思いますが、いいんでしょうか?」

課長:「そこまで厳密に考える必要はないと思うし、そんなことを言っていたらいつまでも目標が未達の状態が変えられないのではないだろうか」
係長:「課長は、今の目標未達の状態をどう受け止めていらっしゃるのでしょうか」

課長:「負の連鎖だよ。これはまさしく。」
係長:「どういうことですか?」

課長:「上司の指示を真剣に聴いてくれるのは嬉しいが、いちいち、理論的な自己解釈を披露する前に、自分ができることを見つけて行動してほしいと、わたしは考えている。目標未達の大きな原因は、考えすぎて、行動できないことだろう。漠然と動くことは一見非効率なもんだが、効率を重視するなら、どんな動きが効果的、どんな動きが日効果的かを知らなければならない。とにかく、あなたの役割は、一人一人が、今までの経験を使って、今までより大きな成果を得られるよう指導することです。とにかく、行動の質は次の目標にして、行動の量を増やすよう指示してください。」

理論派は、どうしても、理屈先行で行動量が少なくなってしまいます。
時には、事態を打開するために、行動量を増やすことが望まれます。
この課長のように、部下の話を一生懸命聞いたうえで、指摘と指示をだすことをためらわないように行動してみてくださいね。

自己信頼感の低い部下の育成

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
ヒントになっていますか?係長:「ありがとう。ようやく契約が成立したそうだね」
部下:「いやぁ、あんなに長く時間をいただいた件ですから、ぜんぜん褒められないです」係長:「そんなことはないよ。ここまでよく粘ってくれたと思っている」
部下:「いえいえ、係長のフォローのおかげです。自分では何もできていないですから。」

係長:「そうかな?一生懸命頑張ったと思っているんだけどな。自覚がないのも残念だな」
部下:「なぜ、残念なんですか?わたしはまだ、期待を寄せていただける人間じゃないです」

係長:「自分に厳しいことはいいことだが、自分を褒める力もつけないとな。君が先輩になったり、上司になった時、部下に厳しくなりすぎることを考えないとな」
部下:「係長は、私のそんな将来まで考えてくださっているんですか?」

係長:「キャリアは、今、ここに集中することも大事だけれども、キャリアターゲットだけでなく、ビジョンを持たないと、自分の成長が実感できないばかりか、自分の才能や能力の使いまわしができないから、成果が安定しないんだ」
部下:「そうなんですね。僕の契約は常に小さくて・・・少しもチームへの貢献ができずに、苦しいんです」

係長:「君たちの年代は、誰かの役に立ちたいと思う気持ちが強いのは傾向としてあるようだね。しかし、他者への貢献は、自分への貢献とバランスがいるんだ。自分ご褒美ばかりも困るが、他者貢献だけでは心も体ももたなくなる。」
部下:「そうなんですね。でも、自分を自分で認めるのは抵抗があります」

係長:「私が何か手伝ったら、自己認識を高めることができると思うか?」
部下:「ん・・・・考えたことがないので・・・」

係長:「焦らず、ゆっくりでいい。自分を受け入れよう。悪いことだけじゃなく、良い方もね」

自分の価値観は、いつも自分の中心になるため、気づかず過ごすことが多いものです。
自分への評価が厳しい人は、他人にも評価が厳しくなりがちです。
職場が求める評価の基準を、実感させることによって、自分と周りの見え方を変化させることができます。
また、キャリアとは、繰り返し実行して成果を得て初めて習慣化させることができるものです。
基準を肌で感じさせ、成功を満たししているのかいないのかを教えるとともに、
今回の成功を次に活かすためにどうしたら良いかを考えさえるために、一つの行動の結果は、必ずフィードバックしてフォローするようにしましょう。

初の新人指導係になる人編

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
協働作業のヒントが見つかりますように。部下:「係長、先ほど人事から任命を受けました」
係長:「新人の指導係のことですか?」部下:「はい。大卒の男子とペアで、三か月の指導を行うようにとのことです」
係長:「初めてでしたね?」

部下:「はい。いい奴だといいんですが・・・」
係長:「あなたにとって、「いい」人と言うのは、具体的にどんなことを意味するんですか?」

部下:「はぁ、それはやる気があるとか、ポジティブだとか。明るいとか」
係長:「そうでなければ、何か問題になることがあると考えるんですね?」

部下:「いやぁ、そんなに大きな問題でもないですが、ネガティブなタイプだと苦手です」
係長:「あなた自身は、ポジティブですし、常に明るく朗らかですね」

部下:「ありがとうございます」
係長:「指導係としてのあなたに聴きたいのですが、やる気がない新人が入ってくると思いますか?」

部下:「いやぁ、さすがにそれはないと思いますが・・・」
係長:「では、やる気が下がるとしたら、何が原因だと思いますか?」

部下:「仕事のやり方とか、会社に馴染めずに不安になるとか・・・」
係長:「指導係の役割は何だと思いますか?」

部下:「わたしの役割ですか?・・・仕事を教えること・・ですかね」
係長:「仕事を教えることも役割の一つですが、不安を抱くことがないよう、まずは、困っていることを聴いて、フォローして安心させてあげてください。新しい環境に入れば、誰でも不安を抱くものです。上司や先輩の名前一つがわからないことが、不安の種になります。最初から、仕事を軸に置いた関係を整えるのではなく、まずは、会社の生活に馴染めるよう、フォローをお願いします。あなたは、日ごろからとても親切な人なので、私は心配をしていません。
しかし、初めての指導係ですから、あなたの不安を持つかもしれませんから、いつでも相談してくださいね。」

春は、新しい環境に臨むチャンスが多くなります。
誰もが抱く「不安」を払しょくするために、誰かの手がそこに伸びていることを知るだけでも、心が落ち着くものです。
部下への心配りを忘れないようにしましょう。

調整力の高い人の表現:
ノリのいい性格の行動特性:

行動を起こそうよ編

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
2017年も、皆様のコミュ力向上や、人材育成力アップのお役に立てたらうれしいです。どうぞ、よろしくお願いします。社 長:「また、採用の時期が来ました。頭が痛い日が続くよね」
コーチ:「毎年のことですね」社 長:「大体、うちみたいな弱小企業に就職を希望する人なんていないんだよ」
コーチ:「弱小企業だから、応募しないのでしょうか?」

社 長:「そりゃぁ、大企業がいいに決まってるだろう。安心できるし、カッコいいんだろうな」
コーチ:「セッションのテーマは、「大企業になる」ではないでしょう」

社 長:「そりゃぁ無理だよ。すぐになるわけない。まぁ、企業買収でもされない限り・・・」
コーチ:「では、今日はどんなテーマでセッションしますか?悩み事を伺う時間でもOkですけどね」

社 長:「いや、それは時間の無駄遣いだと思う。うちに足らないものを教えてくれないか?外からの目から見て、何が足らない?」
コーチ:「わたしの意見も大事かもしれませんが、御社のご担当者は何といってらっしゃるんですか?」

社 長:「うちみたいな企業では、優秀な社員は採用できないという意見だよ」
コーチ:「それは、社長の言葉にうなづいていただけではないですか?ご自分の言葉でおっしゃいましたか?」

社 長:「いや・・たしかに、そうですねと同意しただけのような気がする」
コーチ:「ご自分の勤める会社に魅力がないと嘆く社員は、喝を入れ直さないとなりませんよね」

社 長:「?(ハッと気づく)・・・それが、コーチ、あなたの意見ですか?それなら、まずは、私が喝を入れられないとならんね・・言いづらいことを指摘するからこそ、あなたは信頼できる。もう一度、考えてみるよ」

人は、悩みが大きくなればなるほど、思考停止になり、結果、行動しなくなります。経営者と言えども、それは同じです。
できることからコツコツと積み上げるしかない問題がテーマであれば、コーチは、まず、とにかく行動を促すための指摘を恐れずに出しましょうね。

信念と思い込みの違い編

人格やキャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
思い込みの激しい部下との会話です。
何か、ヒントを得ていただけると嬉しいです。係員:「店長、お客様の関心が、このごろ私たちの店から離れているように思う
のですが、店長、感じていらっしゃいますか?」
店長:「そうかな?たまたま、今週は客足が遠のいているだけじゃないかしら?」係員:「いえ、確実に客足が減っています」
店長:「減っていると感じる理由は何ですか?」

係員:「トイレのペーパーの減り具合です」
店長:「トイレットペーパーの減り具合?面白い観察をしているんですね」

係員:「はい、お客様の来店に左右されるものの一つだからです」
店長:「仮に、客足が減っているとして、何が問題になりますか?」

係員:「はい、客足が伸びなければ、利益も増えることはありません」
店長:「客単価を上げたら・・とは考えない理由は何ですか?」

係員:「絶対的な量には勝てないからです」
店長:「なるほど、それは確かに一つの考え方でしょう。でも、それ以外にもいろんな考え方はあるように思います。あなたが店の利益のことを十分に考えていることは、とてもうれしいし、とてもありがたいと思います。
しかし、だからと言って、一つの考え方にとらわれ過ぎるのはどうかと思います。思い込みと信念を持つことは違うように思いますが、いかがでしょうか?
もう一つ、あなたがそういう考えを持っていることを、職場のみんなに共有してもらいましょう。他のスタッフの考え方も足したり、ひいたりすると、もっと広い視野で課題を見つけることができるようになることでしょう。みんなと協力してみませんか?」

思い込みの激しい人は、他人の感情を共感することが苦手な傾向が見られます。
相手の主観的意見に振り回されると、管理者自身の意見が持てなくなってしまいます。管理者は、多角的に見渡したうえで、課題の発見や、問題への対処ができるようになっておかなければなりません。
部下の思いの強さが思い込みにつながりすぎることがないよう、指導と教育を行うようにしましょう。信念のある人というのは、考え方や表現にブレがないだけでなく、行動も一貫しているので、見分けが可能です。単なる思い込みの激しいだけの人は、言行一致がなく、自分ではそれに気づいていないという致命的な矛盾が見られるので見分けることができることでしょう。

よく使う用言
「いえ、そうではなくて・・・」「絶対に・・・」「やっぱりそうでしょう」など

行動の特徴
人の意見について、受け入れることなく反対の意見を述べる
自論を語りたがる

「成長支援に興味がある上司とない課長編

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
動かない会話を動かすきっかけになれば、うれしいです。部長:「どうかね?この頃の若い世代は、自己成長に興味を持っていると思わないかね?」
課長:「はぁ、自己成長ですか・・・やれる子はやれるし、やれない子の方が多いですから。そんなに前向きな部下ばかりではないように思います」部長:「そうかなぁ。この間、東君と京谷さんと話をしたが、それぞれ面白いアイデアを持っていたよ。成長を予感させるものがあると思ったよ」
課長:「部長は、毎日を知らないからですよ。あの二人は、まだ、自分の行動計画すら、自分では立てられないんですよ」

部長:「それは、課長の指導が悪いからじゃないのかね」
課長:「(沈黙)・・・・」

部長:「そもそも、君は、年間どのくらい、自分磨きに投資しているのかね?」
課長:「本を買ったり、ジムに行くお金を集めたりすれば、まずまずの投資だと思いますが・・・」

部長:「そういう投資で、自分が成長したという実感はあるのかね」
課長:「実感・・・ですか・・・」

部長:「そうだよ。人を育てる役割を持ったなら、自分が成長している実感を得ることだよ。そうじゃなきゃ、自分を成長させる喜びを知らなくちゃ、できることじゃないだろう。時間もかかるし、育てる君の方に忍耐力が必要なことだからね。君はいつも、部下に細やかな目配りをしてくれているし、指導も適切だ。が、同時に、できないことができた時、部下と一緒に喜ぶというような係わりを見たことがない。どこか、冷たいというか・・仕事だからやっているという感じがする。人は、成長するものだけれども、企業内においては、成長させてあげるような係わりが必要だよ。勝手に育った部下は、いつか、自分の目を他に移す。信頼関係を維持し、会社の利益に貢献できるようにするためには、育てるという行為が必要なんだと、わたしは常に考えるが、違うかな」
課長:「おっしゃる通りです」

部長:「時間をかけるなとは言わない。しかし、時間をかけすぎても、ダメなものはダメなこともある。どうしたら、もっと相手をやる気にさせ、挑戦する勇気や覚悟が持てるようになるか考えてみてほしい。そのためには、若い社員と話をする時間を増やしてみることと、その時、今目の前にいる部下を受け入れることだよ。君には期待しているよ」
課長:「はい。ありがとうございます」

今後はますます労働力不足になります。
一人の人の能力を上げて、効果性の高い事業展開を考える時、避けて通ることができないのは、「人材育成」です。
思いつくままに訓練をするようなことを避けるためにも、戦略を立てて、計画通りに進めてくださいね。

人格やキャリア履歴を活かしたコーチングの事例

自己肯定感や自己重要感が低いマネジャーは、まず、自分を成長させる必要があります。
業界によっては、若い世代に現場のトップを任せなければならない場合があります。経験も少ないリーダーを育てるヒントになればうれしいです。どうせ私のやることなんて・・・
「理想のマネジャー像とのギャップ編」店長:「新しい企画で、6週間のイベントをやっているんですが・・・取引先にもこの程度?って思われているようで・・・」
役員:「歯切れが悪いね」

店長:「はぁ、元々、イベント会社の持ち込み企画ですし、やったことがないし、準備の時間もそんなに持てず、苦戦しているんです」
役員:「苦戦かぁ・・それは辛いな」

店長:「マーケティングも十分手を打てたかどうか・・・」
役員:「やったことがないのであれば、他のイベントと比較せず、通年の同月で比較して、売り上げは伸びてないのか?」

店長:「いえ、それは伸びてます。天気も恵まれていますし、施設全体の客足も伸びていると聞いています」
役員:「で、何が苦戦の原因なのかね?」

店長:「部下の対応が、ほんとうにそれでいいのか?とか、取引先の応援などを要請する日に限って、客足が伸びないとか。自分の経営センスを問われているように思えてならないのです」
役員:「考えすぎているようにも思うが、自分の仕事に悩みを抱えるほど、真剣に考えてくれていることを、うれしく思う。」

店長:「ありがとうございます。でも、結果が出ないと・・」
役員:「一つ、君に必要な事を示したいが、いいかな。そんなに自分を見くびって何か・・・そうだな、勇気や決断ができるものなのかな?
まず、君は、自分が理想とする店長がどんなイメージか、明確に描け。そして、今の自分とのギャップを感じる理由を書き出してみたらいい。やったことがないことに挑戦しようと思った、その君の心意気を役員会は承認したわけで、その理由を、役員のわたしの立場から考えてみよう。いつでも考えがまとまったら、連絡してきなさい。話を聴く。このイベントを成功させるには、君の自分を信じる気持ちが左右する。そして、そういう理由で失敗をさせたくはない。このイベントの成功が、君の自己好意感を高めることになるから、真剣に頼むよ」

経験が少ないと、どうしても失敗する理由を思いつくことが多くなります。
人を育てるには、実学は重要で、「やらせてみなければ、人は育たず」という基本的な教え通り、行動を促しましょう。しかし、そのためには、承認する、励ます、考えさせるという地道な育成を忘れないようにしましょう。

よく使う用言
「どうせ・・・」
「(自分なんて)こんなもんですよ」

行動の特徴
自分の中だけで考えて、行動が鈍る
自分以外、 周りに協力者がいないと思い込み、一人で抱えこむ

適応性の高く職務経験の少ない人材の活かし方編

才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
今回は、職務経歴の少ない30代の女性のコーチングです。
本人は、一貫した対人業務に自信があるようですが、指示を受けて仕事をしてきたその経験をどう活かすことができるか、どんなことをすればよいのかに気づけるでしょうか。「適応性の高く職務経験の少ない人材の活かし方編」係長:「どうですか?職場の雰囲気には慣れましたか?」
新人:「はい。おかげさまで。皆さん言い方ばかりなので、とても居心地がよいです」

係長:「そうですか。それは良かった。これまでも対人業務だったので、コールセンターの仕事にも早く馴染めるのではないかと思って安心はしていました。しかし、転職は初めてで、これまでに仕事は2つしか経験がありませんから、応用できるものが少ないですからね」
新人:「ありがとうございます。皆さんの応対を参考に、お客様とのやり取りの瞬間を楽しんでいます」

係長:「それは心強い。しかし、やり取りの中には、気が滅入るようなものもあるだろうから、主任に相談して進めてくださいね。」
新人:「ありがとうございます。でも、わたしは早急の対応など、プレッシャーがエネルギーになるタイプですから、安心してください」

係長:「あなたは、自己分析もしっかりできているし、自分の才能をよく心得て上手く使える人なので、安心です。しかし、これまでのように顔が見える関係ではないので、そこは注意してほしい」
新人:「あるがままに、お客様の声に耳を傾けたいと思います」

係長:「そうですね。まずは、お客様の声をしっかり聴いてください。慣れてきたら、あなたにはそれ以上の成果を期待していますが、何か勉強したいことはありますか?」
新人:「お客様は、心理的に満足を求めていらっしゃるだけですよね?」

係長:「もちろん。満足を求めていらっしゃる。では、その満足は何で高まると思いますか?」
新人:「コールセンターは、お客様の質問に答え、お客様の不満や疑問を解決するのが仕事。だから、しっかり応対ができれば良いのではないでしょうか?」

係長:「そうですね。それも大切ですが、それ以上に何が必要だと思いますか?」
新人:「そのほかに・・・ですか?」

係長:「そうです。そのほかにです」
新人:「そうですね・・・」

係長:「商品知識はもちろんです」
新人:「はぁ・・」

係長:「例えば、交渉力。お客様の満足を高めるということは、お客様の意見を全部受け入れる。聞き入れるということではありません。お客様の意見と私ども会社の意見を合わせて、どちらも満足できるような新しいアイデアの提案をしながら、話を進めなければなりません」
新人:「交渉ですか・・・苦手かもしれません」

係長:「お客様は、自分の言い分を通すことで満足を得ると思いこんでいらっしゃいます。でも、新しい意見や、他の考えに触れることで、気持ちが変わることだってあるんです。あなたが勉強することはたくさんあるように思いますが、どうですか?」
新人:「そうですね。わたしが今、何を一番学べばよいか、教えていただけますか?」

係長:「そうですね。では、まず、電話口の人の表情を想像しやすくなるように、相手を理解するために聴くという傾聴を学びましょうか?その人の表情が想像できれば、その人の人格に触れることができれば、お客様に理解
を得られやすくなるでしょうし、あなたも1本1本の電話の後で、達成感が大きくなることでしょう。そのために、何を準備したらよいか一緒に考えましょう」

この新人のように、職務経歴が少ない場合、応用できる知識や経験が少ないので、不安に陥りがちです。
しかし、適応性という才能に恵まれた人は、ともすると、突然の要請や、予期せぬ変更を待ち望む柔軟性があるので、仕事の成果があげられていると錯覚を起こすことがあります。また、急な修正や対応など、プレッシャーがエネルギーとなってやる気が高まるという行動特性があるため、日々の勉強を怠る傾向がみられるのです。

今、この瞬間を生きることがモットーなこのタイプには、「未来」があることや、その未来は自分次第でいかようにも変化させることができるということを予感させ、今の積み重ねがその未来につながることを前提に、継続的に学習し、教養を高めるように指導してから、準備計画などについて、コーチングを行うようにしましょう。

競争性と指示性の高い人材をどう生かすか編

才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
今回は、経験者採用により、中途入社したばかりの社員が、競争性と指示性という才能に恵まれていた場合を考えてみましょう。協調性の高さと集団行動が職場文化の中で
「競争性と指示性の高い人材をどう生かすか編」部長:「竹内さん、昨年秋に採用した社員の件で、ご相談したいんですが」
CC:「どんなご相談ですか?」

部長:「彼女に与えてある業務の結果には、問題がないんですが、部内の先輩を先輩と思わないような言葉遣いや態度が気になるんです」
CC:「そうですか。言葉遣いと態度が気になるんですね。具体的に伺いたいですね」

部長:「例えば、先日、先輩社員が彼女に仕事の指示を与えたのですが、笑顔もなく、はぁ・・わかりましたと、どうでもよさそうな感じで答えていたのを見かけたので、注意したんです。」
CC:「どんな注意を与えたのですか?」

部長:「もっとはっきり返事をしたほうが、指示を与えた人間にも快く仕事を受けた感じを持ってもらえるし、責任ある仕事ができる人のように見える。うちは、部内のコミュニケーションを大事にする風土があるから、早く馴染んでほしい」
CC:「彼女の反応は薄かったんではないですか?」

部長:「そうなんですよ。何が悪いの?みたいな顔をしていました」
CC:「そのほかに、何か気になることがありますか?」

部長:「人の会話に首を挟むというか、先輩たちが話をしていると、知識をひけらかすというか。この間も、道の駅の農産物の話をしていたら、いきなり、TTP交渉が成立したら、日本もそんなに呑気なことを言ってられなくなるかもしれませんね、なんていうもんだから、場がシラけてしまって。単なる雑談なんだから、雑談レベルでいい話なんですが、一事が万事です。」
CC:「業務は的確にできるけれども、人間的にどうか?ということですね」

部長:「そうなんです。どうしたらいいのでしょうか?」

この彼女は、指示性と競争性という才能に恵まれています。指示性とは、現場を仕切る能力です。また、競争性とは、まさに他者に負けたくないので行動するという才能です。どちらもうまく伸ばせば、心強い戦力になりますが、入社して間もないという立場では、どちらも発揮することができず、イライラした気持ちが高まっているのではないでしょうか?
また、内面では、コンプレックスを抱えているかもしれず、だから、人には負けてはならないと、才能の使い方に歪みがあるかもしれません。

この才能に恵まれている人は、空気を読むとか、他者への配慮、場を和ませる、間接的な表現が苦手なので、「感じ」「気配」などという伝え方では理解ができないのです。理解できないときも、競争性という才能が邪魔をして、素直に「それはどんな意味ですか?」と、聴き返すことができないので、無表情、無反応になってしまうのです。

このタイプの人材には、できる限り直接的な表現や指示、理論的な伝え方をして、自己納得を促すとともに、人と競うのではなく、自分との戦いを促してください。
締め切りは5日後だけれども、4日でやってもらえたら、次の仕事が頼めるので助かるというような具合です。
また、褒める、認めるという行為も、本人的には、褒められて当然、認められて当たり前という意識がありますから、おべんちゃらは通用しません。
何がどうだから褒める、認めるというように、理由や根拠をはっきり示してくださいね。

肩書で仕事をすることに疑問を持たない人編

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
ヒントになっていますか?部長:「新しいプロジェクトのメンバーから相談を受けたんだが」
課長:「どんな相談でしょうか?PJは、とても活気があっていいチームです」部長:「そうか、そうならいいが、メンバーはそう思っているんだろうか」
課長:「わたしが時間をかけて計画を立てた事業です。問題ありません。
何を思って部長に相談したんでしょうか」

部長:「いや、メンバーは君の仕事ぶりに疑問があるようだ」
課長:「仕事ぶりですか?わたしは、課長でもあり、PJのリーダーですから、きちんと指示、命令を与え、成果についても評価しています。何か、問題があるのでしょうか?」
部長:「どうなんだろう・・・」

課長:「PJリーダーですよ。わたしは。わたしがやりたいと思うことをやるのに、どうしていちいち、メンバーの意見を聞いて、調整する必要があるのでしょうか?」
部長:「まぁ、そういう考え方もある。しかし、みんなが満足しているのだろうか」

課長:「満足ですか?わたしは会社に利益をもたらすことが望まれているのであって、メンバーの満足感は、達成したら自然に高まると思います」
部長:「君自身は満足しているのかね?」

課長:「いえ、こんな成果ではまだまだです。それはメンバーも同じでしょう」
部長:「君に今すぐやってほしいことがある。メンバーを集めて、達成の基準や方法を話し合いなさい。これは要求です。受け入れますか?」

課長:「・・・・」

肩書や役職の力だけが頼りであるという上司は、だんだん減少してきましたが、まだまだ、自分の役割がなんであるかを理解していない上司にお目にかかることがあります。
かつての時代とは変わって、マンパワー、個人の成長力頼みでは、業績を上げ辛い社会です。仕事を通して自己成長に興味を示す若年層は、こういうタイプの上司の下では、長続きしません。
自分のやり方がすべて正しいと思いこんでいるような視野の狭い人に気づかせるには、断定的な表現が必要です。コーチングも、時には明確な要求を出してきっかけを与えることで変化を起こさせてみてはどうでしょうか?

肩書で仕事をすることに疑問を持たない人の特徴:
自分のやり方が最善だと思いこんでいる
上に立つことで、積年の我慢を晴らそうとしている
共感力が低い

肩書で仕事をすることに疑問を持たない人の行動特性:
自身にとって不都合な情報をカットする
信念があるわけではないので、指示がコロコロ変わり、部下を振り回す

ふわりとしてとらえどころのない人編

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
ヒントになっていますか?係長:「君は、何かやりたいことはあるのかね」
部下:「いやぁ、特にはないです」係長:「新しい仕事とかも」
部下:「はぁ、会社の命令なら引き受けますが・・」

係長:「人事異動だけじゃなくて、気持ちの問題なんだけどな」
部下:「気持ちですか・・いや、仕事なら何でもやります!」

係長:「では、今の仕事に何か思い入れはあるのかね」
部下:「思い入れというか、成果が出せたらいいなと思ってはいます」

係長:「で、その成果は出せていると思っているのかね」
部下:「はい、それなりに。自分ではこれでいいと思っています」

係長:「満足してるということかな」
部下:「満足?満足ですか・・・」

係長:「満足じゃなくても、充実感でも、会社の役に立っているということでも」
部下:「いやぁ、それほどの大きなものはないです」

係長:「・・・・・」

イマドキという言葉を使いことは避けたほうが良いのでしょう。しかし、仕事へのコミットを重視する若年層の会社観を受け入れようとする上司が、帰属意識の高い人だとすると、こんなふうに、終始会話がかみ合わないのではないでしょうか?
人を育てる時は、育てられる側の価値観を知っていることも一つの条件です。
この係長のように、心地悪くても、最後まで相手の言いたいことをじっくり聞く姿勢を大事にしてください。
また、相手の考えや意思を確認したいのであれば、質問の仕方に工夫が必要です。一問一答にならないようにするためには、「ど」のつく質問、「な」のつく質問を考えましょう。
忍耐ではなく、面白がる感覚でトライしてくださいね。

ふわりとしてとらえどころのない人の特徴:
とことんまで自分を追い込んだことがない
自分をないがしろにしていることに気づけない鈍感さをもつ
一般的な常識に縛られる

ふわりとしてとらえどころのない人の行動特性:
右といえば右、左といえば左とすぐに行動を変えることができる
決断や判断する場面を避け、人の指示に素直に従う

おせっかいが過ぎる人編

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
ヒントになっていますか?「おせっかいが過ぎる人編」です。係長:「あの資料、例の資料、どうなったかな?」
部下1:「あの資料って何ですか?」

部下2:「ああ、部下1さん。次の営業会議で使う昨日資料ですよ。係長、そうですよね?」
部下:「ああ、次の営業会議の資料。来期の予算立てに・・・」

部下2:「来期の予算立てに使うけれど、早めに課長と部長が相談される必要があるから、仕上げを急いでと言ってらっしゃいましたよね。だから、部下1さんは、昨日も遅くまで残って作成していらっしゃいました。もうすぐ、できるのではないでしょうか?」
部下1:「・・・・」

係長:「そうなのか?で、いつ頃仕上がりそうかな?」
部下1:「はい、そうですね・・」

部下2:「明日の夕方仕上げないと、まずいんじゃない?課長と部長のためにも」
部下1:「はぁ・・ただ、お客様からご依頼いただいている見積もりも・・」

部下2:「あ、じゃ、その見積もりは、わたしがしましょうか?」
係長:「部下2さん、部下1さんの話をまずは聞こうじゃないか?君が心配してくれるのはありがたいが、そう先回りしたら、部下1君のためにならないと思う」
部下2:「はぁ・・・すみません」

部下1:「僕こそすみません・・・・」

思いやりがある人は、ない人よりも人間関係は豊かです。共感力が高いのも同じですね。ただし、何事も、やりすぎてしまうことは相手のためになりません。
出すぎず、ひきすぎず。バランスが崩れていることは自分では気づきにくいもの、育てる上司がアサーティブにそれを指摘することができると「は!」とした気づきにつながります。

おせっかいが過ぎる人の特徴:
観察力が高い
なんでも手を出すことを自分の役割だと勘違いしている

おせっかいが過ぎる人の行動特性:
機動力がある
仕事の量をこなすことができる

やると言ってもやらない人編

才能(資質)や性格、キャリア履歴を活かしたコーチングの事例。
ヒントになっていますか?「やると言ってもやらない人編」です。係長:「今年はどんな目標を立てたのかな?」
部下:「はい、わたしも今年で40歳。崖っぷち状態から脱出しようと思います」

係長:「崖っぷちにずっと立っているのかい?」
部下:「はい、ここ数年、思うように成果が上がっていません」

係長:「成果が上がっていないと感じているのなら、改善策を考えたらいいのじゃないのかね?」
部下:「いえ、改善策は考えているんですが、毎年、結果に結びつかないので」

係長:「それは、改善策とは言えないんじゃないのか?」
部下:「はぁ、そうかもしれませんが、アイデアはいいと思うんです」

係長:「アイデアはいい?じゃ、何が悪いんだ?」
部下:「はぁ、続かないんです」

係長:「続かないんじゃなくて、続けないんじゃないのかね?」
部下:「・・・・」

係長:「主体的に考える癖がないように思うんだが・・・」
部下:「はぁ・・・・」

係長:「君に一番足らないことは、自分を信じるということじゃないのかね?決めたことを決めたとおりに実行する。そこには、イレギュラーはない。自分を大事にすることだな。今年は、君の自信を高めることが優先されるなぁ」
部下:「ありがとうございます。自分を裏切ることに慣れているせいか、係長の言葉は、イマいちピンときませんが、自信が大事なんだという気持ちは湧いてきました」

自分の性格や才能に気づけないなんて・・と、気づいてうまく活用する人から見れば、意外なのかもしれませんが、人間は、いちばん自分のことが見えない、理解できない生き方をするものです。
だからこそ、身近に、観察し、応援してくれる人が必要なのでしょう。
自分が育てられたように、誰かを育てることができる自己成長を、楽しめる1年になりますように。

やると言ってもやらない人の特徴:
自分に自信がない
自分の価値を知らない
覚悟や決断することが苦手

やると言ってやらない人の行動特性:
行動しない言い訳を常に考える
目の前に起きる刺激に即反応してしまう
経験不足が選択肢不足を招く

着想がニユークな人

才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
企業は人なり。どれほど時代が変わったとしても、価値観が変わったとしても。普遍的なものの一つではないでしょうか?
人を育てるということは、意識と知恵、根気比べかもしれませんね。常に新しいアイデアを提供する
「着想がニユークな人編」係長:「新商品の販売キャンペーン、君のアイデアに決まったよ。いつもユニークな企画を立ててくれるって、部長が喜んでいらっしゃったよ」
部下:「ありがとうございます!」

係長:「今回は、大幅に予算ももらえるし、人も出してもらえることになったよ」
部下:「そうですか!!嬉しいです」

係長:「ただ、ちょっと気になる評価もあったのが残念だったなぁ・・・」
部下:「え??そうなんですか?なんだろう・・・前回のキャンペーンのお客様アンケートを反映させてあるし。ただ、前回の延長線上のキャンペーン
では、お客様が飽きると思って、角度を変えたのがまずかったのかなぁ」(落ち込む様子を見せる)

係長:「いや、それほどひどい意見ではないんだ。ただ、顧客のロイヤルティーが上がるかどうか?それだけは、検討するようにという条件付きで許可
をもらったから、ぜひ、それを検討してみてくれるかな?」
部下:「顧客のロイヤルティーですか・・・それは、お客様の有益性をあげるという解釈でいいのでしょうか?」

係長:「まぁ、それでもいいとは思うが、せっかく創造的な君のことだから、ぜひ、お客様のロイヤルティーのレベルが向上するような仕掛けにしたら
どうだろうか?」
部下:「わかりました!簡単ではないですが、組み合わせを考えて、キャンペーンの内容を再度検討してみます。時間はどれくらいありますか?」

係長:「2週間は猶予がもらえるから、大丈夫だ。顧客満足という本質について、さらに新しい考えに育ててもらえたら、君の成長にもなる」
部下:「はい!やってみます」

すでに誰でも知っていることについても、意外な角度から眺めることができるのは、着想の才能を持っている人の特徴です。

新しい着想をすることができるまで、スリルを求めるような面を持っていますが、本来は、物事に一貫性を求めるなど、単なる冒険者とは違い、意欲的にその仕事に取組み、さらに、自分のアイデアを見直し、発展させることができる慎重さを持っています。

一つの達成に満足させるのではなく、テーマや改善方向を定めて、さらに良いアイデアを求めると、企画を立てること自体が成長の糧になるタイプなので、どんどん成長を促すことができるでしょう。

よく使う用言
ほんとうは・・・ すごいと思わない? 組み合わせ、融合、もし仮に~したら~じゃない?

行動の特徴
創造(空想)することを好み、アイデアを組み合わせて発展させる
既成概念にとらわれず、本質を追求し、新しい考えに育てる

先が見えないと動けない人

才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
企業は人なり。どれほど時代が変わったとしても、価値観が変わったとしても。普遍的なものの一つではないでしょうか?
人を育てるということは、意識と知恵、根気比べかもしれませんね。お手本が社内にいないので頑張れません!という
「先が見えないと動けない人編」係長:「どうした?この頃。まったく成績が上がらないじゃないか・・・」
部下:「成績が上がらないんじゃなくて、まったくないんです」

係長:「おいおい、開き直ってる場合じゃないだろう?」
部下:「開き直っているんじゃないです。ただ・・・わたしは将来誰をお手本として働けばいいんでしょうか?先が見えないと、やる気がでないんです」

係長:「そうか・・君なりには考えているんだなぁ」
部下:「はい。営業部の先輩や課長をお手本にするとなると、ちょっとキャラが違うんです。だから、お手本には正直、したくないんです」

係長:「そうか・・・君にとってお手本は、そんなに大事な存在なのか?」
部下:「そりゃぁ大事ですよ。だって、お手本を見習えば、成功に近づけるじゃないですか?」

係長:「そうだな。たしかにそれは言える。でも、うちのチームは、みんなとても面白いキャラクターぞろいだから、みんな、お手本でもあり、みんなお手本ではない感じで面白いと思うよ」
部下:「でも、それじゃぁ、わたしはどう成長したらいいか・・想像ができないじゃないですか?」

係長:「なるほど。君にとってイメージできないことは行動すべきではないと思
うんだろうか?」
部下:「はぁ、無駄にしたくないんです。せっかくの時間、一生懸命働いて、成
長したころに上司から、君は求める人材ではないと言われたら・・時間
と努力を無駄にしたくないんですよ。もっと確実に進みたいんです」

係長:「そうか、君は努力の中には無駄になるものがある思っているんだ」
部下:「はい。できる限り、ストレートに進みたいんですよ」

係長:「社内にお手本となる人がいないというが、本当にお手本になる人はいないんだろうか?自分の目指す姿が描き切れていないから、そう思うのであって、5年先のキャリアビジョンやキャリアターゲットをもう一度見直してみたらどうだろう?今のように、君自身が自分の成長に関して、責任を持たないというような姿勢では、わたしも課長も応援しようにもすべがないから残念だよ」
部下:「はぁ・・・あまり気が乗りませんが・・・イメージできないですから」

係長:「うちの会社じゃなくてもいい。自分が目指す方向性に近い人をまず探そう。それからもう一度話そう。そうすれば、会社が君の応援をどうしたらよいか?考えることができるよ」
部下:「はい。だれか、探してみますが・・時間がかかりそうです」

係長:「それは仕方がない。しかし、このまま、いつまでも成績が上がらないと、自分の居場所がなくなることを覚悟しておいたほうがいい。だから、できる限り早く、探すことが望まれると思うよ」
部下:「はぁ・・・」

係長:「それから、君を一人前の社会人として尊重するからこそ言いたいことがある。やる気というのは、自分で作らなければならない時がある。自分のご機嫌は、自分でとらなければならない。それができるようになるために必要なサポートをするから、遠慮なく声をかけてくれると嬉しい」
部下:「はい、ご心配おかけします・・・」

自分の気持ちをどうしたら上げることができるか?探しておくと、スランプに陥った時などにも応用できて、結果的に早く立ち直る手段になることが多いものです。
自分の気持ちさえ、誰かに上げてもらおうとする依存性の高い人や、自分の気持ちが上がらないのは、周りの人に責任があると、責任転嫁する幼稚な人が職場に一人いるだけで、そのチームの生産性が下がってしまいます。

人は、勝手に育つことも稀にはありますが、関わりあう人に育ててもらう必要があるのではないでしょうか?
なぜなら。自分の姿形などの外見や、価値観などの内面的なことも含めて、自分を知っているつもりになっているだけで、自分を見つめて等身大に受け入れることができないからです。

「イメージ」や「印象」などの表現にこだわる部下を育成するときには、できる限り目で見えたように表現したり、イメージを描きやすくなるような表現を多用したりしてみてくださいね。

適応性の高い、チャレンジャー

才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
職場の望む人材へと成長させることは、組織を強くする何よりも大事な戦術なだけに、学習を深めたいところですね。突然の養成や予期せぬ廻り道に強い
「適応性の高い、チャレンジャー編」係長:「先月立ちあがった例のプロジェクトなんだけど、方向性が変わるらしい」
部下:「え?そうなんですか?」

係長:「私も先ほど、立ち話で、課長に言われたから、詳しいことは判らない」
部下:「どうしましょうか?今週末までに仕上げる予定の資料。続けない方がいいんでしょうか?」

係長:「そうだな。早く答えが出ないと、みんな混乱するよな?」
部下:「はい。できる限り早く、状況判断する必要がありますよね」

係長:「課長の顔は、結構渋かったからなぁ・・・次の役員会まではどうにもならないんじゃないかな?」
部下:「そうなんですか・・。まぁ、不測の事態になればなったで、気持ちを切り替えて、やるだけですからね。とりあえず、現状のまま進めておいた方がいいんじゃないでしょうか?」

係長:「そうだな。君にはこのまま続けてもらって、状況が大きく変わった時に、すぐに対処できるチームをメンバーを決めておくことにするよ」
部下:「そうですね!正式に決まったら、すぐに自分も合流できるように心がけます!」

係長:「頼むよ。課長に呼ばれたら、どんなふうにでも柔軟に適応することができるので、安心していただけるよう、話してみる」
部下:「はい。よろしくお願いします!」

状況に応じて進むべき方向や、その日の行動を決めることができるこの才能は、不測の事態に柔軟に対応できるため、プロジェクトチームのメンバーとして活躍の場所を与えると力を発揮することができる。また、どんな状況下におかれても、常に物事を都合よく受け止めることができる性格であれば、なお、状況の変化に対する挑戦を楽しみながら業務を進めていくことができるでしょう。

適応性の高い人の表現:瞬間を生きる、気分次第、状況判断、あるがままに

チャレンジャーの行動特性:
どんなに難しい仕事にも果敢に取り組む
楽天的で「なんとかなる」と前むきな信念を持っている
自由な発想をし、企画力が抜群である
締切などの直前に集中力を発揮して仕事を進めることができる

内省的な研究熱心プロの人

前回からスタートした、才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
職場の望む人材へと成長させることは、組織を強くする何よりも大事な戦術なだけに、学習を深めたいところですね。緻密な仕事は評価が高い
「内省的な研究熱心なプロフェッショナルな人編」係長:「○○さん、この間お願いした資料、どのくらいできてるの?」
部下:「はい、現在のところ情報の精査を行っています」

係長:「つまり、まだ、見せるほどの資料はないということですか?」
部下:「はい、締切までにはたくさんの時間がありますが、そろそろ一度まとめようかと考えています」

係長:「考える時間が長いのは、自分で理解してる?」
部下:「はい。専門的な知識の裏付けが必要なので、慎重にやっています」

係長:「あなたの作る資料、信憑性が高いのはとても助かります」
部下:「ありがとうございます」

係長:「ただ、進捗状況を見ていると、どうも遅れがちに見えてしまうから心配なの」
部下:「すみません。いい加減なものを作ることはできないので・・・」

係長:「いえ、いい加減なものを作るとは思っていません。途中での報告がないと、傍目から見ると、仕事を進めていない様に見えるのが残念なのです」
部下:「はい。これからは注意して進めます」

係長:「あなたの仕事には信頼していますから、スピードをあげるように工夫してください」
部下:「はぁ・・・」

頭脳活動を好み、問題解決やアイデアの創出が得意な才能を持つこのタイプの人が、研究熱心でスペシャリストであると、往々にして思考作業に時間を多く費やし、その間、何もしていないように見えてしまうことがあります。考える行為そのものが楽しいので、根気が必要な作業も楽しみでさえあるため、つい、生産性を考えずに仕事を進めることがあります。
何がどこまで必要であるか、仕事を渡す前にきちんと確認してから取りかかることと、中間報告の重要性に気づかせることが必要でしょう。

内省の高い人の表現:良く考える、どんな人か知りたい、存在価値、自問自答

研究熱心なスペシャリストの行動特性:
一つの物事に対して、とことん追求することを厭わない
のめり込んだら泊らない
知らず知らずに無理をする
意志と決意が固く、プラスに作用するときはより高いレベルに活かし、マイナスに作用するときは被害妄想を抱き、復讐を考えたり、完全に関係を断ち切る

競争性を持つ

才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
今回は、
あなたの意見は?と思わず尋ねたくなる人のためのセッションです。
「人に嫌われたくない八方美な人」です主任:「今度の社会貢献活動のアイデアまとめましたか?」
部下:「皆さん、いろいろな切り口を持っていらっしゃるので、まだ・・・」主任:「早くしないと、係長への報告、明日でしょ?大丈夫なの?」
部下:「そうなんですが・・」

主任:「どんな意見を集めたの?」
部下:「はぁ、同期の多くは、道路の雑草が気になると・・2年先輩たちは、社員駐車場のごみが目立つとか・・・」

主任:「どんなふうに意見を集めたの?」
部下:「はぁ、お昼の休憩の時、社員休憩室とかで話しました」

主任:「環境美化という切り口で括ればいいんじゃないの?」
部下:「はぁ、でもそのほかにも、花壇の手入れが必要とか・・・」

主任:「たくさんの意見を集めた努力は素晴らしいと思うし、わたしにはなかなかできないことだと思う。ただ、集めた目的は何かを見失っていない? 自分の意見は?」
部下:「どれも必要で・・何からすれば良いのか、判断が付かなくて」

主任:「それは、判断が付かないのかな?あなたはインタビューした先輩や同期に嫌われたくなくて、判断を伸ばしているのかもしれないね。それについてはどう思う?」
部下:「はぁ・・・どうしたらいいか・・・わたしは、草刈りかと思うのですが・・」

人に嫌われたくない人は、普段から、社内の人とのコミュニケーションを欠かさず、笑い話ができる関係を築くことができており、聴き出し上手な面があります。面倒なことを嫌い、あれこれ考えたくないのに、面倒を避けようとして却ってあれこれ考えて、自分で自分をややこしくすることがあるため、上司から見ると、要領が悪いと映ってしまうことがあるようです。
親密な関係を築くことが上手いのは良いのですが、誰にも良い顔をしてしまうことが多いのは欠点です。また、本来は知的で意思決定能力が高いのですが、決定を先延ばしして自分の決断が周囲と違うことで、対立を引き起こすことに対して臆病になっていることがあるので、集めた情報を論理的に集約させて結論を出すよう、コミュニケーション支援をしてあげてください。

人当たりよく社交性の高い人の表現:
仲間、人を信頼する、みんなで集まる

行動特性:
調和と校正に価値観を持って、仕事や趣味に活かすことができる
天性のサービス精神があり社交性には自信がある
相手の本心を聴き出すのがうまい
積極的に周囲の人と強い絆を結ぼうとするが、時間を必要とする

社交性の高い人

才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
今回は、
自己信頼の低い部下をコーチングして行動を促すためのセッションです。
「共感性と豊かな感受性を持ち合わせた面倒見の良い人」です
部下の持つ性格や才能にあった表現やアプローチを心がけるということは、相手の信頼を勝ち得、モチベーション向上に不可欠な要素を満たすことを実感してくださいね。係長:「あしたの入社歓迎会、準備はできたか?」
部下:「はい、概ねできましたが、ちょっと自信がないんです・・」係長:「どんなことが気になってるの?」
部下:「はい、参加者の人数がイマイチ・・・」

係長:「イマイチ少ないと思うわけだな」
部下:「ちょっと、周りの人に聞いてみたんです。どう?って。そうしたら、こんな忙しい月末に近い日程はどうかって言われて・・・」

係長:「それで自信をなくした?」
部下:「はぁ、それと、余興のマジックショー、ウケるかな?と」

係長:「君は、マジックをどう思うの?」
部下:「はぁ、楽しい雰囲気が作れると思うんですが、自分だけの楽しみを中心に考えてよかったのかと思いまして・・」

係長:「それについて、周りの反応は?」
部下:「いいね!とは言ってくれるんですが・・自分への配慮なのかも。自分も皆さんを楽しませようと思って考えるんですが、マジックは、初めてのことなので反応が読めません」

係長:「初めてのことに挑戦する時は、だれでも理屈抜きで怖いものだ。でも、君の人を楽しませようと思う気持ちや、みんなの気持ちを感じる力がちゃんと発揮できれば、その場、その場での盛り上げ方が分かって上手くいけるんじゃないか?」
部下:「そうですよね!その場を和ませればいいんですよね!」

係長:「そうだね。職場のイベント事は、君に任せると、いつも楽しませてもらえる。これまでの準備も怠りはないようだし。楽しみだよ。」

共感力の高い人は、周りの言葉にならない声を強く感じることができる反面、それに縛られてしまう傾向があります。また、直感的な感じがどんなものかについて説明を求めると、混乱することがあります。また、感受性が強いがゆえに、やや臆病な面を持ち合わせ、ネガティブに考え込み、いろいろな不安で傷ついてしまいます。人情に厚く、人を守ってあげたい、自己犠牲的本能を上手く発揮できるよう、良い面に重点を置いた関わりを持つようにしましょう。

共感力の高い人の表現:
雰囲気、気持ち、感じ取る

豊かな感受性を発揮する面倒見の良い人の行動特性:
勘を働かせて、本人が言わんとすることが何かを言い当てることができる
思ったことが素直に言うので、好感をもたれて受け入れられる
礼儀正しく秩序を重んじる

競争性を持つ 陽気で明るくオープンな人

才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
今回は、
デザインコンペティションへの応募
「競争性を持つ 陽気で明るくオープンな人」です
部下の持つ性格や才能にあった表現やアプローチを心がけるということは、相手の信頼を勝ち得、モチベーション向上に不可欠な要素を満たすことを実感してくださいね。部長:「○○市のゆるキャラのデザインコンペに応募する件は知っていますか?」
部下:「はい、社内メールを読みました」部長:「広報と、経営企画室からPJのメンバーを出すことになったんです」
部下:「はい!楽しそうですね!でも、やるからには、勝たなければなりません」

部長:「そうですね。他社の参加もあると聞こえてきています。まだ、何社のコンペになるかはわかりませんが・・・」
部下:「勝つためにはデザイン性が必要なのでしょうか?」

部長:「それも含めて、情報を集める必要がありますね。だから、広報も加わるのでしょう」
部下:「うちの広報の情報収集力はすごく高いですからね」

部長:「情報を集めてもらって、相手を出し抜けないと勝てませんからね」
部下:「そうですね!」

部長:「わたしとしては、あなたを推薦しておきました。あなたの楽しく遊び心にあふれたセンスや、創造性をぜひ、発揮してください」
部下:「ありがとうございます、頑張ります!」

部長:「プレゼンテーションの成功も、期待していますね」

競争性の高い人の表現:
ナンバーワン、勝つ、勝者、

陽気で明るくオープンな人の行動特性:
人を楽しませるためのクリエイティブな活動が活発
生命力や活力がみなぎり、行動の自己制約をしない
創造性が高く、遊び心があふれ出る

社交性高く、情報通なコミュニケーションの達人編

暑い日が続きますが、皆さん元気に過ごしていますか?
才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
今回は、
新規顧客とのつながりを始める
「社交性高く、情報通なコミュニケーションの達人編」です。
部下の持つ性格や才能にあった表現やアプローチを心がけるということは、相手の信頼を勝ち得、モチベーション向上に不可欠な要素を満たすことを実感してくださいね。係長:「この間、ようやく受注したAさんのお客様と会食をすることにしたんだ。
担当のAさんと同席してほしいんだが・・・」部下:「え?いいんですか?僕は、何にもしてないんですけど・・・」
係長:「もちろん、あれはAさんの頑張りが成果に繋がった案件だ」

部下:「粘っていましたね・・・」
係長:「これから、お客様の信頼に応えられる関係を作るためには、ぜひ、君も同席して、つながりを強くするために、打ち解けられる席にしたいんだ」
部下:「ハイ! ありがとうございます。」

係長:「Aさんだけでなく、我が社として、先方との絆を深めたい」
部下:「承知しました!まずは、お客様がどんな方か?知りあうために、くつろいでいただけるよう心がけます」

係長:「そうだ。それには、君の初対面の人と、物怖じせず接する力が必要なんだ」
部下:「ありがとうございます!」

係長:「先方の担当者がどんな考え方をなさるかが分かれば、お互いのよさを活かして相乗効果を得ることができると思う」
部下:「わかりました!Aさんのためにも、頑張ります!」

係長:「よろしく頼むよ」

社交性の高い人の表現:
絆を結ぶ、くつろがせる、親しみ、つながり、打ち解ける

情報通なコミュニケーションの達人の行動特性:
話し上手で話し好き
タレント性がある
知的好奇心が旺盛で、収集した情報を論理的に分析し適切な選択をする

規律性ある忍耐強い人

前回からスタートした、才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例。
職場での人材育成やクライアントのコーチングに役立たせていただくためには、相手をじっくり観察するようにしてくださいね。正しく仕事を進めるための仕組み作り。「原点思考高く忍耐強い真面目な人編」係長:「5S運動がマンネリ化しているというあの件、何とかしろと、上がうるさいんだよ」
部下:「はい、係長、わたしもみんなの意識が薄れていて、事故に繋がりはしないか、心配です」

係長:「とはいってもなぁ・・・朝礼で毎日声に出して確認しているんだが・・」
部下:「係長。朝礼での確認は、みんな気持ちを込めていませんよ」

係長:「そうかなぁ?あんなに大きな声で唱和するんだ。気持ちが入らないのは、おかしいんじゃないか?」
部下:「係長。そもそも、この朝礼での唱和の目的をみんな、見失っているんじゃないでしょうか?」

係長:「どういうことだ?」
部下:「はい。大声で唱和することが目的になっていて、5Sを意識して仕事しようという気持ちに結びついていないと思うんです。一度、原点に戻って、5Sの再認識を促す何かをしたほうがいいと思うんです」

係長:「なるほど。で、何をしたらいいと思う?」
部下:「そうですね・・・5Sの導入は、他社の真似をしたかっただけではなく、小さなミスによって、大きな損失を出したあの失敗を繰り返さないため
でしたよね。今、社員もずいぶん入れ替わって、あの損失を知らない人も増えてきています。わたし自身も、説明できるかと言われたら、自信ないですもん。」

係長:「そうか。意識が薄れてきているということか?」
部下:「というよりは、目的を見失っているという感じです。来週の月曜日の朝礼で、そのあたり、説明したらどうでしょうか?」

係長:「そうだな。形骸化したことをやり続けるのもな。意味がないことだな」
部下:「はい。今週末までに、資料などを読み返して、説明できるようにしておきます」

係長:「膨大な資料だぞ?大丈夫か?」
部下:「まだ時間ありますから、やりくりしたら、間に合うと思います」

係長:「そうか、では頼む。君は忍耐力があるから、安心して任せられるよ」

長年の取組は、その目的や目標を知らずに、みんなと同じにしておいたほうがいいんだろうなぁという感覚で、受け入れる人ができてきます。
そして目的や目標の不明確さは、当事者意識を失わせることに繋がります。
古い職場の風習も、いつものままにしておこうと看過せず、人の入れ替えなどの機会に見直し、意識付けをし直す時、規律性の高い忍耐強く細かな作業を真面目にこなすことのできる人材を活用してみてくださいね。

原点思考の高い人の表現:
積み重ね、成り立ち、そもそも、歴史、過去の失敗から学ぶ。

忍耐強い性格の行動特性:
完璧に仕事を仕上げようと裏付けをする。
根気強く細心の注意を払った職務の遂行。
集中している時は、話しかけづらい雰囲気を持つ。

調整力あるノリの良い人

皆さんのキャリアは、順調に到着地点に向かって進んでいますか?
自分自身をどう生かすか? もっとも関心を寄せ、研究したいことですね。
また、あなたの周りの人をどう輝かせるか? コーチにとっては、これも関心の高いところですね。今回から、才能(資質)や性格を活かしたコーチングの事例をご紹介します。
職場での人材育成やクライアントのコーチングにお役に立てたら嬉しいです!職場に一人はいてほしい強い味方。「調整力が高く、ノリがいい性格の人編」

係長:「このところ、職場の空気が重いんだよなぁ」
部下:「係長、そうなんですよ!なんだかみんな元気がないですよね」

係長:「やっぱりそう感じるか?」
部下:「はい!この間の新人の○君の初受注直前までいった、あの失敗が大きいんじゃないでしょうか?」

係長:「ああ、あれは残念だった。自分も迂闊だったよ。まさか失注とはなぁ」
部下:「係長が浮かない顔したら、この係はみんな沈みますよ」

係長:「君に慰められるとはなぁ・・・」
部下:「係長、この空気を何とかしないと。今月の予算達成、厳しいですよ」

係長:「そうだなぁ・・・どうしたらいいと思う?」
部下:「飲み会、しばらくやってないじゃないですか?」

係長:「でもなぁ、売り上げできないと、みんな戻りも遅いだろう?」
部下:「たしかに。みんな遅いですよね。帰り辛いですもん」

係長:「でも、空気は変えたいよな?何かアイデアないか?」
部下:「そうですね・・・夜は、みんなそれぞれの予定もあるでしょうね。だけど、やっぱりある程度の時間を一緒に過ごすには、仕事を早めに切り上げた方がいいと思うんです。とにかく、今よりもっといい空気にしますから、今週末まで、時間もらってもいいですか?
みんなの時間を作ってもらうよう調整します。あ!係長。基本割り勘ですけど・・よろしくお願いします!」

係長:「君はいつもスピーディで助かるよ。仕事の早い君にしかできないことだから、よろしく頼む」

職場の空気は、ほんの少しのことで変化します。
その空気を入れ替えるだけで、人の動きが変わることがあります。
短い時間で、一瞬に何かを変える時には、調整力の高い、ノリの良い性格の人の才能・性格を活かして、特別な指示を与えてみてください。
新しい協調関係を作るために、躊躇なく自ら混乱に飛び込みます。
ただし、このタイプの人材は、あまり細かな指示を出すと、行動が起こせない傾向があるため、できる限り、ざっくりとした思いだけを伝えるにとどめ、細部は任せるようにすると強みを活かした行動ができます。

調整力の高い人の表現:調整、幹事、状況、しくみ、選択肢、もっといい方法。

ノリのいい性格の行動特性:とにかくスピーディに動く早い仕事が早いと褒められることでより大きな成果を上げる。

お父さんの家庭での立場~家族とお父さんのコミュニケーションを考える~

「こんにちは。どうしたの?珍しく暗い表情ですねぇ・・」
「うん・・どうもこのごろ子どもの気持ちが理解出来なくて」「お子さんの気持ちが理解出来ないの?それはどんなことで感じたの?」
「急に優しくなったり、急に感情的になっていたり」

「そう、情緒が安定してないってこと?」
「情緒不安定。そうそう、まさしくそんな感じだね。女の子っていうのは、どうしてああ、感情で物事を捉えるのか僕には理解出来ない」

「男性と女性では、物事の考え方や感じ方が違いますからネェ。中学生でしたっけ?お子さん」
「ええ、そうです。二年生になって、ますます理解出来ないですよ。黙って帰ってきて、邪魔!とかって言われるし。ここは僕が立てた家で、休日に横になっていて何が悪い?って言うと、『何向きになるの?ばっかじゃない?』って言うから、「親に向かって馬鹿とは何事だ!」っと怒鳴ろうもんなら、食事もせずに部屋に上がってしまう。女房からは、『食事前くらいそっとしておいたら?』と言われる始末で・・」

「お子さんの心の中を色に例えると、そういう怒っているというか、感情的になっているときは何色だと思う?」
「難しいなぁ・・色ですねぇ?」

「そう、色」
「うん・・・黒かなぁ・・グレーかなぁ・・・」

「黒かグレー。色味が感じられないということですか?」
「そうですね。赤じゃなくてもいいけど、青とか、緑とか、はっきり目で見てわかる色ならありがたい」

「扱いやすいってことですか?」
「ええ、殺気立っていることはわかるが、原因がわからないのは困る」

「ところで、年頃の娘の感情とか心がわかると、父親と娘はどんな関係になれるのかしら?」
「?・・・・」

しばらく考えていますが、なかなか答えが出ません。

「理想的な娘との関係なんて聞いたこともないなぁ。第一、そんなこと聞いたら、自分の気持ち、悟られちゃうでしょ?」
「格好が悪いの?」

「娘の扱いがわからないと戸惑っていることを悟られるのはいやだな」
「うん・・・複雑そうですね。心の中」

「そうですね。自分の心が複雑なのは気づかなかったなぁ・・。複雑なのは、娘のほうだとばっかり思っていた」
「最初にね、機嫌のいい日もあるとのことでしたが、機嫌がいい日は、普通に会話出来るんですか?」

「ああ、そうですね。機嫌がいい日は、ちゃんと挨拶もするし、乱暴な言葉も使わない。でも、そういえば、会話じゃないですね。『ただいま、おかえり』『お風呂先に入るね、どうぞ』って具合かな?」
「会話じゃないですね。会話と言うのは、一つの言葉から、お互いの意思や感情を共有するために、膨らみますからね」

「そうなんだよねぇ、許可をとるとか、挨拶とか。そういえば、そんなことくらいしか言葉を交わさないなぁ」
「お嬢さんと、どんなことを話してみたいのかしら?」

「このごろ、どうだ?って」
「何をお尋ねになりたいの?」

「学校のこととか、部活のこととか・・・」
「学校のことや部活のこと以外には?」

「・・・」
「思いつきませんか?」

「思いつかないことに気づきました・・・」
「そうですね。何かを話したいというよりは、聞き出したいだけなんじゃないかなと感じました。でも、それで娘さんは話したいと思うでしょうか?たとえば、『お父さん、このごろ会社どう?』って聞かれて、お家で家族に話したいことってありますか?」

「そうだよなぁ・・言ったってしょうがないと思うし。愚痴になってもいけないと思うし」
「お嬢さんの情緒が不安定なことについて、奥様は心配されてるんですか?」

「いや、女房と娘はいろんな話をしてる。機嫌のいいときは」
「機嫌がいいときだけの会話かもしれませんが、それで奥様は何を感じていると思われます?」

「女房に聞いたことはないなぁ・・・」
「大谷さん、娘さんとの関係だけじゃなく、奥様とももう少し情報交換したほうがいいんじゃないかしら?」

「そうだなぁ・・。何か、わかったような気がする。僕は、自分の家に自分の心の居場所がないんだ。でもそれは、自分が家族とコミュニケーションをとらないからだ。でも、どうしらいいだろう」
「そうですね。今のお気持ちを、率直に家族に話されたらいかがでしょうか?」

「抵抗あるなぁ・・」
「勇気を出すためには、何が必要ですか?」

「うん・・・でも、せっかく家にいる時間が持てるようになったわけだしなぁ」
「私にお手伝い出来ることがあれば、させていただきますが・・」

「そうだ!お茶、飲みに来ませんか?」
「お茶をご馳走になれるのですね?」

「ええ、そうすれば、コーチを交えて会話が出来る」
「きっかけを作るということであれば、いい方法ですね」

「じゃ、早速家にいらっしゃいませんか?」
「ちょっと待ってくださいね。私は同じ主婦として意見があります。聞いていただけますか?」

「はい」
「主婦としては、急なお客様ほど対応に困ることがありません。たとえば、整理整頓が出来てないとか、お茶菓子がないとか」

「そういうもんですかねぇ・・我が家はいつも女房がきれいにしてますけど」
「でも、お客様を迎えるのは別ですよ。提案があるんですが・・・」

「どうぞ」
「カフェスタイルの喫茶店に奥様をお連れになったらいかがでしょうか?」

人にはいろいろな役割があります。
お父さんとして、夫として、息子として。
家族の中でも、二つも三つも役割をこなします。
それぞれにふさわしい役割の果たし方を考えてみてはいかがでしょうか?

日常会話2例、コーチがしゃべると・・・~何気ない会話をコーチング的に変化させる事例紹介~

1.お子さんのしつけは、保護者が責任をもって行いましょう
エスカレーターのベルトを、屈んで触って遊んでいます。兄:「これ、面白いよな」
弟:「うん、お兄ちゃん、でも、お母さんに怒られないかな?」

兄:「大丈夫だって、こっち見てないし」
弟:「そうかなぁ・・・ぐるぐる回るね」

兄:「どんどん出てくるよな」
販売員:「ここで遊ぶと、危険だから、お母さんのところに行こうか?お母さんはどこにいるかな?」

兄:「あっち・・・」
販売員と一緒に売り場中へと進み・・

兄弟:「お母さん!」
販売員:「お子さんがエスカレーターのベルトで遊んでいらっしゃったのでお連れしました」

母:「ほら、だからダメって言ったでしょ?怖いおばちゃんに叱られっちゃったじゃないの、もう・・」
(途中省略)

販売員と一緒に売り場中へと進み

販売員:「お子さんがエスカレーターのベルトで遊んでいらっしゃったのでお連れしました」
母:「お手数をおかけしました。ごめんなさい。私が目を離したものですから」

販売員:「いえ、お怪我がなくてよかったんですが、これからはお気をつけいただけると助かります」
母:「はい、気をつけます」

(子どもたちに向かって)
母:「これから買い物の途中、あなたたちは待っている間どうしたらいいと思う?」
兄:「退屈だし・・・」

母:「そうだね。そうしたら、これからはおうちで留守番する?」
弟:「でも、パフェ食べたいし・・」

母:「そうだね。帰りにパフェ食べるのは楽しいね。でも、ママの買い物を待っているのはつまらない。どうしようか?」
兄:「あのさ、僕たちだけおもちゃ売り場で待ってたらダメなの?」

母:「離れ離れになると、心配だからそれはしたくないと思うなぁ・・」
弟:「じゃぁ、ママが買い物する時間を短くしたら?」

母:「そうだね。出来る限り、短くするように努力するね。あなたたちはどうする?」
弟:「なら、三十分だけは待つとか、ゲームとか持っててやってるとか?」

母:「なるほど、そうだね。それはいいね。売り場でゲームする場所あるかな?」
兄:「あっちに椅子があった」

母:「いつもいつも椅子のあるところでばっかり買い物するかどうかわからないけれども、少し離れても椅子があるところで、ゲームして待っててもらおうかな?」
兄:「うん、そうだね。そうするよ」

母:「よかったわ、エスカレーターで怪我しなくて。よくね、巻き込まれて怪我をするっていうニュースがあるのね。目を離したお母さんも悪いけど、これからはエスカレーターで遊ばないようにしないでもらえるかな?怪我をしたら悲しいから」
兄:「うん、ごめんね」
母:「いいよ」

2.どっちも頑固では家庭の中は暗くなります
妻:「ねぇ、この間話したあなたの転勤の件だけど、子どもたちのことを考えると、どうしてもみんなで一緒に動くことは無理だと思うのよ。あなた、単身赴任して欲しいんだけど・・・」
夫:「子どもにかまけて、お前が仕事を辞めたくないだけだろ?俺の会社は、単身赴任した人はいない。前例がない!いい加減にしろよ」

妻:「そうじゃなくて・・じゃ、転勤先に同じレベルの高校があるの?あんなに一生懸
命頑張って入ったのよ?それとも何?、子どもたちだけおいていくっていうの?冗談じゃないわ」
夫:「論理の飛躍だね。そんなことは一言も言ってない。でも、とにかく前例がないんだからしようがないだろう」

妻:「じゃ、あなたが会社辞めれば?前例、前例って、未来に前例はないの!あなたが前例になればいいじゃない?それに、世の中とあわなければ、あなたが改善すればいいでしょう?」
夫:「うるさい!もう言うな」

(無言で食事を始める二人)

妻:「あなたと一緒になってから、ずっとあなたの転勤について、いろいろなところで生活出来たけど、今度ばかりは、ちょっと困ったと思うの。あなたはどう思う?」
夫:「そうだなぁ・・子どもも大きくなってきたからなぁ」

妻:「一番困るのは、高校の転校なんだけど、あなたはどう思う?」
夫:「そうだなぁ・・・あんなに受験、頑張ってきたのにな」

妻:「どうする?」
夫:「どうするといわれてもなぁ・・・転勤はもう決まったことだし」

妻:「ごめんね、二つに一つどちらかみたいに考えさせて。ねぇ、私の希望を言ってもいい?」
夫:「なに?」

妻:「あのね、半分、単身赴任ってどうかしら?」
夫:「どういうこと?」

妻:「平日はあなた一人で転勤先で生活して、週末や学校が休みのときは私と子どもたちがあなたのほうへ移動する」
夫:「3人で移動したら、交通費が大変だろう。それにクラブ活動とか、バイトとかあるだろう?現実的じゃないな?」

妻:「そうね。でも、これまでに単身赴任した人はいないんでしょう?あなたの会社での立場が悪くなっても困るわ。子どもたちの学費はかかるもの」
夫:「そうだなぁ・・・今すぐ答えは出せないと思う。もう少し、時間はあるから考えよう。会社にもそれとなく聞いてみるから」

妻:「そうね。よろしくお願いしますね。ご飯にしましょう。冷めちゃうわ」
(ふたり、和やかに食事のテーブルに向かう)

ファミリー・コーチング3例~親子のコーチングショートセッション~

今週は、なかなか難しいとされる親子のコーチングのショートセッションをいくつかご紹介します。
ファミリー・コーチング①
【生の会話】
高校1年生の息子を駅まで迎えに行った車の中で・・母:「何?その声?風邪、ひどくなったの?」
息子:「違う、大きな声出しすぎた」

母:「まぁたぁ・・試合にでない応援団長をするためにクラブ活動に行って、朝早く弁当作って駅に送る私の身にもなってよ」
息子:「違う!僕は、3塁のコーチなの!僕がいないと、チームは点が取れない重要な役割なの。夏大(夏の甲子園地方予選大会)でゼッケンもらえる可能性が、一番高い役割なの!」

母:「あっそう・・だんだん、部員も減ってる
し、何とかなるの?」
息子:「減ったって言ったって四十人いるから、二十人に選ばれるのはたいへんなことだよ」

母:「確立は50%か・・・」
息子:(ただただ、黙って後部座席に深くもたれて座っていました)

【コーチングすると】
母:「声、ひどくかれてるね。何かあったの?」
息子:「うん、ちょっと大きな声出しすぎた」

母:「何があったから大きな声、出したの?」
息子:「うん、今日から僕は3塁のコーチになれた。塁を進めるとき、大きな声で指示を出すからね。僕がいなきゃ、チームの点は入らないんだよ」

母:「重要な役割を任されたんだね。嬉しいネェ・・・。頑張った成果が出てきたね?」
息子:「うん、夏大に背番号もらえるかも・・・」

母:「背番号もらうためには、今の役割を上手くこなせばいいの?」
息子:「うん、それだけじゃやっぱりダメだと思うよ。基礎体力とか、技術もいると思うし・・」

母:「何か手伝えることある?」
息子:「大丈夫。クラブでやればいい」
母:「そう、応援してるよ」

頭では理解しているのですが、やはり自分が疲れていたり、自分にとって不都合なことがあると、会話を楽しんだり、盛り上げたりする気持ちになれず、ついつい、会話をカットしようと
働きかけてしまう。

ファミリー・コーチング②
【生の会話】
中学2年生の息子が、玄関をピカピカにしてくれました

母:「ありゃぁまぁ・・きれいになったねぇ」
息子:「うん、靴は全部下駄箱へいれてね。また、汚くなると、運が逃げるから」

母:「お父さんにいいなよ。靴に泥つけて帰ってくるの、お父さんでしょ?」
息子:「うん、そうだけど・・・お母さんの靴も下駄箱へ入れるよ」

母:「あしたも朝、早くに出かけなくちゃならないから出したままにして!時間がないから」
息子:(黙って、靴を下駄箱から出し、隅のほうに置きました)

【コーチングすると】
母:「ありゃぁまぁ・・きれいになったねぇ、ありがとうね」
息子:「うん、靴は全部下駄箱へいれてね。また、汚くなると、運が逃げるから」

母:「そうだね・・・ずいぶん汚れたままだったもんね。よく気づいてくれたね」
息子:「うん、友達が来たとき、恥ずかしいから・・・」

母:「そうだね。どうせすぐ、汚れるからといって、手抜きしてたからね。きれいにしてくれて、どんな気持ち?」
息子:「気持ちいいよね。ほうきで掃いて、それから水を流して。でも、そんな時間かかってないんだよ。十五分もかからず出来たし。」

母:「いつ掃除してくれたの?」
息子:「朝早く起きた日。お兄ちゃんが出かけるときバタバタして目が覚めちゃったときに、そうだ!掃除しようと思って」

母:「そう、ありがとうね。お兄ちゃんの朝早いお出かけ、もう少し静かにしてもらえるといいね。お母さんからお兄ちゃんに話してみるね」
息子:「うん、このごろ、僕まで寝不足になっちゃうからね」

親子でゆっくり会話をする時間が楽しめると、心の中を共有することが出来るようになります。
頭では理解しているのですが、心や体が「時間」に追われて、ついつい一番大事なことに費やす時間を惜しんでしまうようです。
二人の息子ですが、ゆっくり会話する気持ちを持てば、彼らもそれに応えて話をしてくれます。
ワークライフバランス。難しいことですが、大切なことだと気づかされました。

ファミリー・コーチング③
(スーパーのお菓子売り場での親子の会話)
【生の会話】
母:「早くしないさ。どれか一つだけよ」
子:「うん・・・これとこれ、一つ買うのと同じ金額だから・・・」

母:「ダメって言ったでしょ?一つ。一つにならないなら、もうやめなさい。もう、置いていくからね、おうちに帰れなくなっても知らないからね」
子:「・・・・じゃぁ、これ・・・」
(べそをかきながら、二つ手にしたお菓子のうちから一つを選び、とぼとぼとお母さんの後を追ってレジへ向かいます)

【コーチングすると】
母:「今日のおやつはどれにする?」
子:「これとこれ」(両手に一つずつお菓子を持つ)

母:「そう、二つとも好きなお菓子だね」
子:「うん・・いい?(顔色伺う)」

母:「二つ買ってあげたいと思う。でもね、今から二つ食べるとご飯が食べられなくなると思うのよね。今日は一つにして、明日また一つ買おうか?」
子:「うん・・・・でも・・・」

母:「それとも明日は買わないで明日の分も買っておく?」
子:「それでもいいの?」
母:「もちろん、それでもいいよ。ただ、明日は別のものが欲しくなるとお母さんはちょっと辛いかな?ほんとうに食べたいものをおやつにしてあげたいから」

子:「うん・・・」(迷い始める)
母:「さぁ、あと少しで帰らないと、おやつ買っても食べられなくなっちゃうといけないから、二十数える間にどうするかを考えようか?」

子:「決めた!今日はこれにするね」(一つを選び、一つを売り場に戻し母親といっしょにレジに向かう)

子育てで悩むお母さん~積極的なコーチからの働きかけによるセッションのあり方~

福山さんの子どもさんは中学1年で、自分は親父の後を継ぎ、会社を拡大するのが自分の使命であると口にするほど、ビジョンがはっきりしている男の子です。
ところが、そのビジョンがはっきりしていることで、彼の生活はクラブ活動中心の毎日になり、家に帰ればぐったり疲れて眠ってしまうと言う有様。勉強で評価されることに価値を見出していないため、宿題を提出するのは気の向いただけという状態で、保護者会に出席するお母さんの福山さんは針のむしろの上にいるような気持ちでいっぱいになるそうです。そこで福山さんは、コーチングを学んで、何とか子どもとのコミュニケーションにおいて、子ども自身に自分で気づかせようとしますが、なかなか現実はうまくいきません。
コーチング学習中の模擬演技では、感情を抑えて相手とかかわれるのに、現実に向き合うとうまくいかず、この日も落ち込んだ姿を見せまいと、必死に模擬演技をする福山さんを見て、コーチは学習後、セッションを促しました。「福山さん、保護者会だったのね?」
「どうして分かるんですか?」

「お子さんとのセッションをしてみたいと、手を上げてくださったでしょう?お子さん役を演じてくださった森山さんとの会話、とっても現実的でしたよ」
「うちでは話し始めて五分でアウトって感じなんです。今何とかしないと・アヒルさん(2)の行列どころじゃない、煙突(1)がいっぱい立っているんですよ?」

「成績が良くないことが、心配なんですね」
「そりゃあ心配ですよ。このままではどうなってしまうのか・・・・」

「どんなお子さんになってもらいたいの?」
「勉強は普通でいいんです。どんな人生がいいかをしっかり決めている子なので、高い学歴は必要ないと思います。手先が器用であれば、今のうちの仕事は継げますから。でも、うちの仕事をつぐことと勉強しないことはつながってはいきません。学生は、勉強するのが仕事だし、学校の評価基準で評価されなければ意味がないのです。よく気がつく良い子だといわれても、それを評価する項目が、通知表にはありません。内申点に反映されません」

「評価してもらうことがそんなに大事ですか?勉強することにはどんな意味があるのでしょうか?」
「一般教養や知識をつけるためです。だからと言って、それが即、現実社会で役立つことは少ないと思います。特に我が家の家業に必要な知識は、『センチ』の世界ではなく『尺・寸』の世界ですから。
でも、それとこれとはやはり違う気がします」

「福山さんのお話は、いつも二つの視点でものを見ていることに気づいていますか?一つは、子どもを実年齢の中学生と言う立場でみる視点。もう一つは、大人になって家業を継いだときの視点。今は、どちらの視点で捉えたらよいと思っていますか?」
「・・・そうですね。今は中学生としての視点を持つことです」

「では、中学生としての視点から考えましょう。学校で学ぶことは、どんな意味があると教えたいですか?」
「評価されるという現実と、評価によって進学先が決まると言うことです」

「性格的な良い点は、どうこの話に絡めていきましょうか?」
「良い点はそのまま伸ばしたいので、いろいろな役割を言われなくてもこなせることはとてもいいことだと思うけれども、それを評価する項目がないことを、通知表を見せながら説明してやりたいと思います。」

「もう一度伺いますが、息子さんに何を感じてもらいたいんですか?」
「学校と言う社会では、勉強が出来るかどうかで評価が決まると言う現実です」

「そのために福山さんは、いつ、それをテーマに話し合う時間を持ちますか?」
「今度の終業式の日、成績表をもらって帰ってきたときです」

「どこで話しますか?」
「家の中です」

「だれか、他の家族を交えますか?」
「いえ、父親も交えないほうがいいと思います。家業を継ぐといってくれたことで、ほっと安心しきっているので、子どもの味方をして、まぁ、勉強はなぁ・・とでも言い出されたら困ります」

「お二人で話し合うんですね?」
「はい、二人で」

「どう切り出しますか?」
「いきなり、何、この成績は・・とはさすがに言えません」

「そうですね。では、どんなことからなら話せますか?」
「・・・・」

「一つ、提案してもいいですか?」
「はい」

「お子さんの性格が良い、よく気がつく子だと担任が評価していたことから話し始めたらどうでしょうか?」
「でも・・・褒めた後に叱ったら、余計にこたえるんじゃないでしょうか?性格の優しい子ですから」

「初めて、息子さんを褒めましたね?」
「え?」

「今、初めてお子さんを『性格が優しい子ですから』とおっしゃいました。私も嬉しいです。お子さんの良い点をちゃんと認めておられるのに、今日はぜんぜん、その話が出てこなかった。残念だと思っていました」
「・・・・」

「子どもの可能性って、無限大にあると思いませんか?」
「はい」

「それを引き出してやるのは、親や教師をはじめ、子どもとかかわる大勢の人の役割だと思うんです。ただ、我が子となるとどうしても厳しい評価をしがちになる。子育てに責任を持てるのは親だけですからね。真剣勝負だし、全身全霊をこめてのかかわりになるから、ついつい厳しくなりますよね?でも、自分の子どもと言えども、人格をもった一人の人間です。冷静に距離をとって、良い点と悪い点というように、両方を提示してあげると、本人が気づくことも多くなるのではないでしょうか?」
「・・・」

「お子さんに伝えたいことをもう一度、整理して考えましょう。叱る叱らないじゃなくて、『伝えたいことは何か?』というようにポイントを絞って考えると、福山さんの気持ちも整理出来ると思います。いかがですか?やってみられますか?」
「はい。やってみようと思います」

親業をしていると、記念日はプレゼントをする日で、もらう日ではないと考えて過ごしているのではないでしょうか?
子育てに、親のやる気や欲は必要です。と、同時に、感謝が必要ではないでしょうか?
元気であること。学校を嫌わずに通う根気を持っていること。学校で友達と協調して集団生活出来ていること。褒めるべき点、認めるべき点、感謝すべき点はあらゆる角度から眺めてみればどこにでもあるはずです。子どもから毎日たくさんのものをいただいていることに、感謝出来る日があるといいなと思います。

若いお母さんの思いが娘さんに通じていません~自分の人生の不幸はすべて家族が引き起こすと考える母親の視点を変えさせる~

今回は、若いお母さんと子どものコーチングです。三〇代の女性の心は、とても揺れるものだと考えさせられるセッションでした。
「おはようございます。この秋を何で感じましたか?」
「(きりっとした姿勢のまま)はい、子どものダンスのオーディションに落ちたことで、今シーズンの終わりを感じました」「ん?・・・前回おっしゃってたお嬢さんのダンスのオーディションの結果が発表されたんですね?」
「はい、審査員の方の見る目がないんでしょうねぇ・・。明らかな『えこひいき』を感じましたが、結果は覆りませんでした」

「え?・・・結果に不満足だったんですね?」
「はい、一緒に受けた仲の良いお友達のお母さんもおっしゃったんです。絶対にうちの愛ちゃんのほうが上手かったって。だから、審査員に評価基準を公開してくださいとお願いしたんですけど、それは出来ないって・・・」

「愛ちゃんはなんておっしゃってるんですか?」
「愛とはダンスのオーディションが終わった後、喧嘩して以来、口をきいていません。結果が出た以上、愛も反省してもらわないと・・。あんなに『社会は厳しい、もっともっと寝る間も惜しんでレッスンしないとダメだって』言ったのに、『ママの言うとおりにしたんだから、文句言わないでよ。ママの夢と私の夢は一緒じゃないの!いい加減にして・・』と言ってむくれているんです。私だって、お盆も里に帰ることもせず、愛のレッスンの送り迎えや、先生の言うように栄養管理したり、体重管理したりして頑張ったのに・・・」

諏訪さんの表情から、怒りが消えた途端、深い悲しみがにじみ出ました。

「諏訪さん、諏訪さんの夢は何ですか?」
「私の夢ですか?一人娘ですから、愛が幸せになることです」

「諏訪さんの想像する愛ちゃんの幸せって?」
「まず、経済的に自立して、男性に頼らなくても生活出来るほどになっていること」

「なるほど、経済的な自立が第1基準ですね。他には何かあるのかしら?」
「いえ、男性社会の中で生き抜くためには、男より秀でた何かを身につけていなければいけません。
それさえあれば、何とかなると思うんです」

「愛ちゃん本人の夢は?」
「愛はまだ一〇歳です。夢なんてちっちゃなものに過ぎないでしょう。だから、親の私が道を決めてあげるのが役目でしょう?」

「諏訪さんの今の姿は、諏訪さんのご両親に決めてもらったものですか?」
「私は自分で決めました。それで、今、後悔しているんです」

「ご主人はどんな意見なんですか?」
「主人は、男ですから、社会の中で困ることはありません。部長にまでなっているし、将来は役員候補者ですから、私たち女がどれほど苦労するかなんて分かりませんよ!愛がこんなに頑張ったのに、励ましの一つの言葉だってない。『俺はお前たちを養うために一生懸命嫌な仕事でも頑張ってるのに、これ以上、何を協力しろって言うんだ!』と言って・・・。愛のレッスンで遅くなって食事の支度の手間を掛けられない日に限って早く帰宅して・・。私の苦労なんて何にも理解しないんです」

「愛ちゃんは、そんなやり取りをどんな気持ちで聴いてるんでしょう・・
「父親の薄情さに呆れているんじゃないですか?そうじゃなきゃ、父親そのものを嫌いになったんじゃないですかね?」

「ご主人にとって愛ちゃんはどんな存在ですか?」
「養う人が一人多いってくらいでしょ?男親なんてあてにならないんです。母親だからこそ、愛情があるからこそ、出来ることですわ」

「そうですね。諏訪さんの母親としての愛情の深さが伝わってきます。と、同時に、それが押し付けになっていないかが心配でもあります」
「押し付け?コーチは、愛は嫌がっていると思ってらっしゃるの?それは違います!愛だって、二位の結果に満足出来ないと言っています。優勝して、留学するチャンスを逃したことをすごく後悔しています。ただ、愛は『まぁ、しょうがないじゃん、私の実力だから・・』と言って平気でいるんです。それが許せなくって・・・」
「ほんとうに愛ちゃんは平気でいるんでしょうか?」

「だって、あれ以来、自宅でのレッスンはしないし。お友達と遊んでばかり。授業だって、本戦出場が決まってから三週間ほど休ませてレッスンだけさせたから、遅れているのに、勉強もしない。英語の塾もなんかかんか理由をつけて休んでるし」
「英語は、留学して言葉に困らないためでしたっけ?」

「はい、コミュニケーションが取れないと、心が縮まりますから。アメリカに行っても言葉で挫折したら意味がないでしょ?」
「学校にいる時間と、塾やレッスンする時間と、あわせたら何時間になりますか?」

「十三時間半くらいかしら?」
「子どもの生活時間としてふさわしいんでしょうか?」

「他のお子さんのように、今遊んでたら将来、男に使われる普通の生活しか出来ません。主婦になることが悪いとは思いませんが、人の顔見れば『飯は? 風呂は? まだ出来てないのか・・、これは今日、昼に喰ったおかずと一緒』とかって、文句ばっかりいう男にだけは、嫁がせないようにしなくちゃ。
私の人生は、こんなんじゃないはずだった。夫が働かないで家にいろというから・・」
「諏訪さんはご自分の人生に点数をつけるとすると何点つける?」

「マイナス三十点って気分です。職場の上司にも認められず、夫にも恵まれず。愛は結果が出せないし。ホントに不幸ですよ・・」
「ご主人とは恋愛結婚でしたでしょう?」

「いつまでも愛情なんてあるはずがないでしょ?あんな薄情な男のことはいいんです。私を不幸せにしたんだから、せいぜい愛のレッスン代や、生活費のために働けばいいんだわ」
「ご主人は、お嬢さんのレッスン代や、生活費のために働けばいいんですか。もし、働きすぎて身体を壊されたらどうしますか。そうなったらそれでご主人はお払い箱ですか?」

「そんなことはしません。主人が病気になったら私が看病するし生活費だって私が何とかします。でも、今の主人の態度は許せません」
「うん・・残念ですが、諏訪さん、今日は時間が来てしまいました。今日のセッションを振り返って、何か感じることはありましたか?」

「はい、改めて夫の薄情さと、愛の反抗的な態度が、私を苛立たせているということです」
「次回までの宿題としてご主人と愛ちゃんの感情を推し量ってみていただけますか? 諏訪さんのどんな言葉に、愛ちゃんが反抗するのかとか、ご主人から厳しい言葉を聞くのかということを観察してきてください。メモを作っていただければ尚いいですね。」

「分かりました。やってきます!」
人の心は自分でコントロールしなければなりません。また、愛ちゃんのためにも諏訪さんのためにも、ご主人のためにも。自分の人生はみんな自分のものであることに気づいて、自ら考えを変えない限り、行動も結果も変わりません。

産休中の母親の悩み~中断しがちな女性のキャリアを考えるセッション~

10月のすがすがしい秋の空の下、ひとりの女性と出会いました。「はじめまして、コーチの宮田です。どうぞお入り下さい」小気味良かった足音とドアの前に立つ女性の表情に違和感を感じながらも、部屋の中に招き入れ、椅子を勧めて腰掛けるよう促しました。
「あの・・子どもが泣き出すとお話が出来なくなりますがよろしいでしょうか?」

「もちろん、かまいませんよ。赤ちゃんの世話を一番にしましょう。今は、眠っておられるんですね?」
「はい、車の中ではいつも寝てしまうんです・・あの、私のようなものがコーチングを受けるということはあるんでしょうか?」

「ええ、生後間もない赤ちゃんを連れてきてくださる方もいらっしゃいます。赤ちゃんとお母さんは、ある時期までは、離れられない関係ですから、どうぞ遠慮なさらずに」
「そうですか、ちょっと安心しました」

「コーチングは初めてですか?」
「はい、こういうことは、仕事をしている人しか縁がないと思っていたんです」

「早速ですが、南山さん、コーチングってどんなものか、体験してみますか?」
「はい、あ、でも子どもが起きて泣いたらどうしましょうか?」

「はい、泣いてどうにもお話するのが難しくなったら、中断しましょう」
「いいですか? ありがとうございます」

「南山さんは、日ごろ何かを達成したいけどなかなか実行出来ないとか、これやってみたいけど出来ないという不満足なことって、どんなことがありますか?」
「はい、あの、子どもが生まれてから、自分のペースで生活が出来なくて、すっごくイライラしちゃうんです」

「なるほど、マイペースではなくて、他人というか赤ちゃんペースでの生活になっていることに苛立ちを感じているんですね?」
「ええ、自分のしたいことが何にも出来ないのですごく強く苛立って、この間なんかは、子どものおもちゃを、壁に投げつけてしまったんです。いけないと思いながらも、もう、どうにもとまらなくて・・」

「そのときの気持ちですが、投げる前と後、どんな違いを感じたの?」
「投げる前は、なんかもう何も考えてなくて、ただただ、衝動に駆られたって感じかなぁ?投げた後は、すっごく後悔しました」

「そうですか、すっきりしたということはなかったんですねぇ」
「はい、すっきりどころか、子どもはますます泣くし、おもちゃはこわれてしまうし。自己嫌悪で、私なにやってるんだろうって感じで泣きたくなりました」

「南山さんは、出産されるまでは仕事をなさっていたんですか?」
「はい、してました。商社で、貿易事務です」

「貿易事務の仕事は楽しかった?」
「すっごく楽しかった。海外からの商品を輸入する証明書を書き、税関にお使いに行くときに、海が見えるんですが、この海の向こうに、自分が買い付けた商品があるんだと思うと、とても嬉しくなって・・早く、日本の皆さんにご紹介出来たらいいなと思っていました」

「失礼ですが、子どもを持つことは、夫婦お二人で決められたことでしょう?」
「はい、でも、散々迷ってのことです。育児休暇1年で、職場に復帰するつもりですが、これから1年、どうしたらいいのか、子育てだけに向き合っていたら、なんか、取り残されるようで・・」

「一番大きな気持ちは、何?」
「うん・・どうしたらいいかがわからない不安でしょうか?」

「なるほど、どうしたらいいかわからない不安ですね。その不安を解消するためには、どんなことをはっきりさせたいのかしら?」
「そうですね・・復帰後、自分の会社での居場所を作れるかどうか、作るなら、どんな仕事をするのがいいかどうか・・1年のブランクなんで、大丈夫とは思うんですが、貿易事務が出来るくらいでは、今、変わりに来てもらっている人材派遣会社の人のほうが仕事が出来たりすれば、会社は私を必要としなくなるでしょうか?」

「たしかに、南山さんの休暇中、あなたの仕事を埋めていただくためには、会社は人材派遣会社の社員を使うことでしょう。でも、人材派遣会社の社員を雇ったということは、あなたに復帰していただきたいという会社の思いがあるのではないでしょうか?派遣会社は、必要なとき、必要なスキルを持っている人を、必要な分だけの労働力を提供するというのが基本です。会社として南山さんの復帰が望めないのであれば、社員の代わりを探すのではないですか?」
「それはそうだと思います・・。貿易事務といっても誰にでも出来る仕事ではありませんから・・」

「日本語と英語が、ビジネスレベルでストレスなくコミュニケーション出来るという条件だけでもハードルは高いと思いますが・・。もっとご自分のスキルに自信を持っていいと思いますが?」
「子どもは可愛いけど、ちっとも自分の思うとおりにも育児書のとおりにもならなくて・・私、こんなふうにいい加減で、親としてやっていけるかどうか分からなくて・・・」

「どうやら、自信を失った原因は、子育てにあるようですね。赤ちゃんにとってあなたは母親、ご主人は父親ですよね。子どもは二人で育てていいんじゃないですか?」
「え?」

「子育てに、もっとご主人を巻き込んじゃったら?」
「でも、仕事して帰ってきたら疲れてるだろうし・・」

「南山さんが一人前に働いていたからこそ、ご主人のしんどさも理解していらっしゃるんでしょうが、楽しみだってあるんじゃないですか?」
「子育ての楽しみ?」

「ええ、笑ったとか、泣いたとかもそうだし、日に日に変わる顔をみてるだけでも、幸せって感じる人もいるようですよ。今しかないこのときだから、もっと赤ちゃんに触らせてあげたら?」
「でも、夫に出来るかしら。落としたりしたら大変だし・・」

「もちろん、モノじゃないので、落としたら大変でしょう。なら、畳に座って抱っこしててもらうとか、ローソファーがあれば、それでとか」
「ぶきっちょ何ですよ。彼」

「大丈夫、自分のお子さんですよ。なんでも一人で抱えていないで、少し、荷物を降ろしてみたらどうでしょうか?これからも一緒に考えてみたいのですが、いかがですか?」
「はい、子供連れでもいいとおっしゃってくださるなら、ぜひ、お願いします」

「もちろんですよ、赤ちゃんが泣いたら中断すればいい。疲れれば、また、眠りますから・・」

子どものせいで、自分の人生が思うとおりに運ばない、自分にとって不都合だと思うお母さんが増えたように思います。大人だけの生活から一変する生活の中で、女性は自分のキャリアを描き続けることが難しくもあります。
子育ても一つのキャリアだということを忘れている人もいます。まずはお母さんが輝くキャリアビジョンを持っていることが、子どものためになることを、一緒に見つけられたらいいなと思います。

親子コーチングの失敗事例~完全主義の母、子どもとのコミュニケーションを考える~

高校1年生の長男は、とにかく熱心にクラブ活動のために学校に行くそうです。
夏休みになってもこの暑さの中、炎天下で熱中症と戦いながら白球を追っているようで、くたびれて帰ってきて誰とも話したくなくすぐに自分の部屋にいきたい気持ちも理解は出来ますが、あまりにも「自分」を中心に生活を送っており、家族の協力が必要な兼業母親(仕事と育児と家事を両立させている主婦)としては、心がとがる日もあるとのことです。
今日も、寝起きが悪く不機嫌そうな長男と向き合うと、つい余計ごとを口走りそうになるため、弁当を作った後は、さっさと自室へ戻りました。そんな母親を追って、長男が部屋に入るなり、「お茶、作っといて・・」との一言です。〝カチン〟と頭の中の音が聞こえるほど、腹立たしく感じたお母さんは、長男相手にコーチングしてみようと思ったそうです。「あのさ、あなたのクラブでは、チームワークは必要ないの?」
「はぁ?朝から何の話?」

「だから、家庭だってクラブだって、チームワークでしょ?私は弁当を作るという協力は惜しみなくしたでしょ?」
「だから何?」

「ちょっと体がだるくて、しんどいから横になりたいのね?お母さんだっていつもいつも元気じゃないからさぁ・・自分で出来そうなことは自分でするという自立心も養うんじゃないのかな?あなたのクラブは・・」
「はぁ?ってことは、やりたくないってこと? だったらそういえばいいじゃん!ぐちゃぐちゃ遠まわしに言わんでよ、うっとおしいなぁ・・朝から・・・」

この会話だけでも、すでにご理解いただけると思いますが、まったくコーチングではありません。
お母さんは、冷静になろうと努めるのですが、あまりにもふてぶてしい態度に、つい、感情が高ぶってしまい、

「ちょっと待った、あなた、誰に口聞いてるの?誰が学費払ってるわけ?高校生でも、アルバイトしながら学校通う子だっていると思うのに、あんまり当たり前だと思わないでよね?誰にとっても時間は価値を生むもので、眠って体力を維持しなければならないことであっても、それは次に働くエネルギーを作る時間だと思えば、価値があるじゃない? 自分のやりたいことなら、自分のことは自分でするのが当然でしょ?」
と、大きな声を上げてしまったそうです。

それに対して長男は、「ばっかじゃないの?何朝からカリカリしてんの?理解出来ん・・」と言い残して、出かけたそうです。
お母さんは約束はなかったのですが、緊急にコーチに電話をかけて、セッションを希望しました。

「コーチ・・・また、やっちゃいました・・・とても辛いです」
「うん・・辛いネェ・・・今、何を感じてる?」

「そうですね、親子間ではコーチングは出来ないと思ってます」
「親子間ではコーチングは出来ない。それは残念なのかしら?」

「そうですね、残念です。・・・二つの残念があります。一つはコーチングを学んでいるのに、ぜんぜん役に立てられないこと。一つは、また、長男とけんかしたという意味で・・・」

「親子間でコーチングがうまくいくとしたら、どんな条件が必要だと思ってますか?」
「そうですね・・・やはり、時間というゆとりがあったほうがいいかな?」

「ゆとりですか?」
「うん、そうですね。あと、体調。私が体調さえよければ、何も引っかかることはなかったと思います。弁当って、ホント毎日でしょ?大変なんです。朝1番電車に乗るって言われたら、四時半にはおきなくちゃ。そんな日に1日自分の仕事があると、体力持つかな?って考えちゃいますよ。そうすると、ちょっとの時間見つけて、横になりたいと思うんですよね。だって、仕事に穴を開けたら、お客様に迷惑がかかるでしょ?」

「なるほど、ちょっときつい言い方をするなら、ご自身の仕事のお客様には甘えられないけれども、家族には甘えたい?」
「うん・・・厳しい言い方だけど、受け入れなければならないかなぁ・・・甘えですかね?」

「いや、甘えだとは思いません。プロの意識をお持ちでいらっしゃることは、尊敬いたします。ただ、ご家族との間には、その厳しさよりもすこし甘えがあるようには感じます」
「そうですね。長男に分かりなさい、ママはこんなにあなたのためにやってるでしょ?もっと感謝しなさい!って言いたい気持ちがあります。小さいころは、親の顔色見て動く子だったのに、どこで間違ったのかしらねぇ・・・」

「親の顔色みて動いて欲しいですか?」
「いいえ、それはあまり望みませんが、自立して欲しいですね。自分の飲むお茶は自分で作る。弁当箱は洗っておくとか・・・」

「そういう気持ちを話されたことはありますか?」
「いいえ、ありません。そんなゆっくりした話は出来ませんから・・」

「時間は価値があるとおっしゃったけれども、お話する時間が持てませんか?」
「帰ってくると、疲れている様子は伺えますから、けんかすることもないかな?と」

「けんかすることが前提になってますね・・」
「ああ、そうですね。そういえば、いつもけんか腰ですね。このごろ」

「お互い、疲れていらっしゃるんじゃなりませんか?」
「ええ、そうですね。疲れています。暑いのが苦手なせいもあるかな?」

「真の苦手は暑さかしら?」
「うん、そうかもしれません。暑い=大量消耗って感じ捉えていますから」

「なるほど。ところで長男さんとは、今夜どうしますか?」
「うん・・・、難しいですね。お互い知らん顔ですかね?」

「ご自分に望むことは何かありますか?」
「そうですね、出来れば、静かな夜にしたいので、自分から朝の続きをはじめないことと、絡まれたととらないことでしょうか?」
「あはは、子どもに絡まれる。面白い捉え方ですね・・」

「うん、やっぱり疲れていると思います。すべてネガティブですね考え方が・・・」
「いや、そういう時もあると受け入れられたらいかがですか?すべてがうまくいくことはありません。そう考えたら、少し肩の力が抜けると思いますが、いかがでしょうか?」

「そうですね。疲れのせいにしてもいけないけれども、疲れていることも事実ですからね」
「ちょっと、アドバイスしてもいいですか」

「はい、どんなことでしょうか。参考にしますのでアドバイスをお願いします」
「お母さんは、毎日の家事と仕事で疲れている。子供さんも毎日のクラブ活動で疲れている。お互いが疲れているとき、また朝の忙しいときには話は出来ないと思います。すこし落ち着いて話が出来るタイミングのときに、お子さんに向けてのコーチングをされることをお勧めしします」

「そうですね。少し考えてみます。今日は、突然で申し訳ありませんでした。ありがとうございました」

受験発表を終えた長男とのコーチング~受験失敗を前向きにさせた母親のコーチング効果~

「今年の春は、花の足が速い気配で始まりましたが、桜の開花は思ったより早くなく、例年より少し早い程度でしたね」アイスブレークのつもりで軽く話し始めた山川コーチでしたが、
「我が家の桜は三年後まで咲く気配なしになりました」と、返してきた武田さんの言葉に、胸が縮む思いをし、一瞬目頭が熱くなりました。
武田さんは、受験発表を終えた長男とのコーチングの様子を山川コーチとのテーマに選びました。
「まぁ、この春ほど、どきどきする時間を過ごした春はないですねぇ・・」
「ご長男、受験でしたねぇ。結果発表はいかがでしたか?」「桜は咲かず。一歩及ばずでした」
意外なほどあっさりおっしゃる武田さんの言葉に、一瞬言葉を失ったのは、むしろ山川コーチのほうでした。

「残念でしたねぇ」山川コーチが見つけた言葉は短いものでしたが、四ヶ月間、コーチングを通して一緒に戦ったような気持ちの山川コーチも、本当に残念な気持ちが湧き上がり、自然に言葉になって自分の思いを伝えました。
その気持ちが伝わったのか「ありがとうございました。この四ヶ月の中でのセッションは、受験する長男との付き合い方をテーマにしていただきましたから、コーチと一緒に戦ったような感じですね。
我が家の空気は、終始、受験でぴりぴりしたものがなく、私も普段と変わらないペースで仕事を中心とした生活でしたし。発表の日も仕事をしていましたので、合格の通知は、メールで入れておいてと、長男と約束していたくらいだったんですね。それでも、さすがに気になって、仕事中にメールの確認を許可いただき、たった一言、『落ちた』というメールを読んだときは、さすがに動揺しましたねぇ。たった一言の短い言葉にこめられた長男の気持ちを思うと、母親として何とかしてやれなかったのか悔やみました。
よもやという油断があったんでしょうね。もともと、ボーダーラインぎりぎりへの挑戦であったわけですから、どこかでプレッシャーをかけ
たほうが良かったのかもしれません。母親として、どうこの受験生と向き合うか、受験期の手綱を引くべきだったのか?後悔するんですねぇ。仕事先の皆さんも同じように受験をさせた父親が大勢いらっしゃったので、皆さんに気を遣わせてしまいました。仕事に私情を挟んだのは、初めてでした。最初で最後の経験かもしれません」

さすがに、半日という時間に気持ちが整理出来ていたのか、武田さんは落ち着いて話します。
山川コーチは、そんな武田さんのそっと吐き出される言葉をじっくり受け止めます。
「ところがね、長男に電話をして、とりあえず自宅に戻ることを確認すると、不思議に落ち着いてね。
『気をつけて帰ってね』と、穏やかに沈まず伝えることが出来たんですよね。セルフコーチングして、気持ちを落ち着かせたのも功を奏するんでしょうが、何より、これは、長男の問題であり、支援者である私が動揺したら、余計に気持ちを沈ませると考えたんですね。
さすがに、電話の向こうの声は涙声でしたが、つらいだろうし悔しいはずなのに気丈に振舞っている様子に胸を打たれるなど、何度も私の気持ちもくじけそうになるんですよね。でも、その都度、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせ、仕事を続けました。昼の休憩は、食欲の塊のような私もさすがに食べたいという気持ちが湧かず、その代わり、担任の先生の電話や、塾からのお詫びの電話などを受け、先生方と話すことによって、次第に気持ちを落ち着けることが出来、恐らく、他の家庭のお母さんとは違う、冷静な対応が出来たと思います。

長男と向き合いなおすにも時間はさほど長くかからず、1学期の学校管理ミスによる不幸な事故によって負った骨折と手術のこと、三年生最後のクラブ活動を断念し最高の応援者として、松葉杖をついてグランドに病院から駆けつけたこと。夏休み以降の学習中心の生活のこと、秋以降の家庭教師と塾による家庭学習の強化など、様々な過程をふりかえりながら、ここまでの努力がいつ実を結び大輪の花を咲かせるかとても楽しみだという、将来に向けて引き続き支援するよという親の気持ちを素直に伝え、長男の気持ちを前向きにするセッションにさほど時間をかけることもなく、お互いの協力を感謝しあう、評価感謝の時間を持つことが出来たことに、別の意味で、長男の成長を感じ、熱くこみ上げるものを堪えることが出来ませんでしたねぇ。
悔しいのは当たり前なんだけど、今回のことを通してまた一つ成長した長男を感じることが出来、これも長男に与えられた大きな試練、これを乗り越えていってこそ私の長男だと思っています。すこし強がりかもしれませんが、そう思うようにしています」

ここまで一気に話した武田さん、さすがに感情が高まったのか、眼にうっすらと涙がにじみ言葉に詰まって黙り込んでしまいました。山川コーチはその沈黙の時間をじっと待つという協力をしました。
「長男が信頼するある会社の社長にあてたメール、読んでいただけますか?親ばかだけど、嬉しくってね。山川さんにぜひ、読んでいただきたいんですよ」
そういって武田さんは、山川コーチに携帯電話のメールを差し出しました。
山川コーチは、ゆっくり時間をかけて読み、「中学生とは思えない文章ですね」と、武田さんに笑顔で話しかけます。
「そうでしょう?それと、気の強さというか気丈さは、私譲りでしょうかねぇ・・」と、笑って携帯をしまわれました。

「どこかで、母親として受験生とどう向き合うか、腹をくくってなかったことを悔いる気持ちがあるのかもしれない。それが、自己弁護になったり、後悔になったり。まだまだ複雑ではあるけれども、私らしく自分満足のために仕事させてと、宣言してみます。私が私らしく自分のために働くことが、みんなの幸せを後押しするということを理解してもらえるよう、後悔しないようにします!」
と、山川コーチに宣言した武田さん。

武田さんは「息子と親という関係のコーチングって難しいですね」というクライアントの言葉にうなづくばかりであったこれまでとは違い、一人の人間として向き合えば、親子間のコーチングが成り立つこと、話すことで自分の気持ちを確認したり、次の行動を計画出来ること、宣言することの大切さなどを、改めて学習する良いきっかけとなったと付け加えられました。

また、コーチングという仕事を通して、支援しているはずのクライアントから、多くの励ましや思いやりある言葉をかけていただけたことに、改めてこれまでの自分の仕事振りを振り返り、「全力投球してきたこれまでの私へのご褒美だね」と、満面の笑みを浮かべた武田さん。
三年後は、高校と大学のW受験を控え、ひそやかに心を締めなおしたようでした。

山川コーチはこのセッションにおいて、徹底した傾聴に努めました。話したいことを自由に話してもらう。お地蔵さんのようにただ黙って聞いているのではなく、命ある人として自分の気持ちを素直に表しながら、クライアントの話を徹底して聴くということの大切さを皆さんも改めて考えてみてください。

エデュケーショナル・コーチング~子育てコーチングセミナーに参加して~~子どもとのコミュニケーションを見直す~

小学六年生をもつお母さんの悩みは、学期ごとにある、担任教諭との面談で、子供の生活態度について常に注意されることでした。自分の子供には協調性が欠けていると言われることでした。そんな時、インターネットでたまたま見かけた子育てコーチングの無料セミナーにに参加することによって子供とのコミュニケーションがいかに大切で、どんなにか難しいことなのかを、改めて感じたというお母さんのコーチングとの出会いです。
セミナー当日、会場に向かう足取りは、どんどん重くなっていたようで、開始ぎりぎりに飛び込んだということもあり、息を整えるのが精一杯のうちに、スタートしました。参加者は一様にモチベーションが高そうで、場違いなところに来たなと思ったお母さんでしたが、コーチの笑顔に救われる思いを感じたので、どきどきしながらも席を立たずにいられたそうです。
セミナーは、ただ黙って座って聴いてれば良いというものではなく、「今、何を感じましたか? あなたならどうしますか?」とコーチに質問されたり、ワークショップが中心だったりして進むようで、〝コーチングって何?〟ということ
をコーチが説明され、参加者の中でも経験がある受講者との模擬コーチングを見せていただいた後、参加者同士がペアになってコーチングを楽しみましょうという時間になったのです。
お母さんは、参加したことを後悔する気持ちでいっぱいで、その場にいたたまれなくなって今にも席を立とうと、そわそわと落ち着かなくなりました。
そんなお母さんの気持ちを察してか、本間コーチが「よろしければ、私とペアになっていただけますか?」と、声を掛けてきました。
お母さんは、とっさに、「コーチとペアになったら、みんなの前でしなければならないのでは?」という思いを抱き、「申し訳ないんですけれど、私、途中で帰らなければならないので・・・」と、やんわりと断りました。
しかし、本間コーチは、「あら、お忙しい中お越しくださったんですね、ありがとうございます」と、笑顔でお礼を言ってくれるのです。お母さんは、嘘をついたこともあり、ますますいたたまれなくなって、「あの、皆さんの前で、模範演技をするんでしょうか?」と、聴いてみました。
本間コーチは、「いえいえ、あ、そうですね。言葉が足りませんでした。模範のロールプレイングはいたしません。安心してくださいね」と、どこまでもお母さんの気持ちがロールプレイングをやってみようかしらと前向きになるように、配慮しながらやんわりと迫ってきます。
お母さんは、少しだけなら体験してみようと思い「では、ちょっとだけ・・・」と、下を向いたまま答えコーチのお誘いを受け入れたそうです。
自分の優柔不断さで皆さんをお待たせしてしまったことが情けなくなり、お母さんは小さくなっていました。「私はいつもそうだ。自分の不得意なことから逃げようとするし、進んで参加しようと思って申し込んだのに、こういう結果になってしまう」お母さんは、すっかり暗い顔になって自己嫌悪におちいってしまいました。
「では皆さん、十分後、相手から満足の拍手をもらうという目標に向かって、コーチングをはじめましょう。楽しんでください。お願いします」と、声を掛けました。
そして、お母さんにも「どんなことでもいいんですよ。あなたが今、率直に話したいと思うこと、お話しください。ここで話されたことは、決して、あなたの許可なく勝手に皆さんに話すことはありません。安心してくださいね」と、穏やかに促されました。
お母さんは、ほんとうに迷いました。子どものことを話したい、でも、ほんとうのことを言うのは、恥ずかしいと思ったのです。
躊躇しているのがわかったのか、本間コーチは、「話していいかどうか?ためらっておられるのですね?」と、質問をしてきました。お母さんは、仕方なくうなずきました。
「あなたが抱えている問題を、私くに話しても良いと自分に許可を与えるためには、どんな条件が必要ですか?」と、重ねての質問です。
「うん・・・、私の悩みが恥ずかしいことだから言えません」お母さんは、本間コーチの質問の答えにはならないことを感じながら、あえて、自分の言いたいことだけを返事しました。
「ありがとうございます。やっと自分の言葉で思いを表現してくださいましたね」と、コーチはにっこり微笑むのです。
「あの、私の答えは、本間さんの質問の答えではなかったように思いますが・・」と、お母さんは率直に伝えました。
本間コーチはそれでも更に、お母さんを褒めるのです。「いえいえ、そんなことはありませんよ。どんなことでもいいですよと申し上げましたでしょう?」
「ええ、そうですけど・・」お母さんは、どんなことを言っても、本間コーチが否定しないことに気づき、受け入れてもらっているというか、居心地がいいというか、包み込まれているような感覚に、すこしづつ、重い心と口を開いていきました。
十分後、お母さんは、コーチがタイマーを止めることでようやく口を閉じるほど、熱心に「子どもに協調性がないかもしれず、将来を不安に思っていることや子育てを難しいと感じていること」を本間コーチに伝えようと、必死で話をしている自分に気づきました。
ロールプレイングは、先ほど聴き役だった人が話し役になると、役割を変えて再度十分間繰り返して行われました。お母さんも、先ほどの本間コーチをまねして、汗をかきながら、必死で聴きました。
八分ほど経過したころでしょうか?「ほんとうは、私が聴かれる役だから、質問するのはルール違反ですが、役得ということにしましょう。最後に質問してもいいですか?」と、聴き役も十分体験させていただいた後、お母さんは、本間コーチから質問を受けました。「あなたは、日ごろお子さんの話を、何かをしながらついでに聴いているようなことはないですか、真剣に聴いてあげたことがないのではないですか?」
これぞまさしく、お母さんがロールプレイングをしながら先ほどから感じていたことでした。そのことを見抜いたかの様なコーチの質問に、お母さんは思わず正直に答えました。
「はい。私は自分のペースで生活していたようです、子どもの話も、うわべでだけ聴いていました。こんな調子で子どもにだけ協調性を求めるのは、かわいそうだと今感じていました」
お母さんは、二時間のコーチングセミナーを十分に楽しみ、帰り際に、本間コーチに歩み寄り、「コーチとペアになることが不安で、時間がない、途中で失礼するなどと嘘をつきました。ごめんなさいね。今ではこのコーチングセミナーに参加させていただき、コーチとロールプレイングが出来てほんとうによかったと思っています」と謝りながらお礼を言いました。「私のほうこそ無理にロールプレイングのお誘いしてごめんなさい。少しでもコーチングを楽しんでいただけたでしょうか」コーチにそう言われて、お母さんはスッキリ心の中の荷物を全部降ろしたかのような表情で、会場を後にしました。
コーチングの魅力のひとつに、心の中を整理するということがあります。誰かにゆっくり話を聴いてもらうだけで、心の中がずいぶん整理出来ることを、お母さんは身をもって経験したようです。

子育てコーチング、リワークコーチング 専業主婦恵子さんの悩み~子育てと、仕事復帰を両立させたい気持ちの整理~

〝子育ての卒業は子供がいくつになったときかしら?〟
ふと、恵子さんは考えました。
そろそろ家の中にいるより外に出たい。仕事をしたい。社会に戻りたい。
そんな気持ちが自然と胸の中に広がってきたのは、長男の優太が小学三年生になり、学校からの帰宅時間も遅くなり、帰ってきても自分のことが一人で出来るようになり、塾にも一人で行き、お友達との遊びも活発になってきた頃でした。
でも、結婚を契機にそれまで勤めていた会社を辞めて十年、雄太が生まれてからの八年は子育てに専念していた。いまさらこんな私を受け入れてくれる職場があるのだろうか?
自分一人で考えていても始まらないと思った恵子さんは、PTA活動を通して仲良くなった浜本さんに、思い切って打ち明けました。
浜本さんは、子育てと仕事を両立させているとてもエネルギッシュな人で、PTAでも積極的に発言し、だれからも羨望のまなざしで見られている反面、浜本さんは、専業主婦にはない仕事をしている女性特有の自信に満ち溢れており、近寄りがたい独特の雰囲気をかもし出すことから、専業主婦のお母さんがたには彼女のようになれないという僻みを感じている人も多く、PTA活動の中では浮いた特別な存在でした。
普段の活動後は、同じ専業主婦仲間とお茶をして、愚痴を話し合い憂さを晴らしている恵子さんでしたが、それはそれで楽しい時間だけど、同じ境遇の人と会話をしていても同じようなことしか聞けないわけで、それではダメだと思って、子育てと仕事を両立させている浜本さんと話をしてみることにしたわけです。「浜本さん、ちょっとお話してもいいですか?お忙しかったら、またにしますけど・・」
おどおどしながら、恵子さんは思い切って浜本さんに声をかけました。
「あら、恵子さん、お疲れ様です。校庭の草取りって大変よね。一生懸命ただ黙々と草むしりするだけでしょ。本当に疲れちゃうわよね。だから私ねぇ、実は草取りって好きなの。何にも考えないで、ただただ、草を抜いているとね、忙しいこともわずらわしいことも、全部忘れられるじゃない?普段は何かと忙しくしていてこういう時間、あんまり持てないでしょう。
こういう時間って貴重なのよね」と、心のうちを明かしてくれました。

「あ・・ええ、そうですね」浜本さんから予想外の言葉を聞いて恵子さんは、とっさにどう答えてよいかわからずに、浜本さんの言葉を受け止めるだけで精一杯でした。
「・・・・・・・・・・・・・・」恵子さんは次の言葉が出せませんでした。

「ところで、恵子さん、どうしたの? お話ってなぁに? 悩んでいることがあって何か話したいんだろうなとは思うんだけど、それは深刻な問題なのかしら?」
浜本さんは、恵子さんの表情を見て、恵子さんが悩みを思っていることを見抜いたようです。恵子さんは、自分に悩みがあることを見抜いた浜本さんに対して驚きを感じるとともに、警戒心もでて、何でもかんでも話しして大丈夫だろうか、とっさに感じたそうです。

「浜本さんは、子育てとお仕事の両方をされていますよね。浜本さんは、お子さんがいくつのときからお仕事始められたんですか?」
「長男が五歳、次男は二歳だったわ。うちは自営業なのよ。夫が常に店というか家にいるわけよ、だから夫も子育てに直接関われるわけよね、私が外で働くためにはとてもラッキーだったわよね。もっとも、そのためにはそれまで以上に子供たちの世話をするという覚悟が必要なのよ。外にでるのだから、当然に子供達に関わる時間は短くなるわけだけど、そのぶん効率よくというか密度を高めるというか、時間がないのだから子供達の世話は犠牲にしてもいいという考えでは、外にでて働くということはやめたほうがいいわよ。それは夫の協力も必要だわ。食事の支度も、手が空いているほうがすればいいでしょ?っていうことを理解させる夫育てには、七年もかかっちゃいましたけどね。こっちのほうが大変だったわ(笑)」と、浜本さんは何でもないことのようににこやかに答えてくれました。

「恵子さん、働こうかどうしようか、迷っていらっしゃるの?」
「ええ、どうしようかと思って。このごろでは、三時半近くまで子供は戻ってこないし、戻ってきてもお友達と遊びに行っちゃうし。自分のことは自分で出来るようになっているんです。塾も、一人で行けるようになったし。なんか、取り残されているような気もするし、でも、まだまだ子育てに専念したほうがいいようにも思うし・・・」

「ねぇ、恵子さん、あなたが働きに行くと、どんなことを得られるの?」
「え?得られるもの?多少、自由になるお金かなぁ?」

「それだけ?」
「う~ん・・・。働いているという充実感?かな・・」

恵子さんは、浜本さんの意外な質問に、「自分は何故働きたいんだろうか。何のために働こうとしているんだろうか」そんなに深く考えたこともなかった自分の気持ちを整理しなければならないと、とっさに感じました。
その後も、浜本さんは、恵子さんがいつも漠然と考えていることが分かっているとでもいうような態度で接してくれました。恵子さんが本当はこのことを言いたかったけれども、自分でも気づかず誰も話題にしてくれないような恵子さんの気持ちの奥深いところにある本当の恵子さん考えをじっくり聞いてくれました。

「結局、私は自分の人生じゃなくて、人の人生に関わることで自分の人生の充実感を得ようとしていた気がする・・」
回りを見回してみると二人以外は誰もいません。二人は、とうのむかしに解散の指示が出されていたことにも気づかないくらい、じっくり話し込んでいました。

「こんなに人に自分の感情や考えを話したのは初めて。すっごくすっきりしたわ。浜本さん、聞いてくれてありがとう。ところで、浜本さんは、保険会社で働いていたんですよね?人材って募集していませんか?」と恵子さんは、積極的な姿勢で、浜本さんに就職先の情報を得ようとし始めました。
そんな恵子さんに、「恵子さん、就職先は、あなたがほんとうに何がしたいのか、どんな人生を送りたいのか、じっくり考えてから選択する時間を持つことにするのでは、間に合わない?」と、最後の質問を投げかけました。
恵子さんは、この質問に対し、「そうですね。あせっちゃいけないのよね」と、素直に答えました。

「もう少し考えてみます。今日はどうもありがとうございました」
恵子さんは、いまさらながら浜本さんのすごさに驚きながら、自分の気持ちを整理してみることにしました。
浜本さんは、キャリア・カウンセラーでもあり、コーチングのキャリア専門コーチとして活躍していることを、後日、恵子さんに明かされたそうです。

ボタンの掛け違った親友との仲直り~仲たがいした親友とのミスコミュニケーション回復を目指す~

とても仲のよかった友達が、ある日突然、目もあわせず、口も利いてくれなくなってしまったら、あなたならどうしますか?
ちょっとしたボタンの掛け違えで起きたコミュニケーションエラーについて考えましょう。
幼馴染で、結婚したあとも、一つしか町内が離れていないというロケーションで暮らす、麻美さんと真由子さん。誰はばかることなく「親友」と言って紹介しあう仲良しでした。
ところが、ある朝、麻美さんが中学校のPTA委員会に出来かけようとして、道ですれ違った際、真由子さに知らん顔をされました。どうしたのかしらと知らん顔をされたことを気にしながらも、時間に遅れそうで学校に向かったそうです。
1週間ほどたった後、麻美さんは真由子さんをお茶に誘おうと電話をしたところ、以外にも真由子さんから「もう二度と電話をしないで。あなたを見損なったわ」と、冷たく言われてしまったそうです。
何がなにやら理解出来ない麻美さんは、真由子さんとの共通の友達に相談したところ、子供たち同士の問題が事の発端だったことを知らされました。
“そういえば、隆(長男)にそんなようなことを言った気がする・・・”という記憶を呼び覚ましながら、どうしたら誤解が解けるのかをテーマに、コーチとのセッションを希望しました。
「真由子さんとは、その後、まったく話すチャンスは見つけられないのでしょうか?」
「はい、私たちはホントにこれまで仲がよかったので、たとえば、スーパーに行く時間とか、塾の送り迎えの時間とか、お互いの行動が予測出来るんです。だから、それを外すことも簡単で、なかなか偶然を装って出会うことも出来ず・・・」「ほんとに困っているんですネェ」
「ええ、真由子がどんな経緯で誤解したかはわかりませんが、それはホントに誤解なんです。だから、早く解いて、元のように双子姉妹といわれるような仲良しに戻りたいんです」

「戻れるといいですね。直接話すことが出来ないということですが、だれか二人の間をつないでくれるような友達はいらっしゃらないんですか?」
「共通の友達はいるんですが、直接話したほうがいい。更に誤解させるようなことになっては申し訳ないといわれて、だれも間に入ろうとしないんです」

「そういう考えもありますよね。メールは?」
「メールは、何度か送ってみましたが、返事はありません。届いているのかどうかはわかりません。まさか、受信拒否の設定にはなっていないと思いますが・・・」

「彼女と元のように仲良くなれるとすると、麻美さんは、どういった点でメリットがあるんですか?」
「メリットと言うか・・・、仲良くなれたら、いろんなことを相談出来ると思います。これまでも、お互いの愚痴を聞きあったり、子育ての相談をしたり。夫への不満を聞いてもらったり。とにかく、価値感が同じだから、話すだけで心が温かくなる存在なんです。とても大切な人なんです」

「改めて、真由子さんの存在が重要であることを感じたわけですね」
「ええ・・・」

「真由子さんはどう思っているのかしら?」
「それがわからなくて。私が隆に言った言葉を、どうしてそんなふうに取り違えて聴いたのか・・・。由樹(真由子さんの次男)君が、真由子さんに何を言ったのかもわからないし」

「お子さん同士が何を伝え合ったか、それを知りたいと思うのですか?」
「ええ、そうじゃないと、誤解は解けないから・」

「表現力のない中学生の言葉が、お互いの誤解を生んだんでしょうか?」
「え??」

「お互いに、すこしずつ、これまでの間にズレが発生していたのではないでしょうか?」
「ん・・・・・」

「何気ないたった一言で仲たがいをするようになったとは考えられない気もしますが、いかがでしょうか?」
「そうでしょうか?」

「お互いの関係を修復するという考え方もありますが、新たに真由子さんと友達になりたいと、スタートに戻るという考え方もあると思います。麻美さんが友達を作ろうとするとき、どんなことを努力しますか?」

「そうですね・・・私という人を理解してもらうために、まず、自分のことを話します」
「なるほど、自己紹介をするということでしょうか?」

「はい」
「どんな自己紹介をするの?」

「学歴とか、仕事の経験とか、子供のこととか、夫の職業とか・・」
「そういう情報を伝えたとして、相手はどんなふうに思うかしら?」

「え?より深く私を理解してくれるんじゃないでしょうか?」
「麻美さんと友達になりたくて、心の距離を近づけるのに、学歴や仕事の経験、子供のこと、夫の職業とかは重要なことかしら?」

「ん・・・」
「麻美さんがどんな趣味を持っているとか、どんな意見を持っているかとか、今どんなことに一所懸命になっているかとか、そういった情報も必要なんじゃないかしら?」

「そうですねぇ・・・」
「真由子さんに、誤解があるようなので、私の意見も聞いて欲しいけど、あなたの意見を教えて?と、ストレートに誘ってみたらいかがですか?」

「でも・・・」
「仲良く過ごしたいんでしょ?」
「それはもちろん・・・」

「もちろんなんだけど、勇気が出ない?」
「はい・・・・」

「勇気がでないのはどんなことを考えたから?」
「断られたり、嫌な顔をされたくないし・・・・」

「断られて、失うものはありますか?」
「・・・・」

「今、既に、真由子さんとは話せない状態なんでしょう?」
「はい」

「それなら、断られても、状態が変わらないだけで、希望がなくなってしまうわけじゃないでしょう?」
「それは、そうですけど・・・・」

「繰り返し、麻美さんは真由子さんと話したいと思っているということを、自分の言葉で訴えてみてはいかがですか?」
「ふう・・・・」

セッションは、このあと、麻美さんの沈黙の時間が長くなったので、中断しました。
コーチにとっては勇気の出せる問題であっても、クライアントにはそんなに簡単でないことはたくさんあります。
障害をどう乗り越えるか、コーチはその方法を考えたり、計画を立てる支援したりすることは出来ますが、一番大切な勇気を出すことを、直接支援することは難しいことです。
何がきっかけになるのかわかりませんが、こういうケースでは、辛抱強くクライアントの気づきを、寄り添いながら待つことも大切です。

姉妹で始めたカフェ お姉さんの悩み~共同経営者とのコミュニケーションを回復させるためのセッション~

美人姉妹と評判のカフェが出来て半年。
都会ではすっかり定着しているカフェですが、地方都市ではまだ馴染まれず、経営に対する理想と現実のギャップに疲れてきたようです。
今日は、妹の雅恵さんが僻みっぽく、お客さまについて何かと不平や不満をこぼすし、このごろでは、お客様がお帰りになるとすぐ後にでさえ、お客様の悪口を言うようになり、忘れ物でもして引き換えされたらどうしようか?と、はらはらしているお姉さんの悠美さんとのセッションです。
「ちょっと緊張してますか?」
「はい、妹と違って、私はあまり話すのが得意ではないので、上手く話せるかどうか・・・」「大丈夫ですよ。上手く話す必要はありません・・といいたいところですが、上手いか下手かを決めるのは、自分自身であって私ではありません。つまり、悠美さんが話したいことが話せて上手く出来たと思えば、それで満点。でも、たとえ上手く自分の気持ちが話せないなと感じても、私がお伺いしたいことや、悠美さんとおなじ気持ちになりたいことがあれば、何度も繰り返してお尋ねしますから大丈夫です。落ち着いていただきたいと思います」
「はい、わかりました。今日のテーマは、妹と今後どうやって接していいかということにしたいんですが、よろしいでしょうか?」

「はい、もちろんです。妹さんと今後どう接したらいいかということですね?一緒にお店をなさっているのですから、一日中顔を合わせているんですものね。お話が出来ないと困ることはたくさんありますね?」
「はい、たくさんあります。特に、厨房は私が取り仕切りますが、お客様のことやメニューを決めるのは彼女ですから、何かと話をしなければいけないことが多いんです。でも、今のように、お客様の悪口に同調したり、近所の方とのお付き合いの愚痴を聞かされるばかりでは・・・」

「そうですね。それは辛いですね。お客様の悪口というのは、どんな感じなんでしょうか?」
「そうですねぇ・・たとえば、ランチの時間は、少しでも早くお客様を入れ替えたいのが、経営者としての気持ちですが、女性のお客様はそういうわけにはいきません。『もう、長話して・・・次のお客断らなきゃいかんぶん、請求したろかなぁ』とかっていう感じなんです。心苦しいというか、ハラハラしますね」

「なるほどね。経営者としては大切な要素ではありますけれどもね。回転率が下がるということはね」
「言い方もあるのかな?って思うんです。それに、親しいお客様にそれを口にして言ってしまうので、お客様からお客様に漏れやしないかと・・」

「お気詰まりですね」
「ご近所の人のことに関しては、皆がどんなにいい人だねって言ってても、欠点というか、悪口を言うんです。だんだん、妹の顔を見るのも嫌になってきてしまって・・」

「妹さんには、どうなってもらいたいんですか」
「店を開いたときに、二人で話したお店にするために、ちゃんとやってもらいたいんです」

「悠美さんは、どんなお店にしたいんですか?」
「そうですね、来店者数を増やすことも重要ですが、根強いファンが出来る店にしたいんです」

「そのためには?」
「そのためには、入りやすさや、居心地の良さをアピールしたいんです」

「そのためには?」
「うん・・・・駐車場の問題は重要な要素の一つでしょうし」

「そのほかに大切なことを三つ考えてみましょうか?」
「三つもですか?・・・あるかなぁ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ひとつ、私の考えを聞いていただけますか?」

「はい・・はい、お願いします」
「お二人のわだかまりを取ることによって、店内の雰囲気を明るくすることです」

「え?」
「おそらく、客足が落ちていると思うんです。これには根拠はありません。ですが、人間、自分のお金を払って食事やお茶をするのに、居心地の悪いところは足を向けません。このごろ、お二人がそれぞれお互いに言いたいことがあるのに、言わずにおなかの中に溜め込んでいるぎすぎすした関係の店が、居心地がいいと思いません。ということは、客足も鈍っているはずです」

「たしかに、このところ、売り上げは確実に落ちていますが・・・」
「売り上げが落ちているのは、誰の責任でしょうか」

「よく分かりません。妹の態度が影響しているのかもしれないし・・・私には和からないんです。どうして妹があんな態度をとるようになったのか・・・」
「お二人のおなかの底に溜まっているものを出し合うだけでも、ずいぶん、ちがうんじゃないでしょうか?」

「でも・・・」
「ひとつ、提案をしてもいいですか?」

「だれか、お二人が信頼している人はいませんか?その人に間に入っていただいたらどうですか?」
「・・・うん・・・・あ、そうだ。雅恵の同級生のお姉さんで、雅恵の気性を良く知っている先輩がいます。この間、東京の勤め先を辞めて戻ってきたって、お茶を飲みに来てくれた人がいますね」

「なるほど、その人は、悠美さんも良くご存知ですか?」
「はい、私の先輩でもありますので、大丈夫です。彼女なら、上手に話しに入ってくれると思います」

「直接解決するのは、お二人ですが、解決したい問題があることを伝えるために、先輩のご協力をいただいたらどうでしょうか?」
「はい、そうします。このままじゃ、お店も立ち行かなくなってしまうし。ご近所とも上手く付き合っていけそうにないので・・・」

「不安なことがたくさんあって、大変だと思いますが、ぜひ、先輩の方のご協力をいただきましょう。ところで、その先輩を交えた雅恵さんとの話し合いをいつ、行いますか?」
「先輩の予定があるので・・・」

「悠美さん、すべての問題を解決するためには、悠美さん自身が行動を起こさなければならないのですよ? いつにしますか?」
「はい、明日、先輩の都合を聞くために、メールを打ちます。その返事次第では、すぐに逢う事が出来ると思います」

「そうですね。では、明日、メールを打ってみましょう」
「はい、ありがとうございました」

「こちらこそ、厳しいことを申し上げましたが、お許しくださいね」
「いえ、厳しいとは思えませんでした。コーチのお人柄でしょうか?私もそんなふうになりたいですね・・・」

メタコミュニケーションを図って、このセッションを締めくくった例です。
誰にも目標があり、誰にもそれを解決する能力もある。そう信じることが大切ですが、クライアントを信じることと、黙っていつも見守ることが必ずしも機能するばかりではありません。最後の壁を乗り越えさせれば、行動を起こせるというときは、背中を押すのもコーチの役割ではないでしょうか?

保護者からの電話に悩む先生~真意を伝えるコミュニケーションを考える~

高校サッカー部の新任顧問として勤務することになった熱血スポーツマンの坂本さん。入学式直後から、どうしたらこのチームのレベルを上げることが出来るのかと、練習のメニューや体力づくり、ひいては、筋肉をつけるための食事のメニューまで考えて、保護者にも協力を求めていました。
練習の指導にも熱が入り、子供達も自分の厳しい指導についてきてくれていると手ごたえを感じていました。
ところが、ある日の午後、練習を終え、残った仕事を片付け同僚であるバスケットボール部顧問の先生を誘いビールでも飲もうかと立ち寄った店の入り口で、保護者からの電話を受けたそうです。
「はい、坂本です。ああ、加藤さん、いつもお世話になります」と、さわやかに挨拶をするや否や、
「先生、食事の献立まで指図するのはいかがなものですか?我が家は共働きで、食事は簡単に済ませることだってあるし、出前をとることだってあるんです。
息子は、先生の立てるメニューどおりにしなければ、レギュラーから外されると神経質になり、ふさぎこみがちである。いったい、あなたは何様のつもりですか? 先生は栄養士の免状でも持っているんですか? たかが高校の部活の顧問ごときに、家庭の食事まで指図されなければならないことはない。それとも何ですか、うちみたいな共稼ぎの家の子供はサッカーをする資格がないって言われるんですか」と、怒鳴りつけられ、一方的に電話を切られてしまったそうです。
ショックを受けた坂本先生は、冴えない顔のまま、同僚が待つ店の中に入り、ビールで乾杯するも、気持ちはさえません。急に元気がなくなったことに気づいた同僚は、さりげなく話を切り出しました。「急に天気が変わったようだね。今は大雨って感じだぞ。」
「ああ、そうなんだ。今日は子供達の体も切れていたし、モチベーションも高かったから、いい練習が出来たって思ったんだけどなぁ・・・」

「残念なことがあったのか?」
「ああ、まぁそうだな。残念っていうか、悔しいなぁ」

「悔しい? お前の気持ちが伝わらなかったのか?」
「ああ、今、部員の保護者からの電話でさ、俺の言い分を聞くわけでもなく、一方的に言いたいことだけ言われて、がちゃって・・」

「そうか、それは辛いな。どんなことを言われたのか、話す気になれるか?」
「ああ、いいのかな?言っても・・」

「守秘義務は守る!って言いたいけど、学校全体で考えたほうがよければ、上に相談するよ」
「そうだな。たぶん、学校にも連絡が入るんだろうなぁ・・あの調子じゃな・・まいったな」

「まいっているんだ。どんなことにまいってるんだい?」
「実は、保護者からのクレームの電話でさ。たかがサッカー部の顧問ごときが、家庭の食事まで指図するなって言われちゃったんだ。確かにそうかもしれないけど、うちの子達は筋力が弱いんだ。だから接戦の試合では負けてしまうことが多いんだ。おまえも運動部の顧問をやっているからわかってくれると思うけど、子供達に勝つ喜びを味あわせてやりたいんだ。
全国大会になんて一足飛びには思わないけれども、県大会では上位を狙えるところまで上げていきたいんだ。うちの子供たちにはそれくらい出来る能力はあるんだ。それが肝心なところで凡ミスが出て負けることが多い。前の学校のときにうちのチームと試合して感じたことなんだ。
少しでも強いチームにして、子供たちに自信を持たせてやりたくて。ついつい、力が入りすぎたのかなぁ・・」

「そうか、おまえは良かれと思ってしたんだろ?それが認めてもらえなくて挙句の果てに保護者のクレームか。保護者のクレームは受けたくなかったなぁ」
「ああ、そうだな。でも、真意を組んでもらえなかったのが悔しくて。子供たちのこと、自分だって真剣に考えているのに・・」

「そうだな。おまえは、今の教師にしては珍しく、子供の指導に熱意がある。ありすぎるといってもいいかもしれないな。ただ、そんなふうに熱くかかわられる親や子供はどんなふうに受け止めているんだろうか?」
「ん?・・・どんなふうに?って、もしかして、重荷になってるのかなあ?自分は出来ればそうしてほしいとアドバイスのつもりで言ったんだけどな・・・」

「いや、重荷になっているかどうか、自分には判断出来ない。でもなぁ、おまえはアドバイスのつもりで言っても、相手にとっては顧問の先生の言葉って絶対にしなければならない命令に受けとるもんだぞ。
おまえの気持ちをちゃんと保護者に伝える方法を考えたほうがいいと思うんだ。一方的に情報を流しても、双方向に意見交換しないと、真意を伝えられないし,真意も汲み取れないんじゃないか?
今回、クレームの電話とはいえ、保護者から意見が聞けたというのはコミュニケーションとしては一歩前進、双方向の意見交換が始まったということだぞ、それはそれとしていいことなんだ。
これを踏まえて、この先どう子供たちや保護者と向かい合っていくかということじゃないかな。
クレームととるのか貴重なご意見を頂いたととるのかは、お前次第だ」
「そうかなぁ・・・そうだよな」

「何がそうさせるかわからんが、おまえと話すと気持ちが楽になるって言うか、明るくなれるなぁ。不思議だなあ。
よっしゃ、明日校長に今回のことを話し自分としての対応の仕方を説明して、保護者や生徒に自分の指導方法を伝える準備をはじめるよ。なんかすっきりしたな。雨降って地固まるでやってみるよ。よし、もう1度乾杯してもいいかな?」

居酒屋での会話です。同僚がコーチングを学んでいたかどうかわかりませんが、自然な会話の中でも、コーチと同じような会話を組み立てることは可能です。
しかし、コーチングを学べば、もっともっと、やる気を取り戻させ、行動計画を立て成果をあげることが可能になります。
ご自身の会話を振り返り、学ぶ前からコーチとしての資質を感じる皆さん。コミュニケーション能力向上と、人との関係をより楽しむためにも、ぜひ、一緒に学びましょう。

市長選挙に立候補~最終目標を達成するために確実な方法を考える~

二宮さんは、近い将来、市長選挙に出馬を目指している四十歳。
しかし、地方の市の選挙出馬には、しがらみや決め事がたくさんあり、支援団体のご長老方の意見を聞いていると、このままでは出馬断念に追い込まれてしまいそうと、コーチングを受けることにしたそうです。「はじめまして」
「はじめまして、よろしくお願いします。さっき、契約書に同意してサインしました」

「ありがとうございます。さっそくサインしてくださったんですね、市長選挙への出馬が目標であるとのことですが、よろしいですか?」
「はい。まずは、選挙に出て顔を売り、私の主義主張というか私の考えを市のみんなにわかってもらうことです。そして出来れば当選、市長になって三期で市政を改革したいと思っています。ただし、市政を改革するというのは、みんなには内緒です。とくにご長老方には。そんなことを言うと、足をひっぱられますからね」

「ずいぶん、信用していないんですね。ご支援くださっているのではないのですか?」
「いや、支援はしてくれていますが、どうも・・・私利私欲のために思えてならないんです。
これからの市の運営は、能力のある市長がひっぱらないと、すぐに財政が破綻に追い込まれます。これといった産業もなく、優遇・保護されている農家が多い。そんな町でも、ここは人が終の棲家とするには、自然にあふれた住み心地のよいところなんです。介護保険を使う世帯も多くなるでしょう。でも、安心して住めるふるさとにしたいんです。
ただ、この市は、今の市長の息のかかった業者や、市長の協力者が町政をしきっており、ここで変えないと、ずっと一部の考えで市の政(まつりごと)が進んでいってしまうんです。それで良いと思いますか?」

二宮さんは、コーチに質問を投げかけるように一気に話し終えました。

「私に分かることは、あなたが生まれ育った市が大好きであること、あなたがその市に恩返ししたいと思う気持ちが強いこと、そして何より、市長になりたいのではなく、市政を改革すべくリーダーになりたいという熱い気持ちです。同時に、あなたは強く自分の中に答えを持っている。それを支援したいと思う気持ちが、私の中に生まれたということです」

二宮さんは意外そうな顔をして質問されました。

「コーチ、私は私の中に、本当に答えを持っているのでしょうか?」
「どうしてそうお思いになるの?」

「選挙というのは、思っていた以上に、人に頼みごとをしなければならない。それに、あっちに挨拶に行け、こっちに挨拶に行けと、人形かロボットのように動かされる。マニフェストの話をし始めると、そんな難しいことは分からないが、今までの市長のやり方ではこの町は発展しない。新しい若い人の力をそそがにゃいかんなぁ・・と、一見、好意的に受け入れてもらえるんです。でも、本音はそうじゃないらしい。選挙を通して自分の利権を大きくしようと思っているふしがあるんです。
自分の支持している○○党に入れとか、自分の懇意のどこそこの社長に挨拶をして、社員に協力してもらえとか。そのためにはその人に受けのいい事をしゃべれとか 言われるんです。
しがらみのない選挙、草の根選挙を目指したいという自分の思いが、どんどん薄められていってしまう。いったい、自分は何のために選挙に出ようとしているのか、このごろでは、自信が持てないんです。それでも、私は戦うべきなのか・・・」

二宮さんは、最後は辛そうに語ってくれました。

「支援団体の人がいてそれでいて、しがらみのない選挙って、出来るんでしょうか?二宮さんは、どうお考えなんでしょうか?」
「うん・・・出来ないかもしれないって。選挙って、結局誰かの手を借りなければ出来ないものですから。でも、あんまり人の言うとおりに動かされたくない気持ちが強い。特定の政党員としてではなく、若い人たちと一緒に、この町の将来を考えていきたいんです。そのためには、1回や二回、落選することも覚悟の上です」

「落選も覚悟の上というのは、立派な心がけだと私は思いますし、支持します。ただ、そういうあなたの頑なな態度を、年配者はどう見るのでしょうか?」
「・・・・生意気かな?」

「あはははは、笑ってごめんなさい。生意気ですか?中学生みたいに思われているのを感じているのかしら?」
「まぁ、そんなところでしょう。田舎なので、親父の代の人間関係とか引き合いに出されて、お前の親父の非情さを知っているから、お前を応援しないとあとで何をされるか分からない、だからお前を応援すると面と向かって言われたり。俺はお前が赤ん坊の頃から知っている。おまえみたいな甘ちゃんに、どんな考えがあるのか、えらそうなことを言っても、どうせ、たいしたことないだろう。くだらない理屈をあれこれ言わずに、市長になりたいのなら俺の言うとおりにしろ・・って言われたり。四十になった一人の男として扱われたことがないんです。ひよっこひよっこって、二の口つけばそれが出てくる。それでも、僕を信じてくれる同級生の仲間を頼りに、がんばろうと思うんですが・・」

「茶化すわけではないのですが、まずは出馬。その後は当選、その後三期で市政を改革する、という意気込みは、どこかに飛んで行っちゃいそうですね。まずは、出馬。そのために、今活動している中で、一番、あなたが気に入らずにいやいややっていることは何ですか?」

この質問から、ようやくコーチングらしいセッションを開始しました。

志を高く持ち、自分の価値観を犠牲にしてまで、この活動に身を投じようとした二宮さん。でも、やはり、自分のポリシーや価値観を捨てられるかどうか、その後のセッションはこれを中心に進めました。

「市長になるために、自分の考えをいったんふせるころが出来ますか」
「あなたは、何のために市長になりたいんですか」

「あなたにとって支援者ってどういう存在ですか」
「市長になって具体的に何をしていくつもりですか」

「それをするとどうなりますか」
私の質問に、ときには深く考えながら、ときにはため息をつきながら、決して投げ出さずに自分で考えて答えを出していただきました。

「コーチ、私の中に答えがある というのはこういうことだったんですね。最初は、相談にのってくれずこっちにボールを投げてきて、頼りない人だと感じましたが、そうではないんですね。コーチングってすごいですね。これからもよろしくお願いします」

手段として、まず、出馬し、目標達成のために当選を目指す活動を受け入れる。
選挙までの時間は、八ヶ月しかありませんでした。選挙活動と平行して、コーチングも行った結果、現在、自分のポリシーや価値観を捨てずにみんなの理解を得て、新しいふるさとづくりのために、忙しく身を動かしています。
一念岩をも通す。支援するコーチも、時に心配なる位の芯の強さを失うことなく、コーチングを活かして、見事市長に当選。現在、新たな目標達成に向け、東奔西走しています。

専業主婦の悩み~社会復帰を目指すも心揺れる女性のキャリア・ビジョンの支援~

デザイン会社の社員として、男性と肩を並べてバリバリ仕事をこなしていた北村さん。
入社七年目、二十九歳のとき、自分の人生このまま仕事一筋でいいものかと迷っていたとき、会社から、女性なんだし、そろそろ結婚しないと子供を産めなくなるぞと上司に言われました。今ならセクハラで訴えただろうと思いますが、当時はそれもそうだなと思ってその言葉をきっかけに、手当たり次第にお見合いをし、自分にはない考えかたを持っていた男性の言葉に惹かれ、出会いから六ヵ月後には結納、知り合ってからわずか十ヶ月足らずで結婚式を挙げるというスピーディーさで、人生をチェンジし専業主婦になりました。その後、三年して一人目の子供を授かり、更に三年後、二人目の子供を授かり、子育てに追われる毎日を、彼女なりに一生懸命過ごしてきたということでした。

ところが、二人目の子供が幼稚園に通うようになってから、専業主婦の毎日に疑問を抱き始めました。どうも自分の人生が自分の描いていたとおりになっていない、思っていたのとは違うとイライラするようになり、自分の悩みを理解してくれず家事を任せっぱなしの夫や子供に当り散らすようになってきたとのこと。あれだけ好きだった家事も最近ではおざなりになってしまい、このままでは、子供にも、夫にも愛想をつかされるのではないかという恐れを感じながらも、自分の思い通りにならないことが起こるたびに、私の人生を変えた上司の言葉や、結婚して生活を一緒にするようになったら、何のことはない、自分のことも自分で出来ない子供のような夫に不満が募るばかりだということです。

幼稚園や小学校のPTAで知り合ったお母さんたちとは世間話しはするけど、悩んでいる話をするわけにはいかず、自分の親に話しても、「ちょっと疲れているだけでしょ?」とか、「あなたがしっかりしないで子供たちはどうなるの?」「欲張りすぎないで、専業主婦でいいじゃない?」とたしなめられてしまい、話さなきゃよかったと後悔するばかり。一向に気持ちが前向きにならず、自分自身にも嫌いになる一方になっていたということです。

ある日、PTAの母親教室で、「コーチングというコミュニケーションスキルを身につけて、子供のやる気を引き出せるお母さんになりましょう」という講座のパンフレットを見て、私のところに訪ねてくれました。

「母親教室をお受けくださったそうですね。ありがとうございます。いかがでしたか?北村さんが実践出来そうなヒントはありましたか?」

私の質問に、北村さんは誠実に、「はい、とても参考になりました。私は、何事もきちんとしていないと気がすまないので、ついつい、『ああしなさい』、『こうしなさい』と子供たちに命令してばかりだったことに気付きました。だから、あれ以来、『ああしてほしいけどどうしたら出来る?』と、質問するようになりました。でも、自分がイライラしているときはどうしても・・・」

「今までどおりのかかわり方になってしまっている?」
「はい、いけないと思うのですが・・」

「ご自分を責めてしまうことはありませんよ。誰だって、今までのやり方になれているので、学んですぐ、新たな行動習慣で動けるわけではありません」
「そうですね。わかっているつもりなんですが、自分が思うとおりに自分もコントロール出来ないなんて、情けないですよねぇ」

「情けないとお考えなんですね」
「はい。なんだかわからないんですが、とにかくイライラして。自分の人生は自分で決めてきたつもりです。でも、こんなはずじゃない、もっと私は生き生きと生きているはずだったのにと、後悔ばかりの毎日です。男性社員と同じように昇級して、バリバリ仕事していたときのことを考えると、自分だけ、みんなに置いてきぼりにされているような気がして、うちにいても怖いんです。このまま、子育てだけに専念して、終わったと思ったら、その次は親の介護かもしれない。夫も私も歳をとってから結婚をしたものですから、両親はともに高齢で。なんだか、人の面倒見るためだけに生きているように思えて・・・」

「そうですね。女性にとって子育てと介護の問題は一大事業ですよね。どうしても子育てと、介護の問題は、女性が中心にならなくてはならないという風潮もありますよね。ところで、北村さんはもう一度、バリバリ仕事をしたいのですか?」
「ええ、そう思うんですが、過去にやっていたイメージやデザインの世界は、変化が激しいし、子育てに専念して、読む雑誌も子育てに関するものが中心なんていう生活では、もう、イメージの世界には戻れないような気がして。でも、私はそれ以外の仕事をしたことがないから、仕事を始めようと思っても、他のことは出来そうにないんです」

「今、いちばん関心が高いことは何ですか?」
「仕事をすることですかねぇ・・」

「どんな仕事?」
「それがわからないんです・・」

「仕事がしたい。子育てや家庭の仕事は、仕事としてとらえられませんか?」
「家庭の仕事を仕事としてとらえる?主婦の仕事なんて、たかが知れているじゃありません?掃除、洗濯、食事作り、子供の世話に夫の世話。舅や姑が訪ねてくれば愛想よくもてなさなくちゃならず、一生懸命やっても、だれもありがとうといってくれないんですよ」

「ありがとうという言葉が誰からもかからないのは、残念ですねぇ。北村さんは『ありがとう』の言葉が聞きたくて、一生懸命にやっているんですか」
「そんな。私は、『ありがとう』って言ってもらいたいからやっているわけではありません。でも・・・少しは、そんな気持ちを表してくれてもいいんじゃないかとも思います」

北村さんは、急に涙ぐみ、「あ~あ、どうして結婚なんてしちゃったんだろうなぁ・・。魔が差したとしか思えない」
というと、少しの間涙が止まらず、セッションを中断しました。

「友達でもない人に、泣き顔を見せたの、初めてかもしれない。恥ずかしいね!」と、彼女が明るく振舞うようになったとき、今後、コーチングを継続するかを確認しました。
「北村さん、私はこれからも支援を続けたいと思いますが、あなたにコーチは必要ですか?」

私のストレートな質問に、北村さんはすっきり笑顔で「初対面の人なのに、一〇年来の友達に相談に乗ってもらったみたい。すっごく深いところまで話を聞いてもらったって感じかな? どうしてコーチに話すとすっきるするのかそれだけでも知りたいので、とりあえず三ヶ月、お世話になります」とのことでした。

コーチは、コミュニケーションのスキルを高める訓練をすることによって、だれでもなれると思います。しかし、スキルだけ高まればよいのかというと、実はそうではありません。職業としてコーチングをするものの、自分とクライアントとの関係をどうしたいのか、しっかりした考えがあること。信頼関係が早く確立出来ること。それも重要な要素であることを再確認したセッションでした。

中小企業へ転職、やる気を失っている管理職への電話コーチング~転職先でのキャリア・プランを考える~

転職をして七ヶ月目の佐藤さん。仕事を続けようかどうか迷っていると、無料コーチングに電話をかけるなり訴えます。「七ヶ月で新たに転職を考えているのですね?」私は湧き上がる疑問をぐっと抑えて、佐藤さんの話を伺いました。
「私が再就職をした会社は、オーナー会社で典型的なワンマン社長が仕事を一人で切り盛りしていて、一から十まで全て、それこそ鉛筆一本買うのまで逐一報告し指示を仰がなければなければならないんです。組織というものがまったくないんです。社員が頼りなく思えたのか娘婿を専務にして会社に入れたんですが、社長の娘が社員でもないのに毎日だんなさんである娘婿の専務と一緒に会社に出てきて、言いたい放題わがままし放題。この前なんか営業の車を自分の買い物に使ったりしているんですよ、営業マンの運転手付でね。
それでも何とか我慢をして、みんな社長の顔色を伺いながら、仕事はしているんです。

ところが、先日、私の提案した新人事制度導入に当たって社長と意見が合わず、激しく口論してしまったんです。娘婿や娘もいたんですが、父親をなだめるでもなく、ただ、おろおろして父親を見るばかりで、他の社員の手前、私も引っ込みがつかなくなって思いのたけをすべてぶちまけたんです。社長は横を向いてしまって、それ以来、社長との間が上手くいかなくなっているんです。どうしたものかと悩んでいます。でも、社員には部長として私が職務を全うしているところを見せるのも、教育だと思ったから頑張ったのだからあれでよかったと今でも思っています。しかし、相手は社長だし行き過ぎてはならないと思って、詫びも入れたんです。

しばらくして娘婿である専務に昼飯に付き合ってくれと言われ一緒に食事したところ、『佐藤さん、社長と仲良くやってくださいよ。僕、間に挟まるのは嫌ですからね・・』と言い出されて。いったいここはどんな会社なんだと思ったら、情けなくなって。社員たちは、毎日与えられたことしかせず、社長の好む報告はするけれども、機嫌が悪くなりそうな話はこっそり自分たちで処理している。過剰な残業をしても申告すると『能力がないからだ、遅くまでやればいいってものじゃないんだ、月給泥棒、電気代だってかかるんだぞ』と社長から怒られるから申告もしないし、社長のいうとおりにした仕事でクレームが出ると、社員は、黙って出張して改善に当たっている。業務命令でない出張先で事故にでも巻き込まれたらどうするのか。先行きがない会社に転職してしまったようで・・・」
佐藤さんは、ここまで一気に離すと、それっきり、黙り込んでしまいました。

「佐藤さん、佐藤さんが今一番解決したい問題は何ですか?」私は、ずばり、佐藤さんに伺いました。このまま、話を聴く時間を持つのも一つのセッションのあり方かもしれませんが、愚痴や不平、不満を聞くだけの時間に終わらせたくないと思い、セッションの方向を決めるために、質問をしてみました。本来なら、選択肢を上げ、どれかを選んでいただいたほうが良いのでしょうが、時間はまだ、たっぷり残っているので、あえて、自分の心とコンタクトをとってもらう質問をしたのです。
案の定、佐藤さんは、「一番解決したい問題ですか?・・・」と、聞き返すようにつぶやいて、また、しばらく沈黙されました。

私はコーチとしてコーチングをはじめたころは、クライアントの沈黙の時間が待ちきれず、再度質問を繰り返したり、違う質問をしてみたりと、クライアントを混乱させていたようですが、このごろは沈黙を恐れないようになったばかりか、沈黙の重要性を知ってからは、じっと待つことが出来るようになりました。
「ゆっくり考えていただいていいんですよ。待っています」と伝えることによって、更に自由に考える時間をたくさん持ってもらうよう、促します。

しばらくの沈黙の後、佐藤さんはやっと重い口を開かれました。「一番、解決したい問題は、会社との関係です。会社とのというのは変ですね。社長との関係です。零細企業は、社長イコール会社ですから、やはり社長との関係ですね」「なるほど社長さんとの関係ですね、それでは社長さんとどんな関係になりたいんですか?」

「私はある大手企業で生産工程管理部長として仕事をしていたんです。今の社長とは同じ業界で、業界の勉強会などで顔を合わせているうちに親しくなって、勉強会や懇親会以外でも、社長が出張されるたびに、食事をご一緒するようになっていたんです。私が五十二歳になって、関連会社に出向するかどうか、社内での立場をはっきりさせなければならなくなったとき、社長が、『うちに来て仕事をしてみないか?』と誘ってくださったんです。『君の工程管理業務に関する能力を買っている。会社を活性化するのにその能力を活かしてみないか』と、とても嬉しい言葉をかけていただいたんです。同じ仕事を続けられるのであれば、望まれたところで仕事をしたほうがいいと思って思い切って転職したんです。

ところが、会社に入ってみると、外で拝見する社長の顔と、社内での会社の顔がまったく違うということにまず驚かされて・・・。外面がいい人だったんだと理解してからは、社長に信頼を寄せることが出来なくなってしまった。社員は皆、社長のほうを見て仕事をしているわけですからね。これじゃ、強い組織を作ることは出来ない。強い組織が出来なければ会社の将来など期待出来ないんです」

きっぱりと言い切る佐藤さんに、私はひるまず質問を続けます。「将来に期待は出来ないけれども、社長との関係は修復したい。修復したら、佐藤さんはどうなるんですか?」
「私と会社、いや、社長との関係さえ修復出来れば、私のこれまでの腕をもう一度振るうことが出来ると思うんです。なんとしても、社員のあの『どうせ何やったって、社長のご機嫌一つなんだから、余分なことはやらない』という消極的な姿勢を変えたいんです」

「なるほど、社員の消極的な姿勢を変えたいんですね。それが、ご自身のこの会社での役割であると考えていらっしゃるわけですね。では、その役割を果たすために、何に気をつけて修復を図ればよいのでしょうか?」
「修復するのに気をつけることですか?どうして、そういう質問をされるんですか?何か、私に落ち度があったんでしょうか?」

「いいえ、何もありません。佐藤さん、あえて質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「かまいませんが、何か・・」

「佐藤さんは、この会社で社員の皆さんの消極的な姿勢を変えたいとおっしゃいましたが、それは何のためですか?」
「え?! それは・・・」

この日は無料体験コーチングで、時間が限られていたため、現状の確認が精一杯でしたが佐藤さんには、仕事をする目的、それを達成するとどうなるのかという目標の設計を考え、今後のキャリアプランを考えていただくよいきっかけになったことと思います。真剣に聴いてくれるプロを相手に、自分の立場を確認することは、ビジネスパーソンにとって大切なことであることを確信しました。

ダイエットする気はほんとうにあるの?~目標達成の意思を確認する~

このところ仕事が忙しく、移動はすべて自家用車にし、ドアtoドアで時間短縮するほどの仕事を引き受けているIC(独立業務請負人)の清水さん。
忙しい毎日を過ごす間には、ストレスもたまることが多いらしく、間食がすすみ、その結果半年で四キロも体重が増えてしまいました。このままでは健康を害してしまうが、食べることはやめられず、どうしたものかと悩んでいました。
このままではいけないと思って運動をすることにしました。カレンダーに、運動した日は○を、出来なかった日は×を記そうと決心し、初日は勢い込んで、ウォーキングをしたものの、始めて二週間で実行出来たのはわずか二日だけという、なんとも情けない結果となったカレンダーを見て、更に落ち込んでしまいました。
コーチとは、この三ヶ月は、自己啓発のための資格取得をテーマにコーチングをしていましたが、今夜は、テーマを変更して、「健康維持を目的としてウェイトコントロールのために運動する」というテーマにして話すことにしました。「高橋コーチ、お願いがあるんですがいいですか?」
「はい、清水さん、どんなことでしょうか?」

「ええ、今日のテーマを変更したいんですがいいですか?」
セッション開始直後、清水さんはコーチに訴えました。

「もちろん、私はかまいません。緊急に話したいことなんですね?」
毎回丁寧なセッションをしてくれる高橋コーチを、清水さんはとても信頼しています。

「はい、あの・・実は、この半年で四キロも体重が増えてしまったんですね。それで、このままではいけないと思って、運動をしようと思ったんです。でも、私はとても運動音痴で、ジムに行って、ベルトの上を歩く機械あるじゃないですか?あれで、酔っ払って気分が悪くなったり、スピードについていけなくて、落ちそうになったことがあるんです。どうにもこうにもならないんですね。水泳は、得意なんですが、ジムが開いてる時間には、仕事を終えられる日ばかりじゃないので、継続が出来そうにないし・・・。それで、ウォーキングをしようと思って、まず、ウォーキングシューズは買ったんです」

「なるほど、ジムでの運動は得意じゃないけど、水泳は得意。でも、時間が合わないので、ウォーキングをしようと思ったわけですね、すでにウォーキングシューズは買ったのね?やる気の表れですね」
「はい、それで、歩く予定も手帳の中に書き入れてはあるんですが、なかなか予定どおりにはいかないんです。例えば、書類の作成をしている途中で、お客様からの電話が入って、時間が押してくると、まぁいいか、ウォーキングは後にしようと思って、歩くという予定を後回しにしちゃうんですね。それで、結果、半月の中で歩けたのは二日間だけという悲惨な状態になってるんです」

清水さんの声がいつになく元気がなさそうだったことを受け、高橋コーチは、丁寧に質問を始めました。

「清水さん、今、とてもがっかりしているように感じるんだけど、やろうと決めたときの気持ちと出来なかったという現実の気持ちを点数でそれぞれ表してもらってもいいですか?」
「はい。やろうと決めたときはもちろん百点。今は、二十点かなぁ・・」

「なるほど、今は二十点なのね。百点になると、体重は減るの?それとも、百点になると、歩く習慣がつくの?」
「百点になったら?・・・う・・ん・・百点になったら歩く習慣がつくと思います」

「なるほどね、百点で習慣がつく。歩く目的はダイエット?それとも健康維持を目的としたウェイトコントロール?」
「健康維持を目的としたウェイトコントロールかなぁ・・」

「ダイエットじゃないのね?」
「結果としては、体重が減ると思うけど・・。目的は、健康維持を目的としたウェイトコントロールかなぁ・・どっちだろう?」

「どっちかにしなくちゃいけないんだろうか?」
「ああ、そうですね。どっちかじゃなくてもいいですね。それぞれお互いがお互いの結果であると思います」

「ダイエットと健康維持を目的としたウェイトコントロール、お互いがお互いの結果であるわけですね」
「そうです。単なるダイエットだけだったら、食べる量を少なくすればいいことです。ウォーキングしてみようと思ったのは、単なるダイエットではなくて健康維持を目的としたウェイトコントロールを意識しているからです」

「ところで、ウェイトコントロールを意識してウォーキングをそてみようと思ってシューズまで買ったのに、現状で歩く時間の障害となっているのは、仕事の量が多いことなのかしら?」
「うん、それが一番の理由だと思います。だけどそれだけではない、運動不足だから歩くのが嫌になる。だから、郵便ポストまで歩いていって郵便物を出すとか、別の用事をあわせてしようと思うんですが、買い物なんかのときは、帰りの荷物が重いとか、なんだか、自分でいつも工夫しているのは、ウォーキングをしないための理由探しみたいなんですね」

「なるほどね。しないための理由を探しては止めてるんだ・・」
「そうですね。だから、すぐに中止に出来るんです」

「どうして中止してしまうんだろう?」
「結局は面倒くさがりなのかもしれません。それと心のどこかにウォーキングをしても、体重が落ちないとき、もっと過酷なことをしなければいけないので、ウォーキングを中止にすることで、体重が落ちない理由作りにしているのかもしれません」

「そうかぁ、じゃあね聴いてもいいかな? ウェイトコントロールのためのウォーキング、清水さんは、本当にしたいと思っているの?」
「・・・・」

高橋コーチが最後にした質問は、意志の確認です。
清水さんは、この質問にじっくり考えた後、高橋コーチと歩いた日は、写メールを送るという約束をし、現在、ほぼ毎日歩けるようになったとのことです。
仕事の合間や、移動のとき、ドアのまん前までは車で乗りつけず、公共の駐車場などを利用し、二十分は歩くという目標達成を目指し、カレンダーの丸印を増やしているそうです。

受験プレッシャーに悩む浪人生~セッションを通して考え直す受験の目的~

大学受験を控えている浪人生の兼子君。
今年こそは、国立大学の受験を失敗してはならないと考えています。
そのプレッシャーからか日一日と受験日が近づくにしたがって、気持ちがふさがっていくのを感じていました。
高校の卒業生で社会人となってコーチをしている人がいると聞いて、今の状況を何とかしたくて、わらをもすがる思いでコーチの元を訪れました。「はじめまして、兼子さん。よろしくお願いします」
と、コーチは、とても優しい笑顔で迎えてくれました。

「早速ですが、大学受験を控え、こんなことをしてる場合じゃないというのに、自分でも分かっているのですがなぜかしら勉強に集中出来ていないんです。どうしたらよいのでしょうか?」と挨拶もそこそこにどんどん喋り始めた兼子さん。

何事もこんな態度で先へ先へと急ぐので予備校の先生からは、
「そういう落ち着きのなさが、今のあなたの成績に反映されちゃうんですよ。もっと、ゆっくり鷹揚に構えないと、いい結果はでませんよ」と、このところずっと注意を受けていたのですが、とにもかくにも、早くこの悩みから開放されたいと思う気持ちが、兼子さんの姿勢に感じられました。

「なるほど。ご事情はよく分かりました。コーチの私の整理のためにも、少し、ゆっくり話を伺いたいのですが、コーチングのために少し時間を使わせてもらってもいいですか?」
と、コーチは落ち着いた口調で話し始めました。
これは、予備校の先生とはずいぶん違うと、兼子さんには、コーチを観察するゆとりが出てきました。
兼子さんには理由が分からないのですが、コーチのオフィスを訪ねてからどんどん、気持ちにゆとりを感じていったようです。
コーチは、兼子さんのゆったり穏やかになった表情を見て、質問を開始しました。

「兼子さん、国立大学を目指す理由をお差し支えなければ伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「家もそんなに裕福でもないんで、国立大学を目指しているんです」

「そうですか。万一この受験に失敗したら、兼子さんにはどんな不都合が起きますか?」
「去年、受験して失敗してますので、今年はどうしても合格したいんです。両親も期待していますので・・・」

「なるほど。ご両親も期待されているわけですね。それでは、兼子さんはこの受験に合格すると、どんなことが学習出来るのですか?」
「農学部に入って、農業問題を研究したいんです」

「農業問題ですか。大事なことですね。それは、今目指している国立大学でないと勉強出来ないことですか?」
「そんなことはないんです。私の勉強したいことは、多くの大学で学べることです」
「いろいろな大学で学べるものなのですね。そのなかで今の志望校を選んだのは、どういう理由からですか」

「国立大学だと私立に比べて学費も安いし、地元の県庁に就職するにもそのほうが有利じゃないかと思うんですよ」
「すごいですね。将来のキャリアについての検討もされているわけですね」

「率直に伺いますが、兼子さんは、この大学に合格したいのですか?それとも、大学で研究をしたいのですか?」
「え?それは両方ですよ」

「そうですか。それでは、この大学の農学部を受けようと思ったのは、どんなところからですか?」
「予備校の模試で、自分の希望する大学の入学可能学部が農学部であったこと、それから、農学部について自分なりに、調べて、これからの日本には農業問題が大事になりそうなので、それを選んでみることにしました」

「それは誰かに相談しました?」
「はい、自分なりに調べて方向性を決めてから、予備校の先生に相談したところ、兼子さんの偏差値で十分合格圏内に入っているので、そこを目指すようにと言われました。また、両親に相談しても、国立大学に入って、あなたのやりたい研究をどんどんやってくれれば、それでいいということで、予備校の先生も両親も賛成してくれたし、自分もそれがいいんじゃないかなあって思うんです・・・・」

次々に、兼子さんに考えさせるような質問が続きました。

(「自分は何のために大学にいこうとしているんだろう」)
(「自分は大学に行って何をしたいのだろう」)
(「大学に行きたいのか、大学に行って勉強したいのか どっちなんだろう」)

「最後に伺いますが、兼子さん、ほんとうにそれ(大学での研究)は兼子さんがやりたいことなのですか?」
最後の質問を受けた兼子さんは、思わず、「う~ん・・・」とうなったまま、黙り込んでしまったそうです。

(「ほんとうに自分のしたいことは何なんだろう?」)
しばらくして、兼子さんは「コーチもやもやは、まだはれてはいませんが、自分が考えなければいけないことは、分かったような気がします。急がば回れで少し考えてみることにします」ときっぱりと言いました。

「そうだね。大学にいって勉強するのは、兼子さん本人なんだから、自分の気持ちをきちんと整理してみることは重要だと思うよ。そこを確認したうえで、自分でやってみようと思って、受験勉強をしていけば、結果は自ずとついてくるもんだよ」
受験勉強は、自分との戦いであるばかりでなく、家族や、学校の先生、予備校の講師など、かかわる人の数だけ悩みが出来るものであるといわれます。それは、ともすると自分だけの受験ではなく、家族のためや学校のためなど、他者の希望を背負ってしまうことから言われることだと思います。

兼子さんは、1年の浪人期間中に、すっかり周りからの期待を背負ってしまい、自分を見失ってしまっていたのです。
それを、コーチは、兼子さんの話すスピードや表情、しぐさなどを合わせることによって、
しっかり聴いてくれることを感じさせながら、心の芯にある兼子さんの自分自身の気持ちと向き合わせてくれたのです。
兼子さんは、この1回のコーチングですっかり自分を取り戻しましたが、自分の気持ちがぶれないように、引き続きコーチングを受けながら受験勉強をしようと決心しました。

「彼の気持ちがわからない」との悩み~恋人への思いを整理し、相手の気持ちを知る~

結婚を意識しながらなぜ、会話に熱中していないのか、漠然とした不安だったのですが、ようやく最近、彼のある「癖」で自分の感情が乱されているということに気がついたようです。
久代さんは、コーチとそのことをテーマに会話をしました。「彼といっしょに何かを待つ間、たとえば電車に乗る駅でとか、レストランで係りの人が注文に来るまでや食事が運ばれるまでの間など、彼の貧乏ゆすりがとても気になるんです。ただ、貧乏ゆすりをしているだけならいいのですが、そういう時は、必ず私の話に空返事をしたり、めんどくさそうに返事をするんです。私はそういう彼の返事を聞くたびに、とても不安になるんです」と話し始めた久代さんに、コーチは「ひとつ伺ってもいいですか?」と前置きしながら質問をしました。

「久代さん、あなたの不安は、ズバリ!どんなことに対するものなのでしょうか?」コーチは、ナーバスなテーマであるがゆえに、久代さんに十分な配慮をしてから質問を投げかけたそうです。久代さんにとっては、まさに自分の心の核心を突かれた質問なだけに、答えることを躊躇しました。

「ゆっくり、自分の心と会話していいんですよ。どんな答えでもいいので怖がらないで考えてくださいね」と、満面の笑顔で考える時間を下さるコーチに感謝し、決心して答えたそうです。

「彼は、私に飽きちゃったんじゃないでしょうか? それが怖くて何も聴けないんです」
その後、コーチは、久代さんの気持ちを整理するために、いくつかの質問をしてくださったそうです。

「貧乏ゆすりは、彼の癖なの?」
「久代さんはいつごろから彼の癖が気になりだしたの?」

「つまらなさそうにしているとき、彼は何か別のことを考えたり、悩んでいたりするのではないの?」
「彼の心の中をのぞかせてもらうための質問で、彼がぜったいに嫌うタイプはどんな質問?」

などコーチの質問を受け、久代さん自身の気持ちの整理を行ったそうです。
そして久代さんは、次のデートで思い切って彼に尋ねてみたそうです。

「ねね、聴いてもいい? このごろ、貧乏ゆすりしている自分の癖に気づいてる?」
「空返事をするときって、何を別に考えているか、聞かせてもらえることなら聞かせてほしいけどいい?」と。

現在彼は「大きなPJを抱えており、初めてリーダーに抜擢されたのだが、会議に遅刻してくるメンバーや、書類の締め切り期限になっても仕事を終えられない後輩を抱え、時間に対する感覚が、これまでとはまったく比べものならないくらい研ぎ澄まされている。また、そんなふうに、時間時間とみんなを縛っているような気がして、どうも嫌なんだ」ということを聞かせてもらえたそうです。

現状を確認することの大切さを、久代さんは改めて感じ、勇気を出してコーチの質問に答えた自分へのご褒美は、彼の悩みを打ち明けてもら
えたということであったと、コーチに報告しました。久代さんは恋愛にもコーチングは必要で、機能することを感じたようでした。

喫茶店を開店したい専業主婦の悩み~専業主婦の夢を実現する嫁と姑のコミュニケーション~

「大学を出て、すぐに主人と結婚して子供を設け、夫のため、子供のためにとずっと専業主婦と専業母に徹してきた」という林田さんが、はじめて自分の力だけで西洋人形を展示した喫茶店を開くという目標を立てました。「西洋人形を展示した喫茶店を開くというのは、若いころからの夢だったの。でもずーと専業主婦と専業母だったでしょ。そんな私に出来るかしら?」と、子供たちのお嫁さんにプランを打ち明けたところ、お二人のお嫁さんたちは、すぐさま「応援します!」「お手伝いします!」と、乗ってきてくれたと嬉しそうでした。
ところが、順調そうに見えていた準備が、なぜかなかなか進まなくなっています。
お話を伺うと、メニューにゼリーをどうしても入れたいのだけれども、それはおかしいだろうか?
コーヒーをお出しするのはお嫁さんが得意だけど、ゼリーを召し上がっている隣の席でコーヒーの香りがするのはどうかしら?
など、たいへんな迷いようです。
目標である喫茶店を開くという期日は、来年の十月と決めてあります。
当初障害になるであろうと思っていた改装資金は、貯蓄を取り崩すことでクリアした矢先のこと。やはり、専業主婦にはムリなのかしらと、ずっと悩んでしまったままでした。
あんなに楽しかったのに、今ではそう思っただけで満足してやっぱり専業主婦でいこうかしらと後戻りしようかと思い始めています。

そんな時、お嫁さんの一人が姑である林田さんに話しかけました。
「お母さんは、このごろ何を迷っていらっしゃるんですか?
頂上(開店)まではまだまだ遠いけれども、確実に前に進んでいますよね?」
「私たちに今、出来ることは何かないですか? お母さん一人で考えないで、私も今すぐお手伝い出来ることを言っていただけると嬉しい」と、手伝いを申し出てくれたのでした。

「実はメニューにゼリーを入れたいんだけど、どうだろうかと、あれこれ考えているうちに混乱してしまって何がなんだか分からなくなってしまったの」
「お母様の夢は喫茶店を開くということでしょ。それなら、ゼリーとコーヒーの両立したお店というのは、どういう形になるのか考えて見ましょうよ」

「そして、その場合、どうしたら問題が解決するのかを考えればいいんじゃないですか」
目標を達成するために、障害になる問題は何か?解決するために使える資源は何かを考えるきっかけをつくってくれたのです。

実は、林田さんは、コーチングを学習してあしかけ二年のベテランだったのです。
うっかり、自分のことになると、コーチングを機能させることを忘れて突っ走っていたのですが、改めてコーチングを身近に感じ、セルフコーチングしながら、来年の開店目指し、準備を快調に進めています。
「専業主婦・専業母だってやれば出来る!」と喫茶店のカウンターに立って胸を張っている自分の姿を夢見ながらゴールに向かっています。

夜の通勤電車内でのコーチング~車内での会話の紹介~

「だぁめだよ、あの人。あの人は、何でも自分の思い通りにしないと気がすまないからさぁ・・
あの会議、何だった?最初から結論ありきでさ、結局、皆が合意させられただけでしょ?
あの人は、結局、部下を潰すタイプだよなぁ・・・」
そんなに遅い時間ではない電車の中で、よほど腹に据えかねたのでしょう。さほど、悪酔いしているふうでもないビジネスパーソンは、一気に心の中を吐き出すようにしゃべり続けました。
一緒に電車に乗っていた同僚と思しき社員との会話を紹介しましょう。
この同僚と思しき相方が、コーチングを勉強していたかどうかは不明です。もし、学習していらっしゃらないとしたら、根っからコーチングの素養を見に備えているネイティブコーチャーなのでしょう。
でも、このやり取りは、まさに、コーチングを学んだ方だと思いました。皆さんなら、どんなコーチングを組み立てますか?「そうだよね。あの部長は君の言うとおり、まさしく部下を潰すタイプだよ」
「そうだろ?そう思うだろ?ほんと、やってらんねんよなぁ・・俺たちがこれまでどんなに根回しして、みんなの同意を取り付けていたと思う?」

「そうだね、確かにね。同意を得るために、君はとても頑張ったよね。通常業務以外にもよく頑張ったね。それを認めてもらえないのはきついよなぁ」
「だろ?俺、あの人の下にいる限り、もう出世出来ないと思う。だって、顔に出ちゃうもんなぁ・・あの人のやり方についていけません!って態度にも出ちゃう」

「そうかぁ・・つらいなぁ・・。ところでさ、それなら、転属願い出してみたらどうかな?」
「え?転属願い?」

「知っているだろう?うちの会社、このごろ、自分で勤務先や仕事を選べる制度が出来たっての」
「ああ、知っているけど・・・なんで自分が動かなきゃなんないんだ?」

「あの人が、出て行けばいいんじゃねえの?」
「だけど、あの制度は、人を動かしてもいいという制度じゃないでしょ?」

「そりゃぁ、そうだけど・・」
「君のためにならないなら、この支店にずっといなきゃいけないことはないよ?人との問題は、相性もあるからね。君は、あの部長と一緒になって、初めて挫折感を味わったから、今まであったどんなことよりも、今、我慢出来なくなっているだけじゃねぇの?」

「そうかなぁ・・でも、お前だってさっき言っただろ?部下を潰すタイプだって」
「たしかに、あの件では、結論ありきの会議になったし、根回ししていたお前のことだって、慰労してないからな。そういう意味では、部下を潰すさ。だけど、じゃぁ、部長はすべてにおいて部下のためにならないことばっかりしてるかな?」

「・・・・」
「お前はお前のやり方を変えようとしてなくて、真っ向勝負って感じでぶつかっているだろ?部長からみたら、どう思うかな?」

「部長から見たら、面白くないだろうな?でも、このあたりは、何でも先に根回ししておく必要があるし・・。そんなことも知らないで荒らされて、部長はちょっとしたらまた転勤だろ?残された俺たちはどうしたらいいんだ?」
「部長の言うとおりにしていたら、取引に影響するかもしれない。だけど、俺たちは、転属を希望しなければここにずっといられるさ。ということは、日々の付き合いは、俺たちがずっと築き上げてきた人とのつながりがある。ちょっとやそっとで関係が崩れるような付き合いにならないようにしたらいい。それより、部長と事前の打合せはやったのか?」

「いや・・俺、あの部長苦手だからさぁ、なるべく話したくないからさ、朝礼終わるとすぐに客先周りに出て、夜もゆっくり帰ってくるようにしているんだ。大事なことは、メールで話しているから問題はないさ」
「そうだな。メールは情報の共有は出来る。でも、それだけでいいかな?」

「それだけって?」
「つまり、今回、もっと早く部長と話したら、結論がずれていることに気づいたんじゃねえの?」

「確かにな。そうだな・・・部長がああいう結論だとは思わなかったしな」
「部長は、確かに自分の出した結論を押し通そうとした。それは誰が見てもそう感じるだろうさ。だけど、それを確認しないで根回しをしていた君にも、問題があるんじゃないかな?一度、部長と話してみたらどうかな?」

「でもなぁ・・・。俺、この間の会議で、噛み付いちゃっただろ?いいかなぁ」
「一人で話しづらきゃ付き合うよ。どうする?」

「そうだなぁ・・・そうしてもらおうかな?」
「イツがいい?」

「早いほうがいいかな?俺、嫌われてたらいやだし・・」
「まぁ、相手の気持ちが分からないのに心配してもしょうがないさ。あたって砕けないようにしようや」

「そうだな。なんだか、気持ちが楽になったよ。一度、この間のこと、誰かと話したかったと思ってたし。でも、誰に話していいかわからなかったし。忙しそうだったし」
「あんまり気を使うなよ。話したいときは、そう言ってくれればいい」

「すまんな・・・じゃ、俺ここで降りるわ。かみさんが迎えに来てるから」
「おやすみ」
「おやすみ」

この間、二十五分くらいだったでしょうか?
最初は愚痴を我慢しきれず、大声で吐き出していた男性Aさん。電車は大勢の人が利用する公共の場所であることもわきまえず、言いたい放題。これ以上続いたら、おせっかいでも声をかけてしまおうかと思ったくらいでしたが、同僚の方が控えめながら、冷静に話をリードしてくださったお陰で、電車内の空気がほっと緩んでいきました。
今年もまもなく新社会人の入社式。
どうぞ、新社会人が未来に夢を描き続けること
が出来ますよう、今、すでに企業を支えるビジネスパーソンの皆さんの、いきいきした顔を見せてあげてください。
働くことは辛いことですが、苦労をするから人は成長するのですから。仕事を通して自己成長、感じてみてください。

板前修業に入って三年目。~他者の感情を理解する~

日本料理が大好きで、いつかは自分の店を構えたいと思っている神山君。
高校卒業と同時に、料理の世界に足を踏み入れた神山君ですが、このごろ元気がなく、コーチをされているお母さんに紹介されて、セッションすることになりました。「こんにちは。お休みをつぶしていただいて、恐縮です。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、急なお願いをしてすいませんでした」

「今日は、どんなことをテーマに話しましょうか?」
「はい、今後の進路のことをちょっと考えたいんですが、いいですか?」

「そんなに硬くならなくてもいいですよ。何か緊張でガチガチになっていますね。神山さんは、お仕事で緊張するのはどんなときですか」
「そうですね。板場の中でも、板場のものの食事『賄い』を作るときは緊張します。同じ道を志す下っ端が先輩のための食事を用意するわけですから。実力とアイデアを試されているようで、とても緊張するんです」

「そうでしょうねぇ・・。どんな『賄い』がお得意ですか?」
「得意なのは野菜たっぷりの雑炊です。魚のアラでだしをとり、野菜の切れ端を細かく切って、卵だけは料理長から分けてもらいますが、他は、すべてお客様にお出しした料理の材料の残りというか、切れ端でやれるようになりました」

「そうですか。素敵ですね・・見習わなくちゃと思います」
「それはいいんですが、このごろ料理長が僕に何も言わなくなったんです。僕より下の新人にはいろいろ言っているのに、僕は何をしていいのかわからず戸惑う毎日なんです、僕は、料理長の気持ちというか、阿吽の呼吸で動くことが出来なくて・・・板場にいるのが苦痛なんです」

「うん、辛いですねえ」
「・・・・」

「お料理の世界を志したのは、どんな自分を思い描いたからでしょう?」
「僕は、母一人子一人で。いつも母は夜遅く仕事から帰ってきて食事の支度をしてくれていたんです。だから、大きくなったら、いつか母に食事を作ってあげようと思って。それなら、いっそ料理人になって自分の店を持って、母においしいものを作ってあげたいと思ったんです」

「素敵な夢ですねえ。お母さんをうらやましく思います。神山君は優しいのねぇ」
「中学でまったく勉強しなかったし、家は経済的に難しいから高校へいけないと思っていた。でも、母は一生懸命に働いて、高校へはどうしても行けと応援してくれて。自分もバイトして頑張って卒業しました」

「そう、苦労したんだネェ」
「親父を恨みました。親父がしっかりして、離婚してなければって」

「そうですね。ご両親には何かの事情がおありだったわけでしょうからね」
「僕、親父がいないから、歳の大きい人との話をどうしたらいいかわからなくて・・」

「料理長とのこと?」
「はい、料理長もだけど、先輩とかも。怖いんです、話し方が。いつも怒られている様で」

「そうかぁ、それは困ったネェ。ほんとうに怒られてるの?」
「そういう時もあるし、そうじゃなくて、仕事の指示を出されてるだけのときもあります。僕がわからないんだと思うんです」

「今年入ってきた後輩はそれがちゃんと出来るってことですか?」
「はい、『べつに料理長は怒ってないんじゃないっすか?』ってこともなげに言うんだけれども、僕にはどうしてもそう思えない」

「そうかぁ、それは辛いね。一つ聞いてもいいかな?」
「はい」

「料理長の表情ってどんな感じか観察したことはある?」
「表情ですか?」

「いつも、まじめな顔をされています」
「そうですか、まじめな顔ですね?先輩方は?」

「先輩は、料理長と同じようにまじめな顔」
「なるほど。お母さんのというか、女性の表情と比べて、何が違うと思う?」

「女性の表情ですか?」
「そう、例えば女将さんとの違いは?」

「うん・・・難しいなあ・・・。女将さんは・・・」
「私が想像したことを話してもいい?」

「はい」
「女将さんは、いつも笑顔。おかあさんのイメージも笑顔。だから、何も抵抗を感じないけれども、男性は笑顔をほとんど見せず、まじめな顔をして、お仕事を黙々としていらっしゃるんじゃないかしら?」

「ああ、確かに・・・。先輩とは、まだ、手が空いたとき話をして笑う顔を見たことがあるけど、料理長とは、そんなふうに時間を過ごしたことはないですねぇ」
「そうだね。だから必要以上に緊張しちゃうんじゃないかな?」

「そうかもしれません。後輩は、それが出来ているような気がします」
「それが出来ているというのは?」

「僕も1年目は、料理長から直接、いろいろ教わったことがあるんです。包丁の入れ方とか、鍋の磨き具合をチェックしてもらったりとか。もちろん、そういうときは、厳しい顔しても当たり前だと思ってました」
「どうしてそういう時間が減ったのかな?」

「仕事場で、一応、自分で動けるようになったからだと思うんです」
「それは、成長したということだよね。誇りに思っていいじゃない?」

「そうかもしれない。でも、料理長と話せないで、阿吽の呼吸も持てないし。どうしたらいいんでしょうか?」
「厳しいことを言ってしまうけど、学校じゃないから、声かけてもらうまで待ってちゃだめなんじゃないかな?」

「自分から、話しかけて迷惑じゃないでしょうか。僕は、人から話しかけられるのが嫌いなんですが・・・」
「迷惑だなんて心配することはないと思うわ。料理長はあなたが成長しているから、手取り足取り、何から何まで指図されて動かさなようにと考えたんじゃないかしら?料理長は神山君に任せて話しがあれば聴こうと考えているんだと思うわ」

「自分から、どう話しかけたらいいんでしょうか?」
「神山君はどんなことを話したいの?」

「そうですね、いろいろ聞きたいけど、技術のことかな?まだまだ、覚えなきゃいけないこと、いっぱいあるし。あと、材料のこととかも」
「なるほどね、いろいろ教えていただきたいんですが?って、自分から声を掛けてみたら?」

「え?だって、料理長はお忙しい方だし・・」
「もちろん、調理している最中はだめだよね?だとしたら、いつならいいと思う?」

「ああ、そうですね。お昼休憩のときとか?仕事が終わって帰り道とか?」
「そうだね。声をかけてもいいときがいつなのか?1週間、観察してみようか?」

「そうですね。やってみます」

年齢の違う父親のような上司や先輩との付き合いにまごつかないようにするには、子育て中の父親はどう接していけばいいのか。
子育て過程の中でのお父さんの役割、改めて感じました。

社長時代とのギャップに悩むNPO法人の理事長さん~利益を上げる組織から、利益最優先でなくてもよい組織のリーダーの役割の変化を考える~

NPO法人を設立し、地域社会の子育て支援をしている理事長の堀口さんは、元は会社の社長さんでした。
会社は、息子に譲り、自分はこれまでの恩返しに、地域のお役に立ちたいという思いをもって、NPO設立に奔走したのです。
非営利を目的とした活動団体なので、事業から利益を出す必要はありませんが、メンバーのモチベーションを下げないようにするためには、ある程度、運営している皆さんに利益を出す工夫をさせ、自分たちの活動が価値あるものであることを感じてもらうことによって、参加意欲をますます高めようと思っていました。
子育て中のお母さんと子供のために、腹話術の人形劇や、絵本の読み聞かせなど、親子のふれあいを大切にした事業を中心に計画したのですが、参加費の徴収を巡って、他の会員を説得しようとするが意見が合わず、このごろ疲弊気味であるとのことでした。「堀口さん、相変わらず、皆さんの反応が鈍くてお苛立ちですか?」
「はいコーチ。相変わらずです。『ボランティア団体が利益を得るなんて、もっての他、理事長が以前に社長をされていた会社とは違うんです』とまるで相手にされません」

「残念ですね・・」
「残念と言うより、もう、かかわりたくないという感じですね」

「かかわりたくない?」
「はい、何を言っても分からないんですよ。主婦の感覚と言うか、所詮、閉鎖的な女性の考えで支配されている団体で、あきらめました。長期的なビジョンも描けないで『奉仕奉仕』と言いますが、彼女達は自己満足を感じることで精一杯だから・・・」

「うん・・・厳しい言葉がたくさん並びましたね」
「何年やっても変わらないんじゃ、何のためにやっているのか?自己成長がないんですよ」

「自己成長がないんですねぇ・・・。堀口さんは、自己成長を感じたくてこの活動を続けているんですか?自己成長って必要ですか?」
「コーチ、人間は、生涯成長したいという気持ちを持っているはずですよ。だから、人間なんでしょ?自己成長を続けるには、学習したり、目標を立てて行動して結果を残すしかないですよね?でも、それを放棄してしまう人たちもいるっていうことが理解出来ただけでもう十分です。今度の総会をもって理事長を退任させてもらおうと思っています」

「堀口さんの胸の内は、すでにお話したんですか?」
「いえ、別に言う必要もないでしょう。皆さん、同じ考えなので私がいないほうが、むしろ『和』が保てていいと思っていると思うんですよ」

「そうですか・・・残念ですね・・・」
「でも、仕方がありませんよ。寄り合い所帯じゃ、出来ることも限られていますからね。私は私にしか出来ないことがしたいので、また、別の角度で地域にお礼の出来る活動をしようと思います。まあ、私には、まだまだたくさんの時間があるので、何とかなると思います」

「皆さんと話し合う時間を、改めて持つことは出来ないのでしょうか?」
「持ったって無駄だから持とうと思わないだけです。感覚が違うんですね」

「この活動をしたいと思ったきっかけというか、意欲は、まだ小さくなっているわけではない。でも、周りの人の賛同を得られないのであきらめる・・というのは、少し淋しい気がしますね。今度は一人でやられるおつもりですか?」
「以前社長をしていた会社では、社員は、いつも私の戦略やビジネスモデルどおりに行動し、常に成果を挙げてきました。私は、今回の活動でも、だからあえて皆さんが嫌がるリーダーを引き受けたんです。皆さんもそれがいいと認めたからしたんです。それなのに、私が実際描いた事業を進めようとした途端、それは理想だとか、そんなことをしたら理解されないのではないかとか、ブレーキばっかり掛けられて。挙句、『堀口さんの常識はちょっとわれわれとは違う』と言われても・・・。むなしいですね」

「そうですか・・・以前社長をしていた会社の社員さんと今のNPO法人の会員さんとを比較して、そのように感じられるんですね。ところで、堀口さんの描くNPO法人の活動って、一般的にどう捉えられているんでしょうかねぇ?」
「一般的に見る?・・・必要があるんでしょうか?なんでもそうだけれど、それぞれであっていいんじゃないですか?
NPOは利益を出しちゃいけないわけじゃないないでしょう?利益を出してもそれを還元すればいい。大事なことは高い意欲を維持することじゃないですか?やりっぱなしになったり、途中で放り出さないようにすることが重要だと思うのです。
企業活動ではないだけに責任が分散しやすいから、より厳しいルールや規範にのっとって行動することが求められると考えていたのですが・・・」

「そういう、堀口さんの気持ちを皆さんに分かるように説明したことはありますか?」
「最初の頃はしていたと思います」

「その頃の堀口さんの気持ちと今の気持ち、何が違っているのですか?」
「会員のみんなが私の言うことについてきてくれないので、むなしさが益々大きくなっていると言うことでしょうか?」

「理解してもらえないから?」
「はい、理解する能力がないわけじゃなくて、理解しようとする心がないことを感じて更にむなしいかな?」

「以前、会社の社長をされていたときは、社員の方は、堀口さんの言うことを理解しようと努められていました?」
「それは、そうですよ。社長の私の言うことですよ。理解しようとつとめないで、どうするんですか。当たり前ですよ。それにひきかえ、NPOの連中は、理事長の私の意見を聞こうともしないんですよ」

「そうですか・・・残念ですね・・・」
「はい、でも、また新しいことを考えるチャンスを得られることになった。そう考えれば、気持ちは晴れますから大丈夫です」

残念ですが、堀口さんはこのNPO法人の理事長を退任し、今は新たな計画を立てることに専念しています。コーチングセッションのテーマも、どうしたら地域の人に貢献出来るか? どうしたら、皆のやる気を高めることが出来るのか? ということに終始しています。
元経営者としての堀口さんの意欲や能力の高さには敬服しつつも、上下関係や雇う人と雇われる人の関係ではない、横のつながりにおいてのコミュニケーション能力をあげることの重要性を感じていただけるよう、次回のセッションではテーマを絞ろうと心に誓うコーチでした。

脱サラマスターの苦悩~苦手意識をなくし、コミュニケーションを考える~

コーチングを受けて早二年が過ぎた錦織さんは、喫茶店のマスターです。
喫茶店激戦地域とも言われる地域での厳しい競争の中、マスターこだわりの店になっているせいか、常連のお客様が多く、皆様思い思いのコミュニケーションの場になっています。
このごろは、定年退職された男性のお客様がモーニングの時間に多く来られるようになり、急に自由になった時間を持て余しているのか時間つぶしに長く店にいらっしゃいます。店内はお昼までの待合室の様相を呈する時間もあり、これまでとは少し雰囲気が変わった気がすると、こぼしていました。
ところで、最近の午前中の、このなんとも重苦しい雰囲気は、自分の意図している喫茶店の雰囲気とは全くことなるもので、マスター自身も居心地が悪いと、セッションのテーマに選ばれました。「このごろは喫茶店の経営そのものに関するテーマが少なくなっていましたが、今日は珍しいですね」
「ええ、今日だけで解決するような問題ではないように思います。とにかく、この朝の重苦し
い雰囲気を変えたいんですが、さりとて、男性のお客様入店お断りというわけにはいかないですからネェ・・」

「どんな点が一番気になるんですか?」
「覇気がないというか、活気がないというか、とにかく雑誌や新聞をたくさん席に持ち込んで、コーヒーを飲み終わると、水だけで場所を占領する。まぁ、朝早い時間は、お客様が多いわけじゃないし、ビジネスマンが利用する時間帯よりは少し遅れて入ってくるので、むしろ、売り上げは増えているんです。ただ、とにかく空気が重くなるんですよ・・・」

「空気が重くなる。それが一番気になる点ですか?」
「ええ、元気がないし、会話がない。オーダーを受ける際、『モーニング』といったまま、後はお水のお変わりを注ごうが、カップをさげにいこうが、とにかく黙ったまま。たまに話しかけてくるお客さんがいるかと思うと、景気はどうか?とか、新聞が汚れているとか、雑誌の次の発売日はいつかとか。あるいは、政治の話で、こちらは客商売なんだから、お客様と議論するわけにはいかないんだから、『そうですね』、『いいですね』と相づちを打つだけにしていると『あんた、何にも考えてないのか?』なんて意見されてしまう。この間なんか『マスターはなんにも考えないでコーヒーを出していればいいんだから、いいよな』『我々が苦労して働いてきた上前をはねているんだから・・・』『定年後の我々にいままでありがとうの気持ちはないのかね。もっと、まじめに受け答えしろよ』って怒られてしまったんですよ。午後の食事過ぎにいらっしゃる主婦のお客様のご近所ネタも困るけれども、こちらのほうが、まだ、雰囲気が華やかなだけに、居心地はいいんです」

「なるほど、主婦の客層と、男性の客層ではあきらかな違いがあるんですね」
「そうなんです。どっちがいいとか悪いとかじゃないけれども、好きなのは、午後の主婦のお客様のほうですね。答えるのに困るような質問はめったになく、どちらかというと、私を相手に、愚痴をこぼすような感じでいらっしゃって、『話すだけ話したらすっきりしたわ・・ありがとうね、マスター』といって明るい顔で帰ってくれるんです」

「男性のお客様は、そういうわけにはいかないんですね?」
「ええ、ぜんぜんダメですね・・・」

「単刀直入に伺いますが錦織さんはどうしたいんですか?」
「うん・・・売り上げは減らせないから、来るなとはいえない。これははっきりしています。でも、それ以外は、どうしたらいいか・・・まったく分かりません」

「男性客の嫌な点は、雰囲気が暗いということでしたね?」
「はい、そうです」

「他には?」
「会話にならないことでしょうか?私も聴かれたことには答えるけど、それ以上にはならない。議論は振られても、議論してはならない」

「議論をしたことはあるんですか?」
「議論に巻き込まれそうになったことはあります」

「お客様は不愉快そうだった?」
「不愉快と言うか・・苦虫つぶしたような表情だったけど・・・」

「お客様から話しかけられるのは、議論が多いわけではないですよね?」
「ええ・・」

「でも、かわしてしまうのはどうしてなんでしょう?」
「苦手意識があるのかな?」

「どうしてそう思ったんですか?」
「うん・・なんとなく・・・」

「なんとなくそう感じたんですね」
「うん・・・昔、サラリーマンのおちこぼれって言われたことが尾を引いてるのかな?」

「脱サラしてコーヒーショップを開いたころの評価が思い出されるの?」
「そうですね。サラリーマンを全うした彼らに、負い目と言うか・・・」

「うん・・・・深い心の闇を見せていただいた気がしますねぇ・・。その勇気に感謝します」
「そんな、勇気だなんて・・・」

「マスターの人生って、今何合目なんでしょう」
「え?」

「ごめんなさい、唐突過ぎましたね。人生を山登りになぞらえて考えると、今、何合目でしょう?」
「ああ・・六合目かな?」

「六合目まで昇った満足感は?」
「満足感は八〇点。いろいろあったからネェ・・よく頑張ったって思うよ。こんなこと、あんまり考えてなかったけど・・」

「では、六合目まで昇った充実感は?」
「・・・」

まったく予期しない質問に、マスターは長く沈黙し、考え込んだ後小さな声で「やっぱり八〇点」と答えてくれました。
ビジネスパーソンとしての人生を含めて、マスターの六二年の人生は、満足感も充実感もあるそうです。しかし、段階の世代といわれる同世代の人たちが、会社人生を卒業してくるのを見たとたん、自分の人生の軸を「他人」においてしまったようです。自分の人生は自分のものだからこそ、「自分軸」で生きることが大切であることを、この後三回のセッションで取り戻したマスターは、今ではお客様と元気よく議論することがあると言います。組織人だったビジネスパーソンは、組織から開放されたとたん、誰とも真剣に話す機会がなく、淋しい思いをしていることを、お客様から教えられたマスターの新たな接客サービスの一つになったのです。
男性は、とかく自分の感情を表に出したがりません。ここにコミュニケーションが上手くいかない理由があるのです。
お客様との議論は、勝ち負けではなく、相手の言いたいことを汲み取り、自分の意見も主張する良い機会として、他のお客様を巻き込むこともあり、午前中も活気ある雰囲気が取り戻せたそうです。

年配の部下とのコミュニケーション~年配者への配慮を持ちながら、職場の管理者としての役割を果たす戦術を考える~

年配職人とのコミュニケーションに悩む三〇代半ばの管理者とのコーチングです。
中堅製造メーカーに勤務する川畑さん。年配職人社員とのコミュニケーションに悩み、コーチングを受けることになりました。「はじめまして。川畑さんの仕事は、管理部門で業務管理が主だということですが、どんなお仕事をされているんでしょうか?」
「はい、私は、製造工程表に基づいて、仕事の割り振りや資材の調達と管理を主にしています」

「幅広い業務ですね。やりがいを感じるところはありますか?」
「仕事は楽しいんですが、現場の職人さんは皆さん、親父みたいな年齢の人ばかりなので、なかなか・・・」

「何か、思い切って全力投球することが出来ていないように感じるんですが、何か川畑さんの気持ちを阻むものがありそうですね?」
「はい、職人さんは、コミュニケーションをとることもまっすぐ、実直にストレートに来るんで・・たとえば、急ぎの仕事を頼もうとしたりすると、『今出来んことぐらい見て判らんか!』とか、『そんなの自分でやれ!俺には関係ネェ』で片付けられてしまって。親父のような年代なんで、言われたらそれ以上は反論出来なくて・・自分も、管理者になる前は、製造の現場にいたんで、ちょっとはモノが造れる技術はあるんです。だから、どうしても急ぎだと、自分でやっちゃうしかないなぁと思って現場に入ると、課長からは『お前がそんなことするから、あそこで職人が2人も遊ぶじゃないか!管理者は管理が出来て初めて仕事が出来ると言うんだ。自分でやってどうする?』と、こっぴどく叱られる始末で、どうしていいやら分からないんです」

事情を説明している間に、すっかりしょげ返ってしまった川畑さん。気の毒ですが、本来の自分の役割を全うするための方法を探らなければ、解決しないことにまだ、気づく余裕が見られません。

「川畑さんはどうしたいの?」
「え?・・・」

「自分の業務を全うしたいんですか?」
「もちろんです!当たり前じゃないですか!そのために・・」

相談に来ているんだとばかりに、眼が殺気立ちます。

「コーチの私に出来ることが何かありますか?」
「いやぁ、初めて逢った人に職人さんたちを教育して欲しいといったって、彼らは心を拓きませんよ。プライドが高くて、閉鎖的なものの考え方をする人たちですから、あなたの言うことを素直に聞くとは思いません」

「そうですね。私がいくら、コミュニケーション能力を発揮して、川端さんとの関係を穏やかにして欲しいと申し入れたり、職人さんにコミュニケーションのあり方について教育しても、所詮、職人さんたちにはおせっかいとしか理解されません。ところで、職人さんたちを認めるべき点はどこですか?」
「職人さんの認められる部分は、やはり技術力の高さでしょう。人間的にも実直だしまじめだし・・」

「尊敬出来る?」
「職人としては尊敬出来ます。でも、人間的かというと・・・すぐ大声出すし、すぐ怒鳴るし」

「川畑さんにだけですか?」
「いや・・・どうかなぁ・・課長には怒鳴ってないから、自分たち、若い者だけにかもしれません」

「若いから馬鹿にしてるんだろうか?」
「馬鹿にすると言うか、頼りなく思ってるかもしれません。何せ、相手はこの道一筋四十年とか四十五年とかですから・・」

「子供と同じ世代の社員には、ついつい態度が横柄になるのかしら?」
「年齢と言うよりも、技術力が不足しているからじゃないかな?職人は、プライドが高いですからね」

「なるほど、プライドが高いのね。それは仕事に反映されているの?」
「はい、わずかな仕上がり具合が気に入らなくても、もう一回作るからと言って、勝手に納期を延長したりして、管理者としては、納品期日に間に合わないことのほうにやきもきさせられますよね」

「いつもいつも、納期を無視して仕事をしているんですか?」
「いや、もちろんいつもじゃありません。多くは守ってくれるんですが、どうしても見過ごせない傷が残ったとか、R(カーブ)の仕上がりが気になるとか、絶対譲れないポイントでは、納期度外視ですね」

「会社として困るんじゃないの?」
「もちろんです。後工程のセッティングに影響が出るわけですし、会社の信用にもかかわりますから、そういう意味では、全体への影響もあります」

「そんな時、川畑さんはどうかかわるの?」
「そんなこと、いちいち気にしてたら利益も減るし、信頼もなくす。検査は、品質管理が判断するから、手直ししなくていいから早く出して・・と・・」

「もし、川畑さんが職人の立場だったら、そういう管理者をどう評価する?」
「・・・・」

「職人としての仕事に敬意をもっていると思えるかしら?」
「・・・・」

「職人としてのプライドが傷つけられたとは思わないかしら?」
「・・・・」

「その程度の仕上がり具合でいいんだ。責任は管理者が取るんだから、多少手を抜いても簡単に作業をすればいいんだ。それだったら楽なもんだって手を抜くことを考えないかしら?」
「・・・・」

「相手の立場でモノを見ることは難しいね。ただ、今、このコミュニケーションの不成立は、職人さんにだけ原因があるとは思えないのね。川畑さんは、自分の業務を一生懸命全うしようと努力していることはとてもよく理解出来ます。ただ、仕事はすべての立場の人とのリレーションで出来るものですから、後工程の人への影響を考えることも大切ですが、職人さんとのコミュニケーションの工夫もしないと、それこそ後工程に多大な被害が出るんじゃないかしら?」
「そうですね・・話しているうちに、だんだん、自分のことしか考えていないことに気づきまして・・」

「反省も大切ですね。ただ、次にどうしたらいいかを考えましょうか?次回のコーチングも希望なさいますか?」
「はい、ぜひお願いします」

三〇分は短すぎる時間でした。
自分の業務を全うしようとする者同士、ガチンコで向き合うことが、かえって、コミュニケーションのゆとりを阻むことになった事例です。
お互いが相手を認め合うことが大切なことです。
政府の発表では、七五歳以上の高齢者が、総人口の一〇%を超えたとありました。
今後、地域においても、ますます高齢者とのコミュニケーションの難しさが、人間関係を悪化させるかもしれません。職場での経験は、一生を楽しく生きるためのトレーニングでもあります。
川畑さんの今後の人生に役立つコーチングを目指して、セッションは続いています。

年配者との交渉が上手くいかない~仕事がうまくいかないのは、コミュニケーションのとり方に原因があった~

インテリアデザイナー歴六年。これからますます仕事に、プライベートに人生を楽しみたいとおっしゃる、前向きな松永さん。住宅メーカーと組んで仕事をすることが多いため、内装の打ち合わせに同行することが多く、新しい家が完成するたびに、大きな喜びを感じるそうです。また、自分が手がけた家の写真撮影を許可していただける場合には、アルバムにして、次のお客様の参考にしようと、常に前向きに自分の仕事に工夫を凝らしながら楽しんでいました。
ところが、今年の初め、正月気分が抜けないくらい早々にいただいたお宅の打ち合わせ以後、すっかり気持ちがふさがり、このごろは、仕事も休みがちで今後どうしたらいいのかというテーマでのセッションでした。「おはようございます。とても疲れていらっしゃるようですが、お体の具合はいかがですか?」
「すみません。病気とかではないんですが、なんとなく全身に力が入らなくて・・」

「これまでも、そんなことがあったんですか?」
「いえ、病気一つしたことがなくて、おかげさまで医者に知り合いが出来ません。仕事でのクライアント以外は・・」

「なるほど、そのくらいお元気な方が、なんとなく全身に力が入らなくてとおっしゃる。何かお心当たりがあるようですね?」
「はい、今年の正月にいただいた仕事が、お医者さんのご自宅の新築だったんですね。若いご夫婦といっしょに暮らすから二世帯住宅をというお話でした」

「二世帯住宅。仕事も倍という感覚でお引き受けになるんですか?」
「そうですね。基本的には、親御さんの居住部分は、和のテイストでまとめることが多いですし、お若い方の住居部分は洋のテイストでまとめることが多いので二つの仕事を同時に進行させるという感覚で心構えをします」

「それは大変ですね。1度に二つの物件を扱うわけでしょう?松永さんお一人でされるんですか。それとも人は使ってらっしゃるんですか?」
「はい、スタッフは三名います。いずれも主婦の方で、パート契約をしています。仕事があるとき、時間があるだけ働いていただくというスタイルです」

「そのお歳で、年上の方を使われるのはしんどいでしょう?」
「そうですね。三十三歳にしてこの発展は、ほんとうに幸運だったと思います。ただ、この年齢が災いしたのかなぁ・・」

「どんな問題を抱えられたのでしょうか?」
「そのお宅のクライアントが、私の提案を、ことごとく否定するんですね。でも、同じことをスタッフが表現を少し変えてお客さんに打診させると、それはOK!って二つ返事で話が進むんです」

「具体的に伺ってもいいですか?」
「はい、たとえば、『親御さんのお宅の玄関の壁を利用して、お写真を飾ったらいかがでしょうか?』と提案させていただいたんですね。とてもお孫ちゃんたちと仲が良いお宅なので、やり取りを聞いていたら、ほのぼのとしていい雰囲気だったんです。そこで、お玄関横の壁をフォトギャラリーのようにして、写真を5・6点、飾ったらいかがでしょうか?という提案をしたんです。ところが、最初は、『医師仲間が尋ねてきたとき、落ち着きのない家だと思われるのはかなわん。そんなことは、若いもののやることだと』頑として受け付けなかったんです。
ところが、スタッフが『お孫さん思いのおじいちゃまのお気持ちを、写真を飾ることで表現させていただけると嬉しいですねぇ』・・と言ったとたん『それはいい!ぜひ、そうしてください。写真を選ばなくちゃいけないなぁ』と、がらりと変わって『すぐに写真と写真を飾る額を選んでください』と、発注がきたんです」

「結果はオーライですねぇ」
「もちろん、結果だけを見ればいいんですが、どうして同じ提案なのに、私は駄目で、スタッフはいいのか、腑に落ちなくて・・・」

「スタッフの方は、この件はなんておっしゃってるんですか?」
「コーチと同じです。結果が良かったんだから、それでいいんじゃないかって?」

「なるほど。でも、松永さんは納得出来ていないんですよね」
「はい、結果は確かに良かったんですが、なぜ、私ではだめで、スタッフならいいのか。それが知りたいです」

「それを知ることは、今後にどんな影響を与えますか?」
「年配者との交渉がうまくいくと思います」

「なるほどね、交渉がうまくいくわけですね? ところで、スタッフさんは、お客様と交渉しているんだろうか?」
「ん??どういうことですか?」

「言葉尻を捕まえて申し訳ないんですけれどもね、交渉しているのかな?お客様のご相談に乗っているというふうに考えてみると、松永さんとスタッフさんの違いは何でしょうか?」
「ん・・・お客様とは、商談や交渉はしますが、単なるご相談に乗っている関係であると思ったことがないので・・・」

「なるほどね。スタッフさんは、お客様の孫を思う気持ちをうまく褒めて、提案をしていますよね?」
「そうですね・・・」

「交渉は大切だと思うんですが、施主さんやそのご家族の気持ちを引き出すような進め方をすると、何か障害になることがありますか?」
「うん・・私が若いということは、問題ではないのでしょうか?」

「松永さんご自身はどう考えますか?」
「スタッフがみんな年配者だから、上手くいっているとばっかり思っていました」

「そうですね、確かに、日本という国では、歳をとっているほうが、信頼を得やすい気がします。でも、それだからといって、すべてが上手くいってないわけではないように思いますがいかがでしょうか?」
「私には、相手に配慮するという視点が欠けていたんでしょうか?」

「率直に、今までのお話から、私はそう感じました」
「そうか・・クライアントとは交渉するもんだと思っていました。お金をいただくんだから、責任ある仕事をしなくちゃいけないと思って、力が入ってたかも・・」

「インテリアデザイナーの仕事がしたいのか、お客様の喜ぶ顔を見る手段として、インテリアデザイナーでありたいのか、どちらなんでしょう」
「うん・・・難しいけど、それをゆっくり探してみます。何か、目先のことだけ考えていたような気がします。歳は急いで取れないし。ちょっと気持ちが楽になりました。ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございました。次回のセッションは・・・」

答えがすぐに見つかるセッションばかりではありません。
時間をかけて支援出来る、コーチの仕事の魅力の一つですね。

ボランティア団体の一人の理事の悩み~コミュニケーションを拡大する~

日本にもたくさんのボランティア団体が存在し、それぞれの活動趣旨に賛同した人は、会員として活動しています。
鳴海さんもそんな一人で、今年度、初めて理事になりました。理事の一人として理事会に顔を出し、活動の方向や戦略を立案する側に立てると思い、ワクワクしながら1回目の会議に参加しました。
初めての会議ということあり、緊張して皆さんの話を聞いている間に会議は終了したが、何かしっくりしない気がして、なんとなく心が重い感じでした。最初ということもあり、まぁ、次はちゃんと発言出来るでしょうと、自分を納得させるようにして帰宅しました。
二回、三回と、会議は月に1度行われましたが、終わったあと、毎回何か心に重いものを感じて家に戻っていました。
任期は1年で、再任は妨げられないそうであっても、通常は十二回の会議に出席すると任期満了となるそうです。
今日こそは、すっきり「やった!」と満足する会議に参加にしたいと願い、はりきって時間前に会議場へ到着しました。ところが、10名の理事会メンバーのうちお一人しか会場に入っていません。「皆さん遅いですね?」と挨拶代わりに声を掛け合うも、開始七分前になっても会長すら会場入りしてきません。
何かが違うと思いながら、その日の会議に出席した後、コーチングの無料体験コースに参加されました。
「はじめまして。コーチの藤原です」
「今、どんな感じですか?」

「今日あったことで、何か気持ちがスッキリしないというか、満足していないんです」
「どんなことでも、スッキリしない、満足しないという重荷を下ろすためにも、コーチングの無料体験を楽しみましょう」

「はい、よろしくお願いします。」
鳴海さんは、硬い表情を浮かべて、藤原コーチとあいさつを交わしました。
「鳴海さん、今日、あなたが満足出来なかったことは何ですか?」
いきなりの質問でしたので、鳴海さんは少し戸惑った表情を浮かべながらも、「実は、今日、ある奉仕活動をしている団体の会議があったんですが、なんかスッキリしていないんですよね。
もうほぼ1年の任期を終えようとしているのに、毎回、何か遣り残しているような気がして、気持ち悪くて・・・」

「なるほど、スッキリしないというか、気持ち悪い感じが残っているんですね」
「ええ、そうなんです。気持ち悪いっていう感じのほうが強いかな?」

「なるほど。どんな点が気持ち悪いんでしょうか?ちょっと漠然とした質問ですか?」
「いえ・・・なんていうのかなぁ? 言いたいことが言えてないって感じですかねぇ・・・。いや違うかな?言いたいことは言ってるんだけど、すんなり言えてないっていうか・・・」

「うん、ちょっとあいまいな感じなんだけれども、言いたいことがすんなり言えないっていうことが、気持ち悪い原因なんでしょうか?」
「ん、まぁ、そんな感じかな?」

「言ってるのに言えないってどんなことなんでしょうか?お差し支えなければ具体的に伺っても良いですか?」
「はい。あの、私が所属しているボランティア団体は女性が多い団体です。役員のほとんどが女性なので、会議と言っても雑談会みたいなものなんです。どこからが議案の審議で、どこからが雑談か分からないんです。今日なんかは、会長ですら、会議室にあわてて入ってきたのが五分前だし・・・」

「なるほど、開始時間ぎりぎりに入った会長に対してどんな感じを抱いたのでしょうか?」
「そうですね、時間は守るべきだし、あんなにぎりぎりで会議を始めても上手くいくはずがない。信頼出来ないっていう気持ちですね。あと、会議中の発言が、会議ルールを無視していて、発言している人の発言が終わりきってないのに、会長は言い訳みたいな、自分の解釈だけを押し付けようとするし。発言していると、こそこそ、隣の席の会員と耳打ちしながら発言するし。こんな会長でも1年の活動はそれなりに出来たんですが、どうにもこうにも、我慢が出来なくて」

「そうですね。会議ルールを無視する。時間には遅れそうになるし。リーダーとして信頼出来ないことが気持ちをふさいでいる大きな要因になっているんですか?」
「ええ、そうですね。リーダーって、文字通り、リードする人だと思うんです。リードする人と信頼関係が結べないのはいやですね」

「そうですね。信頼関係が結べないのはいやですね。ところで鳴海さん、鳴海さんが、残り1回の会議の参加を満足のいくものにするために、あなた自身が努力出来ることはなんですか?」
「私が努力出来ることですか?私が努力しなければいけないんですか?私には原因がないと思うんですが・・何か、私に原因があるんですか?私が間違っているんですか?」

「いえ、そうではありません。鳴海さんは会議ルールを守っているし、当事者意識も高く、積極的に参加している姿勢はとても素敵に思います。しかし、同時に、会長への信頼感が持てないからといって、相手を変えることは出来ませんね。それに、急に会議ルールを学ばせようとしても時間が足らないことでしょう。それでも、あなたに満足していただきたいと、私は心から願います。だからこそ、あなたがあなた自身のために出来る努力を考えていただきたいと思うのです。いかがでしょうか?」

「うん・・・そうですね。何か自分のために出来ることはないかなぁ? 発言をさえぎられそうになっても『ちょっと待ってください。最後まで聞いてもらってもいいですか?あとで、会長のご意見は伺います』とはっきり言ってみようかな?」
「うん、それいいですね。会長のためにもなりますよね。会議の発言ルールを勉強するきっかけになるかもね。もちろん、そういう発言を勇気をもってすることによって、自分のためにもなりますよね」

「私の考え方が間違っているわけじゃないんですよね?」
「ご自分の考えに自信が持てないんですか?」

「ええ、だって、みんな発言ルールも守らずに平気でいるように思えて、それでいいんでしょうか。勉強してないんですかねぇ・・」
「憶測やイメージで私は意見を申し上げることは出来ませんが、鳴海さんがそう感じていることは支持したいと思いますよ」

「何か、結局問題は解決していないけれど、心はスッキリしました。これからもコーチングを受けたいのですが、コーチングを継続して受けるためにはどうしたらいいんですか?私はこれまで、自分の意見は大きな声で言うなと、職場の上司からも、夫からも言われ続けてきました。なぜなら、私の意見は正論過ぎて、相手を追い詰めるだけで、問題をややこしくするだけだって言われてきてたんです。だから、どんなことも飲み込んでいました」
「辛かったですね。でも、誰も皆、自分の意見を言うことを妨げられることはないと思います。コミュニケーション能力の向上のためにも、コーチングを身近に感じる生活をしてみましょう」と鳴海さんを励まし、セッションを終了しました。

定年間近の部下とのコミュニケーションに悩む課長さん(その2)~部下とのコミュニケーションを拡大し自分に気づく~

水野さんは、コーチとの会話に心が馴染むのを覚えながらも、こんな世間話をするためにこの時間を使うのはもったいない・・と考え始めた矢先のことだったので、改めて、コーチの話の転換のタイミングの良さに驚きを隠せず、ついつい本音で語ってしまいました。「そうなんです。先生と話しするのは、とても楽しいんですが、私は、そんな世間話をするためにここへ来たのではありません。ちょうど、今、この時間がとても無駄に思え始めていたんです。こんな世間話は、職場では必要がありません。職場は、仕事をする場所であって、楽しみを見つける必要はないんです。私たちが立てた生産計画にのっとって、粛々と仕事をすればいい場所なんです。技術が売り物の会社ですから、技術の伝承は大切な任務。定年退職を迎える職人の技をいかに後輩に伝えるか、それを今後の生産計画に盛り込まなくてはならないのですが、初めてのことなので、どんなふうに計画を立てればいいのか、それが分からなくて悩んでいるんです」。とうとう、水野さんは、本心をコーチに話すことが出来ました。

「水野さん、よく決心して話してくれましたね。
その勇気に感謝します。ありがとうございます」
水野さんは、コーチから感謝の言葉をもらい、照れるように言いました。「いや、そんな。これは私の問題で、私が話すのは当たり前のこと。礼を言われるのは照れますね」

言いながらも、表情がはじめて穏やかになったことをコーチはすかさず指摘しました。
「水野さん、さっきはどうしようと思っていましたけど、今の水野さんは生き生きとしていてとても穏やかな表情になられましたね。つい先ほどまではよろいをきた鉄火面のようでしたね。
ところで、水野さん、水野さんにとって職場は生産性を上げる現場そのもののようですが、部下や後輩、同僚はそう感じているのでしょうか?」とか、「水野さんのその厳しい仕事への姿勢を、みんなはどう感じているのでしょうか?」と、水野さんの仕事をする姿勢について、どんどん質問を投げかけました。
これまで自分は一生懸命仕事をしてきたと自負している水野さんにとっては、意外な質問ばかりです。

同僚や部下には、いつも弱みを見せてはならないと肩肘張って強い自分を見せていることで
管理職としての威厳を保っていた、良く頑張ったものだと、コーチの質問に答えながら水野さんは改めて感じていました。

そんな水野さんの心が伝わったのか、コーチは「管理職としての職務を全うするのに全力投球だったんですね。水野さんの努力には頭が下がります」と、褒めてくれました。

「部長や役員も、仕事は出来て当たり前。ちょっとミスすると、“どうした水野らしくない・・”と声をかけてくれたりフォローしてはくれたりしますが、褒められるってことがぜんぜんなくて。社内の人じゃないけれども、褒められると、なんだか嬉しいですねぇ」と、照れるように微笑む水野さんに、コーチは更に尋ねます。
「上から褒められたことがない。私に褒められてうれしいと言われていますが、水野さんは、部下を褒めたことがありますか?」

「またまた厳しい質問ですね。褒めることはありません。仕事は出来て当たり前ですから。若手は、失敗の連続で褒めようがない。ベテランの職人は褒めても嬉しそうにはするけど、だからといって生産性をあげてくれるわけじゃない。だからいつの間にか、褒めることを忘れていたような気がします」
「褒めるにも技術が必要なんだということを、ご存知ですか?」

「褒める技術ですか?そんな技術って、何だかごまかしの様でいやだなぁ。褒めるんだったら心から褒めたいですね。なにかをねらって褒めるのはいやだな」
「ごまかしですか。そうですね。確かに、人を気持ちよくするだけなら、ごまかしの技術でしょうね。でも、褒めるには褒める理由があるという褒め方や、自分の思ったことを言葉にして伝えるという褒め方だったらどうですか?それもごまかしでしょうか?」

「いや、褒める理由を伝えるというのももちろんですが、自分の思ったことを言葉にして伝えるという褒め方には興味がわきました」
「水野さん、これからの労働環境では、若手の自発的行動や自立を促しながら、職人を育てることが重要だと私は考えています。もしよかったら、コーチングを学んでみませんか?褒める技術についても、もちろん学習していただきます。社内のコーチ養成制度をご存知ですよね?」

「はい。知っています。管理職は誰でも、望むものは手を上げてもいいと聞いています。これまでは、人をどうやって管理するかということよりも、業務をどう管理するかが自分の仕事だと思っていたので、私のような部署の管理者には不要な学習だと思っていました」
「そうですね。サービス業とか、小売業に必要なスキルだと誤解している人は多いですね。でも、職場に一人以上、自分以外に人がいるのであれば、コミュニケーションをとりながら業務を遂行していますね。そうなれば、コミュニケーションを上手に図ることによって、ストレスもなく、業務遂行もスムーズに運んだほうがいいですよね。コミュニケーションをリードすることは、管理職者に求められる能力の一つになってきたんです。ぜひ、部下のやる気を引き出すコーチングの勉強をしてみましょう」と、コーチに強く勧められた水野さん。仕事の終わった夜に会社で行われているコーチ養成講座に参加され、そこで学んだことをすぐに実践しているそうです。

現在は、定年退職まで残り六ヶ月の部下の技術を、職人の卵である若手に伝授する方法を、職人と相談しながら、急ピッチで進めているそうです。
職人肌の部下は、職人にありがちなタイプで無口でありため、自分の気持ちを語ることはありません。しかし、自分の技術には強い自信をもっており、自分を育ててくれた会社のために、何とかこの技術を伝承したいと常々思っていたそうです。しかし、水野さんは、部下を寄せ付けない雰囲気を持っており、水野さんに話をしても取り合ってもらえないんじゃないかと思って、部長に何度か訴えていたそうです。

水野さんは、コミュニケーションを学ぶことによって、部下との会話の質や量を拡大させたことによっ、定年間近な無口は職人先輩社員の気持ちを知ることが出来たそうです。
今では、技術者と管理者二人三脚で技術の伝承をしようという計画は、順調に進められているということです。お互いの誤解から生じているコミュニケーションのもつれが、コーチングによってほぐされていきました。コーチとしては、なにより嬉しい結果です。

突然の異動でやる気を失いかけてる入社3年目の女子社員~タイプの違う上司とのコミュニケーションを考える~

「おはようございます!」いつも元気なひと声とともにオフィスに飛び込んでくる中井さんは、ホテルの仕事が大好きという活発な社会人3年生、毎日を楽しんでいる女性です。
「今日も元気ですね。あなたの元気な声を聞くと私まで元気になれるわ。いつも、元気を分けてくれてありがとう」私が彼女に感謝して、いすを勧めるのもいつものことのようになりました。
ところが、今日はその元気な一言がありません。「おはようございます」の声が沈んで聞こえます。
何かあったのかなっと思いながら、いすを勧めると
「先日ね、人事異動があったんです。私、お客様に直接に接するフロント業務から外されてしまって・・裏方のオフィス業務になっちゃたんです・・」
悲しい表情を浮かべる彼女にさっそく今感じている気持ちを聞くことにしました。「そう、オフィス業務に異動になったのね?それで今、どんな気持ち?」
「うん・・・正直、どうして?っていう気持ちを最初に感じたんです。入社当時は無我夢中でやっていたフロント業務でしたけど、三年目の今年になってお客様のお気持ちも何となく分かるようになり、上司の指示にもてきぱきと応えられるようになってきたんです。それで、さあこれから頑張るぞってとこだったんです。だから、どうして異動なの?って感じました。次に沸いてきた気持ちは『怒り』でした。なんで異動なんてさせるの?私がホテルに入ったのは、お客様と直接顔を合わせて、お客様を気持ちよくもてなしたかったからなのに。そのために、厳しい上司の言葉にも何とかついていって一生懸命やっていたのに、そんな私の気持ちが分からないホテルって、どうなのよ?って感じ」

「なるほどね。今は、怒りを感じているのね?」
「うん・・そうでもないの。今朝はね、失望かなぁ・・。内勤の仕事を1週間体験したけど、どうしてもつまらないと思えて・・・。ここにいてもいいのかなぁ?って感じ。お前はもうこのホテルにはいらない。ホテルで働きたいのなら、他のホテルに変われって、会社から言葉にならない命令っていうか、暗示をされたのかな?って思ったり、思い直してここでの仕事はきっと将来自分が前線に戻ったとき、必ず役に立つからと、自分を奮い立たせてみたり。すごく複雑な心境なんです」

「そう、気持ちが沈みかけると、自分で浮き上がらせようと別の考え方をするようにしてるのね?」
「そうですね。このまま沈んじゃったら、やる気がでないというか、たぶん、仕事に行かなくなっちゃうと思うから・・・」

中井さんは、そう言いながらも、このセッションでも、少し無理に自分の心を奮い立たせようとしているようです。

「中井さん、あなたはこの状況をどうしたいと思うの?」
「うん・・まず、何の仕事をすることが自分の役割か、それが知りたいんです。正直わかってないんです。どんな仕事を与えてもらえるかも。1週間じゃわからないし、上司からの指示もないんです」

「職場での自分の役割がわからないのね。どんな仕事を与えてもらえるか?ということだけど、こんどの上司はどんなタイプの人なの?」
「なんだかよく分からない人。何を考えているのか分からない人なんです。答えを言わないというか、具体的な指示を出してくれないんです。『これについては君はどうしたらいいと思う』って解決の方法を聞かれることはあるけど、まだ、その仕事を理解していないのに、解決の方法を考えろといわれても困るし、それよりなにより、結論を出してくれないから、どうしたらいいか、わからないんですよね」

「なるほど、上司が結論を出さない人で、中井さんと解決方法を相談する人なのね?」
「ええ、そうなんです。なんと言ったらいいのか?現場にはいなかったタイプの人ですね。現場の上司は、お客様の気持ちをいかに実現してあげるかとか、どんなふうに答えようか、瞬間、瞬間、答えを出していたわけだから・・・。今までと全く違ったタイプの上司で面食らっているんです。毎日が憂鬱なんです」

「タイプの違う上司になって、どうしていいのか面食らっているわけですね」
「あ~あ、そうか。私は、上司が今までのタイプと違うことで気持ちが沈んでいたんだ!」

「そうですね。上司にも色々なタイプの人はいますよね。新しい職場で仕事のやり方がまだ分からないのに、職場の異動と同時に上司が指示を出すタイプから、考えさせるタイプに変わったものだから混乱しているのですね。そして、それは、中井さんにとってはとても大きな問題だったんですね。それに気づいた今の気持ちはどうですか?」
「コーチにしては珍しく、せっかちな質問ですね!あはは、でも、すっごく霧が晴れてすっきり!っていう感じです。問題は、別にもあると思うけど、そのうちの一つは、解決しました。今日、ここに来るのも面倒だなって思ってたけど、来てよかった」

「今までとタイプの違う上司とどのように接しようと思いますか」
「そうですね。今度の上司は、私にじっくりと考えさせてくれるタイプ、仕事変わったばかりで右も左もよくわからないので、かえって好都合。自分のアイデアをどんどん出して、それが通用するのかどうかを検証してみることにします」

「中井さんが仕事のことを自分で考えてアイデアを出すのはとてもいいことだと思う。そのためにはどうすればいいかなあ?」
「新しい職場に早くなれないといけないと思います。そのためにも、どんどんアイデアを出して実践していこうと思います、それによって、より以上に新しいの職場での仕事にも慣れてくるはずだし・・・」

中井さんは、来たときと変わっていつもと同じくらいの明るさで、戻っていきました。
中井さんは、自分では気づいていません。彼女の心の中を占めていた問題の本質は、異動があったことではなく、仕事が嫌なことでもなかったことです。上司のタイプが変わったことにあったわけです。しかも、その問題の大きさは、自分が考えているほど、自分に大きな影響を与えてはいないのです。なぜなら、帰るときの彼女の笑顔は、いつもと同じように輝いていました。
コーチングを通して、コーチは客観的に冷静に、相手の問題解決の支援をいたします。だからこそ、いつもと何か違うことがないかと、観察眼をするどくして、クライアントと向き合います。
春は人間関係も環境も、新しくなる季節です。自分だけで解決出来ないと考えていることをコーチに話してみませんか? すっきり!春らしい心を取り戻せること、期待してください。

新入社員との関係に悩む新任係長重田さん「社内コーチ制度」の失敗~社内コーチ制度を作るための環境整備~

新任係長重田さんの悩みは、今年入社の1年生社員伊藤くんとの関係だった。去年の四月に伊藤くんが入社して十一ヶ月が経ち、今は二月です。他の部署に配属された1年生社員は、それなりに業務を一人でこなしているように見え、自分の下に配属された伊藤くんのことを疎ましく思うこともあり、なかなか思うようにならない苛立ちから、このごろでは伊藤くんの顔を見るのもイヤになり、出社するのさえ気持ちが重くなってしまっていた。
そんなおり、部下への対応に悩む社員を助ける制度として社内コーチ制度が出来たとのことで、それがどんなものかわからなかったが、わらをも掴む気持ちでさっそく利用してみようと重田さんは人事部へと赴いた。
人事部の扉は硬く閉まっており、いつもながら、人事部への入室は気が重かったが、それでもこのままでは二人とも会社に居場所がなくなってしまう、何とかしなくてはという焦燥感に駆られて、とにかくノックだけでもしようと重田さんは行動しました。
ノックして、人事部に入った重田さんを待っていたのは、いつもいかめつい顔をして、威厳的というか、権威の象徴というような顔立ちの三上部長でした。
重田さんは、三上部長が苦手で、思わずしりごみしましたが、顔を見ただけで退室しては失礼であると考え、踏みとどまって思いきって聞きました。「あのう・・社内コーチ制度というのが出来たという掲示板の記事を読んだんですが、どのような制度なんでしょうか?」
すると、三上部長はいつにもまして威厳的に、「社内・社外を問わず、コミュニケーションが上手くとれずに困っている社員の支援をするというものだが、重田君だったね、君はこの制度を利用したいのかね?何かあったのかね?コーチにコーチングを受けて見る気があるのかね?」三上部長は、ニコリともせずに答え、質問をあびせかけてきました。

「はい、一回コーチ制度を受けてみようかと思っています。それで、そのコーチはどなたがお勤めになるのでしょうか?」三上部長は、いつご機嫌が良くて、いつご機嫌が悪いかがわからないタイプなので、出来る限り言葉遣いに気をつけながら、重田さんは質問を続けました。

「コーチは原則として部長の私がします。社内の問題だから、人事部の部員が私を中心にしてコーチをするわけです。社員の微妙な問題に関わってきますから、事情のよくわかるものほうがいいんです。社員は全員が貴重な人材なんです。今回導入した『社内コーチ制度』は、会社の重要な人事戦略の一つなんです」
三上部長は、丁寧に説明をしてくれますが、なかなか重田さんの心は開きません。(「こんなこと聞いたら、査定が下がるかなぁ・・」)(「何で部長がコーチなんだろう・・井上課長にコーチをお願いすることは出来ないんだろうか」)など、余計なことを考えながら質問しているので、どうにも歯切れが悪いのが自分でも気になるほどでした。

五分ほど、気まずい思いで三上部長と話した重田さんは、結局、相談があるとは言えずに、コーチとはどういう制度であってどんなことが望めるのか、人事戦略としての取り組みであるということを確認しただけで、この日は人事部をあとにしてしまいました。
日々の業務では、新人伊藤くんが自律した仕事が出来ないので、重田さんは二人分の仕事をこなす時間が多く、どんどんとストレスがたまっていきます。先日聞いた社内コーチ制度を使って、どうしたらいいのかを支援してもらおうと考えても見ましたが、しかし、三上部長の威厳的な態度と向き合う勇気は出ないので、どうしようかと迷うばかりで、仕事も手につかなくなってしまいました。

直属の上司の課長に相談しようと思っても「伊藤くんは明るくていまどきの若者っぽいけれども、話せばわかると思うよ。飲みにでも誘ってみたらどうなんだろう? そうだ、どうだね、今夜三人で一緒に行くかね?」と言われてしまい、社内で一緒に過ごすだけでも精一杯なのに、勤務後もつき合わされそうになってあわてたことがあってからは、上司の課長にも相談出来ずに、モヤモヤしたまま毎日を過ごしていました。

やがて、重田さんは、このままでは伊藤くんまでつぶしてしまいかねないと考え、勇気を振り絞って、改めて人事部のドアをノックしました。
「はい、どうぞ」中から声がしたのは、井上課長でした。
重田さんは救われたように、ドアを開け、胸に中の全てを井上課長に話しました。

「ご相談があってきました。部下とのコミュニケーションのことで『社内コーチ制度』を利用したいのですが、コーチ役の三上部長はいらっしゃいませんか」
「三上部長が自らコーチをやられるのですが、三上部長が不在の時には、代理として課長の私、井上がコーチ役をやらしてもらっています」
幸い、三上部長は席に戻られなかったのですが、いつ戻ってくるかと思うと、重田さんは気が許せず、井上課長から出される質問にも、深く考えもせず、常日頃思っている不満ばかりを口にしました。

ところが、二十分ほど話したのですが、重田さんの心の中は、ぜんぜんスッキリしていきません。むしろ、井上課長の質問が多くなれば多くなるほど、息苦しさを感じる始末です。(「おかしいなぁ・・聞いてもらっているんだから、もっとすっきりしてもいいはずなのに・・」)と思いながら話す重田さんの表情は、ますます暗くなり、うつむき加減になってしまいます。
井上課長もそれに気づき、「今お話いただいていることは、私の胸のうちだけにしまうことですから、どうぞ安心して話してくださいね」と言われました。しかし、じゃぁ話そうという気持ちにもならず、もっと話したいと思いながらも、重田さんはとうとう言葉に詰まってしまいました。
(「部下に対する不満を言っていると、自分の査定にひびくんじゃないだろう。余計なことを言わないで、自分のことを大事にしよう。新入社員の伊藤くんのせいで、自分の成績が落ちるのは馬鹿馬鹿しい。部下が出来が悪いとあまり言っていると、自分の出来の悪さを自白していることになるぞ・・・・。人事部のコーチなどに相談するんじゃなかった」)
この事例は、社内にコーチング制度を立ち上げる会社が良く陥る失敗です。

まず、コーチング専用の環境を準備していない。人事部配属の社員がコーチ役となるため、評価される側とする側という対峙関係があるという社員の意識改革が出来ないと、本音を語る機会にはならない。などの理由から起こるものです。井上課長は、人事部担当の課長という点において信頼も置かれているのですが、反面、社員の情報をいつも集めているのではないかという見方を、社員からされているということをわきまえていなければ、せっかくの制度も作っただけで活用されることがないまま、社内のコーチング熱が醒めてしまいます。

社員の育成計画は、ますます重要になってきました。長期的に、戦略的に立てておかなければなりませんが、コーチング流に捉えるならば、制度を作ることがゴール(目標)ではありません。どう運用するか、それによってどんな風に社内風土がかわるのか、どんな風に社員が育つのか?など、明確なビジョンを描いておくことが大切です。

洋菓子店の若奥さん 店員さんの教育に悩んでいます~モチベーション向上に必要な承認とアサーティブな表現~

老舗洋菓子店のリニューアルオープンの日の朝、記念にサービスで配る新作のチーズケーキを目当てに並んだお客様と店員との間に小さなトラブルが発生したものの無事、自らが間に入ったことで解決させたという、老舗の洋菓子店を営む由香利さんとのコーチングをご紹介します。「リニューアルオープン、おめでとうございます。大変なお客様だったようですね?」
「はい、ありがとうございます。開店前から、新作のチーズケーキのサービスを目当てに、大勢のお客様が行列をされて、大変でした」

「そうですか・・それは大変でしたネェ・・」
「ええ、開店前に、常連のお客様の大きな声が聞こえたものですから、やっぱり我慢出来ずに、
私が飛び出しちゃいました。ほんとうは、店員にやらせるつもりだったのに・・・」

「そうですか、それは残念でしたね。そのお客様は例の由香利さんのおっしゃってた方?」
「はい、父の代からのごひいきさん。母も、よく叱られた彼女です。地元では名士なんです。小言の多いことでね。でも、それを彼女は、自分の名前は有名で、どこに行っても私が来ましたといえばわかるからって勘違いしていらっしゃるの。何でも自分の思うとおりになると思われてるみたい・・・」

「困った方ね・・」
「でも、その方に困ったんじゃなくて、やっぱり社員が及び腰で対応するから、今回もトレーニングにならなかったことについて頭が痛いんです。あれほど、お客様はみんな大切、お客様によって区別してはいけないのよって、あれほど教育したのに・・」

「あの方のお顔が見えた途端、誰が表の行列の世話をするかを押し付けあっちゃうんだもの。まったく研修の成果が上がらなかったように思います」
「そう、研修の成果が上がらなかったように感じるのね・・。接客の問題というか、苦情対応についての研修が更に必要だということはわかったと思うけれども、この問題から、何を得た?」

「ふぅ・・」
「大きなため息ね。由香利さんの悩みの大きさが理解出来るわ」

「やり直しってことですかねぇ・・・父の代からの社員はもう、あまりたくさんいないけど、
それが却ってあだになっている。古い時代の感覚の社員は、邪魔に成ると思ったから、極力、辞めていただいたけど、今の若い人じゃ、お客様あしらいがわからないらしくて・・。でも、私も夫も、ただの街のケーキ屋で終わりたくないから・・。こういう目標も、ちゃんと話してきたつもりなのに」
「由香利さんや、ご主人の気持ちと言うか、会社の目標すら理解してもらってないと感じているのかしら?」

「そうね、まったくそうですね。なぜ、リニューアルしたか?なぜ、無料で新作のケーキを配るのか?ちゃんとすべてを話して、理解してもらっていたと期待していたのに・・・」
「それだけに、辛さも倍増しちゃったのかしらね?」

「そう、そうですよ。結局、身内のもの以外の手は、当てにならないのかしら・・・」
「今日は、少し、悲観的な気持ちでいるようですね。ところで、なぜ、無料の新作チーズケーキを配ったんでしたっけ?」

「新しいお客様の開拓です。若い女性のお客様に来ていただきたかったからです」
「どのくらい、新規のお客様に配布出来ましたか?」

「確かな数字は把握出来ていませんが、社員が言うには、60%くらいは、新しいお客様の手に渡ったと聴いています」
「60%くらい配布出来たわけですね。この数字に対する、由香利さんの満足度は?」

「うん・・そのくらいで十分かなぁと思います」
「その結果について社員の方と一緒に喜びを味わいましたか?」

「いえ、例のおばさんの対応のまずさについて、どうしたらよかったのかを考えさせることにしたのでまだ・・」
「そうですか、残念ですね」

「残念?」
「ええ、社員の皆さんは、残念だと思っているのではないでしょうか?出来たことは褒められず、出来なかったことを叱られる。確かに、出来なかったことを指摘し、考えさせることは大切だと思います。しかし、二つの件は、別々に評価出来ることだと思うのですが、いかがでしょうか?」

「はぁ・・なるほど。別々のこととして考えれば、それはそうですよね」
「このほかに、褒めてあげられることは何かありますか?」

「うん・・あ、そういえば、お客様が途切れたときに、前よりショーケースを磨いたり、ガラスを磨いたり、包装紙の切れ端をきれいに揃えておいてくれるようになりました」
「なるほど。由香利さんも、細かなところまで観察出来るようになりましたね?」

「ありがとうございます」
「もし、一つだけ、早急に改善して欲しいと思うことを話してもいいということになったら、何を取り上げますか?」

「そうですねぇ・・・ご年配の常連客への対応について、練習をすることですかしら?」
「なるほどね。やっぱりご年配の常連客への対応は気になるということですね?では、それをどんなときに伝えますか?」

「朝礼のときかしら・・・お昼からは、シフトの都合で、社員が出たり入ったりで集合する時間がありませんから」
「なるほど。では、どんなふうに話しますか?」

「ん・・・・これから、皆さんで研修していただきたいことがあります。この間の開店のときのお客様あしらいが良くなかったので、研修したいと思います。こんな感じかしら?」
「なるほどね。それを、由香利さんが社員の立場で聞かされたとしたら、どんなふうに思いますか?」

「え?社員として自分の言葉を聴くんですか?」
「はい。そうです。いかがですか?」

「なんか・・ちょっとキツい感じがするわ・・・朝ですし・・・」
「そうですね。ちょっとキツいですね。では、どうしましょうか?」

「どうしたらいいんでしょうか?・・・」
「もし、時間があるなら、今週はこの話はしないでいただいて、来週のセッションまでに話し方を考えてきていただけますか?」

「はい、わかりました。考えてきます」
「優しすぎず、キツ過ぎない言い方って、難しいですよね。頑張って考えてみましょう」

リニューアルオープンから四ヶ月。新しいチーズケーキは、テレビやタウン誌に紹介され、ますます忙しく働く由香利さん。あれ以来、社員に対する不平や愚痴はほとんど聴かれず、一緒に研修に取り組んでいるそうです。

異動先の理解のない上司に悩む(その2)~職場異動を命じられ、戸惑う社員に自分の役割を考えさせる~

セッションは二週間に一度の割合で行われていました。三ヶ月1回目の今日までの間のセッションでは、茂手木さんの自身の気持ちが整理出来てはきたものの、まだ、行動に結びつくまでにはいたりません。
「こんにちは、茂手木さん。前回のセッションでは、課長の意見を伺ってみるという約束をしましたが、いかがでしたか?」
「はい、堀田課長に私の考えた計画を聞いていただき、『意見を下さい』と申し入れたところ、快くお受けくださり、先週の金曜日の午後、堀田課長、係長の江碕君と一緒に会議をしました。考えてみたら、何かをする前に相談と言うか、意見をまとめるに当たっての会議は、今回が初めてだった気がします。」「つまり、いつもは、先行独断し人に相談しないで、自分で考えたものを提案という名の下に部下に押し付けていた?」
「厳しいなぁ・・・。コーチ、でもそうなんですよ。どうせ言っても無駄。堀田課長はやる気がない。社長の意思が理解出来ていないと思い込んでいたものですから。それに係長の江碕君の意見なんて、聞いてもしょうがないと思っていたし・・・」

「江碕さんは当初から、茂手木さんの意見に耳を傾けていてくれたんでしょう?それなのに、相談をするとか、二人で意見をまとめようとしなかったんですね?」
「めんどくさいと思っていたんです。営業のときは一人で何もかもやっていたんです。資料作りや、後方のお客様の管理などはアシスタント社員に手伝ってもらうけれども、通常は一人で作戦は練るし、落とし方も自分で考えますからね。一人で仕事をするのは当たり前だし、それが能力だと思っていましたから」

「今回ようやく江碕さんを巻き込んだのは、どうしても自分の考えた計画を通したいと思ったからですか?それとも、早く営業に戻りたいから?」
「ひどいなぁ・・。営業に戻りたい気持ちはあります。でも、今は、ここでの改善をもっとやりたいと思っているんです。楽しいですよ。皆と議論をするのも」

「よほど、会議が刺激を与えたようですね?」
「はい、営業会議は、どちらかというと数字が出来ているか出来ていないかで居心地が変わる。社長も同席されることが多いので、数字が出来てない奴は、ホント辛い会議だと思います。僕の数字はいつも出来るし、顧客フォローも出来ているから、社長に褒められることが多くて、しんどいことはなかったけど。若い奴らは、気の毒でしたね。それに比べて、社長は同席しないけれども、会社のしくみを揺さぶれるようなこのセクションで、社長が同席しないから大胆な発想も出来る会議は、自由な雰囲気で自由に発言出来る。堀田課長は、自分の意見も言うけれども、僕たちの意見をじっくり聞いてくれるんですよ。どうして、席にいるとき、もっとフランクに話してもらえないのかは不思議だけど、会議をするのは、好きなようです」

「何を決めることが出来たんですか?」
「はい、懸案の残業時間の短縮を実現させるための計画、修正にはなりましたが、ほぼ、自分の意見どおりになりそうです。嬉しいですよ。1年かかったけど、ようやく着手出来そうです」

「なるほど、茂手木さんの嬉しい気持ち、同じように感じます。私もとても嬉しいです」
「ん・・・言いにくいけど、やっぱりコーチのお陰ですね。ありがとうございます。今日のセッションでもそうだけど、結構するどいんですよね?コーチの指摘。でも、そのお陰で、自分を客観的に見つめられた気がします」

「見つめただけでは、行動には結びつかなかったこともたくさんありますね。何が茂手木さんを動かしたか、ご自身どんなふうに理解されていますか?」
「客観的に見るということと、指摘されたことをどう克服するか、具体的に考えることが出来た気がします。強気で言うわけじゃないけれども、指摘されても、課長に言われるよりずっと重みがあるというか、腹が立たないから不思議だったんですよね・・」

「腹が立たない理由が、私との信頼関係であれば私はとても嬉しいです」
「そうですね・・・信頼関係というのかなぁ・・。なんだか分からないけれども、ともかく聴いて欲しいという気持ちが高まるというのかなぁ・・」

「気持ちが高まるだけでは、行動には結びつかないですね。今回は、宿題という形で実際の行動につながっています」
「うん、期限を決めるというのは、大切なことだと思います。あしたでもいいことは、今日はやらない。今日でなければならないことでも、言い訳をして明日に伸ばす。多くの人はそうだと思うんですけど、自分は動いた。何がといわれても難しいけれども、問題を自分のこととして考えたということでしょうか?。今までは、このミッションは、社長からじきじきに言われたので、社長のミッションだと思って、どこかで社長の変わりにやってあげるんだという気持ちがあったかもしれないですね」

「この問題を自分のものとして捉えることが出来たからこそ、行動に結びついたということですね。そして、成果は、ほぼ、自分のプランどおりに進みそうであるというところでは、満足感は高いですか?」
「点数なら九〇点」

「一〇点不足は?」
「スピード、取り掛かりに1年かかったから」

「では、この計画を実行するに当たっての目標は?」
「人を巻き込みながら、六ヶ月で軌道に載せる」

「なるほど、人を巻き込みながら六ヶ月で軌道に載せるんですね?」
「成功したらどんな効果が現れますか?」

「残業をする人がいなくなることはないと思うけど、1日あたりの残業者は減ると思います」
「相対的には減らないけれども、部分的に減少するということですか?」

「はい、セクションごとにノー残業デーを設けますので。六ヵ月後、ある程度、社員の意識が変わったら、今度は、生産部全体のノー残業デーを設けることにします。フロア全体の灯りが消える日が、早ければ七ヵ月後にあるかもしれません」
「営業への配置転換を望む気持ちは?」

「とりあえず、1年、ここで頑張ります。堀田課長ともゆっくり付き合ってみたいし」
「社長へのご報告は?」

「それは、私の仕事ではありません。課長にすべてお任せしていますから」
「会議をもてたことは、ほんとうに茂手木さんにとって重要なことだったんですね?」

「はい、営業部のときは一人で営業していたから、一人で会社を背負っているような気がしていた。そんなこと、絶対ありえないのに。それに、製造や管理の人たちと、営業との仕事の連携も出来ると思うんです。それも目標にしてみたいです」
「なるほど、残念ですが、今日は時間が来てしまったんですが、次回までに達成したいことを決めていただけますか?」

「はい、このプランの実行日を決めることと、部内への通達を出すことです」
「プラン実行日を決める。部内への通達を出すことですね。最後の約束です。ぜひ実行してください。今回のセッションはこれで終わりになります。ありがとうございました」

異動先の理解のない上司に悩む~職場異動を命じられ、戸惑う社員に自分の役割を考えさせる~

中堅ハウスメーカーに勤務する茂手木さんは、ベテランの営業マンでした。
ところが、長年の実績を高く社長から評価されていたにもかかわらず、昨春、管理部門に異動になりました。納得がいかない茂手木さんは、勇気を出して社長に面談を求め、今回の異動の目的を尋ねたそうです。
社長は、「管理部門のテコ入れだ。あそこは昼間だらだらしていて、夕方になると残業代稼ぎのために仕事に励む。会社はそんな無駄な金は払えない。まあ、それは一例としていろんな面で役割を果たしていない。君に任せるから、建て直しをしてくれ」と言われたそうです。
ところが、茂手木さんの肩書きは、営業のときのまま、「課長代理」。茂手木さんの上には課長がいるわけです。
「代理の肩書きでどこまで仕事をしたらいいのだろうか?
堀田課長は自分のことをどう受け止めてくれるんだろうか?
みんなと仲良く仕事をしないと管理の仕事が回らないばかりか、製造はじめ各所に迷惑かけることになってしまう。どう調整してあるんだろうか?」と、不安な気持ちで新しい席へと異動したそうです。案の定、管理課長の堀田さんは、茂手木さんの異動の目的を社長から聞かされておらず、最初こそ自分の提案を熱心に聴いてくれていたそうですが、このごろでは、「君が口出しをすることではない。営業では実績があるだろうが、ここではまだ1年目なんだ、じっくり仕事に取り組むためにも、私たちの仕事を真似てみたらどうだ」と、いなされてしまい、困った茂手木さんはコーチとのセッションを希望しました。

「茂手木さんですね? おはようございます。今日のテーマを決めましょうか?」
「はい、・・あの・・・職場にリーダーがいなくて・・・。私は課長代理と言う肩書きで、今、管理部門で仕事をしています。課長はいるのですが・・・良い管理をするために業務改善や業務改革をしようという意欲は感じられません。部長は、社長の意見をすぐに自分の意見にして受け入れることは出来ても、私から見たら、社長から言われたから受け入れているだけで、どうしたらそれが出来るかという具体的な戦術を考えることが出来ません。私は、こういう人を上司として仕事をしなければならず、どうしたらいいか、わからなくなってしまったんです」

「課長代理として、組織の構成員として注意すべきことはなんですか?」
「はい、課内では、私にも上司がいるわけですから、上司より上に出るようなことがあってはなりません」

「具体的な行動に限定すると?」
「課内での決定は、課長に判断をゆだねると言うことです。それと、課外の調整は、課長の指示や許可がなければしてはならないと言うことです」

「なるほど、組織論を忠実に守りたいと言う気持ちが強いのですね?」
「はい、ただ・・・課長は、現状の仕事の進め方で良いと思っており、社長がそれではダメだと思っているということを知らないので、どうしても、前に出ざるを得ないというか、社長の期待にこたえて、結果を出して早く営業に戻らせて欲しいので、理想どおりには行動出来ずにイライラしているんです」

「なるほど、理想どおりに行動出来ないからイライラしているんですか?それとも、営業に戻りたいからイライラされているんですか?」
「え?営業に戻りたいから?ですか・・・そんなふうに自分の気持ちを考えたことがないので、意外でした。でも、そうかもしれませんね。課長が動かないことにイライラしてるし、今のこの状況が嫌で嫌でたまらないんです」

「営業の仕事がお好きなんですね?」
「はい、大好きです。お客様の顔を見て話をするのが好きなんです」

「そんな大好きな仕事を取り上げた社長に対しては、どんな気持ちですか?」
「うん・・・管理部門に異動になったことが嫌なのではなくて、社長は私の異動をちゃんと課長や部長に言っておいてくれてないことに不信感を覚えています」

「信頼していたのに、残念という気持ちですか?」
「そうですね。不信感でいっぱいです」

以外にも、上司に対する悪いイメージばかりを並べる茂手木さん。
コーチは、指摘したいと思いながらも、もう少し話を聴いてみようという姿勢を保ちます。

「職場をどんなふうにしたいのですか?」
「もっと活発にお互いが意見を言い合ったり、仕事に責任を持つ社員の集まりにしたいです」

「管理は、もともとが目立たない部署ですし、社長もこれまであまり目をおかけにならなかった。だから、人も育っていないし、責任感とか、リーダーシップとかも身についていないんじゃないですかね」
「すべての部門に満遍なく社長が力を入れることは難しいのではないですか?」

「まぁ、そうですけど・・・」
「さて、茂手木さん、茂手木さんの現職場での使命はなんですか?」

「使命ですか?・・・使命ねぇ。わかりません」
「社長のおっしゃった『君に任せる、テコ入れ』にどんなイメージをもっていますか?」

「そういえば、具体的に何をしろとは言われていませんね。だらだら仕事をするということでしたが、実際、業務のボリュームと作業量があっているのかも分かりません」
「では、どんな提案を堀田課長になさったんですか?」

「残業を減らしましょうと・・・」
「どんな方法で?」

「とにかく週1日、残業なしの日を設けましょうと・・」
「堀田課長の反応は?」

「いや・・・無視されているというか、一度検討しようと言われたままで、具体的な指示も評価もありません」
「どうしても残業なしの日を作る必要があるとしたら、その理由は何ですか?」

「特にあるわけではありません。社長が残業代が無駄だとおっしゃったので・・」
「ようやく1年、仕事を経験して、残業は無駄な時間でしたか?」

「いや、実際、大変なんですよ。値引き交渉も、長年の取引先はなかなか応じてくれなくて。1社の交渉に二時間くらいかかるんです」
「その交渉は、営業時代のスキルが役立ちますね?」

「はい、確かに・・。管理の人はどちらかというと交渉が苦手のようで。よく、茂手木さん、助けてくださいといわれます」
「そんなときはどうなさるんですか?」

「はい、手が空いていれば助けて取引先と交渉しますが、手が空いていなければ断ります」
「そんな茂手木さんを上司はどう感じているのでしょうか?」

「ん・・・協調性のない奴だと思っているのではないでしょうか?」

茂手木さんは、堀田課長の気持ちも、他の社員の気持ちも理解出来ていません。
自分の役割も理解していません。
自分は特別と思いたい気持ちや、社長との信頼関係をこれ以上失いたくないという気持ちが強いことは理解出来ますが、職場の皆と強調しなければ仕事は進まないことを理解出来ていません。

ベテラン駅員さんの苦悩~若い駅員のモチベーションを上げる~

地方では大きな花火大会が開催される日に、終日、気が抜けないのは、会場係員や会場に一番近い駅で働く人たちです。
今年も無事に? 花火大会を終えたある私鉄の駅員さんとのセッションをご紹介します。「この間の花火の日、コーチはどこにいらしたんですか?」
「残念ながら、私は出張に出ておりました。立花さんは、勤務日だったんですよね?」

「ええ、もちろんです。すごい人出でしたよ。日ごろは千人という単位でのご利用者がいるわけですが、花火の日は、万人に膨れ上がります。大きな事故がなかったことがせめてもの救いというか、自分たちへのご褒美ですね」
「お疲れ様でした。良かったですね。事故が起きずに済んだのは、皆さんのご努力のおかげでしょう」

「ありがとうございます。迷子や、忘れ物は、相変わらず、例年通りでしたけれどもね。面白いといったら不謹慎だと思うんですが、浴衣ブームだったでしょ?帯が外れた子供がいたようで、帯の忘れ物が一件ありました。びっくりしました」
「すっごい忘れ物ね。帯が解けたら気づきそうなものですが・・そういう親御さんだと、お子さん忘れても気づかないかもしれないですね」

「笑い話じゃないですよ。何年か前に、男の子が駅に置き去りにされたことがありました。可愛そうだったのは、駅に着いたばかりで改札口を通る前だったから、しばらく親御さんが迎えにいらっしゃるまでに時間がかかって、男の子は、花火をここから見ていました。まるで、駅に泣きに来たようなもので・・」
「親御さんは、はぐれたことにも気づかれなかったんですか?」

「いや、まさか。でも改札口ですでにはぐれたとは思わなかったようで、花火の会場の中でずっと探していらしたということでした」
「そうですか、いろんなドラマが駅にはありそうですね」

「ええ、そうですね。迷子になった子供とせっかく会ったのに、いきなり子供に向かって『だからちゃんと手をつないでなさいと言ったでしょ!』と、怒り出すお母さんがいて。子供の頭を叩くんですよね。僕らからしたら、子供より、お母さんを叩いてやりたくなります。
もちろん、ぐっと我慢ですけれどもね。ところで、このごろの若い駅員は何を考えているか、ほんと、理解出来ないですね」
「深くため息をつかれましたが、何か強くお感じなる出来事でもありましたか?」

「ええ、こういう日は、駅の改札口の外に出て、整列入場をお願いするんです。何メートルも前から並んでいただけると、駅構内への入場が結果的に早くなるからです」
「なるほど」

「でも、駅舎から出て、拡声器で整列を呼びかけるのは、慣れないと恥ずかしいものなんです。自分たちのころは、若い駅員の役割だと思って、恥ずかしくても率先してベテラン駅員に指導を受けて、自らかって出たものですが、今の若い人たちは、出来ればそんな恥ずかしい仕事はしたくないと思っているんです。だから、時間を決めて、ローテーション表で管理して、指示しなければならない。こんな忙しい日に、ローテーション表と首っ引きで若い連中が持ち場についているかなんか確認しながら、仕事は進められません。お互い、チームワークよく自分の仕事を自分で見つけながら進めるべきなのに・・」
「なるほど、自発的に動かない。気配りもない仕事ぶりにいったい何を感じたんでしょう?」

「とにかく仕事への意欲のなさにはほとほと嫌気を感じました。鉄道が好きで、小さいころから電車の運転手に憧れを感じて鉄道マンになる人は多いのですが、今の若い人は、就職先の一つが鉄道会社だったっていう感じかな?」
「うん・・若い人の気持ちは分かりませんが、立花さんが、若い人の勤務態度を不快に思う気持ちと鉄道を愛していることは理解出来ます」

「ありがとうございます。こういう話って、家でしても女房は、『そんなに腹が立つなら、もっとちゃんと指導すればいいじゃない?あなたの指導力が問われちゃうかもしれないでしょ?』なんて具合で。ちっとも理解してくれないのに、コーチと話をすると、問題そのものが解決しなくても、まず、ほっと出来るからいいですね」
「ありがとうございます。気分が晴れるという感想をいただけるのは嬉しいです。しかし、立花さん、ただの愚痴話に終わらないためにも、今後、どんなふうに指導したいかを考えてみてはいかがでしょうか?」

「そうですね。僕たちが引退したら、花火の日に駅構内で事故が起きたなんていうことになったら、寝覚めが悪いですからネェ・・」
「一番気にかかることは、構内での事故のようですね」

「それに一番神経を使いますよ。だれにも怪我させずに運行することは、とても大変なことです。当たり前のようですが、当たり前ではない。だから、出来る限りいろんなところに神経を配って、事前にイメージトレーニングして危険回避出来る駅員を養成したいと思っているんです」
「構内での事故を未然に防ぐことは、誰にとってメリットがあるのでしょうか?」

「駅をご利用いただくお客様と駅員の双方です。お客様の安全も確保出来るし、お客様を安全に目的地までお運び出来たら、駅員も自分の仕事に誇りがもてるのではないでしょうか?」

「そうですね。お客様の満足を得ることも大切だし、同時に駅員の満足も高めたいということですね?」
「そうです。どちらかだけじゃ、いけないような気がします」

「それを、若い人たちに伝えるために、どんな言葉を考えますか?」
「そうですねぇ・・・やる気があるのか、仕事が好きなのかが分からない若い連中に、こんなことを言ったら、却って押し付けになるでしょうか?」

「そうですね、今は、相手の気持ちを推測することは出来ても、本心かどうかがつかめませんね。そうであるならば、まず、その辺りからじっくり話を聞いてあげたらいかがですか?」
「そうですね、でも、ただ話を聞くだけでいいんでしょうか?」

「さきほど、奥様との会話にヒントがあるのではないですか?」
「というと?」

「奥様に話を聞いてもらいたいと思って、仕事のお話をなさるけれども、満足感が得られないのはなぜだか分かりますか?」
「うん・・・女房は、何かと意見を言いたがるんだよね。ただ、一言お疲れ様とか、それでもよくがんばっているねって言って欲しいだけなのに・・・。うん、そうか!若い連中の話を聞いたら、それなりにがんばっていることを認めたらいいのかもしれないですね?」

「そうですね。人にはみんな、人に認められたいという願望があると思います。だから、幼稚な考えや行動だと思われても、そのレベルに応じた行動であったり、考え方であれば、それを認めてあげたり、褒めてあげてはいかがでしょうか?」
「うん、それはいい。といってもすぐに褒められるようになるか、ちょっと不安ですが、出来る限りやってみます」

「はい、では二週間後、確認させていただくこととして、今日はこれで終了にしましょう」

年上の部下の扱いに悩む若手の室長~苦手なタイプの年上の部下とのコミュニケーションを考える~

若くして広報室の室長となった平沢さんは、連日、頭を抱えています。
この春、部下として年上の社員が配属になったのですが、この部下が、ことあるごとに平沢さんに挑戦的な態度をとっており、自分をさしおいて直接若手に指示を出す始末で、指揮・命令系統にも影響が出ているばかりでなく、チームワークにも問題が発生しています。若手社員は、自分に都合のよい指示を出す年上の社員に従うことが多く、室長である自分の指示を無視した社員の仕事の後始末におわれてしまったり、反対に必要以上に上司に甘えを見せ、与えられた仕事に取り組む前に答えを求めようと相談にくるため、それに答える時間が長くなり、自分の仕事がはかどらずやむを得ず残業を繰り返す毎日になっていました。

平沢さんと初めての出会いのとき、平沢さんには目に力がなく、笑顔も見られず、正直、セッションが成立するかが心配だなという感じでした。
案の定、平沢さんは、「どんなことでもお話くださっていいんですよ」という私の誘いにも乗らず、ただ、じっとうつむくだけでした。

このままでは、平沢さんの心が開かないと感じたので、直感ゲームをしてみることにしました。
思い切って、キーワードに対して直感で感じたことを言葉にしてほしいと提案。何が始まるのか?と、平沢さんは不安そうでしたが、「ゲームのような感覚で取り組みましょう」という誘い掛けに、ようやく首を縦に振るという動作で、承認してくれました。

「春」『社内異動』、「さくら」『はかなさ』、「日本」『閉鎖的?』「ビジネス」『忙しい』「部下」『・・・』
ここで、平沢さんの口はまた、堅く閉ざされてしまいました。

「平沢さん、今の連想ゲームをやってみてどうでした?感想を教えていただけますか?」
私の問いかけに、平沢さんは、「そうですねぇ・・・・私は発想力が乏しいのでしょうか?あまりすっきりした答えが出ていないように思います」と、おっしゃいました。

「私が率直に感じたことをお伝えしたいのですが、かまいませんか?」と伺うと、平沢さんは、「どうぞ、何でもおっしゃってください」と許可してくれました。

「はかなさ、閉鎖的、忙しい・・。三回続けて気持ちがふさがっていることを感じさせるような言葉が続きましたね」
率直過ぎたかな?と思いながらも、平沢さんの表情を観察していると、
「そうですね。自分はこんな人間じゃなかったはずなのに、どうしてだろう・・・
年上の人が部下となって異動してきたんです。彼が配属されてから、おかしくなっちゃたような気がします。年上の部下って、プライドが高く、挑戦的で、どうしていいか分かりません。
彼が私を見下した態度をとるので、若手の部下も軽んじているような態度で私に接してくるし。
さりとて、自分の仕事が進まないと、助けてくれるのは当たり前という感じで、助けを求めに来る。
私だって、新聞社やテレビ局との付き合いや会議の出席予定だってある。その合間をぬって、部下との相談時間を持つことは、大変に厳しいんです。でも、それをしないと、年上の部下になめられるような気がして・・・。
どうして、そんなに私の指示を素直に受けられないのか?私には思い当たる節がないんです。
強いて言えば、私が若くして室長となったことが、彼に気に入らないのかもしれません」

ようやく、重い口を開いてくれた平沢さんですが、その口から出る言葉は、ネガティブな思考の延長線上にあるものばかりでした。

こんな時は思い切ってコーチングをせず、カウンセリングにしたほうがいいのでしょうが、もう少しだけ、コーチングのセッションを試みることにしてみました。

「平沢さんはその年上の部下とどんな関係を築きたいのでしょうか?」
「え?・・・」少し考えて、平沢さんはきっぱりとこう言いました。
「私の言うことに従ってくれる部下になってほしい」

なるほど、確かに指示を受けてくれる部下は必要ですが、ベテラン社員としての強みを発揮しなくてもよいのでしょうか?

「会社としては、平沢さんの部下として、年上の人を配置したということは、その人に対して黙って指示に従ってるだけを求めたのでしょうか。若い人がもっていないベテランのよさを発揮指せようとしたのではないですか?」
私の質問に、平沢さんは、じっくり考えた末、「そうですね。それはそうですよね。でも、彼は年上の自分への配慮を持っていないような気がします。言葉だって乱暴だし。粗暴な感じがするんです。バブルのころの担当者じゃないんです。今の時代は、スマートさや優しさが必要なんです」と、心の中に澱のようにたまっていた年上の部下への思いがようやく吐き出され始めました。

「その部下は、どんな表現をすることが多いんですか?」
「これやれとか、ああしろとか、組織上、自分の方が立場が上なのに、お構いなしです。もちろん、若手の部下にも同じかかわり方をしています。歳が下ならまだしも、役員にもそういう態度をとるから、昇進だって出来なかったんだと思いますよ」

「つまり、平沢さんに対してだけ、横柄な態度や口の聞き方をしているわけではないのですね?」
「・・・(じっくり考え)そうですね・・それは私に対してだけではないですね」と、平沢さんは返してきました。

「指示を受けないことが、異動後、どのくらいあったのでしょうか?」
「たびたびかなぁ・・。でも、そういえば、口答えはするけれども、私の指示を受けなかったことは一度もないかもしれない。私の指示が明確でないときや、目的を知らせずやらせようとして若手の困惑を感じたりすると、彼がみんなを代表して質問していたのかもしれません」

「そうですか、平沢さん、年上の部下のこと、初めて違う眼で見ることが出来たように思います。私は、それを嬉しく思います」
その言葉がどう作用したかは分かりませんが、平沢さんは、はじめのときと打って変わって、積極的に答えてくれるようになりました。
「私も彼を誤解していたかもしれません。私の足らないところを補ってくれていたのかもしれません。私とは違って、粗野ですが彼は彼なりにやってくれていたようにも思えてきました。彼のいいところを見るようにします。それと、これは反省ですが、年下の上司ということで年上の部下への対抗意識が強すぎて、私も肩に力が入りすぎていたような気もします。すこしリラックスしてみよう思います」

私は平沢さんの急激な変化に少し戸惑いました。仕事場に戻って年上の部下の顔を見たときに、すぐに実行出来るのか少し不安です。なぜなら平沢さんは変わりたいという思いを手にしましたが、、年上の部下が、平沢さんの変化を理解するまでは、情況がすぐに変ることはないと思うからです。

平沢さんは、その後十回のセッションを通して、苦手なコミュニケーションタイプの部下とどう向き合うか考えました。今では、ちょっと乱暴で仕切りたがる年上の部下との関係を良好にしながら指揮をとり、活躍中です。

スーパーの女性係長 ひとりからまわり~真の障害に気づく(苦手な人とのコミュニケーション)~

地域でも敏腕女性経営者として有名な女性が社長をしているスーパーで働く木下さんは、今年の春から係長になりました。鮮魚コーナーと惣菜コーナーを任されることになり、張り切っていますが、女性ばかりの職場で、何か新しい試みをしようとしても、いつも反対ばかりされて埒が明きません。

年中無休のスーパーなので、女性のパート社員のシフトを組むのが係長としての重要な仕事になっています。各自休みたい日をメモして提出するのですが、全員の都合を全て満足させることも出来ないので係長が本人と調整するわけです。忙しさからうっかり、その調整を忘れてシフトを組もうものなら、もう大変です。無視されて、しばらくは口も利いてもらえないばかりか、指示や命令に従わず、業務に支障が出来る始末です。

こんなことなら、役付きになんかならなければよかったと思い「係長をおろして欲しい」と社長に相談に行ったところ、社長も女性であるからか、「そういう人を上手く束ねるのがあなたの仕事でしょう。同じ女性同士なんだから話せば分かるわよ」といなされるばかりで、八方塞りな想いが強まって、会社に行きたくないという気持ちで一杯です。

そんな時、市役所の生涯学習の講座に「コーチングはコミュニケーションを豊かにする」と題した六回シリーズがあることを知り、木下さんは応募してきました。

まず、自己紹介です。自己紹介からコーチング講座が始まっており、自己紹介のテーマは「今の気持ちを受講生同士伝え合うという」ものでした。「さぁ、では木下さんの自己紹介についてはいかがでしょうか?」と、明るい声のコーチの呼びかけに、受講者の一人が元気よく手を上げて発言しました。

「はい、木下さんの挨拶の良いところは、まじめにはっきりと自分の気持ちを言葉に出来たところです。もっと良くするためには、笑顔でスピーチされることです。緊張なさっているんでしょうけれども、自分の顔の向こう側には、相手の顔があることを意識しないと、自分本位の挨拶になってしまうと思います」。

あまりに見事な切り口で、堂々と指摘された木下さんは、いつもなら、面白くなくてすぐに受講そのものを辞めてしまうのに、今日は腹立たしい思いを感じないで座っていることが出来ることに、不思議だなぁと感じました。

「田中さん、ありがとうございました。他の方いかがでしょうか?」講師の促しに、その後三人ほどが手を上げて発言しましたが、どれも自分の良い点を褒め、悪い点ははっきり指摘してくれており、なるほどこれがコーチングなのか!と、期待が高まるのを感じました。

木下さんは、1回目の講座の翌日は、何となくスッキリした顔で職場に出ましたが、相変わらず挨拶もろくにしてくれない職場の仲間に会うと、自分以外は全員抵抗勢力のように思えてならず、仕事が楽しいはずはありません。しかし、異動を希望したら自分の負けだと思い、心を奮い立たせながら働いていました。鬼のような形相になっていたかもしれません。

何となく木下さんの表情に変化を読み取った、常連のお客様からは、「木下さんがオコゼみたいよ」と、からかわれてしまうこともたびたびありましたが、にらみを利かせていないと、また、どんな反乱にあうかわからないと思うと、気が抜けなかったのです。

いよいよ四回目の講座の日、自分がクライアントになってコーチングのセッションを受けるロールプレイングを体験出来る日になりました。

コーチ役の受講生は活発に発言する方で、同じ受講生であり、同じときにスタートしたのに、私は遅れをとっているような気がして、少し苦手なタイプでした。

「さぁ、木下さん、今日のテーマは何にしましょうか?」コーチ役の女性ははきはきとセッションを進めようとします。「はぁ、古参女性社員のマネジメントについてお願いします」木下さんは、遠慮がちに言いました。

「木下さん、ちょっと緊張していらっしゃいますか?リラックスして、セッションを楽しみましょう。そのためにも、今の緊張感を数値で表してもらってもいいですか?」
「はぁ、緊張してます。九〇点くらいかなぁ・・」
「九〇点。それは高いですね。リラックスするために、私がお手伝い出来ることがありますか?」
「いえ、はぁ、あの・・」たたみかけるように質問してくるコーチ役の女性の声に接して、まるで、会社でベテランのパート社員から嫌味を言われているような気持ちになりました。

木下さんは、苦手なタイプの女性を前にすると、言いたいことも、自分の感情を言葉で表すことも出来なくなり、笑顔も出ず、相手をにらみつけるようにして接してしまうことに気づきました。この苦手なタイプの女性の受講生ではなく、出来れば、男性の受講生にコーチ役を代わってもらいたいと思うのですが、せっかくコーチ役に立候補してくれたのに、断っても悪いと思い、「お願いします」といってしまった手前、何としてもこの時間を乗り越えるしかないと思い込んでいるのです。しかし、何とか答えなくてはと思えば思うほど、言葉が出てきません。
そんな様子を見かねたのか、講師の先生が声を掛けてくれました。

「新井さん、コーチ役変わっていただいてもいいですか?」コーチ役の新井さんは、ちょっと悲しそうな顔をしましたが「はい、木下さんと相性が悪いみたいなので変わってください。」
と笑いながらコメントしながら、コーチ役を講師とチェンジすることに同意しました。

「さぁ、木下さん、今日のテーマは古参女性社員のマネジメントについてでしたね。本来なら、このセッション後、木下さんは、どんな気持ちを手に入れたいか、ゴールを決めたいところですが、先に現状をたな卸ししてみましょうか?よろしいですか?」
ソフトな講師の語り口に穏やかな気持ちを取り戻した木下さんは「はい、お願いします」と同意しました。

「ずばり!伺いますね、木下さんは、どんな女性が苦手ですか?」
あまりの核心をついた質問に木下さんは衝撃を受けながらも、正直に話してみようと決心出来る何かを感じていました。先ほどの新井さんのときとは違うのです。

何が違うのか?そんなことを考えながらも、講師の質問に答えていく木下さん。どうやらきちんきちんと理詰めで話してくるタイプの人には、詰問されているように感じていたたまれなくなるようです。

セッションを終えるまでに、ほんとうの問題は、苦手な女性とのコミュニケーションがとれないことにあって、決してマネジメント手法に問題があるのではないことに気づくことが出来ました。

コーチングは、コミュニケーションを通して目標達成の支援をする仕事です。人と人が相対することだけに、相性が合う、合わないという問題に直面することがあります。

コーチングはコーチが自分のために行うのではなく、クライアントのために行うものなのです。基本的にはお互いのためにならないときには、勇気を持ってその関係を打ち切ることも大切です。

コーチとして大切にしたいことは、「支援する心」です。コミュニケーションの技術だけではなく、マインドが大切な仕事だけに、忘れないようにしたいですね。

部下とのコミュニケーションがうまく取れない新任課長のコーチングです。~部下とのコミュニケーションを考える~

新任課長との出会いは、会社のコーチングルームに、予約なく訪問されることから始まりました。

「コーチ、ちょっと話したいことがあるんですが、いいですかねぇ・・」と腰をかがめながら入室された新任課長。
「どうぞ、どうぞ。はじめましてコーチの今井です。よろしくお願いします」と挨拶し、いすを勧め腰をおろしたところでさっそく「部下の山田のことですが、彼が何に悩んでいるのかわからんですが、山田は、この部屋ではどんなことを話題に話しているのでしょうか?」との質問を受けました。

通常、コーチである私は、守秘義務を職業倫理として掲げているため、上司であっても生命の危険等、緊急性が高いか、本人の承諾を得なければ話の内容を開示することはありません。

「ご質問は、山田さんの話の内容を明かしてほしいということでしょうか?」と柔らかく尋ね返すと、「いや、まぁ、何を話しているかを知りたいのはもちろんですが、何を考えているのかがわかれば、もう少し、彼をサポートしてやることが出来るのではないかと思いまして・・・」

「なるほど。部下の考えを知り、サポートしてあげたいと思っていらっしゃるんですね」
「そうです。山田は、何でも一人で抱え込んでしまうたちらしくて、それでは、彼の下にいる若いやつらも育たないですよね? それに、私は、仕事はチームですべきであると思っていて、個人が自分のマンパワーで仕事をするというのでは、異動になったとき困ると思うんです。それと、この間は、山田から、『自分は行政が主催する健康相談会に行ってきたが〝うつ病になりやすい。注意したほうがいい〟と言われた。それだけは避けたいというんです』。

まるで、私が「うつ病」になりやすくしてるみたいに言われてしまって、私こそ、どうしていいのかわからず、ストレスがたまる一方なんです。そんなとき山田がコーチングルームに出入りしていると聞いたもので、上司の私に話さないことをコーチに話しているのではないかと思うと信頼を裏切られたような気がしていてもたってもいられなくて、失礼を承知で押しかけてきたんです」
勤めて穏やかに話そうと心がけていらっしゃるように見えますが、怒りを強く感じさせる口調で話しは続きました。

「いくつかの問題を同時に抱えているように感じるのですが、一番初めに解決したいことは何でしょうか?」
「そうですね、まず、彼が何をしているのか、報告してもらったり、相談してもらえたりすればいいと思います」

「なるほど、報告と相談が必要なのですね。それが出来るようになると、課長さんにはどんなものが手に入るのでしょうか?」
「手に入るもの?・・・なんだろうなぁ。日ごろから報告や相談を受けていればもし彼に、スタンドプレーされても、安心出来るかな?
いまだと、何が起きるかわからないから、不安で落ち着けないことが良くありますからねぇ。いまより安心出来るんじゃないかと思うんです」

「失礼を承知で伺いますが、ご自身の評価に影響することだから、部下の行動が気になるのですか?」
「まぁ、そうですね。私は彼の上司ですからね。取引先の人から、私の知らない彼の行動を教わる私の身になってください。管理者としての能力がないような気持ちに追い込まれるんですよ」

「なるほど、管理者としての能力がないように思われるんですね。つらいんですか? 怒りを感じるんですか?」
「怒りですね。もう少し人のこと考えろって感じかなぁ・・」

「そうですね。課長のことを考えてほしいっていう感じですね。ところで課長が山田さんのことを〝人の気持ちや立場がわからんやつだ!〟とレッテルを貼って見ていることを、山田さんは感じているようですか?」
「うん・・それはどうかな?感じているんだったら、もっと積極的に自分から接触してきてもいいと思うけど・・」

「つまり、感じてないから、行動が変わらないとお考えなんですね」
「はぁ、まぁ、そういうことになりますか? よく分かりません」

「一つ、私が今感じていることをお話してもいいですか?」
課長は不安な表情を浮かべ、少し私の話を聴くことを躊躇しましたが、嫌だ!とは言えない様子で、私の意見を聴こうとします。

「課長さんから伺う山田さんの考えは、すべて課長さんの憶測(推測)でしかありませんね。これは、コミュニケーションの量が絶対的に不足しているから起こっているように感じられます。
1日のうちで、五分でもいいから。仕事の話でなくてもいいから、彼と話す時間を作ってみたらいかがでしょうか?」
「(無言)・・・」

「私のアドバイスが嫌だなぁというお気持ちがあれば、どうぞ遠慮なさらずおっしゃってくださいね。いかがですか?」再度促されてようやく課長は「話す時間を作るといっても、何を話していいか、それすら分からんのです。出勤したらすぐに出かけてしまう日もあるし。そうかと思うと、ずっとパソコンの画面に向かってぶつぶつ言ってるから、話しかけちゃ迷惑になるかもしれないと思うし。彼がしたいと思うことなら、どんなことでも課長の自分が責任はとってやれるから、やらせてやりたいと思うけど、そのためにも彼が何をしているかは把握しておきたいんです。そうじゃないと、私としても責任のとりようがありませんから」

「部下に寄せる思いはとても熱くていらっしゃるんですね。もったいないですね。そんな課長さんの気持ちが伝わっていないことが・・・。どうでしょうか?まずは、その自分の気持ちを伝えてあげるだけでもいいんじゃないですか? 聴いてほしいことがあるけれども、今いいか?と話し始められたらどうですか?」

「彼が忙しかったらどうしようか?」
「忙しければ忙しいで『今でなくてもいい』とつけ加えてみたらいかがですか」

「そうですね・・」
「そのほか、どんな言葉を準備したらいいと思いますか?」

「そうだなぁ・・・今日の予定は?と聴くとか・・」
「うん、それいいですね。一度、声をかける練習をしてみましょうか?私が部下をやりますが、いいですか?」

「そうですね。でも、子供じみてるし・・・。一度、席に帰って考えます」
入ってこられるときよりは、少しはすっきりした顔をなさった新任課長。でも、まだまだ肩に力が入っているから、会話の練習を子供じみていると思うのでしょう。もう少しリラックスして、自然に会話が出来るようになればコミュニケーションがとれるようになります。

コミュニケーションがとれず、強いリーダーシップも発揮出来ずに悩んでいるのは、自分に原因があることに気づいてくれる日があるといい。人を変えることは出来ませんが、自分が変わることが出来る。そう伝えてあげることが出来たら、もっと肩の力が抜けるのではないかと思いながら、背中を見送りました。

新任センター長と古参社員との戦い(その3)~新任管理者、職場改善を目指す~

いよいよ三回目のコーチング予約日がやってきました。浜田さんは、これまでの二回より足取りも心も軽いことを感じながら、コーチの元へとやってきました。

「和田さん、一つ荷物が降ろせたんです!」

部屋に入るなり、浜田さんは和田コーチに明るい声で話しかけました。
「浜田さん、どんな荷物を降ろされたんですか?」
和田コーチは、いきなり話しかけられたことにもすぐに反応し、浜田さんの話を先に進ませようとしました。
「敵じゃないんですよ。どんな社員にも、良いところと悪いところがある。悪いところにばかり目を向ければ、どんどん悪いことばかりが目立つようになる。ところが、良いところに目を向ければ、どんどん良いところが目立つようになるんですね。
先週、あのあと、正直言って職場に戻りたくなかったんですが、センター長はそのまま帰ってしまうに違いないと悪口を言っているような気がして、半ば意地のような気持ちで、職場に戻ったんです。ここで逃げたら、あいつらに負ける・・なんて感じでした。
職場に戻ると、いつもならセンターにないはずの人影が、その日に限ってあるんです。どうしたんだろう?と思いながら、『戻りました』と声をかけると、『お帰りなさい、センター長。ちょっといいですか?』と、古参の女性社員のほうから声をかけてきたんです。
どうせ不平か不満なんだろうなぁとうるさく思いました。私のそんな気持ちは、顔にも出たかもしれません。でも、話は聴かないといけないと思い事務所に入ったんです。
古参女子社員の態度はいつもと同じように横柄なものに感じましたが、ここは負けてはいけないと思って『何かあったんですか?』とたずねると、『センター長さんがお出かけの間に、1件、クレームがあって。ドライバーが一人待機していてくれたので、効率は悪いのですが、そのお宅にだけ届けるために、今向かってもらっています。まもなく到着だと思うので、約束の時間には七十八分ほどの遅れで商品は届くと思います。お客様へのお詫びの電話ですが、これは、私ももちろんいたしましたが、センター長からも電話をしていただけると助かります。お詫びはしたんですが、どこまで私の真意を伝えられたか、自信がないんです。帰ってきて早々、つまらない話で、申し訳なく思います。よろしくお願いします。ほんとに勝手にやってしまって申しわけありません』と、一気に報告して頭を下げたんです。

でも、和田さん、あんなに嫌だった古参社員の横柄に見えていた態度についても、ぜんぜん気にならなかったし、それどころか『申し訳ありませんでした』と素直に頭を下げている女子社員を見ていると、不思議なくらい自然にその社員に『ありがとう、適切な処置で助かったよ。電話、今からすぐかけてみようと思う』と、心から言えたんですよ。

お客様に連絡したら、『担当の女性からも電話をもらっています。誰でも間違いはありますから。それよりも孫の誕生日のプレゼントすぐに対応していただいたので、お誕生会までには間に合ったんですよ。おかげさまで孫の喜ぶ顔を見ることが出来ました。どうもありがとう・・』と、お客様から暖かい言葉もいただけたし。今まで僕は、どんな眼で彼女たちを見ていたか?
ちょっと申し訳ないかなぁという気持ちです」

興奮気味に話す浜田さんの言葉を、ときにうなずき、ときに促すように和田さんはじっくり聴いていました。
「浜田さん、私もすごく嬉しいです」和田コーチの言葉に、浜田さんは怪訝な顔をして聞き返しました。「なぜ、和田さんが嬉しいんですか?」
「浜田さんの考え方が、すっかり変わったこと。彼女たちを仲間として受け入れてくれようとしていること。何より、浜田さんが目指す、お客様の笑顔をもらったこと。これらすべてが嬉しいです」

和田コーチは、心底嬉しそうに微笑んだあと、浜田さんに話かけました。

「浜田さん、改めて伺いたいのですが、よろしいですか? 浜田さんは、彼女たちにどんな働き方を望んでいたんでしょうか?」
「時間いっぱいうまく使って体を動かすこと。あと、仲間という意識を仲良しクラブといった子供じみた持ち方をするのではなくて、大人として持ってもらいたかったんです。アルバイトをあごで使ったりとか、男性社員の目を意識するということではなくて、アルバイトも男性社員も交えて、一つのチームであるというような感覚を持ってもらいたかったんです」

「そのことは、ちゃんと言葉で伝えましたか?」
「いやぁ、そんなことは大人の常識というか、長く仕事してるんだから、知っていて当然だと思っていたから、わざわざ特に話しはしませんでしたよ」

「でも、浜田さんの真意は、伝わっていたのでしょうか?」
「いや、今から思うと、僕は面倒なことには関わらないようにしていた気がします。言うと何か言い返されるような気がしていましたから・・・・」

「そうですか・・。前回は、チームメイトのことをあいつらと、まるで敵対視するような表現だったんですが、彼女たちからみた浜田さんは、どんな存在だったんでしょうか?」
「やはり、彼女たちから見たら、よくわからん上司だけど、うるさいことだけは言う、嫌な敵だったんじゃないでしょうかねぇ・・」

「今は、どうですか?やはり『あいつら』でしょうか?それとも信頼出来るチームメイトでしょうか?」
「もちろん、全面的に信頼出来るとは思っていません。シビアな言い方をすれば、経験が長いんだから、クレーム処理ぐらい出来て当たり前かもしれないです。ただ、報告のタイミングとか、報告の仕方が、いつものふてぶてしいものじゃなく、具体的だったし、客観的にクレームに対してくれたり、冷静に対応してくれたりで、やれば出来るんだという手ごたえみたいなものを感じました。まぁまぁ、磨けば何とかなるのかな?と思っています。そして、彼らと一緒に仕事をしていくことで私も成長出来ると思っています。やはりお互いが認め合える仲間になれればいいと思っています」

「そうですね。コミュニケーションは、キャッチボールですよね?これまでの浜田さんと古参社員の関係は、ドッジボールしているように、ボール(言葉)をぶつけるだけのような関係でしたよね?これでは、受け取る側も、今度受け取ったら、当ててやろうという気持ちを育ててしまいますよね。評価は、必ずしも『良い』『悪い』だけであらわすものではありませんよね。少しでも、褒められるべき点があれば、それを認めて受け止めることも大切ですね」

「改めて考えてみると、和田さんから、『彼女たちの良いところを見つけるための質問』を受けたことを思い出し、その意味がようやく分かりました。真にチームワークを高めるためには、まだまだ時間がたくさんかかると思うんですが、とりあえず、今までのような冷戦状態をとることだけはやめて、厳しさの中にも温かみをもって接してみるつもりです。どうもありがとうございました」と、浜田さんは、心の中に抱えて歩いていた重い荷物を一つ下ろしたように、すっきりした表情で部屋を後にしました。

新任センター長と古参社員との戦い(その2)~新任管理者、職場改善を目指す~

流通センターに就任した新任センター長の浜田さんは今年五十二歳になる社内経験豊富な部長です。

前回は浜田さんの現状を訴えたいという思いを、和田コーチが傾聴することに終始したコーチングでした。
「浜田さん、1週間たちましたが、古参社員とどんな関係作りを望むのか?考えてすごされましたか?」という和田コーチの少し厳しい表情から二回目のコーチングが開始されました。

「いやぁ、よく分かりません。感じることはやはり同じですね。毎日毎日、社員の勤務振りに対して・・というか、態度が気になって気になってしようがないですねぇ。相変わらず、ルーズに休憩時間を延ばしているし、夕方の掃除も、どうもやっているのは、比較的年数の短い人がいやいややっているようにしか思えません。私のモチベーションまで引き摺り下ろされそうで、もう、相手にしないで事務所からなるべく出ないようにと心がける以外、手はないのかなぁ・・と考えています」
「浜田さんは、このままでは、自分のモチベーションも下がる、だからどうしたらいいかということも考えられたわけですね?」

「まぁ、そうですね。自分のことはまず守らなければと思います。本社の人の目は届かないわけですから、実態を知らない本社の人に、自分まで、あいつらと一緒だと思われたくはないですからね」
「あいつら」という言葉をはっきり口に出した時に、浜田さんの表情が少し緩んだのを和田コーチは見逃しませんでした。和田コーチは、厳しい表情を崩さないまま浜田さんに質問を重ねました。

「浜田さん、あなたにとって、部下ってどんな存在なんですか?」
「はぁ?・・・・・・・・・・・(沈黙)」

お互い、その状況に耐えられなくなるほど沈黙している時間が経過しました。

「浜田さん、あなたがお答えになるのを待っていたのですが、お答えがでませんか」
和田コーチは話し始めました。
「浜田さん、部下の方を『あいつら』と言われたのですがそのことに気づかれましたか?わたしには、『あいつら』という表現の中には、『仲間』とか、『チームメイト』というような暖かなものが感じられませんでしたが、浜田さんは、どんなお気持ちで『あいつら』とおっしゃったのでしょうか?」

心の中を見透かされ、懐を一気にえぐられたような気がした浜田さんは、また、表情を固くして下を向いてしまいました。

「あの・・和田さん、今、そのことについては話したくありません」そう伝えるのが精一杯でした。
浜田さんの答えに、和田コーチは始めてにっこり微笑みました。

「いいですよ。答えたくないという答えがあることに気づいていただけたことが私は嬉しいです。ものの見方って、いくつかあると思います。まっすぐに表からだけ見るのではなくて、裏側からも見ていいんですよね。必ずしも質問には答えなければならないということではありません。『No』という答えも、また、答えですよね」と、穏やかな表情で、冷静に話す和田コーチに、浜田さんの心が包まれているような感じを抱いたようです。重ねて、和田コーチの質問が続きます。
「浜田さん、無理やりに考えてもらう必要はないのですが、古参社員の方のこれは素晴らしいと認められる仕事ぶりは何かありますか?」

「そうですねぇ・・経験年数があるから、出荷間違いは、まず、ありませんね。その点はしっかりしています。安心して任せられます。むしろ、営業が間違って出荷価格を入力していることが、一目で指摘出来るぐらいのスキルの高さはもっているんです。この間も、営業サイドで単価の入力間違いがあって、これまでより高い値段で出荷しそうになって、危うくクレームになるところだったんですが、それを見つけて未然に防いでくれたんです。そういうときは、饅頭を差し入れたりして、ご機嫌を取ったりするんです。まぁ、それなりに饅頭の効果はあるようですが・・」
「なるほど。浜田さんは、気も遣い、お金も遣ってご機嫌をとっているわけですね。饅頭を買っているときの浜田さんの気持ちは、どんなものですか?」

「いやぁ、正直、お金の無駄遣いだなぁと思うこともあるし、こんなご機嫌とらなくちゃならない部署は、早く異動させてほしいとさえ思うことがあります。本来は、お客様の笑顔を創造出来る、いい職場だと思っていたのに・・・」

古参社員のことを話すにつれて、どんどん、落ち込んだ表情になる浜田さんに、和田コーチは言いました。

「浜田さん、もし浜田さんが、チームメイト(仲間)として受け入れられず、敵対視されながら職場に迎えられたとしたら、頑張って仕事をしよう、この仕事はお客様のために働き甲斐があると感じることが出来るでしょうか?一生懸命に仕事をしようと思えるでしょうか?」

ようやく和田コーチは、質問の核心に触れました。

「う~ん・・・(沈黙)」
しばらく黙って考えていた浜田さんは、「そうですね。難しい問題ですね」そう言って、また黙りこんでしまいました。
「・・・・・・(沈黙)」

黙り込んだ浜田さんをみて、今度はさほどの時間を空けずに、和田コーチは浜田さんに言いました。

「そうですね。難しい問題ですよね。それでは、次回までに、この質問の答えを探してきていただいてもいいですか?」
救われたように顔を上げた浜田さんは、和田コーチにアイコンタクトをして大きくうなずきました。
「和田さん、今日のこのコーチングの時間は私が次回までに答えを探すのに効果的であったのでしょうか?私は、あなたの求めるとおりの答えを出せていない気がするのですが・・・それでいいんでしょうか」

和田コーチは、同じように深くうなずき、ゆっくり息を吐いて穏やかな口調で言いました。

「コーチングは、コーチである私が求める答えを探すものではありません。私は答えを求めていません。コーチの私のためにコーチングをしているわけではありません。
浜田さんが自分自身でどうしたいのかを考える事が大事なんです。ゆっくり時間をかけて、自分を大切にして考えてみてください。」
このようなやり取りにて二回目のコーチンの時間が終わりました。

新任センター長と古参社員との戦い(その1)~新任管理者、職場改善を目指す~

流通センターに就任した新任センター長の浜田さんは今年五十二歳になるやり手部長です。
流通センターの仕事は、商品をお客様に届ける最前線の仕事。荷物を今か今かと持ち構えていてお届けしたときのお客様のほっとした顔や、思いがけないギフトを受け取ったときのお客様の喜ぶ笑顔などを思い描くだけでワクワクするというホスピタリティにあふれた浜田さんとしては、これぞまさしく天職とばかりに、異動辞令を受け取りました。それはわずか半年ばかり前の出来事です。しかし、センター長として着任してみては一週間、二週間と時間を重ねるごとに元気ややる気が失せていくのが自分でも感じました。それは上司の眼からも目に見えてわかるほどになっています。

「浜田部長、最近元気がないようだがどうかしたのか。私が相談にのってもいいのだが、いろいろなことを支援してくれるコーチ制度を会社として設けたのだ。私に相談するより気楽に出来ると思うので、コーチングを受けてみたらどうか」

社内に新しく設けられたコーチングルームに足を運んだらどうかという、担当役員からの勧めもあり、コーチングを受けた経験などなく半信半疑ながらコーチングを受けてみようと思って、会社が外部から雇い入れた専門のコーチに会ってみることにしました。
「浜田さんですね、始めまして、私、コーチを専門職としています和田と申します。よろしくお願いします」

「あ、はい。和田・・・なんてお呼びすればいいんでしょうか?」
浜田さんは、コーチングのことが良くわかりませんので、コーチのことをどんな風に呼んだらよいかがわからず、口ごもってしまいました。
「浜田さん、そうですね、どんな風に呼ばれてもかまいませんよ。浜田さんの呼びやすいもので結構ですよ」

和田コーチにそう言われても、浜田さんから次の言葉がでてきません。

「そうですね、『和田さん』と呼んでいただきましょうか。呼びづらいですか?」と、和田コーチは、ソフトにたずねました。
「いいえ、大丈夫です。『和田さん』と呼ばせていただきます。それでは和田さん、始めまして浜田です。よろしくお願いします」一旦、不安が消えると、浜田さんは部長としての威厳を持って礼儀正しく挨拶をしました。

「浜田さん、コーチングについて、まず説明をさせていただいてもよろしいですか?」と、和田コーチは今後三ヶ月間の間に十二回の会話する時間を三十分ずつ持つことや、この場での話の内容は決して他言しないなどというコーチの倫理についての説明を丁寧に行いました。

「何か、ご質問をいただきたいと思うのですが、いかがですか?」
「いや、良くわかりました。では、今回は、私の悩みを話してもいいですか?」と、浜田さんは少しの時間も惜しむかのように、自分が置かれている状況を話し始めました。

「実は、職場の女性九名のほとんどが古参社員で、私よりも皆、流通センターでの仕事は長い人ばかりなんです。男性社員は、配置換え等の事情があって、そこそこ若い人もいるし、年配者であっても、経験年数は三年くらいと比較的短い人が多いんですね。後は、アルバイトが数名いるんですが、いずれも学生で、まぁ、やる気があるんだかないんだか、良くわからないけれどもまじめに一生懸命仕事をしているようには見えます。
問題は、この古参社員の仕事振りなんです。休憩時間は守らない、勝手に何度もお茶を飲みにいってしまう。夕方なんか、最後のトラックを見送ると、休憩室に上がりこんでしまって、横になって休んでいるものも居る始末。職場でも、大きな声でおしゃべりはするは、アルバイトのシフトを勝手に変更するわで、とにかく自分のセンター長としての立場がなくなるようなことを平気でするんです。
この間、あまりに目に余ったので、シフトの変更は、センター長の責務で行うこと。出すぎた仕事はしないで欲しいときつくいったんですが、『これまでは私たちがやってきたんです。センター長さん、あなたは事務をしているだけで、何も現場のことがわからないんだから、任せてください』と、えらい剣幕でまくし立てられて。挙句の果てに、休憩時間を三十分も延長されてしまって、一部の業務に支障が出るところだったんです。だけど、勤務時間は就業規則でも決められているんだから、夕方のトラックを送り出してしまったとしても、何か、見つけてでも仕事をするのが社員としての勤めだと思うんですよね・・」堰を切ったように一気に思いのうちを話した浜田さん。ようやくここで一息つくかのように、肩で大きく息を一つしました。

「なるほど、そうですか。どうぞ、その先を続けてください」和田コーチは、一息入れている浜田さんを見て、更に先を促します。

「この間の忘年会では、まぁ、私が居たら盛り上がらないだろうと思って、気を使って乾杯だけ済ませて後は用事がある振りをして、退席したんですが、後で、『センター長、居心地が悪いで帰っちゃったんだわ。この間、あんなやぁらしいこといったから、しょうがないわねぇ』と、宴席で言ってたということを信頼する男性社員から聞かされて。私の気持ちも分からない、自分勝手な連中なんで、よっぽど人事に言って、即、人事異動させたろうと思ったんですが、あまりに大人気ないのでそれはやめたんです」と、たまりにためていた怒りをぶちまけました。

「和田さん、この自分の気持ち、分かりますか?」浜田さんは、何とか自分の気持ちを伝えようと一生懸命話したことが伝わったかを、和田コーチに確かめる質問で、現状を訴える話を終えました。
「浜田さん、今、とても浜田さんが怒っているということを感じます。そこで伺いたいのですが、浜田さんが今一番、解決したい問題は何ですか?」

「え?一番解決したいものは何ですかって、私がこんなに話したのに、私の気持ちが理解してもらえなかったんですか?これだけ話してもわかってもらえないんだったら、百聞は一見にしかず。一度、職場にアルバイトとして状況を見にきてください。ちょうど、一人バイトを募集している最中だから、見つかったといって、もぐりこむことは出来ますから・・」口も厳しく、眼も何とか窮状を訴えたいと、力がこもっています。

「いや、私が整理したいのは、浜田さんの気持ちなんです。それで整理したいことの順番というか、優先順位を付けたいんです」と言われた。
浜田さんは、すぐに答えることが出来ず、黙り込んでしまいました。
「今日ここでゆっくり考えていただく時間をとりたいのですが、そろそろ三十分の約束の時間が過ぎようとしています。一つ、次回までに考えていただきたいことがあるんですが、よろしいですか?」沈黙の浜田さんの同意を得る前ににコーチは続けます。

「古参社員との関係をどうしたいのか?その点だけ一つに絞って、考えてきてください。次回は、その点の確認からスタートさせていただきたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「わかりました。次回までに考えてきますが、早く古参社員の何人かを飛ばして明るい職場作りをしたいと思っているので、よろしくお願いします」
浜田さんは、捨て台詞のような言葉を残して、コーチングルームを出て行きました。

組合の書記長になっての悩み~思い込みを外すコーチングの効用・効果~

「配置換えがあって二ヶ月。まだ、自分の役割すら理解出来ていなくて、後ろめたさというか、本当に自分でいいのかなぁ?と思うと、辛いほうが先にたちます」とおっしゃる横井さん。
浮かない表情だけれども、眼には力があります。うん・・・辛いのが先にたっているのか、頑張ろうとの気持ちが勝っているのか、果たしてどっちなんだろう?という疑問を感じながら、すぐにセッション開始しました。

「横井さん、はじめまして。今日は、ご契約時に確認した目標の背景と、今、何を考えているかを中心にお話をしていただいてもいいですか?」
「はい、コーチ、よろしくお願いします」

「では、まず、ご契約時のお話では、今回の配置換えで、組合の書記長にご就任になった、そのことでコーチングを受けたいと伺いましたが、どんな理由からでしょうか?」
「はい。書記長って呼ばれるのは正直居心地がいいし、これまでは、一社員としての勤務だったんですが、この前社員通用口で取締役執行役員とお目にかかったら、役員のほうから、『おはよう』と声をかけてくださったんです。一社員のときでは到底考えられないことなのでびっくりしました。
団交のときにしか顔を合わせてないわけですから、いわば、敵ですよね?なのに、覚えていてくださったのが嬉しくて・・・」

「なるほど、ちょっと今までと扱われ方が違うとお感じなのかしら?」
「そうですね。ただ、だから責任が重くてきついんです・・・」

しばらく言葉が出なくなってしまった横井さんは、大きなため息とともに、言葉をつなぎ始めました。

「僕はね、出身が田舎の農家の次男坊なんです。農家というのはみんなが自分の持ち分を発揮して、助け合ってやっていくものです。自分の家だけのこともそうですし、集落というか地域全体のことも自分の役割分担が決まっていて、それを楽しく忠実にやっていくもの。それぞれが自分の役割をやっていくことことが、そこに住む者の使命であり義務なんです。だもんだから、自分の生き方というのは、権利より義務を大事にするものなんですよね。
でも、組合の仕事っていうのは、権利が先なんですよね。権利を主張するのが組合の仕事だから、それは書記長としては当たり前なんですが、ついつい、だからって自分は、自分の周りはちゃんと言えるほどの仕事してるか?って考えちゃうんですよ」
「うん・・・難しい判断ですね・・・必ずしも、みんながみんな、権利ばかりを主張しているわけじゃないでしょう?でも、横井さんの周りには権利の主張だけで、義務を果たしていないのかもしれないと思える人もいるわけなんですよね?」

「ええ、そうなんです。みんなちゃんとやってるってわかっているんですが、この交渉を会社としようと思うときに限って、組合員が問題を起こすような気がして。被害者意識が強いのかな?でも、ほんと、このときに問題起こすなよって言うときに限って、問題を起こされると、会社側から『仕事もちゃんと出来ない組合が何を権利だけ主張するんだ』と言われるような気がして、自分がみんなを代表して交渉するのにもブレーキをかけちゃうんです」
「うん、なるほど。交渉するのに影響しちゃうわけですね。ところで、その問題はほんとうに交渉力を奪うほどの問題なんですか?」

「・・・・・・・・・・・・」

しばらく沈黙が続きましたが、そのあとで横井さんは堰をきったように話し始めました。

「あははは、厳しいことをあえて言うんですね。そうですよね。コーチにも分かられてしまいましたか。たいした問題じゃないんです。そうなんです。もちろん、そんな深刻な問題じゃないのは私にも分かってるんだよ。問題は、自分の心にあるんだよね。問題を摩り替えているだけだよ、それも知ってる。でもだめなんだよ。自分がコントロール出来なくて、どこかに逃げ込んじゃうってわけ。やっかいだろ?」
「なるほど、逃げ込んでることも理解されているというわけですね。でも、逃げ込んじゃうんですね?」

「ああそうだね、逃げ込むんだよなぁ。そのほうが交渉に失敗したとき、自分が傷つかなくてすむから。この歳で、自分が傷つくことを考えるなんて、おかしいでしょ?」
「いえ、自分が大事なのは、歳とは関係ありませんから・・といいたいところですが、立場上はどうなんでしょうか?」

「うん、やっぱりまずいよな。立場上もまずいけど、人としてもまずいよなぁ・・。いい加減に大人にならないといけないと思う。いつも自分に起きる問題は、他人が持ち込むものだと思っている。悪い癖だと思うが、やっぱり都合の悪いことは人のせいにしたい。こんなんで、書記長なんて続けていいんだろうか?」
「横井さんにとって素敵な書記長って、どんな感じなんですか?」

「そりゃぁ、何事からも逃げない人じゃないかな?人格と品格が伴っているというか・・」
「それは大変ですねぇ・・・。人格も品格も高めなければならない?そうじゃないと、書記長っていう役割は果たせないんでしょうか?」

「いやぁ、みんなそうだとは思わないが、そのほうがいいだろうと思う」
「そうですよね。そのほうがいいという程度のことですよな。自分の与えられた役割を誠心誠意やっていればいいんじゃないですか。結果はあとからついてくるものですよ」

「そうですよね。そうなんだ。自分の出来る範囲のことを一生懸命やればいいんだ」
「そのとおりです。人格と品格が伴っているというのは人が判断するわけであって、自分が判断するものではありません」

「なんか、スッキリしちゃったなぁ・・。自己解決とは違う何かがあるね、コーチングには・・・」
「そうですね、私たちは聴くことのプロであるし、話すことのプロでもあるんです。プロフェッショナルな思いと技がマッチしたら、この仕事は楽しい仕事ですよ」

「そうか、今度は、自分がコーチになれたらいいね。今日はありがとう」
「お疲れ様でした」

眼に力があったのは「やる気の高さ」にあったようですが、何かが絡まっていたので、その眼の力よりも浮かない表情が目立っていたようです。絡まっていたものが解けてすっきり晴れやかな顔で、横井さんは席を立たれました。

新任所長さんの悩み~着任地での仕事環境を整える~

新任所長の木幡さんは、着任早々、大勢の得意先回りをして着任の挨拶をしました。
しかし、営業部長と一緒にどこの得意先に伺っても、一様に世間話ばかりで、お客様との関係や得意先企業のカラーがつかめず、四日目にしてついに我慢出来ず、担当の営業部長を呼んで叱りつけてしまいました。
以来、社内の雰囲気も悪いような気がしてならず、特に女性社員に人気が高い営業部長だったためか、このごろは、木幡さんが外出する際「行ってきます」と挨拶しても、なんとなく返事によそよそしさを感じてしまうという始末でした。
当の営業部長は、毎月、予算を達成するばかりではなく、予算よりはるかに高い成績を上げ続けているため、これ以上、何かを言わないほうがいいのかもしれないと、臆病にもなっているそうです。

「こんにちは。木幡さん。久しぶりですね。お忙しかったんですか?」
電話の向こうの木幡さんの沈み込んだ様子が伝わってきますが、コーチは、クライアントの感情を恐れず、コーチングをスタートさせます。
「コーチ、日本に久しぶりに帰ってきて、嬉しくてたまらなかったのに、もう、次の転勤先のことを考えているのって、どうなんでしょうか?」

「ん? 木幡さん、日本に帰っていらしたばかりのときは、すごく嬉しいとおっしゃっていましたのに何かあったのですか?」
「ええ・・。久しぶりの日本ということもあるけれども、どうも、地方の営業所は、生ぬるいような気がして。着任の挨拶回りのとき、営業部長と一緒にお尋ねしたんですが、世間話ばかりで、得意先の担当者の性格とか、企業の特色とか、何も獲るものがなかったので、『営業部長を呼んで、挨拶回りは、文字通りの挨拶回りじゃない。今後のビジネス展開を考えて、ランクをつけるとか、商談中の進捗状況を確認するとか、担当者の癖や、企業の方針を知りたいと思って時間を作っているのに、君がリードするのは、世間話程度の話ばかりで何も実がないじゃないか?
いったい君はどういう仕事をこれまでしてきたのか?』と、注意してしまったんです」

「なるほど、営業部長の仕事に対する姿勢と、自分の仕事に対する姿勢の違いに、腹を立ててしまわれたんでしょうか?」
「ええ、そうですね。正直、腹が立ちました。こんな厳しい環境下において、生産性のあがらない仕事をさせられるほど、わが社はゆとりがあるわけではありませんから」

「そうですね。生産的ではない時間の使い方が気に入らなかったのですね?では、どんな挨拶回りをしたかったんですか?具体的にお話してみてください」
「まず、一社あたりの訪問時間は、最低でも四十五分は必要だと思います。どうしても、『どこから着ましたか? これまでの仕事の経験は?』と、客先に聴かれることが多いですから、それに十五分は必要です。その後、私が質問させていただく時間が欲しかった。『御社が今、一番力を入れている事業は?』とか、『今期の予算は?』とか、今後の方針や戦略だって、相手が社長なら伺うことが出来たはずです」

「そうですね。それを挨拶の時に伺えれば、効率はいいですね。実際、1社あたりの訪問時間は何分だったんですか?」
「十五分程度でした。長く引き止められたところでも、二十五分くらいでしたかねぇ・・」

「なるほど、そうなると、お客様が質問する時間分だけで、木幡さんが質問する時間はほとんどなかったということでしょうか?」
「ええ、まったくといってなかったですね。しかも、『この赴任地は初めてだ』と言うと、やれ、『水が旨い』だの、やれ、『米がうまい』だのと、食べるものや名所・旧跡の話ばかり。まったく無駄な時間だったんです」

「ところで、営業部長に、挨拶回りの目的や自分の考えを話してみましたか?」
「いや、無駄ですよ。あいつのへなへなした態度や考えじゃ、僕のいうことは理解も出来んでしょう」

「営業部長の役割って、営業成績さえ上げていればいいんでしょうか?」
「まぁ、そりゃあやっぱり営業部長ですからね、成績は上げてもらわなくちゃいけないよね。その点は見事なんだ。この地元出身者だから、顔も人脈もあるだろう。でも、それにしてもすごい。それだけは認めるしかない」

「なるほど、地元出身であるという強みがあるわけですね。だから、売り上げが出来ているんでしょうか? 私には、何か他の要因があるように思えますが、いかがでしょうか?」
「うん・・・。確かに、何かあるんでしょう。でも、それは分からんのです。営業部長は、契約をまとめるときも、よほどじゃないと私を一緒に同席させません。接待のときは、地元採用者をよく同席させているようではあるけれども、そういう基準で行動しているかどうか? それは分かりません」

「うん、うん、そうね。そういう基準かも知れないし、そうではないかもしれない。木幡さんは、営業部長に対して、不平や不満を持っておられるようですが、以外、彼に関するどんな情報をもっていらっしゃるんでしょうか?」
「そういえば、嫌な奴だ、苦手だという意識ばかりで、これまでの社内キャリアに関しても情報を持っていないような気がするなぁ・・」

「うん、そうね。人事台帳ごらんになったら分かるんじゃないですか?」
「いやぁ、うっかりしていたなぁ・・。そうだ、彼の情報を集めてみるか。そこに彼の強みのヒントがあるかもしれない。うっかりしていたなぁ」

「もう一つ、私が疑問に感じたことがあるんですが、伺ってもよろしいですか?」
「木幡さんが赴任されたその土地柄って、どんなふうですか? 地方独特のルールとかが根強くあるんじゃないでしょうか?」

「たとえば?」
「うん、たとえばよそ者を受け入れるのに時間がかかる土地柄とか・・」

「ああ、たしかに。どこに挨拶に行っても、『出身はどこか?』『この土地に知り合いや親戚はいるか』って聞かれて、身上調査じゃない!って閉口した覚えがありますよ」
「はるほどね。やはりそうですね。地方であればあるほど、地元意識というか、身内身びいき的な雰囲気が高いから、営業部長もその点を配慮されたのではないでしょうか?」

「コーチ、あなたはいつもストレートに言いますね。確かにそうかもしれない。私が『東京出身です』とか、『前任地はタイ・バンコクでした』というと、みんな一様に関心がなさそうな顔をするんです。
『親戚もこちらにはいない、大学時代の友達が何人かはいたが、あまり親交がない』と言うと、会話が止まったように思います。そういえばそうだなぁ・・」
「木幡さん、あらためて営業部長に求める役割が何か、どんな関係になりたいのか、営業所の環境を整えることを考えてみましょうか?」

「そうですね。私は少し偏った見方をしていたようですね」
木幡さんは、新任営業所長として、何を見直す必要があるかに気づいてくれました。

定年間近の部下とのコミュニケーションに悩む課長さん(その1)~コーチングをはじめて受けるクライアントとのスタートに築く信頼関係の重要性を知る~

水野さんは生産管理部で生産管理課長をしていますが、一年後に定年退職者が出ることから、沈み込んでいました。
社内に、困ったときに相談出来るコーチングを受けるシステムがあることは知ってはいましたが、それは自分で解決出来ない者のお助け制度のようなものであり自分には関係ないものと思っていました。水野さんは困ったことがあれば部長に相談するぐらいで、普段は、出来るだけ自分で解決をするように努力していました。

課長としての大きな課題は、ベテランと若手の技術力の差を解消すること、部下育成に努め若手に技術力をつけさせることです。会社としても大きな課題であり、そのためにはベテランの社員の若手に対する技術伝承がぜひとも必要になります。一年後に定年を迎えるベテランの協力がどうしても必要だったんです。この定年退職予定者は、社内では口数少なく、黙々と仕事をこなしており、いわゆる職人気質であり、仕事中は声をかけづらい雰囲気を持っているため、なかなか仕事の手を止めさせてまで切り出すことが出来ませんでした。

「コミュニケーションがうまく取れないから、俺は職人として成功したんだ。仕事は人から頭で教わるものではなく、体で覚えるものだ、俺もそうやって先輩の技を盗み取ったんだ」という本人がいつも言っている言葉に一応は納得してはいますが、それでは困ると水野さんは考えています。

なかなか頼みにくく、先送りしている間に、日にちがどんどん過ぎて行きます。
残り時間はわずか1年、このまま定年を迎えられては困ると思って、毎日のように「最後のお勤めとして、会社に貢献してほしいんですが・・」と何度も依頼するようにしました。その都度、「わかりました。努力してみます」と返事が返ってくるにもかかわらず、なかなか後輩の指導をしないこの部下に、このごろでは毎日イライラしている自分を感じています。
水野さんのイライラは仕事ぶりにも現れ始め、ちょっとしたことでも部下を叱りつけてしまうようになりました。
そんな水野さんを見かねた生産管理部長は「どうしたんだ、水野くん、最近随分イライラしてるみたいだな。水野くん、何か仕事のことで心配事があるんだったら、会社で委託しているビジネスコーチに相談してみたらどうかね?君がそんなにイライラしていると、部下との間の信頼関係が壊れるのじゃないかね?」と、注意してくれました。

水野さんは「部長こそ、自分の話をもっと聞いて、具体的なアドバイスをくれたらいいじゃないか? この問題は、会社全体の問題であり、私だけが考えるべき問題じゃないのに・・・」と、内心大きな不満を感じましたが第三者の冷静の意見を聞けば何か参考になるかもしれないと藁にもすがる思いでコーチのいる部屋を訪ねました。

「はじめまして水野さん。コーチングルームを初めてお訪ねいただきありがとうございます」にっこり笑顔のコーチを前に、水野さんは、「この人がコミュニケーションのプロなんだな。やけに愛想がいいけど、いったい何なんだ、この人は。部長が相談することを勧めたから来てみたんだが、部長から何か聞いているのかな。部長はいったい何を吹き込んだんだ?」と懐疑的な思いを抱きながら、勧められる椅子に腰を下ろしました。

「水野さんにお聞きしますが、率直に言って、今、この瞬間の出会いにどんな印象をもたれましたか?」というコーチの質問に、水野さんはドキっとしました。一瞬、自分の心を見透かされたような気がしたのです。
「はぁ、いえ、あの・・緊張しています」、嘘ではないが、自分の心の中を見透かされないようにと、自分の心がよろいをまとっていることを強く感じながら水野さんは答えました。
「そうですね。とても緊張しているみたいですね。もっとリラックスすることをお手伝いしたいのですが、何か私に出来ることはありますか?」
優しいコーチの言葉に、本当のことを言ってもいいのか?と一瞬戸惑いを見せた水野さん。これまで、職場での愚痴や相談事は、極力話さないように努めていた水野さんは、何をどう話していいのかわからなかった。と、同時に、この話をすると、部長はじめ社内にもれていくのではないかと思うと、気が気ではなく、汗ばかりが流れるように出てしまうようでした。
「・・・・・・・・・」
「初対面のコーチに『何か私に出来るものはないか』と聞かれて、何を言えばいいのかお困りのようですね。私もちょっと先を急ぎ過ぎました。私のほうから少しお話をしますね」
「社内のコーチングルーム、会社のやとったコーチということで、自分の話すことが、会社にもれるんじゃないか。会社にもれて、そんなことも一人で解決出来ないなんて、管理職としては失格だと失格者の烙印をおされて出世にも響くんじゃないかとご心配ですか?
そんな心配は無用ですよ。まず、私は人のことを別の人に面白がって話すことはしない人間です。それから、これはコーチとしての職業倫理ですが、コーチは医者や弁護士と同じように、依頼者のことを他人に話をしてはいけないものです。これは、たとえ私が会社に雇われているとしても、同じ事で水野さんの了解なしには、絶対に口外しませんから安心してください」
コーチは、コーチの職業倫理を話し、また、どんなことをテーマとしてもいいとゆっくり話すことで、水野さんをリラックスさせようと援助してくれています。

「私は、相手に対しては一生懸命にやるほうです。これは、相手が人間だろうと花だろうと同じです。土日は小さな庭でガーデニングっていうんですか?庭いじりをしてまして、花と花との間が開いていたりすると、つい寂しいだろうからと思って、その間を他の花でうめてしまうんです。花たちが小さいときはいいんですが、育ってくるとジャングルになってしまって・・・・。育つスピードも違うし、大きくなると十センチ足らずものもあれば一メーターにもなっちゃうものがあって、もうめちゃめちゃになってしまいます。注意しないとほんとうにダメですね・・・」

このごろガーデニングに凝っていて、花を見るとついつい手が伸びるが、自分を戒めないと、脈絡のない庭になってしまうと笑いながら話すコーチの姿に、水野さんは、自分も庭いじりには興味があると、いつのまにか、庭の手入れの話に体を乗り出すように話し始めました。

「そうですね。私も同じような失敗をよくやっています。蝶々がきて卵を産むようにと、バタフライガーデンっていうんですか、みかんの木を沢山植えて、蝶々の幼虫を育てていたら、近所のみかん農家の人から、あなたの所は害虫を育てているのかと怒鳴り込まれたこともありましたよ。ガーデニングも自分勝手ではダメですね」

頃合を見計らってコーチは、「水野さん、職場でこんなふうに、趣味の話で盛り上がれる部下はいますか?」と、切り込みました。

傾聴と承認に終始したコーチングセッション~コーチはクライアントに常に寄り添う~

「どうしてみんないい加減に仕事して帰っちゃうのかなぁ・・」とつぶやくように話し始める浅野さん。
「いい加減なんだよなあ、みんな。みんなのそのいい加減な仕事の後始末をする自分が一人残って仕事をするのはほんとうに辛いです」と訴えます。

コーチは、「お辛いんですね。それを今日のテーマにしますか?」と尋ねました。
「コーチングのテーマを代えてもらってもいいんですか」

「もちろんです。コーチングは浅野さんのためにやっているわけですから、浅野さんのためになるテーマを選んでコーチングをすればいいんです」
「ありがとうございます。それでは、私の辛い気持ちを何とかしていただく方向にてコーチングお願いします」

「わかりました。そうしましょう。仕事をしてて辛いとおっしゃいましたが、浅野さんは仕事をしていてどんな気持ちなんですか」
「いつも自分は最後まで一人で仕事をするんですが、どうにもやりきれないんです。答えになっているかどうかわかりませんが、この気持ちを何とかしたいです」

「そうですか、やりきれない気持ちをなんとかしたいんですね?」
「はい、そうですね」

「今日のセッションを終えたらどんな気持ちになっていたいと思いますか?」
「う~ん、今の気持ちがすっきりしてどんよりした雲がきれた感じ、満天の星空となるといいかなぁ・・」

「なるほど、満点の星空なんですね。どうして夜の空なんだろう?」
「星空を見上げたことあります?希望が湧いてくるでしょう?星って気持ちを広げてくれるじゃないですか?」

「そういえば、星空を見上げる時間ってなかなかないですねぇ。すっかり忘れていました。星の観察はお好きなんですか?」
「はい、感動しますよ。満点の空を見上げてるとね。自分がちっぽけな存在だと思います。この社会に生きていることはね」

「星空を見ていると自分の気持ちがすっきりするのですね。嫌なことは忘れて・・・」
「そうなんです。星空を見ていると落ち着くんです。だけど、朝になって会社に行くと腹が立ってイライラするんです」

「どんなとき、腹が立ってイライラするんですか?」
「メンバーや上司、誰に対してもですが、決められたことをきちんと出来ない人を見かけたときですね。これが一番キライです。そんな時イライラしてしまうんです」

「なるほど、決められたことをきちんとしない人を見ると苛立つんですね。他にはどんなときですか?」
「そうですね。他には・・」

しばらく浅野さんは考えた上、「イライラではありませんが、一人で仕事をしているときに無性にさびしくなるんです」と答えます。
「ああ、それからですね。僕が一人で仕事をして事務所に戻っても、上司はお疲れ様というだけで、どんな仕事をしてきたのか尋ねもしない。こっちは、汗水たらして、ひとりで広いグランドの整備とかしてるのに、だぁれも自分のことなど見向きもしない、そんな感じなんですよ。これじゃあ、仕事をする気力をなくすどころか、精神的に参ってしまいますよ」
と、浅野さんは、辛い気持ちをどんどん吐露してきます。

「浅野さんは今、ほんとうに辛いんですねぇ」コーチは共感する言葉を繰り返します。
「ちょっと一声かけてくれるだけでいいんです。仕事は嫌いじゃないし、しんどいなぁと思ったことはあっても、まぁ、仕事だからしょうがないと思えるし。ただ、なんていうのかなぁ・・自分一人だけが仕事をしているような気持ちにさせられることが、嫌なのかなぁ?・・」

「なるほど、浅野さんは、自分一人で仕事をしているような孤独感を感じることが嫌なんですね」
コーチは、今日のセッションでは浅野さんの気持ちを前向きには出来ないかもしれないと、感じました。

この後の時間も、浅野さんは、仕事をするためのモチベーションがどうしても上がらない、職場に行くのが辛いと、心情を訴えました。
「朝起きて仕事にいくのが億劫になってしまっています。いっそのこと休んでやろうかと思うことすらあります」
「そうだね。休んでしまいたいこともあるわね。それでそんなときはどうするんですか。思い切って休んだりしますか」

「そんなわけには行きませんよ。休んだとしても自分の担当している仕事を誰もやってくれるわけでもないので、滞ってしまって後が大変になってしまう。それに、なにより休み癖がついてしまうと、本当に会社に行かなくなってしまうような気がします。だから少しばかり熱があっても、会社は休みません」
「何があっても会社には行くわけですね」

「そうです。でも、風邪気味で熱をおして会社に出ても、誰もご苦労さんともいわないし、風邪気味なら早く帰ったほうがいいとも言ってくれない。ますます気分が滅入ってしまう」
「そんなこともあったんですか。それは辛かったでしょうね」

「そのときは本当に最悪でした。いまだかってあんなにモチベーションの下がったことはなかった」
コーチングのセッションをしていると、いつも元気で前向きな人が、急にやる気をなくしただけではなく、感情的になったり、落ち込んだりすることを経験することがあります。
こんなときは、無理やり話を進めず、徹底した傾聴と承認を繰り返しながら、共感することに重点を置いた会話を進めます。

人は誰しも、常に元気に前向きな姿勢で生きていけるものではないのでしょう。
孤独感は人を立ち止まらせます。こんなときは、コーチも一緒に立ち止まり、もう一度歩き始める気持ちを高めるための会話を進めることに徹しましょう。クライアントより早く立ち上がり歩き出さないようにすることが大事です。
クライアントの中に答えがあるわけです。クライアントの望まないほうに無理に引っ張らないことです。
コーチングは、コーチが決める結論に、無理やり引っ張るように答えを教えたり、押し付けたりすることではありません。
相手のペースで、その人が望む方向を目指して行動するように支援する。
原点を忘れないように・・・という戒めのようなセッションでした。

「入社三年目 若い人から同僚へのコーチング」~職場での不平不満を解消し、積極性を取り戻す~

「会社休みたいなぁ・・」
同僚の田中君の言葉がきっかけとなり、私はさっそくコーチングをしてみることにしました。
まだ、コーチングの基礎的な傾聴や承認、質問のスキルを習ったばかりなので、自信はありませんでした。
しかし、田中君の元気を取り戻したい一心でチャレンジしてみたのです。
田中君とは、同期入社で同じ営業所に配属になったこともあり、時間さえあえば一緒にランチをしたり、飲み会をしたりする仲でした。入社二年半。とにかくふたりとも突っ走ってきたという感じで、営業成績もいつも競い合うようにしてがんばってきました。
その田中君が、夏以降、だんだん元気がなくなってきたのです。遅刻や欠勤があるわけではありませんが、朝の挨拶や営業所から外回りに行くときや帰ってきたときなど、なんとなく挨拶に生気が無く、気にかけていた矢先「会社休みたいなぁ・・」という言葉で本人の心の中をのぞく事になりました。

「どうした?田中、会社休みたいって、何かあったのか?」
「いやぁ、おまえんとこの課長はおまえにいろいろさせてくれてるだろ? 資料作りだって、ある程度まで任せてもらっているようだし、いざってときには、課長が同行して交渉してくれているだろう?それに比べて、うちの課は、課長が絶対で、新しい資料作ったほうがいいなぁと思って指示されなくても作るだろ? そうすると、そんないらんことはしなくてもいい、お前は俺の言ったとおりの方法で売り上げさえあげてりゃいいんだって、えらい剣幕で叱られてさぁ・・。でも、資料なくて顔だけの営業って、先行き細くなる一方だと思うんだよなぁ・・」

「そうかぁ、田中は課長の言ったとおりの方法で売り上げさえあげていりゃ良いって言われることが嫌なんだね?」
「ああ、そうだね。課長たちの時代と今は違うさ。課長だって、今でこそ顔を出しさえすれば取引先がまぁしょうがないって感じで売り上げつけてくれるけど、最初からそうだったはずじゃないんだ。それなのに、自分の時のことは忘れちゃってて、俺のときは言うとおりにしろだって?それじゃ、俺は力がつかないって。何でも経験することが大事だって、社内報の社長の言葉にだって書いてあっただろう?社長が経験を大切にって言ってるのに、何で課長がそれを止めるのか?ホント!理解に苦しいよ。それで焦っちゃってさ・・・」

「そうだね。僕も読んだよ。社長の年頭所感。俺たち若手には刺激のある言葉だったよなぁ・・。ところで田中君は、どんなことに焦っているんだ?」
「え? そりゃ、このままじゃ、お前をはじめ同期のやつらと比べて経験というものが絶対に不足することや、みんなよりスキルが不足することだろうな?おれは、お前と違って、この会社にずっといるつもりは無いんだ。だから、三年間で結果を出さないと、転職の準備に入れないわけだよ。この三年間はホント重要だったのに、あんな課長の下に付いちゃって・・・。お前の課に配属されなかった俺は、つくづく不運だと思う」

「そうかぁ、田中は配属そのものさえ受け入れられない状態になっているんだね。残念だね。ところで、三年ですぐに転職活動に入るのか?」
「いや、五年間はここにいる。だけど、このままあの課長の下ではなんの経験も実績も残せず、転職には不利になるから、春の異動で動かしてもらうよう人事部にかけあってみようと思うんだ」

「すごいなぁ田中。人事部に思いを伝えるんだ。どんなふうに言おうと思うんだ?」
「え、だから、このままあの課長の下にいても何もさせてもらえないし、経験が不足するし、実績を上げられずに組織に貢献出来ないことがいやだからって、ストレートに言うさ」

「なるほど。課長の下にいても何もさせてもらえない、経験不足や組織貢献出来ないからいやだって言うんだね。人事部はなんて思うかなぁ?」
「そりゃぁもっともだって言うと思うよ。組織貢献出来ないっていうのは、痛いだろうさ」

「なるほど、そうだね。組織貢献出来ないっていうのは、こたえるだろうね。ところで、新しく異動した先では、どんなふうに組織貢献出来ると思う?」
「そりゃぁ、ばりばり仕事して、売り上げ目標、いつも一〇%超えで達成だよ」

「なるほどね、それはどんな方法で達成するの?」
「そりゃ、資料なんかもちゃんと作ったり、電話アポで見込みのあるところにだけ営業に行って効率よく動いたりだよ。つまり、今の課長とはまったく正反対のやり方をするってことさ。課長の鼻を明かしてやりたいよ」

「なるほどね。資料も作って、電話アポちゃんととって、見込みあるところだけと効率よく営業するんだね?」
「ああ、そうだよ。なにもさせなかった課長に思い知らせてやりたいなぁ」

「田中君、一つ聴いても良いかな?会社休みたいことと、異動をお願いすることと、課長の鼻を明かすことと、どんなふうに結びつくんだろう?少し、わけて整理してみようよ」
「ん??そうだな。そう言われてみると、それぞれが違うことのような気もするな。一つひとつ考えてみるよ」

ようやくここで田中君の話すスピードを止めることが出来ました。
会社を休みたいと思うのは、ただ単に自分の思い通りにならずつまらないからで、異動をお願いしたい、課長の鼻を明かしたいというのは、単なる自分の思いを通すための手段であって、何らかの根拠のある事ではないことが、この後の会話で明らかになっていきました。
入社して三年。そろそろ会社の中での自分の立場や役割が理解出来る頃になると、急に不安を覚えたり、会社が何も与えてくれていなかったのではないかと疑心暗鬼になるようです。
しかし、どんなに長く社員として働いたとしても、常に会社は個人に何かを与えてくれるわけではありません。会社にどう自分をアピールし、自分から積極的に組織とかかわろうと努力しなければ、何も変わることはないのです。
自己主張をどうしたらよいのか?そのためにどんな行動を起こし、どんな実績をあげるのか?
すべて自分で組み立てていくことが大切であると気づかなければ、早晩、会社に居場所が無くなっていくことでしょう。
入社して三年。自分の居場所を自分で見つけるためにも、コーチングは役に立つことでしょう。

進学塾の講師の山口さん 最近やる気が出ない~子供との接し方を取り戻したセッション~

進学塾の講師になって三年半。子供たちを時には叱り、時には褒めて認めて、子供たちがやる気をなくさないように必死で受験指導をしてきました。しかしながら、このごろ、マンネリ感からか毎日の生活に張りを感じず、ただただ、契約があるからやらなければならないという感じで、塾に出勤して子供たちに接しているという山口さん。このままではいけないと思って、コーチングを学習し、自らコーチングと出合ったことにより、自分自身が変わったことを楽しんでいるという同僚の村中さんのコーチングを受けてみることにしました。
村中さんは、いつもと変わらず、ソフトな語り口で山口さんに話かけました。

「山口さん、このごろ塾内で山口さんの笑顔が少なくなっていたことが、とても気になっていたんですよ。何か、悩みでも抱えているんですか?」
「え? 村中さん、気づいてくれていたんですか?やっぱり態度にもでてしまっているのかなあ。私は、正直やる気がなくなっていて、子供たちの変化や無気力サインにすら、このごろは気づいてあげられなくなってしまっているんです」

「何かあったんですか。よろしければ具体的なことを教えてください」
「この間、中間テストの結果が芳しくなかった子供の保護者の方から『中間テストの結果が思うように上がってないのは、山口先生のせいだ!子供がやる気のないことにどうして気づいてくださらなかったんですか?山口先生を信頼していたのに、こんなことが続くようだと先生を替えてもらわなければならなくなります。しっかりしてくださいよ』と、全面的に私の責任だといわんばかりの電話を受けたんです。それ以来、電話に出るのも、子供に接するのも怖くなってしまって・・・。もうどうしたら良いか、ぜんぜんわからなくなってしまったんです」

「そうですか、それは大変だったですね。ところで、山口さんは子供たちの受験について、どんなお考えをもっておられるのでしたか?」と、村中先生は、ご自分も授業準備や小テストの採点でお忙しいのに、しっかり手を止めて、山口さんとゆっくり向き合ってくれています。

山口さんの発言に対し、決して、「自分はこうしている、自分の経験はこうだ!」と押し付け
ることもなく、ときに深くうなずいたり、ときに話の続きを促すようなあいづちをうってくれたりしており、山口さんは、どんどん村中先生に自分の考えや気持ちを伝えることが出来たそうです。
「子供たちには、全員志望校に入ってもらいたいと考えています。そのために出来ることは何でもやるつもりではいるんです。また、そうしてきたつもりなんです」

「ところで山口さん、子供たちに伝えたいけど、言えないで黙っていることありますよね?」
と、唐突に村中さんに言われた山口さんは、言っても良いものか言わないほうが良いのか判断がつかず、黙っていました。村中さんは、しばらく考える時間をくれました。
しばらく沈黙が続いて、そのあと山口さんは、胸の中にしまっていることを話したほうがいいかどうか半信半疑で重い口を開きました。
「たしかに、あることはありますが、それは私と子供たちとのことであって、村中さんにお話して解決出来る問題かどうかよくわかりません」
村中さんは静かに付け加えました。

「山口さん、私を信頼してくださいというのはおこがましいかもしれません。でもね、胸につかえていることを人に話すだけでも、心はずいぶん軽くなるんですよ。でも、それはね、独り言や壁に向かって話してもすっきりはしないんです。なぜだと思いますか? 聴いてもらっているということが大切だからです」
「たしかに、さきほどの保護者からのクレームのことも村中さんにお話しをしたらすっきりしました」

「そうでしょ。子供たちも同じなんですよ。
子供たちの言葉や表情を真剣に受け取ってあげるだけでいいんですよ。真剣な思いが伝わると、子供は『めんどくせぇ・・』とは言わなくなるんですよ」
「それは分かっているんですが、どうしたら子供たちに心を開いてもらえるか、分からなくて・・・」

「子供たちはどうでしょうか。山口さんが心を開いていると感じないかぎり心を開かないんじゃないでしょうか。子供たちは、何か話すとすぐそれを親に言われるのではないかと疑心暗鬼になっているもんなんですよ」
「お互い様ってことですか。相手に心を開いてもらうためには、こちらも心を開くことということですね。頭では分かっているのですが、受験生の子供たちの前に立つと、成績というか数字だけが先に立ってしまうんです。子供たちの気持ちなど二の次にしてついハッパをかけてしまうんです。一体、どうしたらいいんでしょうか」

「そうですか。ちょっと提案してもいいですか?これから話すことをやってみるかどうかは山口さんが決めればいいことなので、ちょっと聴いて下さい」
「はい。私の参考になると思われることでしたら、何なりとお話しください」

「一度、時間を決めて、子供一人ひとりと話す時間を作って将来の夢を聴いてみたらいかがですか?五分でいいんです。やってみませんか?」と、村中さんに提案された山口さんは、「将来の夢ですか。そんなことを聴いたこともなかったです。目先の受験さえうまく行けばその先はあとで考えろなどと言ってましたから。そうですね。やってみます」と答えました。どうやら、子供たちとの接し方を見つけたようです。

受験コーチングは、難しいといいます。相手が子供であるために、目先のしたいことが先にたって計画的にものを考える習慣がついていません。将来の夢を語らせて、「それに向かっていくにはどうしたらいいと思う」と子供たちにぶつけてみることで、子供たちが前向きに受験勉強を考えるようになります。
親にすぐ連絡してしまうのではないかと不安になっており、なかなか本音を言ってもらえないこともあります。子供たちとの間に信頼関係が築けるかどうかです。真剣に対峙し誠意をもって対応することが大切になります。
山口さんが村中さんの話を素直に聴けたのも、村中さんの話しぶりなどから村中さんとの間で信頼関係が保てたからです。
どうしたらいいか困ったときには、仲間に相談して協力をあおぐ必要もあることを、村中さんはそっと教えてくれたようです。山口さんは、コーチングというもののすばらしさが少し分かったようでした。

中古車販売会社 社長の悩み~コーチングの理解を深める~

中古車販売の会社を始めて十三年。
会社はまずまず順調に進み、最初の十年間はあっという間に過ぎて行ったような気がしていたという経営者の鈴木さん。でもこのごろ何かが違うと感じ、モヤモヤしていたところ、コーチングって何かを体験する講座があると社員から参加を促されて、よくわからなかったけど何かのヒントになればと思って出席しました。

午前中のセミナーでは、「コーチングとは何か?」「コーチングはどんなときに機能するのか」「どんな成果を期待することが出来るか」など、コーチの体験談をまじえて説明され、ときおり講師が投げかけ質問をするなどして、非常に分かりやすく、コーチングに始めて接した鈴木さんにも理解しやすいものでした。コーチングというものが、どんなものかは理解したが、実践するのはどうすればいいのだろうかなどと考えながら昼食を食べました。昼食も終わり、午後からは実践練習のロールプレイングを行うことになり、講師からの「今、何かやりたいけれども、モヤモヤしていて行動に移すことが出来ない」「これまでの行動を変化させたいと思うけれども、どうしたらよいか、わからない人を募集します。ご協力いただける人はありますか?」という誘いがありました。受講生は三十名ほどいましたが、いずれも皆、講師と眼が会わないように下を向いてじっとしていました。鈴木さんも、実は最初は眼を合わせないようにしようと下をむいていましたが、「でも、せっかく参加したんだし。手ごたえを実感してみられるなら、他の人より参加した甲斐があるかもしれない」と思い直し、勇気を出して手を上げてみました。

講師は「鈴木さん、あなたの勇気に感謝します。そして、せっかく手を上げていただいたのですから、あなたが感じたいと思う達成感を得ていただけるよう、コーチングをやっていきましょう。皆さんにもご協力いただきましょう」と言われ、受講生の拍手に励まされて、登壇しました。講師にも、他の受講生にも暖かく迎え入れてもらったような気がして、心なしかわくわくした気分です。「さぁ、鈴木さん、鈴木さんの今のモヤモヤはどんなものか、1分ほどで話していただけますか?」と、講師に促され、内心1分も話せるかなぁ・・と心細く思いながらも、胸の内にあったことを話してみました。「実は、私は会社を経営しています。売上や利益などは自分が思った以上の成績が上がり、最初の十年間は、ほんとうに毎日が楽しくて楽しくて、時間の経つのもわすれて深夜まで働いていました。一生懸命働くことが苦にならなかったんです。ところが、このところ、もう三年近くなりますが、ワクワクした気持ちや、一生懸命やらなくちゃとは思うんだけれども、達成感が感じられなくて仕事に身が入っていないような気がしているんです。何か大きな不満があるわけではありません。社員も良く働いてくれるし、仕事は全部、彼らに任せても良いと思っているほどです。でも、どういったら良いのか?以前は私が商談にいたったり、新規の取引をまとめたり出来ていたのに、このごろでは、息子がインターネットのオークションとかいう方法で、中古車を仕入れたりして、どうも手ごたえというか、仕事をしているという実感がないのです。このままでは、自分の居場所が会社になくなってしまうような気がして、なんとなく、元気が出ないんです」という率直な思いを、皆さんに話しました。

講師は、「鈴木さん、ほとんど1分にまとめてくださってありがとうございます。お話しすることに慣れているのでしょうか?話すスピードコントロールがお上手ですね。私は話し始めるとあれも言わなければ・・、これも言わなければ・・と思い出して、ついつい予定の時間を超過してしまうことがあるんです。きっちりと時間通りお話になった鈴木さんを見習いたいと思います」と、皆さんの前で褒めてくださったのです。

鈴木さんは、居心地が悪いようで、さりとて、消え入りたいような気持ちにはならず、少しだけ誇らしい気持ちで、次の展開を待ち受けるほどのゆとりを感じたそうです。

それでは、「鈴木さんが自分で考え、鈴木さんの気持ちがすっきりさせるという目標のもと、皆さんで鈴木さんに一つずつの質問をしましょう」受講生全員が次々に鈴木さんに問いかけてくださいました。

「どういう会社にしようとして、今の会社をおつくりになったのですか」
「自分の好きな中古車をどこよりも安く、皆さんに提供したいと思って始めました」

「十年後にはどうしていたいですか」
「十年後には息子に仕事をゆずって好きなことをのんびりとしていたい」

「鈴木さんの好きなことって何ですか」
「・・・・絵を見たり、写真を撮ったり、旅行をしたりってとこかな」

「思い切って1ケ月休暇をとって海外旅行にいくとどうなりますか」
「私がいなかったら会社が持ちませんよ。一ヶ月なんてムリですよ・と言いたいところですが、さびしいですが私がいなければいなくてもなんとかなっちゃうんでしょうね」

「中古車が好きですか」
「はい。大好きです」

「いまどんな車にのっていますか」
「ベンツです」

「そのベンツは中古車ですか」
「いえ、新車です」

「どうして、お好きな中古車のらないのですか」
「・・・・・・・・・」

「社長としてベンツに乗りたいですか」
「自分がここまで頑張ってきた証として、ベンツに乗りたいんです」

「今の社員より私のほうが十倍売り上げてみせる。今の社員を辞めさせて私を採用しなさいと言ったらどうしますか」
「今の社員を大事にしたいと思います。でも、ほんとうに十倍売り上げてくれるとしたら、なんとか両方採用する方法はないか考えたい」

三十名ほどいる受講生は、あらゆる角度からの質問を作ってくれたので、答えられないほど意外なものがあり、ドキドキしながら黙ってしまった時間もありましたが、普段、自分ひとりでは考えきれないほどの質問が上がってくるので、とにかく誠実に答えようと考えているうちに、どんどんもやが晴れていくように心がすっきりし始めました。一人だけで物事を考えていると、いつも同じ自問自答を繰り返すだけなのですが、大勢の人のいろいろな意見を聞いたり、質問を考えたりすることは、人の思考を変えるのにとても役に立つということや、大人になっても人に褒められるということは大切なんだなぁ・・と、つくづく感じさせられるよい体験をしました。

シティホテルのベテラン課長の部下とのコーチングでの悩み~コーチとのセッションによってコーチングを通した部下育成のあり方に気づく~

仕事は、レストラン部門のうち創作イタリアンを担当しているマネージャー歴十七年目を迎えたベテラン課長の事例です。部下は正社員、派遣社員を交えて三十二名の大所帯です。
いつも不調に終わる今年入社したばかりの部下とのコーチング。不調の理由は、部下が質問にまともに答えてくれないからと考えています。何を聴いても「課長はどう思われるんですか?」「課長と同じように仕事は出来ません」と、はねつけられてばかり。人間関係も上手くいかなくなり、朝の挨拶もしてくれなくなりました。
それでも、杉田さんは自分の立場として、彼を一日も早く戦力にしないといけないと考え、機会あるごとにコーチングを行っていました。
しかしながら、最近ではあまりに進展しないコーチングのセッションを終えるたびに空しさを感じるばかりストレスもたまってやりきれなくなってしまったので、自分のコーチにテーマとして扱って欲しいと訴えました。
「いつもどんなことをテーマにコーチングしているんですか?」と、コーチはさっそく現状を明らかにしたり、杉田さんが目標としていることが何であるかに絞って質問をしたりしながら進めました。

「テーマですか、そうですね、例えばお客様満足をどう高めたらよいと思いますか? とか、お客様の視点とはどんな視点を持つことだと思う? などです」。
「そういう質問をしたのは、どういうお気持ちからですか?」とコーチは質問を続けました。

「お客様のことを自分で考えてみることが大切だと思って質問をしているのです」
「それは〝今のあなた〟がお客様を大切だと感じられているので、そういう質問をしたのですね?」

「そうです。その通りです。お客様のことを考えるのが重要だと思っているのです」
「そうですよね。お客様のことを考えるのは大切なことですよね」

「そうなんです。それなのに新入社員の部下は、私の気持ちを少しも分かろうとしないのです」
「そうですか。それは困りましたね。ところで、新入社員のころ、あなたはそういう考えを持とうと努力していましたか?」

「新入社員の頃、お客様のことを考える余裕がありましたか?」
「新入社員のころあなたが受けた指導で、今も心に残っているものは何ですか?」と、すっかり忘れていた新入社員のころの気持ちを思い出す質問を、次々に与えてくれました。

杉田さんは、コーチングを学習するとき、過去を振り返る質問よりも、今より先の未来を考える質問のほうが機能するから、過去を振り返る質問はしないほうが良いと教わり、そのことを頑なに守り続けておりましたので、コーチの質問の目的がわからず、答えがすぐには出てきませんでした。

「コーチ、私はこの先どうやっていこうかと悩んでコーチに相談しているんです。私の過去のことよりも、もっと前向きな未来に向いた質問をしていただけないでしょうか」杉田さんはコーチの質問に対し、疑問をぶつけました。

するとコーチは、そんな杉田さんの気持ちが伝わったのか「あなたは、なぜコーチの私があなたに対して過去のことを質問しているのか腑に落ちないのですね。何を目的としてコーチの私があなたにこの質問をしたかを、明らかにしても良いでしょうか?」と切り出されました。

杉田さんは、ぜひ伺いたいと考え「お願いします」と答えました。

「杉田さんは、自分の意見や感情を表さない部下に、とても大きな苛立ちを感じているようですが、杉田さんが新入社員だったころを思い出すことによって、そのときにふさわしい学習方法や目標設定があることを思い出したほうが良いのではないかと思ったのです。ベテランの杉田さんと新入社員の部下では立場も経験も違うわけで、今の杉田さんの気持ちを押し付けるのは良くないと思ったのです。過去に疑問に思ったことも解決して通り過ぎてしまうと、それが当たり前のように今は思えるわけですが、杉田さんの若い頃感じられていた気持ちと同じような気持ちを新人の方はもっているわけです。
コーチングは、馬車に乗りたいと思った人を乗せて、その人がいきたいと思うところに運んであげることが大切であるということでしたね?
でも、今、杉田さんは馬車に無理やり乗せて杉田さんの思う方向に無理やり進めているのではないか?それにご自身が気づいておられるかどうかを伺いたかったのです」ということを話してくださいました。そうです、そうだったんです。杉田さんは、ついつい、自分のペースで、自分の行きたい方向へ無理やり馬車を進めていたのです。
だからこそ、部下に『課長と同じような仕事は出来ない』と、反発されてしまったのでしょう。
そのことにコーチの話を聞いて気づいたようでした。何ゆえに、そんなに気持ちにゆとりがないのか?
コーチは、杉田さんの急ぐ気持ちを整理するセッションを行いました。
杉田さんは、知らず知らずのうちに、新入社員に一人前の人手を求めてしまっていて、彼の不安な気持ちに気づかず、これから自分がどんなふうにキャリア形成したらよいのか考える機会を奪ってしまっていたようです。
日常業務に追われている、新人の教育はめんどうばかりが多くて仕事が増えたという想いだけが先走っていて、自分の本来の仕事に専念するために1日でも早く一人前の戦力としたいと思って、新入社員の部下のためではなく、杉田さん本人のために部下にコーチングしていたことに気づいた杉田さんは、あせらないで一歩一歩やっていこうと思いました。
新入社員の部下から朝の挨拶をするのが、ビジネスマナー、そんなことも体験で覚えさせないといけないと思って、自分からは挨拶をしていませんでしたが、翌日早速、今までにない穏やかな笑顔で「おはよう」と言いました。そうすると、今まで横を向いてろくに挨拶をしてくれなかった新入社員の部下が、杉田さんのほうを向いてにこやかに「おはようございます」と挨拶を返してくれたそうです。

「今日、1日をこのホテルで君はどんなことをしていきたいと思いますか」笑顔で話す杉田さんに、新入社員の部下は「今日は、1日、杉田さんのアシスタントで、お客様のもてなし方を学びたいと思います。私も早く一人前になりたいので、よろしくお願いいたします」

杉田さんはちょっとしたきっかけにて、新入社員の部下と一体となって働けることに気づきました。

昇格して先がわからなくなった店長の悩み~コーチングを通して気持ちを整理し、目標達成をイメージする~

今から十年後には、あなたはどんな人として、社会で活躍していますか?
と問われたセミナーの帰り道、改めて近藤さんは自分のことを考えてみたそうです。
近藤さんは、大学生活を終えて以来、スポーツ用品店の販売員としてキャリアを積み上げていました。途中一度、更に大きなショップの店長を目指して同じ業界の別のグループ会社に転職を成功させ、着実に夢を実現してきました。
新しいショップでは、副店長として採用され、会社が必要とする以上の実績を上げることによって、販売実績もマネジメント能力も、ある一定の評価は得ていました。
いよいよ店長として昇格が決まり、全国販売コンクール優勝の売り上げ実績をつくり、社員教育プランも自ら率先して計画し実行する、自立型人材として働いていました。しかし店長となったとたんに、何かが違うような気がして、急にやる気にならなくなってしまったそうです。
近藤さんは、人材育成にコーチングを早くから取り入れており、自らもコーチングを受けていたので、セッション(会話)のテーマに取り上げて、このもやもやした状態から早く脱しようと思いました。

「近藤さん、あなたの人生という山の頂上から今を見つめてみると、何合目辺りにいると感じていますか?」
という質問に、近藤さんは「まだ、三合目当たりだと思います。いずれは売れるショップ作りを目指す経営者の支援が出来るコンサルタントになることが、頂上の制覇ですから・・」と、答えた近藤さんに対し、コーチは静かに言われたそうです。

「近藤さん、一つの目標の達成は、通過点でしかないんですよ。頂上から見下ろして考えてみましょう。そうすると、二合目への山登りもたしかにきつかったと思います。しかし、それは三合目へのスタートでもあると思いますがいかがですか?」
「近藤さんは、三合目を制覇されたのですが、頂上制覇という大きな目標をお持ちなわけで、それを今あきらめようとは思われていないですよね。四合目、五合目と着実に頂上制覇に向かっていかれることと思います」

「それでは、四合目を制覇したときはどんな気持ちでその日を迎えるのでしょうか?」
「そのとき、近藤さんが手にしているものは何ですか?」

「その次は五合目、六合目・・・そしていよいよ頂上制覇ですね」
「誰と一緒に頂上に立っていますか?」

「頂上制覇したときの気持ちはどんな気持ちでしょうか?」
など、次々にコーチとのセッションが進んでいきました。
「コーチ、明日からの新しいスタートを切るために、明日の朝礼では新しい目標をみんなに宣言しようと思います!」

三十分後、近藤さんはコーチに思い切り大きな声でコミットメントされたそうです。
未来日記を完成させたスッキリ感と、必ず達成出来るという自信にあふれ近藤さんは足取り軽く、帰ったそうです。

後継者に悩むマネージャー~現状把握のための点数化で、後継者の姿を見つける~

残すところ定年まであと八年。
私のチームには、十名の社員がいますが、正社員は三名しかおらず、誰かを後継者として決定し、マネージメントを任せなければならないのですが、一応にみんな大人しく、三名ともに家庭生活を第一におき、残業などせずに終業時間がくるとすぐに帰宅してしまう始末、昇進や昇格は望んでいるとは思えない人材ばかりで、彼らのうち一人に自分のあとをまかせられるんだろうかと気持ちがふさいでいました。
ある日、人事部長である取締役と昼食をご一緒することになったので、山本人事部長に率直に胸のうちを明かしてみようと思いましたが、なかなか勇気が出ず、何となく上の空で食事をしておりました。
すると、山本人事部長から、
「木部君、最近元気がないようだけど、何か悩み事でもあるのか?」と質問を受けました。

どうしようかと迷いながらも、自分のもやもやしていた気持ちを率直に話してみました。

「部長もご存知のように、私の会社人生も先が見えて来ました。そろそろ後継者の準備に入らなければ、いけないと思うのですが、三人とも仕事に対する態度が今ひとつで、私が残業していても、さっさと帰ってしまう連中ばかりで私のあとがまかせるかどうかとても不安です。そういった連中から一人を選ぶことなど到底出来ません」

「なるほど。それは難しい問題だね。それであなたはどのように考えていますか」

「なんとか、彼らのいい点を見つけようと思うのですが、それぞれの満足出来ないことばかりが目に付いてしまうのです。どうしたらいいんでしょうか」

山本人事部長は、「ひとつアドバイスをしてみてもいいかな」と言われました。

「はい。何かいい方法がありましたら、参考にしますのでアドバイスよろしくお願いします」

私がそう答えて、山本人事部長から
「三名の仕事振りや業績など、項目を決めて点数をつけてみたらどうだ?」と、アドバイスを受けたのです。
さっそく、三名を公平に扱うために、マネージャーとして受け継いで欲しい資質や行動などの項目を決めて、点数を付けてみると、はっきり後継者の姿が見えたのです。
ついつい、悪いところや足らないところにばかり目を向けていたため、どれもみんなどんぐりの背比べのようになっていたのですが、現状を把握するための点数付けは、自分の気持ちを整理するのに、とても役に立ったのです。
山本人事部長から、コーチングを学習されていると聞かされたのは、その後お礼と報告を兼ねて昼食にお誘いしたときでした。
知らず知らずのうちに、自分の気持ちを整理出来るコーチングの威力と、山本人事部長に話してよかったという満足をたっぷり味わうことが出来ました。

若女将の苦悩~リーダーシップについて考え、自己啓発の重要性に気づかせる~

旅館に嫁いで一〇年になる妙子さん。1年前、大女将が急逝し、妙子さんはご主人とともに名実ともに旅館を支える立場になり、がむしゃらに仕事をしました。
妙子さんは、大女将に仕込まれただけあって、品も良く、気働きの出来る若女将としてお客様には評判上場で、最初は上手くいっている様に見えたそうです。
ところが、若女将が一人で奮闘すればするほど、仲居さんや板場(調理場)と上手くいかなくなり、若女将にはついていけないと、とうとう、仲居が何人もまとめて辞めるという事態を招いてしまいました。ご主人に相談しようにも、組合事務所に出かけることが多いご主人とゆっくり話す時間もなく、仲居頭も疲弊している姿を見て、妙子さんは、涙ながらにコーチに訴えました。

「もう、限界です。私じゃダメだったんですね・・・私一人が浮き上がっていて、私さえいなければうまくいくんです。私が家を出れば、やめるといっている仲居もとどまってくれるようですから・・・明日、実家に帰ろうと思います」
「うん・・妙子さん、気持ちをまず、穏やかにするためにコーヒーでも飲みましょう」

「はい・・ありがとうございます。でも、いいんですか?コーチ、お忙しいんでしょう?私のために、時間を延長してしまうと、後のお仕事に差し支えますでしょう?」
「あなたは、優しい人ですね。こんなときさえ、私の心配をしてくださる。あなたの心、どうして仲居さんたちに伝わらないのでしょう。ほんとうにお家を出る決心なんですね」

「それしかないと思って・・」
「他に方法がないとお考えなんですよね?」

「はい、仲居頭と仲居たちは仲良くやっているんですから、何も心配はないと思います」
「仲居頭の陽子さんとは、ゆっくり話し合ったんですよね?」

「はい、私は、お客様のことしか見えてない。大女将は旅館を支える社員にも目配りが出来ていたけれども、私は、お客様の満足のことだけしか考えてなくて、社員に無理をさせすぎたって言われました。1年もたてば、疲弊してしまうのは、しょうがないかもしれないって・・・」
「大女将と一緒に九年間働いていらっしゃって、お客様をもてなすという女将の仕事は理解出来たけれども、社員のマネジメントが出来なかったということですか?」

「うん・・・そうですね。でも、大女将はお客様のことを何より大切にしなさいと口癖のようにいっていたし、私には、いつもお客様のお相手を最優先させてくれていて・・・。数ある旅館から私どもを選んでくださっているんだから、精一杯のおもてなしをしなさいと」
「妙子さん以外のひと達も、お客様に精一杯のおもてなしをしていますよね?」

「それはそうです。仲居さんは仲居さんの立場で、精一杯やってくれています。私が自らお客様のお世話をしますから、みんな、それを見て一緒の気持ちでお客さんへの精一杯のおもてないしをやってくれているもんだと思っていたんです。それが、若女将がいたんでは辞めさせていただきますだなんて・・・・」
「大女将は、後方でどんな仕事をなさっていたか、覚えていますか?」

「え?後方で?帳場でですか?」
「いえ、そうじゃなくて・・お客様のお相手を妙子さんに任せている時間、仲居さんたちとの係わりかたや、板場への心遣いとか・・」

「さあ・・・私、自分のことだけで一生懸命だったから・・」
「ちょっときついことを言いますけど、よろしいでしょうか」

「はい、私のためになることでしたら、何なりとおっしゃってください」
「妙子さんは、九年間何を見ていたんですか。大女将という素晴らしいお手本がありながら、何も見ていなかったんですか?」

「そうですね。私大女将のことを何にも見ていなかったんですね」
「そんなふうにご自身を責めても何も解決はしないですよ。妙子さんがお家を出ること以外に方法はないのでしょうか?」

「他の方法ですか?」
「はい、他の方法で妙子さんが出来ることがいいでしょう」

「何が出来るんでしょう・・・いつも、大女将がいてくれたし。私、一〇年たっても何も一人でしたことがなかったのかしら?」
「何もないわけじゃないけれども、いつも誰かに守られながら過ごしていたことに気づけただけでも良かったんじゃないですか?」

「そうですね。至らない私をお(義)母さんがカバーしてくれていたんです。だから、お客様のことだけ考えて仕事をしていればよかったんです。どうしたらいいのかしら?」
「お一人で頑張れないなら、誰かの手を貸していただけばいいんじゃないですか?」

「え?陽子さんに迷惑をかけるわ・・」
「もし誰かがあなたに助けを求めてきたとしたら、どのように感じますか」

「そうですね、助けを求めてこられると自分を頼っている、自分を信頼してくれている、この人のために手助けしてあげようって思います」
「それに、陽子さんは、マネジメントをする役割もあるんじゃないですか?仲居頭さんなんでしょ。仲居頭というのは、仲居さんたちのヘッドであるわけでしょう?それならば、リーダーの役割を果たしてもらってもいいのじゃありませんか?」

「はぁ・・・そうですか・・・あの、リーダーというのはどういう仕事をすればよいのでしょうか?」
「リーダーの仕事はたくさんあると思いますが、マネジメントは仕事の一つでしょう。仲居さんたちとコミュニケーションをとって、現場の意見を吸い上げて、妙子さんと改善点を相談するとか」

「私、リーダーは率先して仕事をするものだと思っていて・・」
「そうですね。いろいろ考えてみなければいけないですね。妙子さんが考えるヒントを差し上げてみましょうか」

「はい、お願いします」
「妙子さんは板場のことは板長さんに任せていますよね。板長さんは板場のリーダーとしてリーダーシップを発揮して板場をまとめていますよね」

「確かに、板場は板長さんに任せています。板長さんにもその辺のことを聞いてみようかしら・・・」
「これから、いろんな人に聞いて、もう一度、お勉強してみたらいかがですか?」

「いいんでしょうか?私が残っても。ただ一つ仏様のことだけが心配で。啓二さんは、ご先祖様の日々の供養をしたことがなくて心配がたくさんあって・・」
「お家を出ることよりも、出ないでどうするかということを、もう一度、ご主人と話し合われたらどうでしょうか?」

「そうですね。学校を下りてからのほうの勉強は大変ですね。頑張らなくちゃ!」

明日、旅館をでて実家に帰ると言われているので、少し厳しい質問もしてみました。時間との勝負の中で、自分の結論を決めているクライアントへのコーチングの事例です。
ある日突然、リーダーになっても良いように、必要な自己啓発に努めることが大切でしょう。

上司の手腕でやる気の戻った中堅社員~承認上手な上司との出逢いによって気持ちが変るクライアント~

褒め上手な上司になって、やる気が戻った中堅社員の実例をご紹介しましょう。
商社に入社して六年目の佐伯さんは、このごろ仕事に対する意欲が低下しており、いっそのこと転職しようかと考えてみたもののどんな仕事が自分にふさわしいのかも分からず、とりあえず仕事はお金を稼ぐためと割り切って毎日を過ごしていました。
しかし、そうとはいっても、どうせ働くなら仕事にやりがいを感じたいと思い、頻繁にキャリア・カウンセリングルームに通うようになりました。
キャリア・カウンセラーに話を聴いてもらうことは、気持ちを穏やかにするには効果がありましたが、何か物足らないものを感じていました。そこで佐伯さんは、思い切ってコーチと話す時間を持つことにしました。コーチングを受けるようになって、半年たった頃、突然、上司が変わりました。

「佐伯さん、新しい上司との係わりは上手く出来ていますか?」
「はい、上司が仕事内容に不慣れなせいか、とにかくよく話しかけてくれるんです。これまでの上司は、いつも不機嫌そうな顔をしていたから、こちらから話しかけると怒られそうで話などしなかったんです。年度初めに課の方針を出して、それを忠実に遂行することを求められていました。個々の案件については、特に説明を求められるわけでもなく、やりやすい反面、どのように評価されているのかもわからず、モチベーションを保つのがやっとでした。
今の上司は、とにかくどんなことでも意見を求めてコンセンサスをとるように、話しかけてくれるんです」

「そんなときの佐伯さんの気持ちは?」
「嬉しい反面、そんな小さなこと、いちいち気にするのかよ?っていうときもあります」

「なるほど、嬉しくもあり、うざったくもあり・・っていう感じですか?」
「そうですね。うざったいんだけど、でも、話しかけてもらいたいんだよね・・」

「うん・・どうしてでしょうか?」
「なんでかな?」

「話しかけられるときって、どんな感じの会話になるんですか?」
「たとえば、昨日は、メールで問い合わせていたことで、すでに返信してもらっていたのに、廊下ですれ違ったとき、『佐伯君、メールありがとう。気がつかなかったから教えてもらえて助かったよ。直接返事しなくて申し訳ない。時間がなかったからメールでの返信で勘弁してもらったよ』なんて、わざわざ説明してくれて・・
そんなふうにちゃんと対応してもらえると、嬉しい気がして、また、この人のために気づいたことをメールしてもいいんだって感じたなぁ」

「なるほど、佐伯さんとのメールのやり取りを、廊下で改めて言葉にしてもらえた。それが嬉しかったんだろうか?」
「そうなんだろうなぁ・・何か、すっごく自分を大切にしてくれているような感覚になったんだよなぁ」

「なるほど、佐伯さんは大切にしてもらったという感覚になったわけですね」
「そう、いつもこの上司はこんな調子なんだ。どうでもいいようなメールにでも、メール開封しましたとか、メールありがとうとか、すぐに返信してくれるから、読んだか読まないか、すぐ分かるし、指示をされるときも、なんか嫌じゃないんだよなぁ・・」

「指示をされるときは、どんな具合?」
「目標とか、目的とか、必ず教えてくれる。それから、やり方をどうするか、必ず指示されたときその場で確認されるんだ。だから、ちゃんと考えなきゃまずいぞ!って思って、その場ですぐに考えるから、行動に移しやすくなる」

「コミュニケーションをとるのが上手いのかな?」
「そうなんです。コミュニケーションをとるのがすごくうまい気がする」

「行動の結果については、どうなの。前の上司のように任せっぱなしであまり口をださないの?」
「それが、結果についての確認もきちんとされる。細かく説明させられるから、勘弁してよって思うときもあるけど、結果について必ずジャッジしてくれるので分かりやすいし、上司を通して会社との一体感もでるんです」

「なるほど、部下に会社との一体感を感じさせるのは、すごい人だね。仕事のやり方、部下との接し方がよく分かっている人ってことかな?」
「それだけじゃない気がする。なんていうのかな、褒め上手っていうか、認めてくれてる気がするんだ」

「認めてもらっている感じがするんだね」
「そうですね、自分の仕事に対する考え方とか、姿勢とかも含めて、認めてくれてるんだ。間違ったときも、前の上司みたいに、頭ごなしに怒鳴らず、どうしてそうなったかという原因を探ったり、工夫したほうがいいことは何かと、一緒に考えてくれている気がする」

「なるほどね、佐伯さんの存在を認めてくれているんですね」
「そうなんです。私の存在を認めてもらっているんです」

「上司に自分の存在を認めてもらっているってどんな感じがしますか?」
「とても充実した毎日を送っています」

「それはよかったですね。話しっぷりも前より明るくなりましたよ」
「コーチ、この間話していた転職の事なんだけど、しばらくこの上司の間は、この職場で頑張ろうと思うんです。この職場では、まだまだ、やりたいことがないわけじゃなかったわけだし、転職しようにも、商社マンだった自分の魅力って何か、ぜんぜん分からないし。当分、この会社でどうしたらいいかを考えたくなったんですけど、いいですか?」

「もちろんです。コーチングは佐伯さんのためにしているわけです。転職がテーマの時には、その方向でコーチングしますし、現在の職場でのモチベーションの維持・向上がテーマのときには、その方向でコーチングします。コーチングは、佐伯さんの気持ちを更に高めるため行うわけですから、コーチとして今後も支援させてください」

いつもいつも、コーチングのスキルを身につけている上司に出会うわけではありません。こんなにタイミングよく、出会えるチャンスもなかなかめぐってはこないでしょう。
しかし、上司のコミュニケーションスキルによって、部下はこんなにも働き甲斐に満ちた生活が出来ることを知っていただければ、自己啓発の大切さや、コミュニケーションを大事にしようと、改めて考えていただけるのではないでしょうか?

定年退職後の再雇用者へのコーチング~コーチングの方向を決めるスタート間際のコーチングの組み立て方~

定年退職後の再雇用を希望し再雇用となって七ヶ月、とうとう、退職を決断した山下さんのコーチングです。
勤続約四〇年の大ベテランの彼女は、この事務所は彼女で回っているという評価に誇りを持って、仕事をしていました。
まもなく定年という歳を迎えた頃、親会社から送り込まれてきた上司は、そもそも女性が男性に伍して実力を発揮して定年まで仕事をするのはいかがなものかと考えている人物で、女性のベテラン社員の存在が目障りなのか、若い女子社員を煽ってみたり、お局は困る・・と、自分が被害者のように振舞うようになり、職場は、早晩、行き詰まりを見せ、仕事に支障をきたすようになりました。
山下さんからコーチングの希望を受けた当初の職場環境は、殺伐としており、本人も、これまでの自分の評価を、どんなふうに受け止めたらいいか、自信喪失な中での出会いでした。

「山下さん、始めまして。今日は、山下さんが、『今』話したいと思うことを話していただきましょう。どんなことでもいいのでお願いします」
「うん・・定年退職後、希望して再雇用してもらいました。でも、その判断が間違っていたかもしれないと、今は後悔しています」

「なるほど・・・」
「仕事は楽しかったし、ほかにするべきことが見当たらないくらい、これまでは仕事中心に生活してきたからです。夫は、三年前に定年退職しました。教員だったので再雇用はありません。今は非常勤で塾講師と、ボランティアで、郷土史の資料まとめを手伝っています」

「ほう・・ご主人は、現役の頃のキャリアを生かして、新たな仕事をして報酬を得る経済活動を維持する反面、ボランティアで生涯の仕事をしているわけですね?」
「はい、趣味人で、現役時代から、さまざまなことに興味をもっていて、生涯学習のセミナーを受講したり、いろいろな活動をしていました」

「なるほど、だから、仕事を終えることも躊躇がなかったんでしょうかなぁ?」
「はい、今にして思えば、そうだった気がします。でも、教員時代は子育ても家のことも全部私任せで、ずいぶん勝手な人だと、恨んでいました」

「なるほどね。ところで、ご主人が今、お好きな自分の人生を歩いていることに、山下さんはどうかかわったんですか?」
「彼が勉強しやすいように、日曜日でも子供たちを連れて出かけるのも私。授業参観や学校行事も全部私がしてきたんです。でも、感謝されることもなく、私の存在って、いつもそんな感じなんです」

「人を支えているのに、それを評価されていない感じがするの?」
「はい、一度も認められたことがない。感謝もない」

「なるほど、さびしい気持ちがしたんですね」
「はい、さびしいと言うか、怒りかもしれません」

「怒りだったんですね?」
「はい、そうです。あの人に負けたくないという気持ちが強くありましたね。人として、家族も大事に出来ないなんて、最低だと思った頃から、子育ても、家庭内のことも、全部自分でやらなくちゃダメなんだと、覚悟したように思います」

「なるほど、それだけ家庭内に気持ちが向いていらしたのに、その気持ちが外に向かわれたのには、何かきっかけがあったんですか?」
「うん・・・子供たちも小学校高学年になって、だんだん、帰る時間が遅くなってきたから、私も子供たちが帰るまでなら、働いて、あの人に負けないようにしようと思ったということもあります。あと、子供の学費がたくさんかかることを予想して・・かなぁ?」

「昔の気持ちを振り返りたいわけじゃないんです。が、働くことの意義を知りたいんです。山下さんにとって、働くということはどんな意味があったんですか?」
「うん・・・私も社会の・・、人の役に立っているということを自分自身で感じたかったんですね」

「お子さんたちの評価ではなくて、社会からの評価を受けたかったということですか?」
「うん、評価?なのかな?実感がほしかったんですね。だから、仕事には全力投球してきました。完璧でなければならないと思っていたし、先輩職員が出来ることなら私も出来るようにならなくちゃと思って、遅くまでかかっても、必ず与えられた仕事は仕上げたし」

「そんな山下さんの姿を、上司はどう見ておられましたか?」
「え?それは、がんばってるって見てくれてたんじゃないですか?」

「今、一緒にいる人たちは?どうとらえているか、話し合ったことはありますか?」
「いえ、私の再雇用契約は、1年ごとに更新するかどうかを考える仕組みなので、来年、契約更新されなくても、若い人たちが困らないようにと思って、急いで教え込んでいるから、ちょっと厳しいかも知れません」

「なるほどね、仕事は完璧でなくてはならない・・・という考え方でしたら、若い人の仕事は、手落ちばかりに感じられますか?」
「正直言ってそんな気がしています。とにかく不安です」

「ところで、そういう山下さんの気持ちを、上司はどう判断していますか?」
「そこなんです・・・若い人のやる気をなくさせているとか、邪魔になっているとか感じないのか?と詰問されて、このごろでは、私ってどんな存在なんだろうって、だんだん、自信も元気もなくなってしまって・・」

「コーチングの目標は、契約満了をもってやめるために、今後どういう仕事をすればよいかにするということでよろしいでしょうか?」
「はい、何とか、最後の半年は逃げ出したくないんです。負けなくないんです。男なんて、ずるいばかりですからねぇ・・。男たちは細かい仕事も出来ないし、やる気もないし」

「承知しました。今日、ここまで話されて、どんなお気持ちですか?」
「すっきりということはないけれども、こんなにしっかりお話聴いてもらってよかったなって思います」

「来週までに、あなたがすべきことがあれば教えていただけますか?」
「はい、まずは、辞める気持ちがあることを忘れないようにするために、デスクに、カウントダウン表をはさむことでしょうかねぇ・・でも、伝えてあげたいことはたくさんあるから、その整理とか」

「どんな方法で整理するかも含めて考えて、対処してみてください。よろしくお願いします」
「ありがとうございました」

彼女の中に男性に対する偏見があることに気づかせたい、あなたが他の職員からどう受け止められているか、冷静に考えさせてあげたい。
人は、自分の姿には、なかなか気づけないものです。鏡を良く見ても、行動や思考までは移りません。
せめて、コーチが、その鏡となってあげることが出来ればと思いました。

転職希望者へのコーチング~自分の気持ちに気づかせるためのセッション~

サービス業に従事して一五年。これまで一貫して販売の仕事を選ん出来た藤田さん。四〇歳を目前に控え、自分の将来を考えることが多くなりました。
販売実績は常に上位にあり、精力的に店舗を運営し、業務改善、人材育成、採用などの分野において、他の模範とされることが多く、実行力のある社員として重宝がられてきました。
藤田さん自身も、会社は同族会社の中小企業であってもやりがいがある。そこそこ、努力が認められれば、自分も役員を目指せると今までは思ってきたそうです。しかし、社長が代わり、新社長の考えが自分とは合わず、このごろは、部長の態度も変わりはじめ、見切りをつけた社員は退職を始めたそうです。藤田さんもこのまま会社に残って、本当に生き残れるか真剣に考えたほうがいいと、辞めた同僚からアドバイスを受けて以来、自分の将来について考えてきたそうです。
転職すべきかどうかをテーマに、コーチングのセッションを始めて五回目に、やっと自分の気持ちを素直に受け入れた藤田さんとのセッションです。

「お疲れ様です。今日もぎりぎりまで、お仕事から離れることが出来なかったのですか?」
「はい、転職しようかと迷っている自分の気持ちは、自分の問題であり、それはそれとして、会社で仕事している以上、会社では今までどおりの成果を挙げなければならないと思っています。だから、率先垂範で自分がまずは動くことで手本を見せようと思っています」

「なるほど、ビジネスパーソンとしての誇りをもっておられることを感じます。ところで、転職先について、前回、絞込みをしてみてくださいという宿題をお出ししていたと思いますが、いかがですか?」
「はい、やはり、中小企業診断士を目指そうと思います。その足がかりに、異業種への転職を果たし、その仕事をしている間に資格を取ろうと思います」

「そうですか。異業種の・・と、前回もお話の中で伺いましたが、具体的には、どんな業種へ転職しようと思われましたか?」
「はい、これまでの経験の転用が可能だと思い、医療器具メーカーにします」

「医療器具メーカーですね? 理由を伺ってもよろしいですか?」
「はい、医療の分野は、今後の超高齢化を考えれば、ますます需要が高くなると思います。そうなれば、当然、医療器具の開発も盛んになることでしょうし、その営業は、熾烈を極めると思います。これまでは、販売していたものが、スポーツ用品だったり、洋服、雑貨だったりしたわけですが、今後は、医療器具を販売しながら病院の経営などを勉強し、病院経営のコンサルティングも出来るようにしていきたいと考えたからです」

「なるほど、病院経営を勉強するためにも、医療器具メーカーの社員となって、病院経営に関する情報収集をしたり、相談に乗ったりしたいということなのですね?」
「はい、効率よく会社を運営した経験を転用すれば、それは可能だという自論を仮説に基づいて検証してみたいと思いました。経営コンサルタントとして、どんな領域でも仕事が請けられるようにしたいということです」

「なるほど、そのためには、資格はもちろん、実務経験が必要だとお考えになったのですね」
「はい、ですから、今後は三~四年に一度、戦略的に転職をして、さまざまな分野の仕事を経験しながら、コンサルテーションの種を見つけていこうと思います。机上論ではない、実務経験に基づいた指導やアドバイスが出来るようであれば、社外取締役のように重用されるのではないでしょうか?」

「なるほど、そうすると、独立までに何年の計画をもっておられるのでしょうか?」
「今、四〇歳と仮定して、六〇歳が独立の年。二〇年間で、六・七の実務を経験出来ますね。その分、専門領域の広いコンサルタントになれると思うんです。今の会社の経営コンサルタントは、新社長にいろいろなアドバイスをしているようですが、現場を預かる自分たちからしたら、ずいぶん、現実的ではない指導があると感じているんです。経営コンサルタントとしては有名な人らしいですが、うちの会社にはこれまでの伝統や社内風土があって、すぐに変化させられないという事情があります。それに、現場を知っているのは、自分のような店長たちです。自分たちの意見も聞かずに一方的に指示されても、受け入れられないことはたくさんあるんです。だからこそ、自分は、実務を経験し、一線の視点でコンサルティング出来る人を目指そうと思ったんです」

「転職し、新たな環境の中で、資格取得を目指すということは、とても大変だと思いますが、両立させるための心構えは出来ましたか?」
「はい、時間をうまく分けようと思います。休日出勤はせず、残業も控えてビジネススクールに通う時間を確保しようと思います」

「新しく入ろうとしている医療器具メーカーの実情をお調べになりましたか?」
「いいえ、でも、どこの会社だって、今は長時間労働を控えようという動きがあるはずですし、残業は習慣化しているだけなので、自分は入ったときから残業はしない人だというイメージを作れば、さほど苦しい思いをしなくても帰れると思います」

「うん・・・藤田さん、一つ、今、感じていることを申し上げてもよろしいですか?」
「はい・・」

「正直申し上げて、今の職場への怨嗟が転職したいという気持ちになっていると思います。医療器具の販売は、ますます熾烈化しており、業界全体が厳しい競争をしています。残業をしないで帰るというのは現実的ではありません。もっと業界研究をしなければ、早晩、早期離職に追い込まれてしまいますし、経営コンサルタントになるために、報酬をいただきながら、自論をまとめる検証をするという姿勢では、同僚や先輩とうまくコミュニケーションが取れなくなると思いますがいかがでしょうか?あなたが医療器具メーカーの社長さんだとしたら、そんな腰掛的な人を採用しようと思いますか」
「・・・・」

「どうぞ、ゆっくりお考えください。厳しいことを申し上げますが、転職は今後の人生をどう描くかにおいて重要な要素です。一時の感情や考えで結論を出さないほうが良いと私は考えます」
「・・・たしかに、認められなくなって悔しいという気持ちが強くて・・」

うつむいたきり、藤田さんが沈黙を続けたので、セッションを早めに切り上げ、次回セッションの日時を確認して終了しました。
自分の気持ちを晴らすために転職しようとしていることに気づかせようとコーチングを組み立てました。
当事者は、常に自分のことで精一杯になります。コーチは、その気持ちを受容し承認しながらも、常に冷静に、客観的な立場で、社会的に考えるとどう見えるのか?と伝え、新たな考えを持つ視点を与えるという重要な役割を果たします。
厳しい意見を伝えるには勇気がいりますが、クライアントの良き理解者であり、良き支援者であるために、恐れず行動することが大切です。

女性の仕事ぶりについての悩み~テーマどおりに進められないセッションの組み立て方~

下着販売メーカーの人事係長村瀬さんは、家事・育児と仕事を両立させているスーパーレディで、これまでも大勢の女性社員のよき相談相手になっていました。全国各地を飛び回るハードな仕事ですが、村瀬さんはいつ眠っているんだろうかと同僚が心配するくらい、精力的に活動し職務に励んでいました。
そんな村瀬さんのコーチングセッションは、いつもは、合理的に行動するための計画や、目標・目的確認をテーマに行っていますが、今日は少し様子が違います。

「めずらしく気分が沈んでいるようにお見受けしますが、私が少し村瀬さんの感情に過敏なだけですか?」
「ソフトに忍び寄ってくる影・・って感じですね。コーチの心が寄り添うこの瞬間にほっと救われます」

「ありがとう、今までの経験から申し上げますが、村瀬さんが叙情的な言葉を出すときは、たいてい大きな悩みを抱えたときだと思いますが、今感じられているのはどんな悩みですか?」
「え?私ってそんなに分かりやすいですか?」

「ええ、申し訳ないけど、少なくとも私の前では、とてもいつもご自分に正直でいらっしゃるように感じています」
「なんでも見ているんですねぇ」

「そしてもう一つ、村瀬さんは、言いたいことはあるけれどもはっきり表現していいかどうか迷うときには、いつも話を遠回しにし始める。これも、村瀬さんのコミュニケートの癖ですね」
「うん・・今日はなんだかコーチがどんどん攻めてくるような気がします」

「ああ、それは申し訳ない。そんなつもりはないんですが。ところで、今日はどんなテーマでこの時間を過ごしましょうか?」
「女性として自分の仕事を追及したいという気持ちが高い人は多いけど、なんとなく、ご主人や子供を言い訳に曖昧にというか、甘えて仕事している人がこのごろ増えてきていて、こういう人達に対してどういうふうに意識を変えさせたらいいのかなぁと思って」

「うん、女性が仕事を続ける難しさを感じているんですか?」
「いえ、女性自身が甘えているのが気になるんです」

「うん、なるほど」
「実際、女性が仕事をするとなると、たくさんの障害がありますでしょ? 子供が急に病気になると保育園や学校に迎えに行くとか、家事は主婦がして当たり前とか。夫が働くことに賛成しないとか」

「そうだね、現実はやはり女性は家事と育児に専念してもらい、男が稼げばいいという考えはありますね」
「コーチもそうなんですか?奥さんを『働かせたくない派』ですか?」

「いや、我が家は妻もコーチ兼社労士として仕事をしていますから、お互い自宅の部屋の事務所にこもったままで、顔を合わせないことが多いですよ。夕方になって、子供たちが戻る頃、夕飯の支度に降りてきて始めて、あれ?今日はいたの?と言って、怒らせたこともあったくらいだからね」
「奥様は幸せですね。仕事に全力投球出来る」

「でも、私は不自由するときがあるし、料理もさせられるし。大変だよ」
「やっぱりコーチも、させられるという言い方になるんですね」

「ああ、うっかり。どうしても家事は女性の仕事だという概念が捨てられない。だけど、私は彼女が出張だったりすれば、子供たちの食事の面倒は見ますよ」
「代理店の女性は、主婦が多いんですが、みんな、入るときは社会とつながっていたいというんです。ところが、半年もたつと元気がなくなってくるんです。やれ子供の病気だ、父母会だと言い訳して仕事を中断するし、たとえ、売り上げが上がらなくてもその理由をほかに求めようとする。職場で事務処理しているかと思えば、だんなの悪口三昧。『やれ協力しない』とか、『うるさいことばかり言われて働く気がなくなる』とか。仕事をすることで自分の人生を豊かに出来るけど、家族という枠の中で、家族というチームのメンバーだけど社会に出るわけだから、それなりの工夫や協力を取り付けたり、ルールを作ればいいと思うんです。現実にはそんな物分りのいい旦那なんかいないし、子供も大きくなればなるほど手伝わなくなるし。与えられることよりも、工夫して自ら行動して欲しいんだけど・・」

「うん、耳が痛い。世の女性がみんな村瀬さんのように自立した女性になると、男はもっとなまけものになってしまうかもしれないな」
「みんなに言われるんです。村瀬さんは特別って。私は特別じゃないと思うんです。
はなから私を特別だと思っているから、みんな、努力したり工夫したりしない。それでもいいのかもしれないと思うときもありますが、せっかく教育して研修させても、1年くらいでやめられたら、企業は損失が大きい。会社での仕事は自分を成長させてくれるものという考えを持っていなくて、自分勝手なんですよね。みんな。だから、職場での評価も上げようがない」

「村瀬さんは、女性達の意識をどうして変えたいのですか」
「それは・・・、彼女達の働く意識を高めたいというか、成長して欲しいわけです」

「そもそも、彼女たちはどんな意識で働きに来ているか、理解していますか?」
「社会に出たいという気持はなんとなく感じますが、働く意欲とか理由はあまり考えたことがないですね」

「村瀬さんはどんな理由で働いているんですか?」
「うん、私は子供の教育費のためにと、一人でも多くの人に仕事を通して成長してもらいたくて、その応援をさせてもらいたいので・・という理由ですかねぇ・・」

「村瀬さんが働く意識と、多くの女性の意識と、一番の違いは何ですか?」
「意欲かなぁ・・なんか違う気がする。責任かなぁ・・。何でしょう・・・」

「相手を理解しなければ、相手の意識を変えることは出来ませんか?」
「本質が変わらなければ、表面だけ変えてもまたすぐにくじけるでしょうから・・。相手を理解したいんですが、みんなが私を理解出来ないように、私も相手が理解出来ない。したくないのかも知れない・・甘えているあの人たちを理解してもしょうがないと思うということは相手への配慮はないかもしれませんね」

「厳しさをもっているのが村瀬さんの自立の証だと感じます」
「私は自立しているのかしら?私が他の人と違っているだけかも知れないと、このごろでは自信がなくなってしまって」

「村瀬さん、今日のセッションのテーマは働く女性の意識を変えさせたい、甘えをなくさせるには?ということだったと思います。本来のテーマから離れた展開になってしまって申し訳ないと思いますが、今、話してみて何を感じていますか?」
「私自身が、まず、落ち着いて考えを整理する必要があるということですね」

コーチングは、必ずしも用意されたテーマどおりに話が進むばかりとは限りません。そんなときも、あわてず、クライアントの話したいように進めていくことをためらわず、自信をもって会話を進めましょう。

コーチングは誰のためにすることでしょうか~コーチングを職場に導入し成功させる要素の一つ「自分の姿勢」~

技術課長の棚橋さんは、精鋭な部下一〇名を持つ中間管理職として、自ら率先して仕事をこなし、また、会社とは別に、地域の青少年の健全育成のためのボランティアに励む、熱血ビジネスパーソンです。
そんな棚橋さんが、いつになく憮然とした表情で、コーチングのセッションをスタートさせました。

「夏休みは、楽しまれましたか?」
「ええ、私は長男なので、墓参りとか供養とか、それなりに家庭での役割もありますが、それを除けば、日ごろ読みたいと思っていた本を三冊、乱読ですが出来ましたしね。私は有意義に過ごせたと思います」

「それは何よりですね。充実した夏休みを過ごされたのですね。それにしては、私には今、棚橋さんの表情に精細さがないように感じられますがいかがですか?」
「あはは・・いつもストレートですね。だから、あなたは私のコーチなんですね。実は、今年入社した社員が、大きな設計ミスを犯していることが分かったんですが・・」

「製品になってしまったんですか?」
「いや、図面の段階でしたから、会社としての損失はたいしたことはないんです」

「それはよかったですね。発見されたのは、棚橋さんですか?」
「ええ、そうです。なんとなく、うん・・・勘が働いたというか・・」

「何か、おかしいかもしれないという気持ちをもたれたということですか?」
「ええ、まだ、報告とか相談とか、そういうタイミングが分からないらしくて、なかなか報告してこないことに気づきましてね・・」

「『ほう・れん・そう』の習慣が身についていないということですね?」
「はい、そうです。係長には指導しているんですが、なかなかプライドの高い子で、相談してこないようで、係長も手を焼いているんです」

「それは大変ですね。入社1年目は、業務に慣れるのに精一杯なはずなのに、一人で仕事を任せるとは、勇気ある育成方法ですね」
「いやぁ、褒められたことはないですよ。人手が回らなくて、放任しているという状態に近いからです」

「どこの職場も同じですね。ところで、その彼の設計ミスについてはどんなふうに本人と確認しあったんですか?」
「図面を書いているデスクへ僕が行って、ちょっといいか?と声をかけて話を聴いたんです。本人に指示された内容について本人から聴とっていたんですが、どうも、それじゃ、図面が違うと思ったんです。そこですぐに指摘しても良かったんですが、せっかくコーチングのスキルを勉強したわけですから、まずは、本人の話を黙って聴こうと思いまして、最後まで聴いたんです」

「傾聴ですね?学ばれたスキルを使ってみようという姿勢、とても素敵ですね」
「ありがとうございます。話を聴いていながらも、図面を見ると、どうも違うんですよね。指示された内容と、出来上がった図面は、微妙にですが、ずれがあるんです。それで、図面と指示が違うと思われる点を三つほど指摘したんです。そうしたら、ムッとした表情で、『係長はそんなことは言いませんでしたし、聞かれなかったから、私は言わなかっただけです』と、切り口上で返されてしまって・・」

「ついつい、大きな声を上げた?」
「よく分かりますね・・。コーチングの研修をし、若い社員の育成に発揮しようというのが僕の半期の目標ですからね。自分の目標も達成出来なくなるし、部下のためにもならないと思って、我慢しようと思ったんですが、『聞かれなかったから言わなかった』という、あまりにも他人任せな姿勢に腹が立ってしまって・・」

「そうですね。『聞かれなかったから言わない』というのは、他人任せな姿勢ですね。残念ですね。棚橋さんは、部下本意の育成を願って、コーチングの研修をし、職場で実践されているわけですからねぇ」
「うん・・。一つ厳しいことを申し上げてもいいですか? 棚橋さん、コーチングは誰のためにあると思いますか?」

「え??相手のためでしょう」
「うん、そうですよね。この場合の相手とは『聞かれなかったので、言わなかっただけ』の彼ですか?」

「そうです。あと、係長もかな? 報告や連絡は待っていてはだめで、自分から取りに行くことに気づかなければ、今回のようなミスを犯される。『聞かれないから言わない』と言うほうも言うほうだけど、そういう教育しか出来てないことがわかってよかったと思いますよ」
「では、先ほどの言葉尻をつかむようで申し訳ないんですが、ご自分の目標が達成出来ないという気持ちについてはいかがですか?この場合、ご自分の評価を気にされた発言であると感じたのですが」

「あ・ん?・・・」
「本人の目標の達成を残念に思うのと、ご自分の評価を気にされるのとでは、コーチング姿勢が変わってくると感じますがいかがですか?」

「あはは、おっしゃるとおり、私は自分の評価をまず気にしました。さすがコーチは名コーチだ。どうしてそう感じたのか教えてもらえますか?」
「一つは、表情です。ご自分の目標が達成出来ないとき、いつもセッション中に見せる表情があります。でも、今日はいつもとは違った表情でした。あきらかに、自分の評価にこだわりをもたれているような表情でした。それをどんな・・と聴かれると、絵もうまくないし、お伝えするのは難しいので、勘弁してもらえますか?」

「ああ・・・憎々しい表情だったかな?目がきついというか、目つきが悪いといわれたことがあるけれども、相手を追い詰めようとするとき、僕が見せる眼をしていたのかもしれないな」
「うん、そうですね。目つきが悪いというか、怖いほど強く何かをにらんでいる。そんな感じではありました」

「そうでしょう、いやぁ・・いかんなぁ・・。くせだなぁ・・。自分がどんな顔して相手と向き合っているかなんて考えもしなかった。僕はたださえ強面だから、怒られたと誤解したのかも知れないなぁ」
「今後に向けて、確認したいのですが、ご自分の目標の達成と、部下の支援との間に距離があるとき、棚橋さんが気をつけたほうがいいと思うことはなんですか?」

「うん、まずは部下のためにあれ!という言葉を思い出すことですかね。自分の目標は自分のものであり、まずは、コーチングを通して、部下が自立して少しでも早く一人前になることを忘れないようにしなければならないですね」
「そうですね。コーチングは相手の支援を目的に行うという基本を忘れないでいただければと思います。ところで、来週までの1週間の目標についてですが・・」

「はい。今日のセッションを受けて、若い奴や係長との接しかたを考えてみます。彼らのためになることに気づいたら、それを実行してみることにします」
「そうですね。是非、実行してみてください」

棚橋さんのように、コーチングを通して部下の育成を自分の目標にされた場合、板ばさみとなってストレスを感じることがありますが、コーチングは相手を支援し続けるという姿勢を貫くことが大切なことを、改めて学びました。

損保会社の調査員としてキャリア三年の東さん~上司とのコミュニケーションミスがきっかけの転職~

当初は、契約者の負担をわずかでも少なくし、また、被害者の方にも納得いただける調査をする契約社員として実績を上げてきましたが、仕事にも慣れてきた二年目を過ぎる頃から、この仕事が本当に自分に向いているのか、疑問を持つようになりました。三年目に入った春ごろから、上司から指示された調査を深くせず、あれもこれもと仕事を抱え込んだり、お客様への説明にも力が入らなくなったり、このままでは、正社員としての契約を結ぶことは出来ないと、上司から引導を渡されてしまいました。
東さんが、コーチングを知ったのは、Webの情報検索からで、藁にもすがりたい思いから、何か解決の方法がないかを探ったからだといいます。

「1年目と二年目、そして現在と、東さんの中で何が変わったんでしょうか?」
唐突かな?と思いながらも、少しでも早く状況を把握するために、コーチは率直な質問を早い段階で投げかけました。
東さんは、「うん・・・、言いたいことをはっきり言えなくなったということが一番大きな原因だと思うんです。実は・・・」

「実は・・・って何か思い当たることがあるんですね」
「・・・・・・・・・・」

「言いづらいことなんですね。どうしてもお話したくないことは、無理に話さなくてもいいんですよ」というコーチの表情に、東さんは意を決したのか、大きく息を吸って話し始めました。
「上司が変わってから、なんていうか・・コミュニケーションがうまく取れなくなったって言うか、報告はまだ出来るんですが、相談したいなぁと思っても、うまく話せなくて、いつも上司に答えを先に言われてしまうんです。それも、自分が考えているのではなく、その上司のこれまでの経験から答えがわかっていると言わんばかりの態度・・・、最初から、何だろう・・決まっている答えを聞きにいくだけで、それが自分の考えと違う答えだから、よけい混乱するし、第一真似をしろって言われても、出来ないんですよね。だから、相談出来ずにいたんです。そうすると、だんだん、報告するのも億劫になっちゃって・・・」
暗い表情で、東さんはボソッと答えてくれました。

「上司が変わったのはいつですか?」
「二年前の春の定期異動です。女性なんです」

「どんな上司なんですか?」
「今の上司。とてもすてきな人ですよ。結婚していらっしゃって、家事や育児と両立されている。女性にありがちな感情の起伏も激しくないし。キャリア・ウーマンって感じかしら。
でも、だから、すっごく近寄りがたいって言うか、別の世界の人って感じで私たちを見ている気がするんです。女性社員が固まっておしゃべりしていても、脇をスっと黙って通り過ぎられ、おしゃべりに加わることがない。
かといって、私たちに興味がないわけではなく、飲み会しようかとご自分から誘ってくださったりもします。みんなは、いい人だね、付き合いやすい人だねって言うんで、ますます、自分がどうもあわないみたいとは言い出せなくなってしまいました」

「なるほど、みんなと受けた印象が違うだけに、言い出せなくなってしまったんですね。でも、それと上司への報告をしないということは、別の問題だったように思いますが、改めて考えてみて、報告の義務を怠ったことについてはどう思いますか?」
「たしかに、契約社員としては失格だと思います。ただ、上司は選べないから、あわない上司と出会った場合、どうしたらいいか、そんな経験もなかったので負けず嫌いがでたというか、自分だってそれぐらい報告して指示を仰がなくても出来るって小さな抵抗をしてみたというか、悪気はなかったんですけれどもね・・。
深く考えずに行動した結果が、正社員としての採用を見送られることにつながるとは思っていなくて・・・。取り返しのつかないことをしたなぁと、後悔でいっぱいです」

「後悔でいっぱい。あなたがとても辛い気持ちでいることが理解出来ます。東さんがいま、一番解決したいことはなんですか?」
「残りの契約期間を少しでも楽しく働くために、もう一度、上司との関係をやり直してみたいんです。でも、どうしたら良いか分からなくて」

「上司と仲直りをしたいということですか?」
「いや、仲直りではないですね。信頼される部下となって、仕事をしてみたいです。彼女のように出来る女性になれたら良いですね」

「ロールモデルとなる人なんですね?」
「ええ、そうですね。ロールモデルとしてみればよかったんですね」

「上司との関係をやり直しするために、今、あなたには何が出来るんでしょうか?」
「うん・・・難しいですね、私への信頼感がないわけですからね。どうしたら信頼を取り戻せるのでしょうか?」

「どうでしょう。本当に信頼感はなくなっているんでしょうか?」
「うん・・・聴いたことはないですけど、自分が上司だったら、信頼しませんよ、こんな部下」

「そうですか。あなたがとても残念な気持ちでいることが痛いほどに伝わってきます」
東さんは、初めてのコーチングのセッションのあと、こんなことをつぶやきました。
「もっと早く、自分の気持ちを打ち明けていたら・・・。話を真剣に聞いてもらうことでこんなに楽になれることを知っていたら・・・」

この一年を待たずして、東さんは転職していきました。コーチングのテーマも、上司とのやり直しから、転職に変わっていきました。どんなに計画を立てても、どんなに目標を見直しても、その会社でのやり直しの方法も、勇気も見出せなかったからです。
目標を立てても、実行に移せない。目標があるだけに、行動出来ずにいる自分を引け目に感じてしまう。
目標を立ててそれに向かって行動していく。そのために今の自分に不足していることは何か。それを克服する手段はあるのか。どんな方法で行うか。自分でそうするつもりがあるか。目標・ビジョンを考えて前に向いていくことは、とても大事なことです。しかし、時によっては、目標を修正して新たな目標に向かってすすむことも、選択肢の一つなのです。
今回の事例を読まれて、東さんが自分の非を認めることによって、十分にやり直すことが出来る。転職などそう簡単には出来ないのだから、今の会社でやり直すべきだ。私ならそうするし、私がコーチならそういう方向に導く自信があるとお考えの方もいらっしゃるでしょう。しかし、コーチの気持ちを押し付けるのがコーチングでしょうか。クライアントを支援するのがコーチの役目なのです。
この場合、「上司とのやり直し」に向けて支援するのもコーチングですし、「転職」に向けて支援するのもコーチングです。最終的にそれを決めるのは、クライアントである東さんだということです。
思い切って目標を変えることで、自信を取り戻した東さんは、新しい職場に馴染むまで、コーチングを続けようと決心しています。

ビジョンコーチングの重要性に気づいためがね屋さんのカリスマ店員~自己奮起力を高め、将来にむけてビジョンを立てる~

販売が天職だという仲野さん。彼は、その人の顔立ちや表情を引き立てる、人の個性にぴったりフィットするフレームを売るめがね屋さんの社員です。もちろん、度をあわせる腕も非常によく、彼の手にかかると、どんな人も、これが私?と疑いたくさえなるような魅力ある「めがねと人を出会わせるコーディネーター」として活躍しています。そんな彼が突然、職場を変わりたいと、相談に来たので、びっくりしながら、セッションにのぞみました。

「仲野さん、どんなことがあったんですか?」事実を確認するために、まずは質問です。

「会社が合併して、相手先の会社の社長が新会社の社長になったんです。社長が変わって、経営方針が変わっちゃったんですよ。これまでは高級路線出来ましたが、『時代が変わったのに気づかない社長だったから、この会社は、うちに吸収されたのです』と、新しい社長の挨拶は、これまでの社長の仕事やり方を全部否定するような方向の話ばかりだったんです」

大きなため息をつきながら、仲野さんは話します。

「そんな就任の挨拶を聞いていて、僕は、この会社にこのままいてもいいのかなぁ・・という気持ちになってしまったんです。これまでの社長には、大変目をかけてもらっていたし、新しいフレームの輸入に成功して社長賞をもらったのも、社長の『自信もってやって来い!』という後押しがあったから出来たことであって、決して自分一人で出来たわけじゃないと思うんです」

「仲野さんは、社長の信頼を得られていたんですねぇ・・」
「吸収合併だから、僕たちの会社の社員は、これからどんどんリストラされるってうわさもあるし。僕なんか、一番最初に目をつけられますよね?前の社長にかわいがってもらっていたんだから・・・。なんだか、ますます気が滅入ってきちゃいます」

「私には、あなたの不安な気持ちも理解出来ます。が、このほんとうにリストラされるのでしょうか?」
「だって、私は社長からの信頼をいただいていた、いわば、子飼いの社員なんですよ。あの新社長の話しぶりでは、前の社長が敵だと言わんばかりなんですから・・」

「戦国時代のようですね。ちゃかしてごめんなさい。敵とか味方とか、そういう色分けをしている根拠を何か感じるのですか?」
「いいえ、別に根拠はありません。新社長の言葉から、私がそういうイメージをもっただけかもしれません。でも、私の直感は当たるんです」

「直感が当たるんですね。それでもそれは仲野さんの直感であって、根拠があるわけではないんですよね?」
「そうですね・・・根拠はありませんねぇ。でも、普通、ニュースなどを見ていると、吸収された側の社員が悲哀を味わうということになっていますよね。僕たちの会社が食われたんだから、やっぱり社員はリストラされるか、一生、役職にはつけないということじゃないでしょうかねぇ」

「仲野さんは、今回の企業合併をどのように考えておられるのですか?」
「会社の負けです。そして私自身の人生の敗北ですかねぇ。社長だったわけじゃないけど、会社のために、一生懸命働いてきたわけですからねぇ。それは、給料のためだったし、いつかは
役員になって、この会社をもっと大きくしようと思ってやっていたことなわけで。その頃から考えたら、敗北ですよ。私の人生、もう終わりだな」

「そうですか・・。仲野さんの人生は敗北で終わってしまうという気持ちなんですね」
しばらく沈黙の時間の後、コーチは冷静に次の質問をしました。
「ところで仲野さん、仲野さんの人生を描きなおすとすると、どんなふうに描きなおすことが出来ると思いますか?」

「それは、タイムマシンにでも乗って後戻りするならということですか?そんなの無理ですよ。今の状況を認めないで、過去にさかのぼって人生を描きなおしことに何の意味があるんですか?私はそんな過去にこだわらずに、先のことを考えて転職しようと思っているんです」

語気を強めて反論する仲野さんに対して、

「いえ、過去のことにこだわって思い出に浸ったり、やり直せれば思うのではなく、人生を描きなおしてみるということはこの先の仲野さんの人生をどう設計するかということなのです。会社は吸収されて新しくなったんです。仲野さんの人生が仕事と切り離せないものであるなら、この変化をチャンスとして利用することを考えましょう。仲野さんの人生は終わったわけではなく、新しくなったんです」と、コーチは穏やかに言いました。

「チャンスですか。なるほどそう考えることも出来ますね」
「そうなんですよ。変化はチャンスなんです。新しいことを考えるとしたらどうですか。この先楽しくなりませんか」

「確かにここから新しい人生が始まるわけですね。くよくよしていても始まりませんね。ここは一つこれから何をしていこうか五年先、十年先を見据えながら考えてみることにします」。
「そのとおりです。五年先、十年先を見据えて今日から何をしようかと考えて、それを実行に移しましょう」

「コーチのおっしゃるとおりですね。五年先、十年先を見据えながら考えてみるだけではだめですね。今日からの実行が伴わないといけませんね」
「そうです。実行しましょう。しかし、一度に沢山のことをしようとすると無理も生じますので、あせらずじっくりと考え、考えがまとまったらすかさず行動することにされたらいかがでしょうか」

人は、予期しないことが身に起きると、自分の勝手な思い込みによって、自分の心に待ったをかけるかのごとく、行動することを放棄してしまうことがあります。そしてその思い込みは、しばしば全く論理的ではありません。新しい事態ですから、ここで一度立ち止まって、どうしてこうなったのかと、原因を究明することは確かに大切なことですが、過去に原因を探しに行っても、その過去が変わるわけではありません。それよりも、むしろ、この変化をどう捉えて、目標の修正や人生のプランを描きなおすことを考えて、1日も早く行動し始めることが大切です。目標を立て、戦略を考え戦術を立てる。
縮こまっていないで自己奮起力を高めて行動する。行動した自分を自己承認しながら更に自己奮起力を高め、次に進む。
そうすることによってまた新しい未来が開けてくるわけです。意気消沈しているときこそ、将来に向けってビジョンを立て行動に移る、ビジョンコーチングが重要になります。

私の居場所がないように感じられて・・・ベテラン社員の悩み~職業人としての自分の価値を考える~

今日はベテラン社員の榊原さんのコーチングの日です。どんな会話が出来るのか楽しみに待っていましたが、榊原さんは、私の顔をみるなり、
「私の居場所がないように感じられて・・・」。

勤続二十年。まじめにこつこつと、会社のことだけを考えて仕事をしてきた自負があるとおっしゃる榊原さんは、いきなり話し始めました。
コーチングのセッション(会話すること)では、その日のテーマを扱う前に、気持ちをほぐす目的で、本題とはまったく違う話(アイスブレイク)をすることがあり、コーチである私は、今日もアイスブレイクからスタートしようと漠然と考えていたので、すぐには、傾聴の耳が用意出来ませんでした。
いつもはおだやかに時候の挨拶から始める榊原さんが、今日に限っては突然、本題を喋り始めたことを意外に思いながら榊原さんの話を聴いていました。

「榊原さん、会社に居場所がないと感じたきっかけは何かあったんですか?」

やっと榊原さんが考えをまとめるにふさわしいと思う質問が準備出来たのは、つぶやくように言った榊原さんの声からかなりの間があったと思います。
榊原さんは、私の問いかけに対し「いえ、別にこれということではないんです。この二月、異例の人事異動があって、課長が転勤されてきたんです。それから1ヶ月。まだまだ何もお分かりになっていらっしゃらないためか、うちの支所では一番キャリアが長い私を頼りにしてくださっているんです。
ただね、キャリアは長くても、結局チームのメンバーは、肝心なことの相談は課長にしてしまうわけです。当たり前ではあるけれども、淋しくてね。課長も一応は私を立てて話の輪に入れてくれるわけですが、結局決めるのは課長のわけです。私の今までの経験を踏みにじられているような気がして、たまらないんです。私って、どんな存在なんだろうって思う。そう思うと、ただ、キャリアが長いだけで、何にも価値がないように思えてしまって、最近では会社に行くのも嫌になったり、若い者から相談されても、課長に聴けばいいじゃないかって厭味を言ったりしてしまうんです」

一息に榊原さんは、話してくれました。

「榊原さん、あなたにとって、会社が認めるあなたの価値って、どのくらい大事なことなの?」

答えがわかっているようでも、あえて本人が話すことによって再確認出来る自分の思い。コーチングが大事にしている基礎に忠実にコーチングを進めてみました。

「そりゃあやっぱり大事ですよ。インセンティブ(報酬)で評価されるわけでしょ?ビジネスパーソンって。だったら、見合うというか、評価してくれた価値の分だけ、給料や役職で表すしかないでしょう。だから、会社が自分の価値をどのくらい認めてくれているかは大事だよ」

当たり前のことをたずねられたからか、榊原さんの口調がいつもよりきつく感じられました。しかし、ひるまず、「あなたがお考えになるあなた自身の価値を百点とした場合、会社はあなたをどのくらいで評価してくれていると思いますか?」と尋ねました。

「点数?そんなこと考えたことはないけれど、四〇点くらいかな?」
「なるほど、四〇点ですね。今置かれている立場、待遇などか四〇点くらいとお考えなのですね。それでは百点満点の榊原さんは、どんな待遇になるんでしょうか?」

「係長という責任ある立場を任されていると思います。係長という待遇もさることながら、メンバーがなんでも相談してくれて、ああ、それはこうしましょうとか、それはこうでしょう?こうしなさいと、指示命令出来るようになるでしょう。そうすると自分の思い通りの仕事も出来るようにあるわけだし・・・」
「なるほど、指示や命令が出来るようになり、自分の思い通りの仕事が出来るのですね。そうすると、チームはどうなりますか?」

「チームは、当然、業績も利益も上げられるから、いい雰囲気になると思います。会社内での評価ももちろん上がると思いますし・・」
「そうですね。業績利益や、雰囲気も良くなるわけですね。社内での評価も上がる。いいことばっかりですね。では、デメリットがあるとすると、どんなことがあげられますか?」

「デメリット?う・・・・ん・・・特にはないんじゃないでしょうかね?」
「特には見当たらなさそうなんですね?榊原さんが考えるご自分の価値は、指示命令をするポジションに立ったとき出来るものなんでしょうか?」

粘り強く、榊原さんが考えをまとめやすい質問を続けていこうと、努力します。

「いやぁ・・・どうかな?指示命令が出来るポジションに立ちたいわけじゃないかも・・」
「なるほど、指示命令が出来るポジションに立ちたいわけじゃない。
では、どんな存在になると価値が上がるんでしょうか?」

「だれもが頼ってくれるような、私と話すと明るい気持ちになれるような、そんな存在になれたらいいかなって思うかなぁ?」
「榊原さんと話すと明るい気持ちになれるといってもらえるような存在になりたいんですね?」

「そのとおり、若い者から尊敬出来る先輩っていってもらいたい」
「尊敬出来る先輩というお立場でいいんですね。地位には固執しないわけですね」

「う・・ん、そうかなぁって思うけど・・」
「ほんとうにそれは望んでいらっしゃることなんですか?」

「うん・・・」
「いい人って思われればいいんですか」

「うん・・・・?」

考え込んでいる時間が長くなってきたセッションの後半。
私は、気長にゆっくり待ちます。

「コーチ、私が考える自分の価値についてもう一度考えてみてもいいですか?」
セッション開始二〇分。榊原さんは、その日のコーチングを終了したいと、自らの言葉で切り上げられました。
「榊原さんご自身のことですから、よく考えてみてください。今日はこれぐらいで終わりにしましょう」

ビジネス環境が大きく変化したからなのか、組織の中の自分のポジションを見直すビジネスパーソンが増えてきました。同時に、いつも感じるのは、仕事をしている人の承認がなされる機会が減っているのであろうということです。
人の三大渇望の一つ。尊重されるということの大切さを改めて感じさせられました。

成果のないコーチング実践に転職を考え始めた地方公務員の吉田さん ~コーチとの成果の確認のあり方~

地方公務員の吉田さんは、このところ、ずっと元気がありません。役所にいくのも億劫になってきました。もともと何でもやってやろう、すぐにやろうというエネルギッシュなタイプなので、表面上は明るく振舞っています。ですから、ふさぎこみがちとまではいかないものの、同僚や部下に呼ばれてもすぐに返事が出来ないほど、どこか上の空だったり、部下が話しかけたこととはまったくトンチンカンな受け答えをしたりで、上司から「最近、吉田さん、変じゃないかとみんなが言っているぞ、いったいどうしたんだ」と叱責されるなど、職場内での信頼関係が疑わしくなるほどでした。
吉田さんは、地方公務員として住民サービスに徹するためには、今のようなだらだらとしたその日ぐらしのような仕事のやり方ではなく、みんながもっと前向きにやるようにならなければいけない、そのためにはみんなの思いがそれぞれに伝わるようにするコミュニケーションが大事だと考え三ヶ月前からコーチングを受けており、コーチングを実践してきました。
上司との間のコミュニケーションをよくし、保守的な職場風土に変化を起こし、若い部下たち
が「どうせ俺達もあんな感じで定年を迎えるんでしょ?一生懸命になるだけムダだよ・・」という気持ちを何とか変えさせたいと、全力投球でぶつかってきました。
ところが、三ヶ月の成果を確認する時間を持つことによって、三ヶ月前となにも変わっていないどころか、職場の状況がますます悪くなっていることに気づいてしまいました。
吉田さんは、今後、このまま地方公務員でいても良いかどうか、いくらやっても人が動かないこんな職場にいてもいいんだろうか。自分の力が発揮出来るところはほかにあるのではないか、そう思い始めていました。
吉田さんは、今日のコーチングのテーマは、「転職する」ということにしようと、コーチに電話をかけました。

「吉田さん、お待ちしていました。こんばんは」コーチはいつもと同じように明るく受け止めてくれています。いつも素敵に聞こえるコーチの声ですが、今夜は自分とコーチのテンションが違いすぎるので、吉田さんにとっては重荷にさえ感じられるようでした。
吉田さんは、唐突に、「あの、コーチ。今日は、テーマを転職するということにしたいんですが・・」と切り出しました。
コーチは、少し驚いたのか「あれ?吉田さん、今日のテーマは、転職するということなんですね?」と、繰り返す言葉に戸惑いを感じました。
「すいません、コーチ。この間のフィードバック(成果を確認しあう時間)で、自分がぜんぜん、進歩していないことを目の当たりにしてしまって、それ以後、職場に行くのがイヤでイヤでたまらなくなってしまったんです。だから、今日は、転職について可能性を考えてみたいと思いました」
「わかりました。これからの三十分は吉田さんのためにあるのですから、吉田さんがお考えの転職をテーマにコーチングをすることにしましょう」
コーチのやさしい言葉に促されて吉田さんは思いのたけをぶちまけるように話を続けていきました。
一気に話す吉田さんの言葉を、コーチは、丁寧に聞き取っていってくれました。時に鸚鵡返しをしたり、時に要約したりしながら、吉田さんの話の聞き役に徹してくれたので、吉田さんは一五分の間、胸のうちの全てを明かすことが出来ました。
ひと段落したところで、お互い一息つく時間を持ちました。その沈黙を破ったのはコーチで、「吉田さん、吉田さんの職場の風土を見直したいという熱い思いを、これまではどんな風に上司に伝えていましたか?」
あまりに唐突だったため、吉田さんは、すぐには答えることが出来ません。
「・・・」。沈黙の時間は嫌いな吉田さん。すぐに答えようとしますが答えがまとまりません。
なぜ、答えがまとまらないのか?吉田さんは、自分を自分で責め始めています。
そんな吉田さんの心が伝わったのか?コーチは、「ゆっくり考えていいんですよ。待っています」と、やさしく伝えてくれました。
吉田さんは質問の意味を考えていますが、わからないのです。
なぜ、コーチはそんな質問をしたのか?
どういう目的でこの質問を受けたのか?
自分の答えを探しているというよりは、なぜという理由や、どうしてという目的を考えていました。
やがてコーチが、「吉田さん、今、吉田さんに考えていただきたいのは、なぜ?という理由や、どうしてそういう質問を受けているのか?ということではないんです。率直に、質問を受け止めていただければと思うんです。もう一度、質問を繰り返してもいいですか?」
「はい」
「吉田さんの職場の風土を見直したいという熱い思いを、これまではどんな風に上司に伝えていましたか?」
あらためて質問を受け取った吉田さんは、今度はあまりいろいろなことに惑わされずに、コーチに答えました。
「いいえ。どうせそういう考えを持つのは、自分だけだから・・。伝えたって無駄なことがわかっているのに、どうして伝えなければならないんでしょうか?言ったって、何も変えようとはしませんよ。あの人たちは。だから、私はあんな人達と一緒に仕事をするのがイヤになったんです。だから、転職したいんです!」と強い口調で話しました。
感情が高ぶったのでしょうか?吉田さんの言葉がきつくなったことを、自分でも感じるほどでした。
そんなやり取りでも、コーチは一向に感情的にならずに、普段どおり穏やかに言いました。
「吉田さん、あなたは、そんな人達と一緒に仕事をするのがイヤになったんですね。だから、転職したいと思われたんですね」
「はい。その通りです。あんな人達と仕事をするのはもうイヤなんです」
「そうですか、それでは、一つ質問していいですか。吉田さん、あなたは、職場の風土を変えたいのですか?それとも、相手(上司)を変えたいのですか?」。
どんよりとしていた冬空が、急に晴れたような気がした吉田さんの答えは明確でした。
「コーチ、過去と他人は変わらないんでした。僕は、相手を変えようとしていました。すっきりです。晴れ間が見えました」
改めて、吉田さんはスタートラインに戻ることが出来たようです。
フィードバックは、大切ですが、あまり、そもそもはと出発点を明確にしすぎたり、目標を意識しすぎたり、進捗状況にだけ視点をあてると、相手のやる気が失われることもあるようですね。

パンを焼いてみたい店員さん~自己主張出来ずにキャリアを断念しようとする気持ちを奮い立たせる~

ベーカリーで働く野田さんは、入社七年目のベテラン販売員です。
店先に並ぶきれいなパンを見ては、このパンを焼いてみたいという思いに駆られますが、店長に話す勇気がありません。いっそのこと他のパン屋さんに転職をしようかと思うのですが、パンを焼いたことがない自分が、パンを焼くスタッフとして雇われることはないだろうと思うと、その勇気も出せず、暗澹たる気持ちで毎日、過ごしているそうです。

「野田さん、社長さんに『パンを焼いてみたいんですが・・』と、気持ちを伝えるという宿題を実行してみましたか?」
「いいえ・・・」

「何が野田さんの行動を引き止めているんだろう?」
「ん・・・、社長は強引な人だから、自分の言うことなんか聞いてくれないと思うんですよ・・」

「どんな行動を起こそうとしたか、細かくお話いただいてもいいですか?」
「はい、月曜日の昼過ぎ、社長は店に立ち寄られて、パンとコーヒーとサラダで食事をされました。食事中に話しかけるのは悪いと思って、終わるのを待っていたんです」

「なるほど、社長に対する配慮をなさる野田さんは、優しい人だと思いますね・・・。そして?」
「食事を終えられたので、トレイを下げようと近づいて、そのとき、お話しようと思ったんですが、何だか社長の表情が怖く見えてしまって。結局何も言えませんでした」

「そうかぁ・・・で、ほんとうに社長のご機嫌が悪かったんですか?」
「いやぁ・・・わかりません。でも、ああいう表情の時、社長はいつも機嫌が悪く、うっかり話しかけると、『後にしてくれ!』と、きっぱり言われてしまうので・・・」

「野田さんが想像する社長の気持ちに臆して、行動しなかったということですね?」
「・・・・」

「社長の表情が仮に明るかったとして、他にどんなことがあれば、ジョブローテーションしてほしいと言えるんでしょうか?」
「・・・・、そもそも、やっぱりそういうことを言ってもいいんでしょうか?そこから自信がなくなっています」

「ありがとう。ご自分の気持ちを言葉にしてくださると、次を考えやすくなります。ジョブローテーションを希望することが、そもそも良いかどうか?と言うところで、気持ちが揺れるわけですね?」
「はい・・・」

「仮に出すぎたことだとしましょうか?それを言い出して、社長に出すぎるなといわれたとして、野田さんにどんな影響がありますか?」
「社長はワンマンな人だから、私みたいな人は解雇するんじゃないかと思うと・・・」

「過去にもそういう人がいましたか?」
「いえ・・でも、給料を下げられた人はいます。パンを焼いていたスタッフですが、販売したパンの中に、異物が入っていたとクレームを受けたときです」

「それは、仕事の上での失敗が原因で、その人の態度や姿勢が悪いわけではなかったんでしょう?」
「まぁ、そうですが・・・」

「それでも心配?」
「はい・・・会社は好きなんです。仕事も好きです。でも、パンを焼いてみたいんです。お客様の喜ぶ顔を見たい。アイデアもあるんです。ケーキのようなパンを焼きたい。デザインも考えています」

「でも、アイデアも、デザインも誰にも公開していないんでしょう?」
「はい」

「お店の売り上げに貢献出来るんだったら、野田さんが直接焼けなかったとしても、社長に訴えるものがあるんじゃない?」
「どうしてですか?」

「パンをデザインしたいという気持ちに、少しだけ気づくかもしれない」
「そうでしょうか?」

「野田さんは、コミュニケーション能力が高い人だと思います。でも、それで自分の行動を縛っているのも確かなことだと思います。相手への配慮で、自分を縛り付けてしまっている。苦しい思いをしながら、相手のことを考えている」
「でも、働く場所がなくなったらどうしたらいいんでしょうか?」

「あたって砕けなさい!と、無責任なことはいえませんからネェ・・・」
「やっぱり今のままでいるしかないのかな・・・」

「一つ、提案してもいいですか?」
「野田さんのお休みに、クッキングスクールやパン教室に通ってみたらどうでしょうか?」

「え?」
「趣味としてでもいいけど、仕事を変えてもらうためには、勉強していたんですよという姿勢を見せたらどうでしょうか?」

「・・・。パン教室に通うんですねぇ・・・」
「お金はかかりますが、キャリア・デベロップメントにもなると考えたんですが、いかがでしょうか?」

「いくらくらいかかるんでしょうか?それに、自分のオリジナルなパンなんて焼かせてもらえるんでしょうか?」
「わからないことだらけですよね?もう一つ、提案したいんですがよろしいですね?」

「はい・・・。まず、パン教室がどこにあり、月謝がどのくらいかかるか、資格がとれるかどうかなど、必要な情報を集めるということを来週までにしていただきたいと思います。」
「なるほど、それなら出来ると思います」

「お友達と一緒に行動していただいてもいいと思いますし、いかがでしょうか?」
「そうですね。深谷さんもまだ、成型を担当していて、自分のパンを焼いたことはないって言ってるし。楽しみながら出来るかもしれません」

「ようやく明るい笑顔を見せていただけて、ほっとしました」
「ごめんなさい、いつも心配ばかりかけていて」

「誤らないでくださいね。私は、野田さんの人生の応援団長です。嫌なときはいやです!と教えていただけると嬉しいです。」
「でも、私は、人にいやな顔をされたくないので、やっぱり何も言えなくなっちゃうんです」

「残念ですが、このテーマは、来週お話しましょう。」
「はい、ありがとうございました」

働く目的がわからなくなった女性 ~転職について考える女性が仕事をする理由を考える~

団体職員の瀬戸さんは、一人で事務局を取り仕切って十年目。
今年限りで辞めようかどうしようか?迷ってのコーチングです。

「花粉がそろそろ飛ん出来ているようですが、今年は花粉症の対策をしましたか?」
「結局、去年から体質改善の注射も打たず終いでした」

「体質改善の注射は、長く打たなくちゃならないんでしょう?大変ですよね。ところで、先週宿題にさせていただいた、これからの人生設計を考えるために、気になることリストをあげていただけましたか?」

「そうですね。今の仕事を辞めるにしても、続けるにしても、今後の人生を設計しないと、進むべき方向がわからないと言われたコーチの言葉が、ずっと胸に残っていて、意識して生活すると、結構、生活の中で自分がひっかかることって多いんだなぁ・・って気づかされました。で、リストをあげてみたのがこれなんですね。こんなメモで良かったでしょうか?」
「かまいませんよ。ありがとうございます」

「これを書いていて気づいたんですが、自分にも結構、嘘ってつけないなって思いました。かっこつけて、仕事をする理由に、人のためになりたいとか、社会に出て役に立ちたいとか書いてみたんですが、ぜんぜん、しっくりこなくって・・・」
「なるほど、嘘をついてるっていう気がしたんですね?」

「はい、私が今回辞めようと思うきっかけが、給料が安いとか、待遇が気に入らないということであることは間違いないんです。ではなぜ、辞めなかったか考えてみたんですが、結局、姑と毎日顔を突き合わせて嫌な思いをしたくない。この一言です。私は、人から理不尽なことを言われることがすごく嫌で、正等に評価されなくてもいいけど、理屈に合わないことで責められることがたまらないんです。それは今回に限ったことではないんです。どうしても許せないと思ったのではなくて、たまたま、これまで抑えていた気持ちが、今回は抑えられなかっただけで、今までも、理不尽なことを言われるたびに、我慢をしていてモチベーションは下がっていたと思うんです。今回は、『別の仕事をしてみない?』と誘われていて、言ってみれば仕事を探さなくても見つかりそうだということが大きな要因になっているような気がします」

一気に胸の中にあった自分の気持ちを話す瀬戸さん。更に続けます。

「本質的な宿題とはちょっと違ってしまったと思うんですけど、気になることがあると、事実と、それを受け止める気持ちとを一緒に書いていったんですけれども、姑との関係でもそうなんです。
たとえば、私が、買い物にいく時間を伝えてそれまでに、必要なものがあれば一緒に買ってきますよと声をかけても、そのときは、言わないでおいて、夫が食事しているときに、今日、由美さんが買い物に行ったのに、私のものを買ってきてくれなかったと言いつけているんです。夫は、明日でいいなら買ってきてもらえばいいでしょ?と、取り合いませんが、私は、ええ??って思うわけです。さりとて、先走って、これ買っておきましたといえば、無駄なものを買ってくると、夫に告げ口ですし。
こういう理不尽な扱いを受けたくないから、家にずっといたくない。それだけは、はっきり今回の問題を考えていく上で感じました」
「それと同じことが職場でも起こった?」

「はい、会員さんはあまり経験のない方でもリーダーさんになり、事業を進めます。覚えようとする方はいいですが、書類の提出の仕方とか、わからなくても勉強してくださらない会員さんの書類を、しょうがないと思って、書き換えて本部へ提出したら、それがどうも気に入らなかったみたいで。勝手に、事務局が書き換えた。でしゃばりすぎだと・・・」
「瀬戸さんとしては、どんな気持ちで仕事をして差し上げたんですか?」

「恥をかかないようにと思って。勉強しないから書けないんですよって言うわけにはいかないから」
「それが、上手く受け止められなくて残念だったね」

「はい、とても残念です。悔しいです。でも、まぁ、いいかな?」
「瀬戸さんにとって、仕事って何ですか?」

「うん・・・聞かれると思ったんですが、逃げてるわけじゃないと思うんです。仕事に逃げているわけじゃない。子供の学費も必要だし。でも、なんだろう・・・自分のためになると思うし・・・」
「逃げてるわけじゃないけど、逃げてる気もする?」

「はい、姑とのことを考えると、やっぱり逃げてるのかな?」
「一般的に嫁の立場で言ってもいいですか?」

「はい」
「私も嫁の立場ですが、出来れば、会いたくないと行く気持ちはありますよ。面倒というか。だって、生活が違うし、年齢も違うし、育ち方が違うから、価値感が違うのは当たり前。お互いを尊重しあう関係は、ある程度、距離が離れているから出来るのであって、近くにいたら目に付くから」

「そうですよねぇ・・・でも、コーチは、だから仕事をしているのですか?」
「そこが違うんです。私は、私の自己実現というか、私は私が幸せになるために仕事をしています。そして、その幸せを、家族にも、周りの人にも、みんなに分け与えられたらいいと思って仕事をしています」

「すごい!立派ですよね・・」
「立派かどうかわかりません。ただ、私が生き生きしていて、楽しそうであれば、子供も社会に出て働くということは、楽しいことだと思ってくれると信じています。私が幸せであるからこそ、子供たちにそういう気持ちを分けてあげられると思うんです。もちろん、根拠はありませんが」

「なるほどね、そうですよね。私は、そこまでの強い思いがないんです」
「引き続き、考えて見ましょうか?今週は、どうして働くのか?理由を考えるということにさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、また、自分を見つめてみます。何かが見つかると、ぱ~っと、目の前が広がるような気がします」
「ぜひ、無理をせず、考えてみてください」

自分の心の深いところを知ることによって、今後のキャリア・ビジョンを見つけることが出来ればいいなぁと思います。

熱血社長と夢を語らない契約社員へのコーチング(その2)~夫婦の信頼関係を取り戻すために、自分の人生を考えた男性社員の今後の夢をうかがう~

「はじめまして・・西川さんでいらっしゃいますね?」
「はい、西川です」

「どうぞ、お入りください。来ていただいたここは郊外ですが、わかりづらかったでしょう?」
「はい、ちょっと迷いましたが、それほどではありませんでした」

「ところで、西川さんは、コーチングは初めてでいらっしゃいますか?」
「いえ、ずっと以前働いていた会社で受けていました」

「?会社で受けてらっしゃったんですか?」
「はい、あの・・・私は、実は以前大手の商社におりまして・・・社内のコーチング研修で知り合ったコーチに、個人的に契約をしてもらっていて・・海外赴任のとき、家族を連れて行くかどうかとか、妻の父親と、私の親父がほぼ同時期に倒れて看病しなければならなくなったときの妻との関係とかをコーチとセッションして自分の気持ちを妻に伝える勇気を持ったりしていました」

「経歴を林社長は何もおっしゃらなかったので、失礼しました」
「いえ」

「この三月末で契約が切れるということですが、次の仕事はお決まりですか?」
「いえ、まだ・・・年齢が年齢だし、商社にいたのは、かれこれ五年も前の話。再就職は難しくて・・」

「雇用形態は契約社員をご希望なのですか?」
「はい、仕方がないんです。今は・・」

「事情がおありなんですね・・。伺ってもよろしいですか?」
「はい、実は、妻の父親はすでに他界しております。脳梗塞で倒れて、四年半、妻は看病していました。でも、三年前に倒れた私の親父は、まだ、生きていて・・(西川さんの目に涙が・・・)」

「続けてもらってもいいですか?感情を殺す必要はありません。しばらく時間をとりましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。みっともないですよね?男が泣くなんて・・・。
(しばらく沈黙の後)私の親父は心臓でした。心筋梗塞というやつで・・・妻が早く気づいてくれたので、命は落としていません。でも、入院して自宅に戻ってからどうも言動がおかしくて。いわゆる認知症というやつです。二年前は、まだ、妻も自分の父親の病院での看病と、自宅での私の親父の看病とをやりくりしてくれていました。でも、だんだん、私の親父の痴呆がひどくなって、徘徊するようになると、二人の病人と四人の子供の面倒を一人で見ることは困難になりました。当たり前ですよね。
でも、私は、仕事をやめられるはずがなく、自宅に戻ると不機嫌でいらいらしている妻の気持ちを汲み取ってやれず、自分だって仕事で疲れているからと、家事や育児を手伝ってやらなかったんです。二年半前に日本に戻るとき、自分は課長になったばかりで、中間管理職としての役割をいやというほど感じていた頃です。だれも、自分のことを理解してくれていないと思っていました。だから、妻の苦しみや悲しみに気づいてやれなかったんです。妻とは、同期入社で、総合職同士だったから、話もあったし、理解しあえていると思っていました。妻の父親が倒れたとき、彼女は介護の決心をし、子育てを保育園に任せっぱなしだったから、このあたりで社会とお別れしなきゃならないと自分から言い出したから、すべてを飲み込んでいたと思っていたんです」

「奥様は?今お元気ですか?」
「ええ、自殺したとかじゃないですよ。ただ、彼女との信頼関係は失ったままです。同じ家にいるし、子供の良き母親であり、私は良き父親であります。ただ、夫婦の間に信頼関係はありません。二人きりになると、会話もありません。彼女は、私に心を閉ざしたままです」

「西川さんが契約社員である理由は?」
「彼女は、仕事をやめたくてやめたわけじゃなかったんです。私のキャリアを優先して考えてくれてただけなんです。当時の私は、とにかく自分のことだけで精一杯だった。でも、彼女は、いつかそんな自分の気持ちを私が理解すると思って期待していたと思います。男だから、家事や育児なんて関係ないと思っていた。
今、私は、土曜日と日曜日は父の看護と子供たちの面倒を見ているんです。彼女に仕事をさせてあげるためです。パートだから、給料が良いわけじゃない。でも、私の給料だけじゃ生活が厳しいから、足しにしてもらってるんです。それでも、彼女は社会と接していたいというから、希望をかなえてあげているんです。
平日も、私は残業出来ないんです。私が、父と子供たちのお風呂の担当だから。彼女に三〇分だけ、自分のことだけする時間を作ってあげるんです。夫婦の信頼関係を取り戻すこと、私が男として役割を担う働きをすること。これが、私の夢なんです。でも、そうするためには、父親が死ぬのを待つしかない。そんなこと、社長に話せますか? 男気の高い社長に、今の私の生活は理解出来ないと思います。林社長のお母さんの介護は、専務である奥様に任せっぱなしだったと聴いています。林社長は苦労していないんです。そういう面で。理解してもらいたいという甘えもありません」

「夢を語れないのは、そういう理由だったんですね?」
「はい、父親の最後が待ち遠しい、仕事をしたいなんて、そんなこと人として、男として話すべきではないでしょう?」

「うん・・・話すべきかどうか私には結論は出せませんが、西川さんの心は伝わってきます。このままでよろしいのですか?」
「このままで?とは、契約のことですか?」

「はい、西川さんが林社長だったとしたら、今の西川さんの事情を知ったら、どんなふうに声をかけると思いますか?」
「いや、介護や育児に追われたといっても、だから仕事で失敗したのはフォロー出来ないと言うと思います。現に、妻は、そんなにぼろぼろになりながらも、パートに出る日や仕事をしている姿は輝いています。やはり、どこかに私は『手伝ってやってる』とか、『やらせてやってる』という気持ちを持っているからでしょう。仕事が出来ない=契約打ち切りは、ルールなので仕方がありません」

「林社長は、もっと懐の深い方であると感じたことはありませんか?」
「社長と私は似ているんだと思います。考え方に信念があるというか。自分の意見には絶対の自信があるし、男であることにこだわりもあります。私の夢を実現するためには、職場が必要でしょう?
男として家族を養う仕事をする環境が出来たら、私はもう一度、この会社を訪ね、社長と一緒に仕事をしたいと思っています」

「胸のうち、お伝えにならずにお辞めになるんですか?」
「ルールは大切です。男ですから・・・」

なんとも悲しい事情が二人の間にありました。
西川さんは、このセッションのあと、「久しぶりにコーチングを受けて、やる気というか、商社で海外赴任して自分の人生を楽しんでいた当時の自分のモチベーションを思い出すことが出来ました。また、いかに自分が林社長のこと好きなのかも理解出来ました」と、すっきりした顔でフィードバックをしてくれました。

「男として」という表現を、お二人とも口にしていたことがとても印象的な二回のセッションでした。

体調の悪い人へのコーチング~仕事中心に生きてきた若手女性社員。話したい思いを受け止める会話~

このままでは、自分がどこに流れ着くかが心配で・・とおっしゃる人材派遣会社のコーディネーター歴三年の今井さん。今回のセッションは、人生設計のお話です。

今井さんは、金融系の特定派遣をしている人材派遣会社のコーディネート業務をしています。マッチングの精度が高く、派遣先企業からも、スタッフからも信頼が厚く、この仕事は天職だと思って、少々の残業も、きついクレームの電話も、まったく気にせずに三年間、ただひたすら努力をしてきたと胸を張っておっしゃいます。

ところが、四年目にかかろうとしたこの夏、今井さんの身体に変調が起きたそうです。
三週間ほど頭が重い感覚が抜けず、思い切って心療内科を訪ねたら、「すこし会社を休んで、気分がリラックスする方法で休暇を過ごしてください」と言われてしまったそうです。

この場合のセッションは、組み立て方が難しく、今井さんのペースに合わせて今井さんの話したいことをしっかり聴きましょうという約束で、セッションをスタートさせました。

「今井さんが一番話したいことは何ですか?どんなことでもどうぞ」
「う~ん・・一番かどうか分かりませんが、私のこの身体、どうなっちゃったのか、それはとても不安です。この先、どうなるのか・・」

「身体がどうなるかが心配ですか?」
「そうですね。私の仕事をちゃんと変わりの人がやっているかも心配、スタッフの中に、新しい職場で仕事を始めたばかりの人がいて、電話かかってきているかもしれない。そんな時、私がいないなんて知ったら、裏切られたって思うかもしれない。クライアントに新しい人材を入れていただく提案をしていることも心配。途中で放り出したと思われないか?」

「たくさんの心配事がありますね。それらの仕事は、すべて自分で処理されてこられたの?」
「はい、営業さんは忙しいし。スタッフの面接は私が担当だから。一番、私がスタッフのことを知っているじゃないですか?だから、お仕事を紹介して、働いてもらうのが私の責任じゃないですか?そう思って一生懸命仕事をしてきました」

「たくさんの仕事をこなしたんですね・・尊敬します。どこからそのエネルギーが沸きあがるのでしょうねぇ」
「さぁ、みんなのためになりたいという衝動かな?」

「身体の中から力がわくっていう感じかしら」
「そうですね。この会社は、大学生のアルバイトでお世話になった派遣会社の仕事に興味をもってそのまま入社させてもらった会社でしょ。一緒に働いていたスタッフさんのところには、月に二回くらい、営業さんが来て楽しそうに話していた姿を見て、いいなぁと思ったのがきっかけですから、スタッフフォローが出来るコーディネーターになりたいと思っていたんです」

「それは、現状、どのくらい達成出来たと感じていますか?」
「80%は達成したと思いたいです。でも、派遣先と合わなくて三日でやめちゃうスタッフさんと電話で話す時とか、お仕事を紹介してもぜんぜんいい返事がもらえないことが続くと、この仕事をこのまま続けた先にどんな道が待っているのかな?と不安になります」

「今回の身体への信号は、そんな不安がサインを送ったんだろうか?」
「そうですかねぇ・・。キャリア・カウンセラーの資格をとって、スタッフさんのキャリア・ビジョンの設計をお手伝いしてきたんですけど、自分のビジョンって、描けているのかな?」

「十年は難しいかもしれないけど、五年先の自分は、やっぱり派遣で仕事していると思う?」
「うん、それが分からないんですよね。もっと何かがしたいわけでもない。でも、この会社でこのままでいいのかは分からない。急に、目標がなくなっちゃったんでしょうか?」

「そもそも、目標ってなんだったの?」
「う~ん・・目標というか、とにかくコーディネーターとして、スタッフさんとお仕事をうまくマッチングしたかったし、クライアントさんのために役に立ちたかったんです。でも、それが目標かと言われると、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。わからないです」

「あまり、思いつめないほうがいいと思いますから、質問を変えてもいいですか?」
「はい」

「だれかに、今の気持ちを話されましたか?」
「上司とか?ですか」

「ええ、上司や、先輩、あるいは話しやすい誰かがいますか?」
「先輩とは時々話しますが、あまり自分の話はしませんでしたねぇ。スタッフのことを相談したり、クライアントとのことは相談したりしましたけど・・・」

「仕事の話が中心だったんですね?」
「そうですね。スタッフさんからみて、いいコーディネーターでなければって思っていましたから、全部の力を仕事に注いでいたかもしれません」

「新卒の頃から、コーディネート業務をしていたんでしたっけ?」
「そうです。最初は、仕事の内容も分からなくて困りましたけど、だから、キャリア・カウンセラーの資格もとって、勉強して。一生懸命だったから、あまり考えなかったけど、自分は、この先どんなふうに生きていくのかなぁ・・」

「うん、一番見つけたいのは、自分のこれからの生き方かしら?」
「そうですかねぇ・・スタッフさんには、キャリア・ビジョンをもってなんて言ってるけど、自分が一番、わかってなかったりして・・」

「今井さんは、コーディネーターが天職だと思っているんでしょう?」
「はい、そうです!ただね、こんなコーディネーターになりたいというはっきりしたイメージがなくなっちゃったんです」

「ロールモデルは?会社にいませんか?」
「うん・・先輩に一人、すっごくあこがれている人がいたんですが、その人、この間、自分の会社を立ち上げて、辞めていかれちゃったんです」

「身近にはいなくなった?」
「そうですね。新しい会社にお尋ねしてみようかな?でも、忙しいと悪いし・・」

「アポイントメントを取ってから伺ったらどうでしょうか?」
「そうですね、電話してみようかな?」

「どこへなら連絡出来ますか?」
「携帯、教えてもらっているので、変わってなければすぐに直接取れます」

「いつ先輩に連絡しましょうか?」
「あはは、この流れは、コーチング!明日のお昼ごろにします。休んでいてもスタッフさんからの電話が時々入るんですが、あまりない時間帯にします」

「やっぱり、スタッフとクライアントを行動の軸においていらっしゃる。まさしくプロですね」
「ありがとうございます。これから私、どこに行くのか、自分のことを考えてみます。とりあえず、先輩に明日のお昼、電話します」

少し明るい表情になって、今井さんはセッションを終えました。
このセッションが、身体や心に負担にならなかったか、心配ではありましたが、話を聴くプロに力を借りたいという希望であれば、セッションを持つことはかまわないと実感しました。

定年間近の先輩に対するお世話になった後輩のコーチングその2~後輩の言葉に将来のことを真剣に考えた先輩社員~人生の目標を見つける~

山崎さんは、三宅さんの言ったことが気になって仕方がなく、終業のサイレンがなると同時に、山崎さんは三宅さんに話し始めました。

「三宅さん、私は女房のことを何も知らないで生活していました。定年後は女房と二人の時間が長くなるわけだし、いまよりいっそう二人の生活が大切なものになるのに、女房が毎日何を考え、何をしているのかさっぱり分からないなんて、反省しなくちゃいけませんねぇ」と言う山崎さんに対して三宅さんは、

「いやぁ、山崎さん、案外奥様はこれまでの生活を楽しんでいらっしゃったんじゃないですか。それより、奥様は、旅行の具体的な計画のことご存知ですよね?」

「いやぁ、三宅さん、内緒にしてプレゼントしようと思っていてねぇ・・。まだ、はっきりとは言ってないんですよ。内緒のほうがいいでしょう?びっくりして喜ぶ顔を想像するだけで、毎日が楽しいですよ」

と言う山崎さんに三宅さんは申し訳なさそうに言葉を続けました。

「それは、奥様に早くおっしゃったほうがいいと思いますよ」
「え?どうして?」あまりに思いがけない言葉に山崎さんは、だんだん不安になってきました。

「退職後の生活設計は、どんなふうになさっているんですか?奥様と話されましたか?」
「いや・・何もまだ、具体的なものは話をしていない。でも、ゆっくりしたいと思うので、しばらくはずっとうちにいる生活になるかなぁ・・」
と言う山崎さんに、三宅さんはずばり!言いました。

「山崎さんが毎日ゆっくりなさるとすると、奥様はゆっくり出来るでしょうか?」
山崎さんは、三宅さんが何を言ったのか理解出来ず、不安になってしまいました。
「三宅さん、あなたは何が言いたいんですか?」
少し怒ったような口調になったことに気づきながらも、山崎さんは言葉を切り出しました。

「山崎さん、奥さんは毎日の生活を楽しむプロですが、山崎さんは、生活を楽しむための計画がまだはっきりしていませんよね?そうしたら、奥様は負担が増えるだけではないでしょうか?奥様にとって、家庭は職場でもあるわけですから、毎日お客様がいるような状態では、リズムも狂うでしょう。お昼ごはん一つをとっても、自分だけなら残り物で済ませるけど、ご主人がいたらそういうわけにもいかないわけです」
「それは、そうだけど・・・それでは、私はどうしたらいんだろうか。家事を手伝うといっても、それこそ向こうがプロで、私は、これまでまかせっぱなしだったから、まったくの素人なんですよ」

「そうですか、それでも、山崎さんは、この会社では、仕事のプロですよね。会社での役割はまだまだあると思うんですがいかがでしょうか?旅行は、十日間で終わってしまわれる。少しゆっくりなさったとしても、半月もすると、どうしようかと考えてしまうようになられるのではないでしょうか?山崎さんのご趣味を伺ったこともありませんが、もっと自分自身で生活を楽しむ設計をなさってから、退職なさるといいのではないでしょうか?」

三宅さんの言葉があまりにも唐突だったので、最初は驚くばかりだった山崎さんも、だんだん、三宅さんのような考え方もあると思えるようになりました。

「そうだね。三宅さん。私はもうくたびれた、後進のためにも、老兵は去るのみだと思っていたんですが、私の役割といったものを考えたほうがよさそうですね。ありがとう。君は、かっこいい横文字の言葉が多くて、私には近寄りがたいと思っていたんだが、率直に、私にはない考え方を示してくれたお陰で、女房のこと、ちゃんと考えてやれるような気がするよ。ありがとう。退職後のことも含めて、ちゃんと話してみるよ。我が女房とね」

数日後、ニコニコしている山崎さんに、また三宅さんが話しかけました。

「山崎さん、奥様と話をされましたか?」
「三宅さん、どうもありがとう。この間、君に言われてすぐに女房に旅行のことを話したんだ。そうしたら、賛成して喜んでくれたんだけど、『今度計画するときは、前もって相談して欲しい。私には私の都合というものがあるから』って言われたんだよ。これまでの私だったら、『うるさい。俺の言うとおりすればいいんだ』って女房を怒るところだけど、この前、三宅さんからいい話を聞いていたんで、おこらずに素直に女房の話が聞けたよ」

山崎さんは、この前の三宅さんとの会話から人の話をきちんと聴く「傾聴」の大切さを学び、すぐに実行したようです。

「そうですか。それはよかったですね。私もお話しした甲斐があったというものです」
「それでね、女房に言われたんだ。『お父さんは、会社に遣り残したことはないですか。今、こうして無事に定年を迎えられるのも会社があったからですよね。私もお父さんの会社に感謝しています。なんとか恩返しが出来ないものですかね?』女房からそう質問されて自分で考えてみたよ。『恩返しすべきですよ』などと詰問調で言われたとしたら、反発したんだろうけど、私に考えさせるような質問だったんで、素直に考える気になったよ」

山崎さんは、その後も三宅さんと話す時間をたくさん持ち、山崎さんは自分から再雇用に手を上げ、旅行は有休をとっていくという結論を引き出すことが出来ました。仕事については、役割を後進の育成にだけに絞られたそうです。また、家庭においての自分の居場所について、真剣に考え、町内会などを通じて地域社会に貢献したいと、奥様のネットワーク(人脈)を紹介してもらい、奥様とともに、地域美化清掃活動のボランティアを始められたり、地域の小学生に「技術」ってこんなに素晴らしいと、モノづくり教室の講師を始めると、人生計画を熱心に三宅さんに話したそうです。

山崎さんは、自分の人生にいつも自分のために使う時間がなかったことに気づき、今後は積極的に社会と触れ合いたいと、改めて三宅さんと話す時間を持ってよかったと、三宅さんに感謝の言葉を伝えました。

また、三宅さんも、山崎さんとの会話の中から「自分不在の人生設計」という言葉をヒントに、この後、キャリア・カウンセラーの資格取得を目標の一つに加えたとのことです。
コーチングは、「目標達成の支援」といわれますが、会話を通して、コーチ自身も新たな気づきを得られる魅力があるようです。

定年間近の先輩に対するお世話になった後輩のコーチングその1~後輩の言葉に不安になった定年間近の先輩社員~~定年後の生活を考直す~

この道一筋四十年。
板金工として、まじめにこつこつ一生懸命仕事をしてきた山崎さんは、後二ヶ月で定年退職です。
精一杯、会社にご奉公したという満足感と、いや、後を託す後輩に自分の技術の伝承が出来ていない時間は二ヶ月しかないと、あせる気持ちが交錯し、ついつい後継者に辛く当たってしまいます。山崎さんは、会社の再雇用制度には手を上げず、退職後は、ゆっくり奥さんと旅行でもして過ごそうと考えているので、残り二ヶ月がとても短いものに思えてならなくなってきました。
今日も、後輩の鈴木課長の失敗が許せず、大きな声で怒鳴ってしまったことを後悔していました。
自分たちが育てられたときには、「ばかやろう!何やってやがる」「一回聞いたら分かるはずだ。何度言ってもわからんのは、根性が曲がっているからだ!たたきなおしてやる」と、口より手のほうが早い先輩の中で、職場はいつもぴりぴりした雰囲気で包まれており、一瞬たりとも気が抜けない、しかし充実した場でした。「一度聞いたらちゃんと覚えろ、頭で覚えようとするからダメなんだ、体で覚えろ。自然と出来るようにならなきゃ、出来るとは言えないんだ」「俺達の時代は、先輩のやることを後ろから見て、盗むように覚えたもんだ」先輩達の叱咤激励を受けて、ただただひたすら上司や先輩の背中を見て追いかけていたように感じていた。そんな時代を振り返って、懐かしいと思うのも、定年が近いからだ、歳をとったからだと思い込むようにして、なるべく今時の若い者は・・と、考えないように努力していた。

「定年後はゆっくり女房と旅行でもしようと思っているんだ。旅行に行った後は、そうだなあ、すこしノンビリするよ」山崎さんは、定年後のことを聞かれるといつもそう答えていました。
定年後はゆっくり旅行をしようと思っているだけで、特には目標もない山崎さんを見て、三十代後半の三宅さんが、お昼休みに山崎さんに声を掛けてきました。
三宅さんは、コーチングというものを勉強しているらしく、何かというと横文字をよく使う社員で、理屈よりも体を動かせというタイプの山崎さんにはちょっと馬のあわない後輩で苦手でしたので、これまではあまり長く話したことはありませんでした。しかし、あと少しで定年だから、お礼の気持ちを伝えることも大切と思って、煙たがらずに三宅さんと話をしてみることにしました。
「山崎さん、もうすぐ仕事終わられるんですねぇ」
「ああ、三宅さんにも随分とお世話になりましたねぇ・・ありがとうございました」
「とんでもない山崎さん。僕たちは、山崎さんのお陰で、技術が身についたんです。厳しさもあったけど、山崎さんの懐の暖かさみたいなものが、私は好きで、甘えちゃっていたように思います。ホントにありがとうございました」
山崎さんは、三宅さんの言葉にふっと遠い昔を思い出していました。
(「そういえば、自分も厳しいけれども暖かい上司に、ずいぶんしごかれたなぁ・・。でも、厳しいだけじゃなかった。失敗したときも怒鳴られたけれども、上手くいったときには、自分のことのように喜んでもらえた。それが嬉しくって、おっちょこちょいの自分は、ずいぶん仕事に精を出すことが出来ていたような気がする」)山崎さんは、言葉には出さなかったけれども、暖かいものを心の奥に思い起こして、思わず目頭をおさえました。と同時に、(「それに比べて自分は今、どうだろう・・」)と、振り返る気持ちを感じていました。

三宅さんは、山崎さんの隣に腰を下ろして相変わらずゆったりと話しかけてきます。
「ところで山崎さん、山崎さんは退職後、どうなさるんですか?」
「いやぁ、これまで女房には迷惑をかけっぱなしてきたからねぇ・・。会社も忙しかったからね。会社がどんどん大きくなっていく、それに自分が貢献出来るのが楽しくて、そんなときには、家にも帰らず、ただひたすら社長やみんなと一緒に仕事をしてきたんだ。私も二十四時間戦ってきた企業戦士の端くれだよ。家のことは何もしないで女房に任せっぱなしだった。けれども、女房は、愚痴の一つもこぼさず家庭を守ってきてくれていた。こんなありがたいことはないが、今更口に出すのは恥ずかしいからね。旅行にでも連れて行こうかと、思っているんだ」

「いやぁ、それはいいですね・・。どちらへいらっしゃるご予定なんですか?」
「海外は初めてだから、心配もあるんだけれども、オーストラリアに添乗員が一緒についていってくれる旅行があるので、それに申込をしたんだ。十日間ほどの旅行でね。楽しみなんだよ」

「オーストラリアですか。いいですねぇ。十日間、奥さんに孝行されるんですねぇ」

山崎さんは、相変わらずゆったりと話しかけてくる。しかも、社内で言われているような横文字の言葉はほとんどなく、不愉快なものや緊張感はまったく感じられませんでした。更に三宅さんは話しを続けます。

「山崎さん、山崎さんの奥さんは、どんなご趣味をお持ちなんですか?我が家の女房は、パッチワークを習っていて、やれ今日は教室がある、やれ今日は展示会がある、やれ今日は先生のお宅にお招きいただいていると、しょっちゅう外出して、忙しそうにしているんです。山崎さんの奥さんも、毎日忙しくされているんじゃないですか?」

三宅さんの愚痴とも言えぬ言葉を聴いて、山崎さんはふと考えました。

(「我が女房殿は、どんな暮らしをしているのだろうか。わからない。そんなことなど考えたこともない。女房が毎日何を考えて、どういうことをしているのかを知らないなんて・・
これまでいったいどんな夫婦だったのだろうか?女房は何を考えているんだろう?熟年離婚?まさか、そんなはずは・・・・・?)

ふと不安がよぎった山崎さんでしたが、お昼休みの終わるサイレンにせかされて、「三宅さん、この続きはまたあとで・・・」後ろ髪を惹かれる思いで仕事にもどりました。

次回に続きます。
次回はさまざまな形でコーチングが出てきます。

若手の先生と教頭先生の会話 のその後~コミュニケーションを考え直す~

さて今回は、前回の若手の先生と教頭先生の会話のその後をお伝えしようと思います。
教頭先生との会話の後、横井先生は深く考えました。

特に、教頭先生から受けた質問の、「横井先生は、ご自分の指導方法に生徒がついてこないと嘆いていたり、盛田先生の指導結果と、ご自分の指導結果を比べて嘆いておられる。その嘆きはそれぞれの生徒のしていることについてであって、自分のことではないですね。盛田先生とのことでも、盛田先生とご自分のことではないですね。生徒がしてくれないと嘆いているわけですね。
問題は、生徒側にある。生徒さえちゃんとしてくれさえすれば・・とお考えではないですか。
ですが、すべて他人任せな考えでは、何も解決しないと思うのです。解決をするために先生は、何が出来ますか?」
という思ってもみなかった質問は、深く心をえぐられました。

それでも答えが出ないので考えることをやめてみようと思いながらも、教頭先生から言われたことは、頭から簡単には離れませんでした。

「そうだなぁ・・自分は生徒を責めてばかりで、自分のことを棚に上げていたなぁ・・」と、自分を責める言葉ばかりが胸にこみ上げて、しまいには、「自分は教師には向いてないのでは・・?」という答えしか思い浮かばなくなってしまいました。

翌日以降は、顔を合わせると質問され追求されるような気がして教頭先生のことを避けるように、職員室にも身をおかないようにしていました。
たまに顔を合わせても、「どうも・・」とか、「お疲れ様です」と短くあいさつするだけで、なるべく教頭先生とは距離をおくようにしていました。

期末の成績評価も終え、明日から生徒は冬休みという日、職場では忘年会をかねた慰労会を行いましたが、横井先生は教頭先生と話したくないという理由のためだけに欠席しました。そんな横井先生の態度を見かねた教頭先生は、自分から横井先生に話しかけてきました。

「横井先生、お話したいのですが、今、よろしいですか?」教頭先生は相変わらず穏やかに接してくれていますが、横井先生は気がすすみません。
「今日は予定があるので、手短にお願いします」と答えるのが精一杯で、声も冷たく顔もこわばっているのが自分でもわかるほどでした。しかし、上司が接触してくるのを拒めば、更に居場所がなくなると思い、しぶしぶ教頭先生と向き合うことにしました。

「横井先生、何か私に話したいことがありませんか?このごろ、先生の様子がおかしいと思って心配になっていました。いかがですか?私に話せますか?」
教頭先生も心なしか、緊張しているようです。

「いえ、あの、この間は一緒に考えようと言ってくださったし、明日までと言ったのに、何も答えが見つからなくて。どんどん教頭先生に距離をおいてしまい、接触しづらくなっていました。すいません」横井先生の体格はがっしりしているほうですが、これ以上ないというほどに身を縮めて申し訳なさそうに話します。

そんな姿を見て教頭先生は、「横井先生、謝られることなど何もないですよ。私のほうこそちょっと空回りしたかと思っていました。横井先生にすぐにお詫びをしようと思ったのですが、ついつい後回しにしていました。申し訳ないことです」と、頭を下げました。
横井先生は、教頭先生から頭を下げられたことに驚くとともに、率直に自分の考えを話しても良い人なんだと、初めて思いました。

「教頭先生、実は、あの質問の答えを探しているうちに、どんどん、自分は教師に向かないという一点にだけ、心が集中していってしまっています。自分が一番、生徒に甘えて自律した考えを持てていなかったかと思うと、生徒に申し訳ないような気がして・・・」一気に話す横井先生の肩から力が抜けていくようでした。
「自分は生徒を責めてばかりで、自分のことを棚に上げていたなぁと思ったんです」

「それってどんなことですか」
「はい、生徒の結果だけを注目して、あんなにやっているのにどうして生徒はついてこないんだろうと、生徒の態度だけを気にしていたような気がします」

「生徒の結果に注目して、生徒のついてこないことを気にされていたのですね」
「そうなんです。私は一生懸命に生徒のことを思ってやっている。それなのにあいつらときたら と思うと生徒に信頼されていないような気がして、もうどうしていいか分からなくなってしまっていました」

「どうしていいかわからなくなってしまったんですね」
「はい、それも原因は、信頼されていない私にある。結局、私は教師には向かないんだって思うと、それ以上、前に進まないんです」。

「横井先生のクラス、生徒は何人でしたっけ」
「二十五人ですが、それが何か、私の悩みと関係あるんですか」

「横井先生、生徒一人ひとりの顔を思い浮かべてください」
「・・・・・・・?」

「一人ひとりに数学をどのように指導してきました?」
「基本をきっちりと教え込んで、それから個々の理解度にあわせてやろうとはしているんですが。どうしても時間との競争になってしまうので、宿題にして生徒自身で答えを導き出すように仕向けています。生徒一人ひとりがそれぞれ違いますから・・・」

「そうですよね。生徒一人ひとりそれぞれ理解度も違えば、考えるスピードも違うわけで、われわれ教師は、出来るだけ一人ひとりの生徒と向き合っていきたいものですね」
その後二人は、日が暮れ、底冷えするのに気づくまで、ゆっくり話し合いました。
横井先生は、自分の心の中にたまっていたものをすっかり出し切ったのか、スッキリした顔で教頭先生に胸のうちを伝えました。

「教頭先生、答えはまだ出ていませんが、前向きに考えて生きたいと思っています。来年、新しい太陽が上るのと同時に、もう一度一からやり直して見ます!ありがとうございました」
教頭先生も、横井先生に「習ったばかりのコーチングのスキルを振り回したために、混乱させて悪かったね。コーチングはコーチの自分自身のために行うのではなく、相談者のために行うんだということを再認識しました。相談者を思いやることの大切さを、横井先生に教えてもらえました。ありがとう」と伝えました。

三学期は、新年九日からスタートします。
前向きに考える気持ちになった横井先生にとって新しい一年が、希望に満ちたものであることは間違いありません。
コーチングは、スキルや知識を大切にしますが、相手の人格尊重、相手を思いやることも重要な要素であることを、改めて感じました。

若手の先生と教頭先生の会話~コミュニケーションを考え直す~

中学校で数学を教えるようになって七年目。熱血先生として評判の横井先生、熱血ぶりにかげりが出ています。

このごろの生徒の学力低下はひどいものであり、どうやって指導していけばいいのかと悩みの深い横井先生。近頃では、生徒がどんなことを考えているのか、自分のやり方に不満をもっていないか、ついていけないと考えているのではないかと思い出して生徒の言動のすべてが気に障るようになりました。文武両道、数学の授業もクラブ活動のバスケットボールでの指導も熱心に行うことから学校の中でも有名な熱血先生でしたが、このごろでは、部活動の指導にも熱が入っていないように見受けられるようになっていました。熱血先生の極端な変わりように教頭の田中先生は心を痛めていました。

期末テストも終わり、珍しく部活動の指導を早めに終えた横井先生が、ひとり職員室にいたのを見計らって、教頭先生は横井先生の隣に腰を下ろしました。

「お疲れ様です、横井先生。このごろ、元気がないようで心配なんですが、何かあったのですか?」と、何気ない世間話を始めるように、教頭先生は横井先生に話しかけました。

横井先生は、深いため息をつきながら「教頭先生、この前の期末テストの結果でも明らかなように、僕の教えている生徒たちの成績、惨憺たるモノなんです」と、横井先生は胸のうちを吐き出すように話し始めました。
「生徒たちはまじめに僕の授業は受けているんです。とても熱心だと思います。僕も、授業の進め方は工夫しています。でも、テストになると、皆、盛田先生の指導のクラスより成績が悪いんです。ある保護者からは、3者面談のときに、『指導力がたらないのでは?』と、露骨に指摘されてしまったし。どうしたらいいのかわからなくて・・・」

胸の中にずっとしまっていた荷物を降ろし始めた横井先生は、次から次へと話します。「生徒たちは、普段、とても楽しげに授業を聞いてくれているんですが、問題を解けというと、『わからん』だの、『難しい』だのといって真剣に問題と向き合おうとしないんです。
時間がないから、どうしても、授業最後のほうに出す問題については、正解を出すまでの過程を板書し、ノートに写させて各自で勉強しておくようにと伝えるんです。

次の授業のとき、振り返りにと問題を扱うと、覚えているらしくそのときには出来るんですが、理解していないからかテストになって、応用問題にすると、まるっきりわかっていないようなんです。私は数学は暗記じゃなくて、順序立てて物事を考えていき、答えを導いていく過程が大事だと考えています。ところが生徒達は、暗記ものと捉えているらしく、少し応用を利かせるともう出来なくなってしまうのです。
例題をどんどんやらせて、解き方を暗記させていくのも一つの手なんでしょうけど、それでは数学を勉強する意味がないと思うんです。例えば、『分数の割算は逆さにしてかければいい』というテクニックを覚えるのではなく、どうして逆さにしてかけるのだろうかということを順序だって理解してもらいたいんです。ところが、生徒達には・・・・」

どうやら横井先生は深い悩みを抱えているようです。

教頭先生は黙って横井先生の話を聴いていましたが、横井先生の言葉が切れてから、十分に時間を空けて、穏やかに質問をしました。

「横井先生、よく話してくれましたね。私はとても嬉しく思います。同時に、あなたの悩みがとても深いことを感じています。少し時間をかけて、その問題の解決に向けて、横井先生を支援していきたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「教頭先生、ありがとうございます。こんな話、だれにも相談出来ず悩んでいたんです。教師が授業のあり方で悩んでいることを人には知らせられなくて、どうしたらいいのか困っていたんです。思い切って教頭先生にお話してみました。ですから、校長や学年主任には黙っていてくださいね。もちろん、保護者の方にもです」

「横井先生のお気持ちはよくわかります。今日うかがったことは、横井先生と私の間だけの話としましょう」

「ところで横井先生、先生は、生徒たちにどうなって欲しいんでしょうか?」

「え?どうなって?そんなこと、考えたこともありませんでした。今考えますと少なくとも、自分の力で考えられるようになって欲しいと思いますんです。数学の魅力は、考えて答えを導き出すところにあります。今の生徒は、すぐに解決の方法を知りたがる。答えと解き方を聴いて、ほんとうにそのとおりになるだろうか?と、結果だけを確認している。それでは、考える力はつかないと思うのです。だけど、カリキュラムの時間はめいっぱいで組まれているし、盛田先生のクラスに遅れてはならないし・・・。そうなると、暗記させてでもいいから、カリキュラムどおり進めようと思ってしまいます。自分の〝そうあってほしいと〟いう気持ちとやっていることが矛盾しています」

「横井先生、一つ、今、私が感じていることを言ってもいいですか?」

前置きをしてから、教頭先生は言葉を続けました。

「横井先生は、ご自分の指導方法に生徒がついてこないと嘆いたり、盛田先生の指導結果と、ご自分の指導結果を比べて嘆いたりしておられる。その嘆きはそれぞれの生徒のしていることについてであって、自分のことではないですね。盛田先生とのことでも、盛田先生とご自分のことではないですね。生徒がしてくれないと嘆いているわけですね。問題は、生徒側にある。生徒さえちゃんとしてくれさえすれば・・とお考えではないですか。だけれども、すべて他人任せな考えでは、何も解決しないと思うのです。解決をするために先生は、何が出来ますか?」

「え?!」と、再び横井先生は黙り込んでしまったまま、しばらく時間が過ぎました。それでも教頭先生は、じっと次の言葉を待ってくれているようです。

「教頭先生、明日まで待ってもらってもいいですか?もう一度、ゆっくり考えてみます」といった横井先生の眼に、ほんの少しですが力が入ったように感じた教頭先生は、「今後もこの問題を一緒に考えさせてください。横井先生、今日はどうもありがとう」と言って、職員室を後にしました。

教頭先生は、生徒とのコミュニケーションをよくするために、コーチングを学んでいましたが、馴れ合いにならないコミュニケーションを目指しているばかりでなく、先生とのコミュニケーションを図るためにも、スキルが活かせることに気づいて、職場で活かしているそうです。

若手の教員は、自分の行動を自分で評論する力は強いが、当事者として問題を受け止める力が弱いと感じているようです。

若手教員のモチベーションを向上させたり、悩みを聴いてあげられるよき先輩教員として、コーチングのスキルを活かしているとのことです。

経営コンサルタントとして独立して悩んでいる綿谷さん~異業種交流会で出会ったコーチとのセッションをきっかけに相手に配慮する重要性に気づく~

会社勤めで経営コンサルタントの仕事をしていた綿谷さんは、自分の事務所をもち独立するのが十年来の夢でした。そのためにこれまで仕事をしていたといっても過言ではありません。綿谷さんへご指名のお話も多く来るようになり、これなら独立しても十分にやっていけると考えて今年三月三十一日に会社を退職し、念願の経営コンサルタントとして独立をしました。

オフィスは自宅の書斎と決め、必要な事務機器等も搬入され、逸る気持ちを抑えながらスタートを切りました。

まずは今までお付き合いのあった企業に独立したことの挨拶と、今後は自分に直接お話をいただけるようにとお願いすることから始めました。ところが、これまで付き合いのあった企業さんは、「わが社は綿谷さんの個人としてのコンサルタントとしての働きよりは、むしろ会社としての全体の働きを評価していたわけです。私どもとしては今後も従前の会社とは顧問契約を続けていく所存です。綿谷さん個人には、これまでお世話になったことでもあり、何かあったときにこちらから声をおかけすることでいかがでしょうか」と体よくあしらわれてしまいました。「何かあったときにこちらから・・・」というのは、「何もないと思えば声をかけない」ということです。

これまで付き合いのあったところは、自分のコンサルタントとしての力を評価してくれていると思っていた綿谷さんは、それが間違いで相手は自分の背中の看板、○○社のコンサルタントということを評価していただけだということに、初めて気づきました。

このままではいけないと考えた綿谷さんは、いろいろなつてを頼りにして、これまで付き合いの全くなかった会社さんへの営業を開始しました。飛び込み営業も行ったわけです。しかしながら独立して四ヶ月。営業をかけても相手にしてくれる企業はほとんどなく、話すらまともに聴いてもらえなかったり、話は聴いてもらえるものの、相手にとって必要な情報を引き出されると、後は、邪魔だといわんばかりに追い返されたりする毎日でした。

独立前の会社では、専門の営業がいて、コンサルテーションが必要なクライアントは、彼らが専門に獲得してくれていたので、名刺交換のときからすでに、「先生」と呼ばれ、厚くもてなされていただけに、このギャップを冷静に受け止めることが出来ませんでした。

これではまずい、何とかしなければと思い、ある夜、異業種交流会に出席してみました。なかなか名刺を出す勇気がなくどうしたらよいものかと考えあぐねていたところ、笑顔の綺麗な女性が、声を掛けてくれました。

「はじめまして。私、橋本幸子と申します。職業は、ビジネスコーチをしています。ご参加ははじめてでいらっしゃるんですか?」

「は、私は、経営コンサルタントをはじめたばかりの綿谷利男と申します。初めての参加です」と挨拶をし、もう何度も踏みにじられている名刺を躊躇しながら出しました。橋本さんはとても活発な人で、大勢の人から声を掛けられる顔の広い人で、多くの人と朗らかに話しているのを見て、うらやましく思いながらも、この会で自分がどうしたらよいのかがわからず、ずっと橋本さんを頼りに、行動することにしました。積極的な橋本さんの真似をしてみることにしたわけです。合間を見て橋本さんは、「ごめんなさいね。お声を掛けてくださる方が多くて。何だか落ち着きませんね。ところで、今日初めてお目にかかった方に失礼だと思うんですが、何か、悩んでいらっしゃることがあるようですが、いかがですか?」
と話しかけてくれました。

綿谷さんは、(初対面の人にどうしてそんなことがわかるのか。コーチをしているといっていたから職業がら誰にでもそういって話しかけているのではないのか。占い師が道行く人に声をかけるように、私に話しかけたのではないのかな。ちょっと追及してみてやろう)少し意地悪な気持ちになり、「どうして、悩んでいると感じられたんですか?」と質問してみました。橋本さんは、あっさり、「ため息の回数と深さです。この会場に入ってからずっとため息をおつきでしたよ。ご自身の行動に気づいていらっしゃいましたか?」と、にっこり笑っておっしゃいました。

綿谷さんは、この会場に入ってから、ずっと一人ぼっちで居るようなさびしさや疎外感を感じていたのですが、橋本さんはずっと見ていてくれたようです。

「この人になら、胸のうちを明かしても笑われることはない」。直感で判断した綿谷さんは、率直に胸のうちを明かしました。

「今年の春に独立したんですが、思ったようにいかなくて・・・」

ずっと静かにうなづいて聴いていてくれた橋本さんは、綿谷さんの話に、「そう、大変な思いをしたんですね」とか、「悔しかったんでしょうねぇ」と、綿谷さんが避けて表現しない心の中を、実に見事に言葉にして表現しながら、どんどん、話を聴いてくれました。

綿谷さんは、橋本さんの対応につられて自分の気持ちを話し続けていました。

十分ほどの長話になってしまったことに気づいた綿谷さんは、「橋本さん、ごめんなさい、あなただってここには何かを探しにいらっしゃってたんでしょ?僕が邪魔をしていますよね?」と、率直に橋本さんにお詫びしました。

すると橋本さんは静かに言いました。「綿谷さん、今のその心遣いを、企業周りの飛び込み営業でもしていましたか?兎に角、自分のことを売り込もうとして、自分のことばかり話して相手の都合など気にしていなかったというようなことはないですか?」。綿谷さんは、心臓をナイフでえぐられたような衝撃を感じたように、体をまっすぐにし、頬を紅潮させながら橋本さんに答えました。

「僕は一生懸命、自分のために契約してくれることばかりを探していました。そうですよね。誰だって邪魔されたくない話の途中や、仕事の途中で、人の話には付き合いませんよね。なぜそんなことに気づかなかったんだろう」

「そうなんです。話というのは相手のためにすることであって、自分のためにするもんじゃないんです。心底、相手のためを思って真剣に話していると相手の琴線に触れることになるわけです」

「どうもありがとうござます。橋本さんと出会えただけでもこの会に参加した意義がありました」

綿谷さんはこの夜をきっかけに、今は橋本さんのコーチングを受けながら、個人事業主を楽しんでいるそうです。

そして、この半年の間に、顧問先は三社になり、目標まであと二社を目指して日々、営業に励んでいるそうです。

営業に異動して悩んでいる清水さん~不平不満を提案に変える~

清水さんが営業チームのリーダーに任命されたのは、九月1日のことでした。
これまでは、技術開発員としてキャリアを積んでおり、会社からの異動辞令には「どうして?」という気持ち以外には感じることがなかったそうです。確かに、これまでも営業に同行して、お客様へのプレゼンテーションなどの際には、補足説明をし発注につなげるなど、売り上げ拡大に貢献していた実績はあります。しかし、どちらかというと口も重いほうだし、人と話すのは苦手でそれだから人と話をしなくてもいい技術開発を仕事として選んだというような意識もあり、自分に営業など勤まるのだろうかととても悩んでいました。

そんな時、営業部長の都築さんに食事に誘われ、仕事のことでハッパをかけられるのはイヤダなと重い心を引きずりながらも、同行することにしました。

しかし、都築営業部長は、もともと人事部で長く社員教育に携わっていた人で、自分と同じように、営業との関連が薄い中での異動を受けた人ですが、営業にうつってからは、かつてないほどの高い成績をあげている社内で有名な人です。他部署から異動してきて、全く新しい仕事をきちんとこなされている都築さんから、何かしら自分のこれからのヒントでももらえれば無駄な時間になることはないな、そう思うことによって、なぜか清水さんにとって都築部長のお誘いはいやいや同行するということでもなくなりました。

「まあまあ、お疲れさん、慣れない仕事で気が張っておられると思って、今日はねぎらいたくてお誘いしたんですよ」。

開口一番、都築部長から清水さんの心の中をかいま見たかのような挨拶を受けた清水さんは、少しびっくりしたということでした。

「部長も、営業はあまりご経験なくして部長を拝受されたとのことですが、お困りのことはなかったんでしょうか?私は、未だに『なぜ私が営業チームのリーダなんだろう?』と思っているだけで、会社に対しては、不信さえ感じています。私は技術開発員としては失格だったんでしょうか」
「清水さんは、この人事に何を感じておられるのですか?会社への不信だけですか?」

「いやぁ、そうではありません。ただ、会社からの期待を感じれば感じるほど、自分の能力に不足を感じるんです。そうなると、この人事を恨む気持ちも強まってくるんですよ」
「なるほど、ご自分の能力と会社の期待の高さが比例していないと感じているわけですね?」

「ええ、そうです」
「では、清水さんは、会社から何を期待されていると感じているんですか?」

「そりゃ、もちろん、営業成績をあげること、売上と利益の向上でしょう。都築部長だって、それを望んでいらっしゃるからこそ、こうして私を食事に誘ってくれているんじゃないんですか?異動して二ヶ月もたつのに、どうして清水は自分から積極的に動かないんだろうと、ほんとうは思っていらっしゃるんじゃないですか?」
「自分の気持ちを何とか前向きにしていこうと思うだけで精一杯で、営業チームのリーダーとして部下と接する余裕など全くありませんよ」

「部下と一緒にお客様まわりをしていても、お客様と部下との会話を横で黙って聞いているだけで、こんなことでいいんでしょうか」
「力不足をどうやって解消していけばいいのかわからないんですよ」

「やりながら覚えるといっても、営業で失敗して大きな穴を開けるようでは、大変ですし・・・」
「そもそも、私は口下手ですし、人に説明するのは向いていないんですよ。ほんとうに誰が見てもミスキャストですよ。今回の人事は・・・。会社は私に営業で何をしろと言うんでしょうか。もっと適任がいるはずですよ。部下だってそう思っているみたいだし・・・」

清水さんの不平・不満は、どんどんエスカレートしていきます。都築部長の質問に答えれば答えるほど、自分が不平・不満を感じていることに気づいてきました。しかし、それと同時に都築部長は一切、その不平や不満を口にする清水さんの発言をやめさせようとはせず、むしろ、どんどん吐き出させるように、清水さんの発言の全てを認めるようなあいづちをうってくれていました。
三十分もじっくり話を聞いていただいたころでしょうか?都築部長は、穏やかに清水さんに質問をしました。

「どんな人でも最初から営業のプロって人はいませんよね」
「会社は清水さんのことを適任だと考えて起用したわけです。もちろん、最初から全部出来るとは思っていません。次第にプロになられるだろうと思っているわけです。一方、清水さんはミスキャストだとおっしゃる。それでは清水さん、清水さんの今の不満を、提案として訴えるとすると、会社にどんなことが言えると思いますか?」

「会社に提案ですか・・・」
清水さんは、とっさに答えることが出来ませんでした。(「私は一体どうしたいんだろうか。不平・不満を言っているだけでは、解決にはならないし・・・会社への提案は特にありません というのも違うような気がするし・・・どうすればいいんだ」)

都築部長は続けて静かにおっしゃいました。
「人はミスを犯したくないものです。それゆえ慣れた仕事をしたがるものです。慣れた仕事から、新しい慣れない仕事に異動させられてしまうと、それが不平・不満につながるわけです。不平・不満は、誰でも持っています。それは自分にとっての『問題』ということです。『問題』を『問題』のままで終わらさないで、自分のこれからの『課題』として、取り組むことが大事だと思います。不平・不満を持つこと、それはさらに自分を成長させるチャンスなのです。

不平・不満のまったくない部下などは、私は信頼しません。不平・不満は、向上心の現れです。
私は、部下の不平・不満を、提案に変えるスキルを持つことも、上司の役割だと思って、コーチングを勉強しています。もしも清水さんが自分の営業能力の不足を不安に感じていて、それが会社に対する不平・不満になっているのだとすれば、自分に必要な学習をして能力開発することを提案しますが、よろしいですか?

私はそうやってきました。このやり方をやられるかどうかは清水さんが決めることです」と、都築部長は力を込めてお話くださいました。
清水さんは都築部長の話を真剣に聴くことによって何かを感じたそうです。
清水さんは自身の不平・不満と真っ向から向き合い、同時に部下の不平不満にも付き合う覚悟で、次の日に出社しました。

仕事を任せた婿への対応に悩む経営者~業績向上につなぐ人材育成を考える~

「人生は長い長い「ウサギとカメの競争」。怠け心(ウサギ)と頑張る心(カメ)のバランスがなかなか上手く取れない。お客様へのアプローチが下手な社員を抱える経営者とのセッションです。

「お客様対応が下手な田所さん、その後いかがですか?」
「いやぁ・・・相変わらずなんですよね・・・。『これください』とおっしゃられたものだけしかお勧めしない。迷っているお客様との応対なんて、お客様が迷われている時間だけかかってしまって、完全に相手のペースでねぇ。お客さんが減ったとはいえ、うちは老舗の店ですよ、次のお客様がお待ちになっていらっしゃるわけだし。もう少してきぱきとお客様をさばいてもらいたいんです。『これがお勧めです』といって押し切ってもいいと思うんですよね」

「社長のお気持ちは、田所さんには伝えていらっしゃるんですよね?」
「いやぁ、私が直接言うと、若いモンには重荷だろうから、専務から伝えさせていますよ」

「なるほど、ご自分でおっしゃると、若い人に重荷になるから、専務さんに伝えてもらっているわけですね?専務はどんなふうに伝えているか、また、いつ伝えているか、確認していらっしゃいますか?」
「いやぁ・・・専務は入り婿ですからねぇ。私にも何かと遠慮があって、任せたことは一切口出ししないようにしているんだ」

「そうでしたね。では、なぜ、娘さんにお話して、教育をしてもらわないんですか?」
「いやぁ、娘では社員は動かないだろうからネェ。それに、あまり娘の力を当てにしたくないんだよ。まだ、子供たちにも手がかかるから、あれもこれもさせるわけにはいかないんだよ」

「お嬢さんへの配慮ですね。お嬢さんには手を貸していただこうと思わないのであれば、やはり、専務さんとの連携をもっと深める必要がありますね」
「専務の仕事ぶりがなかなか、自分の思うように進んでいなくて、イライラするんですねぇ」

「専務さんのお仕事が自分の思うものと違うことと、お客様対応が上手くならない田所さんの問題は、社長の中では、同列なんですか?」
「うん?いやぁ、そうじゃないんだが・・・」

「少し切り離して考えましょう。田所さんのように接客が上手く出来ない社員には、お手本を見せて感じさせることも重要ではないかと思うんですが、誰か先輩社員でお手本になれる人をあげていただけますか?」
「はぁ、そりゃあ、やっぱり私でしょう。この道五十三年。私もまだ、店には立ちますからネェ」

「なるほどね。社長自らをお手本として真似してみようと、提案なさったらいかがですか?」
「そりゃぁ、いいと思うが・・・」

「何か問題がありますか?」
「教育は専務に任せたといった以上、それもおかしいのではないか?それに、私が店頭に立つといっても、そうそう毎日じゃないわけだし。そんな悠長なこと言っていたら、人は育たんのではないのかな?」

「なるほどね。専務さんへの配慮が一つ。育てる時間が悠長になるのが一つ。二つの問題があるわけですね。この二つは、連携した問題であるように思うから、どちらか一方を選ばない、また両方とも選ばないこととして、何か別に手立てを考えてみましょう。いかがですか?」
「そうですね・・・」

「社長以外にお手本になりそうな社員はいますか?社長が信頼出来る社員がいいですね」
「うん・・・ベテランの課長が一人いるが、指導なんて出来るかなぁ・・」

「どんな指導をさせたいんですか?」
「そうだなぁ・・販売をさせている姿がゆっくり見られるように、彼女のアシスタントのようにぴったりひっつけようかな?」

「二人一組のようにペアを組ませるということですか?」
「そうだな。人件費の無駄遣いだと、専務には叱られるだろうけど、早く一人前になってもらえれば、取り戻せるだろうからなぁ・・・」

「ベテランの課長さんには、どんなことをあらかじめ伝えておく必要があると思いますか?」
「田所の販売が上手くないので、教えてやって欲しいということかな?」

「田所さんの販売が上手くないと、ベテランの課長さんは感じているんでしょうか?」
「いや、わからんが・・」

「もし、課長さんも同じように上手くないと感じていたのなら、自分が積極的に指導をしていたのではないでしょうか?」
「いや、うちはそういう人のことを率先して面倒みようなんていう社風じゃないから・・・」

「なるほどね。社長、それならなおさら、田所さんの何が問題なのか、明確にしたほうがよろしいのではないでしょうか?」
「そうだなぁ、お客様の言うとおりじゃなくて、店の自慢の品を勧めるとか、お客様の気持ちを慮れる店員になって欲しいということかな・・・」

「お客様の気持ちを慮るとはどういうことですか?」
「お客様の気持ちになって考えるということだろう。そんな細かなことまで言わなきゃわからないのかな?今の若いモノは・・。情けないネェ」

「店の自慢の品を勧めて、それがお客様の気持ちを慮れることになっていること、そんな店員さんになってもらいたいわけですね」
「そのとおり。それが出来て初めて販売のプロと言えると思う。そんなの当たり前だろう。私もこの道五十三年常にそうあるべきだと思ってやってきたんだ」

「社長の中にある販売のプロとしてのあり方、販売の理想像は、社長が頭の中で思われているだけでは社長だけのものですね。みんなのものとするためには、出来る限り具体的に、わかりやすく伝えないと、理解してもらえないのではないですか?」
「そうかなぁ・・言わなくてもわかると思うけど・・・・、あなたが言うなら、言ったほうが
いいのかなぁ」

「社長のお気持ちはいかがですか?おっしゃったほうがいいと思いますか?」
「よく分からんが、まぁ、一度やってみよう。それで、どう言ったらいいのかな?」

「田所さんにどんな販売員になってもらいたいか、出来る限り具体的に伝えてはいかがでしょうか?接客時間は、十五分くらいまでにしたいとか、迷っているお客様には、こんなふうにお品をお勧めしてもらいたいとか。まずは、社長のイメージする販売が出来るようにして、それから、田所さんの長所を生かした接客を確立させるという二段構えにしてはいかがですか?」

「そうだねぇ・・・それならいいなぁ」
「長年している仕事は、何でも上手くいっていますか?」

「うん?・・まぁ、そういうわけではないが・・・」
「うまくいかないことは、指導する。うまくいったことは褒めることが大事ですね」

「そうだな、褒めてやればやる気も出るな」
「そうでしょ。照れくさいかもしれませんが、やってみられますか?」

解決出来ない問題は、複雑にいくつか重なり合って起きるときがあります。当事者はそれに気づかず解決出来ないと悩みを抱えますす。コーチは、それに切り込むことも大切です。

奥さん依存症の自転車屋さん~事業を続ける意志の揺らぎを他責にする経営者のモチベーションを上げる~

今後、私はどうしたらよいのでしょうか?
相談くださったのは、自営業歴五年の岩山さん。経営する自転車屋さんは、中学校が近くにあることから中学生御用達の店として、順調ですが、このままでは先行きが不安とのことでした。

「いやぁ、実はうちの店の前で自転車に乗った女の子が鉄板の上で滑って転んだんですよ。頭を打ちましてね。出血がひどくて、傷口をタオルで抑えながら、救急車を待っていたんですけど、女の子の顔がみるみる蒼くなっていって。怖かったですよぉ」
「あらぁ、それは大変でしたね。女の子は? 大丈夫でしたか?」

「はい、1週間くらいたって、お父さんと一緒にお礼に見えて・・・頭を三針縫われたけれども、髪の毛に隠れて、傷口も見えないからって、ほっとしてらっしゃいました」
「そうですか・・何よりでしたね」

「はい、良かったねぇって思ったら、ついつい余計な口がすべちゃって・・・・・・・・・」
「?口が重くなっちゃいましたね」

「ええ女の子に説教しちゃったら、お父さんも固い顔になっちゃって。『たしかにうちの子が傘差し運転をしていたのが悪いけど、お宅の店の前の鉄板、お宅がしいたんでしょ。あれさえなければうちの子が転ぶこともなかったんじゃないかな。救急車を呼んでいただいてなんだけど、そんなに頭ごなしに叱らんかていいんじゃないですか』って言われたんです。女の子は女の子で泣き出してしまうし・・・。女房が、『まぁ、あんた、怪我がたいしたことなかったからいいじゃない・・』ってとりなしてくれなかったら、どうなっていたか・・・」
「なるほど、気まずい思いをしちゃったわけですね。それは、岩山さんが、自転車に乗ってくれる人を大事にしているし、自転車を愛しているからでしょう?」

「そうなのかなぁ?・・・自転車屋なんて、今時儲からないから、もう辞めようかなっと思っているのに・・。そうなんだろうか?」
「たしかに、岩山さんのこれまでのコーチングのテーマは、自転車屋さんからの転業、自転車屋さんの廃業でしたね。儲からないからやめたいという結論を持っているということは、自分の中にありました。それは変ってない?」

「はい、儲からないと、女房子供養えないですから・・・女房の機嫌も悪いですからねぇ」
「奥さんは、儲からないから機嫌が悪いんでしたっけ?奥さんのことを観察していただくように前回のセッションのときに宿題にしてありましたけど、観察してくれましたか?」

「はい、レジのお金がなくって支払日だったりすると、やっぱり銀行に行く前に、大きなため息ついてますよ」
「そんなとき、奥さんの気持ちを確認してくださいましたか?」

「コーチ、それは聞けないですよ。面と向かって、お金がないからため息つくのか?なんてことは」
「もっと、機嫌が悪くなりそうだから?」

「そうですよ。自転車屋は親父の代からやっているから、なんとなく継いだけど、今みたいに何でもスーパーやホームセンターで買えて、値段も安くなっちゃったら、うちらみたいな専門店は埒があかんのですよ」
「なるほど、経営が苦しいと感じている岩山さんの気持ちは、理解出来ます」

「でも、そのことと、奥さんの気持ちを確かめないこととは、違うと思いますよ。むしろ、明らかにするのを恐れているのは、岩山さん自身であるような気がしてなりません」
「きついこと、言いますね」

「はい、岩山さんの心の中に、この問題の根っこがあると感じるからです。もう少し、付け加えるならば、自転車を愛しているのに、経営に身を入れようとしない岩山さんに、奥さんは苛立っているだけに感じられるからです。だとしたら、奥さんが尚、気の毒に思えます」
「私は、自転車を愛しているんでしょうか?なんとなく、親父の後を継ぎ、なんとなく、これまでやってきた。大勢の子供たちが自転車を壊すたび、直してきたけど、修理すれば代金が入るからまぁいいかなぁと思っていただけの気がしますけど・・・コーチがいうほど、私は愛してもいないし、私のことを買い被りじゃないですか?」

「もし仮に、廃業して企業に入るとしても、たとえば、自転車を愛しているなら、自転車の知識とこれまでの経験を生かして自転車を売る営業の仕事が出来ます。どういう修理をしたらよいのか、指導者になることも出来ます。でも、自転車は二度とごめんということになれば、自転車とはまったく関係のない違う道を探すことになります」
「ああ、なるほど。そうですね。自転車を売るねぇ・・・。自転車を海外から輸入する会社に入るっていうのもいいですかネェ?」

「もちろんです。海外の自転車は、魅力があるんですか?」
「はい、デザイン性が高いんです」

「岩山さんにとって、自転車の存在は、大きいように思えます。でも、今は、目を背けたい?」
「・・・生活がありますからねぇ・・・」

「たしかに、レジのお金がないということは、不安な気持ちになりますよね?ただ、先日お話しの中にあった、子供がパンクで困っていると、ただで修理してあげちゃうとか、鍵をなくして困っている子供の自転車の鍵を外してあげるとか。お金を意識しないときもあるじゃないですか?」
「たしかに、そうなんですよね。後で、あ~あっと後悔するんですよ。また、金にならないこと、やっちゃったって・・・(大きなため息を漏らす)」

「岩山さんがパンクで困っている子や鍵を無くして困っている子の世話をすると、奥さんが怒った顔をしていますか」
「いえ、それは見たことはありません。ただ、お金が入らない余計なことを私がしているわけで、怒った顔をすると思いますよ」

「つまり、岩山さんの想像した、奥さんの顔でしょう?」
「はぁ、言われてみればそうですねぇ・・」

「ほんとうに怒ったときの理由を考えましょうか?」
「そうですねぇ・・・。いつ怒ったかな?・・・この間の、俺が余分なことを言ったときは、結構怖い顔してたなぁ・・・」

「理由を考えたことがありますか?」
「余分なこと言わなきゃ良かった?」

「余分であったかどうかも、岩山さんのイメージですよね?」
「ああ・・・わからんですねぇ・・・女房がどう思ってそういったのか・・・?」

「もう一度、チャレンジしてみましょうか? 奥さんの気持ちを確認するという宿題に」
「そうですねぇ・・・やってみます」

最後は、消え入りそうな小さな声で宣言した岩山さん。自分の心にまったく気づけずにいます。
男性は、どちらかといえば、感情を扱うことが苦手です。自分の感情も、家族の感情も、出来れば触れたくないと思っているか、わからないから触れてはならないか?苦手だから触れないようにしているのかのいずれかです。
自分の人生は自分で設計し、自ら行動することによっていかようにも変化させることが出来る、そのためには、自分の感情に正直になることが大切であることに早く気づいて欲しいと願うばかりです。

熱血社長と仕事以外に夢をもつ契約社員二人へのコーチング~男としての生き様に概念の強い社長が、意に反する社員を評価する~

「林社長、おはようございます」
「おはようございます。どうもすっきりしませんなぁ・・」

「曇り空っていう感じですか?」
「はい、そうですね。契約社員の西川のことなんですが、一生懸命やっているんですけれどもね、本人はね。でも、どこかピントがずれているんですよ。子供が四人もいるのに、契約社員でいいっていう気が知れませんね。僕が古いんでしょうかネェ」

「林社長は、今年でお仕事始められて何年でしたっけ?」
「大学1年のときに親父が急逝して以来だから、もう、五〇年ですかネェ」

「お母様が、代表取締役になって、林さんは?」
「大学生ですからね、僕は社員の一人。親父を支えてくれていた社員が一人。三人で仕事を続けました」

「お母様から受け継がれたのは?」
「お袋は二〇年、社長として頑張りました」

「そうすると、三九歳でお母様からバトンを受け取られたのかしら?」
「そうですね、男四〇になれば責任はしょえるだろうと、お袋は潔く引退しました」

「確かに、キャリアの長さで言えば、古い経営者でしょうね。ただ、時間的な長さだけで気持ちがふさがっているわけではないですよね?」
「はい、実は、契約社員の西川というのは、男性なんです。子供四人もいるのに、1年ごとの契約でいいというし、契約社員ですからネェ・・・他の社員と同じように給料は払えない。それどころか、今度の契約更新は、見合わせようと人事から結論が出された。男なのに、どうやって、これから家族を守るのか」

「人事担当者からの契約継続打ち切りの結論の理由は?」
「なんかね、ピリッとしないんですよ。仕事の面でも、考えの面でも。男の癖におせっかいというか。自分の身の振り方も考えられん男が、何が他人の世話なのか・・」

「それは、一つの実例でしょうけれども、他に、契約継続しない理由はあるんじゃないですか?」
「たとえば、担当として責任もたせている車両管理が出来んのですよ・・・。与えている仕事が出来ないんじゃ、給料払う価値がないですよね?」

「車両管理以外の仕事は出来るんですか?」
「いやぁ、彼がね、この間発注間違いした件では、二〇〇万円ほど損をしたし」

「でも、彼は、単年度契約者である自分の立場を理解しているんでしょう?それならば、ミスが続けば、当然、契約継続が難しくなることは理解しているはずですよね?挽回しようとか、弁解したとか?そういったことはないんですか?」
「それよりも、なぜ、彼がね、契約社員でいいのかがわからないんですよ。契約社員で与えられている仕事も上手く出来ない。だから、ボーナスもパートさんと同じくらい。年間三〇〇万円で契約したんですが、男だし、仕事が出来るなら、ボーナスをたくさん上げようと思っていたんですが、それも出来ない。
『どうしてもっと腰を入れて仕事をしないのか?正社員になることを考えたらどうか?』と聴いたんですが、『いや、夢があるんで、契約社員のままでいいです』と言うんです。『ただ、社長、生活出来ないんですよ、今の給料じゃ、だから、もう少し上げていただけませんか?』と、言われました」

「契約社員の西川さんは、夢は持っているんですよね?」
「はい、だけど、その夢って何だ?って聴いても、応えないし。あいつは、男の責任を果たせていないじゃないかなぁ、奥さんがどう思ってるかわからないけれども、あれじゃあ、かみさんがかわいそうだよねぇ」

「林社長は、男は、女房、子供を養わなくちゃならない?って考えですか?」
「あったり前でしょう?男なんですよ。男が四人も子供を持って、何が夢ですか?ばっかばかしい」

「ずいぶん、辛口ですね。林社長の夢は?」
「男としての夢は、事業を五年後に息子に譲るんですが、事業の発展と一族の発展を願うという夢はありますよ。男ですから・・」

「なるほどね。林さんが契約社員の西川さんに伝えたいことは、ずばり、何ですか?」
「男として、家族を泣かせるような生き方をするな!ということです」

「契約社員の西川さんは、自分の人生に満足してはいらっしゃらないんでしょうか?」
「僕は、理解出来ませんね。社員にならないかと、この二年の間、ずっと誘ってみたし。仕事も正社員と同じように教えてきたし。ただ、自分の考えを受け入れてもらえなかったのは、残念ですねぇ」

「なるほどね。林社長は、どうしたいんですか?」
「彼には、三月でやめてもらう。と言っても、一生懸命働いてもらいたいのは当然です。男だから、責任はきちんと果たしてもらわなければなりません」

「林社長、彼の立場にたってご自身(林社長)を見たら、林社長は男の中の男として眼に写るでしょうか?」
「彼の立場にたって僕を見れば、もちろん、日本の男の見本でしょう。自信がありますよ」

「なるほど。そんな林社長から契約社員の西川さんを見ると?」
「情けない男ですよね。仕事もまぁまぁ、家族にもまぁまぁなんて生活じゃあねぇ。奥さんが可愛そうですよ」

「西川さんの奥さんから相談があったんですか?」
「相談はありませんが、そんなことはわかりますよ。あれでは奥さんも大変でしょうな」

「といって、奥さんを雇うわけにはいかないわけですよね?」
「残念ですが、それは出来ません」

「ところで、そんなダメ社員のとの契約を打ち切るのであればせいせいして心の中は日本晴れだと思うんですが、林社長のお気持ちが曇り空なのはどうしてでしょう?」
「と言っても、彼の生活が心配でネェ・・心さえ入れ替えて、夢だなんていってないで、腰をすえて働けばいいのに。仕事が出来ない奴は、評価出来ないだけです」

「どんな仕事が出来るようになって欲しいのですか?」
「与えている仕事は、古くからのお取引先様の商品管理と発注業務、車両管理。これだけでもいいから、会社に損を出させるようなことはやめてもらいたい」

「そのお気持ちは、話されましたか?」
「言ってもわからんでしょう・・。それに、もう、契約の継続をしないことは、人事とも確認してあります。残念ですが・・・」

どうも林社長の気持ちは揺れているようです。
辞めさせるつもりではあるけれども、家族のために生活の心配をしている。
林社長が持つ「男」に対するイメージで、評価点が辛くなっているようにも思います。
こんな林社長の気持ちを、契約社員西川さんがどう感じるのか?
Ⅱ・8で西川さんのセッションをご紹介します。

娘婿に社長職を譲った会長の悩み~後継者を信頼出来ず、復帰しようと考える社長のモチベーションを上げる~

社員一〇〇名の中規模会社を経営する久田さん。事業を継いで四八年。長い社長業の間には、浮き沈みもありましたが、久田さんの昼も夜もない献身的な努力と、もって生まれた抜群の経営センスによって徐々に安定し、社員も次第に増え魅力ある企業として地元に貢献するまでに成長しました。

ところが、自分が会長となり娘婿の太郎さんを社長に据えて会社を渡したとたん、新社長から「お父さんはこれまでずーと会社一筋でやってこられたので、ここらあたりで少しノンビリしてください。会社のことは社長の私に任せてください」と言われてしまったとのことです。始めは頼もしい奴だ、さすが自分が見込んだ奴だと思っていたのですが、そうもいかなくなりました。娘婿の社長から一切の相談がなくなったのです。そして、会社は悪い方に回り始めていました。

まず、社員の定着率が悪くなり、いつの間にか、知らない顔の社員が増える一方になったことに戸惑い、更に、銀行から保証人になって欲しいと言う申し入れを受け、びっくりして税理士に話を聴いて、高かった血圧が更に高くなり一時は入院するほどになったのは、借入金をしたという事実を知ったからでした。

自分が苦労した経験から、久田さんは、一五年ほど前に借入金をすべて返済し、一切借入金をしなくても会社が回るようにと安定させていました。そんな状態にして会社を渡したので、ぜったい大丈夫だと信じていたそうです。

心配になった久田さんは、さっそく事実関係を社長である娘婿に確認しました。娘婿は「お父さん、全く心配はありません。今、会社は、時代の要求に沿える形に脱皮しようとしているところです。全く、問題はありません。お父さんにはご心配をおかけして申し訳けありません。お父さんに心配をかけないように頑張りますし、来年には会長職を離れ相談役にでもなっていただきもっとゆっくりしていただきたいと考えているくらいです」と取り付く島もありません。

こんな久田さんがコーチングを受けるきっかけとなったのは、娘婿との会話がうまく成立せず、イライラした中でコミュニケーションをとっていたのですが、なかなか真実が見えてこないばかりか、よかれと思って娘が間に入ってくれたことから娘夫婦の間にもひびが入り、娘婿の太郎さんが「仕事が忙しいから会社に寝泊りする」と言って家から出て行ってしまい別居状態になったことからでした。

「久田さん、血圧の具合は落ち着いていますか?」
「ええ、あまり良い状態とはいえないようです。ほんとうに情けないことです。もう私の人生も終焉ですねぇ・・」

「気分はあまり優れないようですね」
「ええ・・・婿は出て行ったままですし・・」

「社員の方は?お辞めになる人は落ち着いてきましたか?」
「ええ、これ以上辞める人間はいないようです。それに、婿の強引なやり方に反発していた古参の社員は、私が社長に戻るなら、会社に戻りたいと言いに来てくれています」

「そうですか・・やはり原因は、若社長のやり方だったんですか?」
「そうですね。積極的な販路開拓はいいと思うんですが、営業にかなり無理なノルマを与えたようで。私は既に六八歳です。私が社長に戻るのは、体力的にも精神的にも辛いんですが、残ってくれている社員のためには、それしかないんでしょうか・・」

「久田さんの主治医は何と言っておられるんですか?」
「今のところ、すぐに発作が起きることはないと思うが、ストレスは体に良くないし、何より、社長業に戻るのは賛成はしないと言われています」

「他に、社長を任せられる人は?」
「私を支えてくれていた専務がいたのですが、すでに婿と対立して退社してしまっていますから、呼び戻すにしても、敵前逃亡したような元の上司が社員の信頼を100%勝ち得られるとは思えないんです」

「娘さんは?一番久田さんに似ていると言われている長女の富貴子さんは?」
「富貴子は、少なからず、今回のことで責任を感じているようです。しかし、まだ、子供も小さいし、今から経営の勉強するにしても、お父さんに迷惑かけるし、私が社長になって太郎さんを追い出すようなこともしたくないといって泣いています。そうなると、強くはいえないし・・」

「社員のほかの方は?」
「うん・・・任せられるとは思うんですが、私の会社でなくなるのが、辛い気もしてねぇ」

「会社は一族のものではないと思いますし、まして、あなたのものでもないと思いますが、どうしたいんですか?」
「そうです。私のものでも、私の一族のものでもない。でも、私が苦労してここまでにしたのに、ほんとうに悔しいですね。婿の太郎さえしっかりやってくれればいいんだが、あいつが勝手なことばかりやるから・・・・」

「毎日の業務は、みんながちゃんとやってくれるからいいんだけど、婿の太郎にはもう社長は任せておけない。早く責任のきちんと取れるものが舵取りしないと大変なことになってしまう。取引先や銀行の信頼もなくなっちゃうし・・でも、体のこともあり私には、社長復帰は無理だ、出来ない。医者からも止められている」

三十分間、とにかく久田さんは、コーチの質問や提案に対して「出来ない、受け入れられない」を繰り返すばかりか、自分自身も否定しはじめて、セッションは前に進むことがありませんでした。

すべてに対して、自分の中に答えがあるのに、プライドや見栄のために、最後の一歩を踏み出せない久田さん。「社員は、こんな元社長の姿をどんなふうに見ていると思いますか?」

というコーチのこの日最後の質問に、「情けない、社長として復帰してもらいたくない、受け入れたくないとおもうだろうな」と、慮る姿勢は見せましたが、やはり思い切ることは出来ないようでした。

人間は、仕事や役割によって幾つになっても成長していけるものだと思いますが、いったん一線から外れた人が、再度、前線に戻るには、相当の勇気と相当の理由と、相当の条件を作ることが必要であること、自分自身の考えを変えるために、自分への動機づけが必要であることを、ひしひしと感じる難しいセッションでした。

職員のやる気なさに悩む介護団体の理事長さん~あれもこれもと問題の渦中にある当事者に、問題の数と優先順位を考えさせる~

高齢者を相手に、デイ・サービスと訪問介護所を経営する理事長の辻さん。このごろは、人手不足もあって、ヘルパーのやりくりに大変な毎日です。ついには、自分がサービスのためにお宅を訪問しなければならないという現実がやってきました。ところが、現場に出てみると、「あらまぁ・・」と思うことだらけで、つい先日は、「あんたが毎日来てくれる人だったらいいのに・・・」と、お客様に言われてしまう始末。現実には、職員に払っている給料も少なく、そんな中でみんなのやる気を高めるためにどうしたらいいのかをテーマに上げた辻さんとセッションしました。

「はい、辻さん、こんにちは。ずいぶん、お疲れの様子ですが何かあったんですか?」
「ええ、この間も急に職員が休暇をとってしまって、私しかいなかったので、急遽、訪問介護に私が出向いたんです。出向いた先で、お客様から日ごろのサービスのあり方について、「メシがまずい」などと小言を言われてしまって、翌日、その職員の顔を見るなり、「あんたたち、ふだん、どんなお料理作ってきてるの?」と、怒鳴ってしまったんです。怒鳴らなければよかったと自己嫌悪もあるし、でも、ホントにどんな仕事をしているのか考えたら、怒らずにいられなくてネェ・・」

「朝から怒鳴ってしまったわけですか?」
「はい、出勤しておはようございますも言わなかったような気がします。職員も落ち込んだけど、私はもっと落ち込んだ気がします」

「落ち込むことが分かっていても、我慢が出来なかったのかしら?」
「はい、今思うと、もっと言いようがあったように思いますが・・」

「今、改めて考えてみて、その職員に、何を伝えたかったの?」
「急に休まれると困るということ、お客様が希望する料理が出来ていないこと。この二つは、事実ですから、すぐにでも改善して欲しいです」

「その二点を、冷静に話し合うために、辻さんが心がけることは何でしょうか?」
「まずは、ゆっくり時間を作ること。私も忙しいので、彼女たちが今話せる状態かどうかを確認しなくちゃと思いながらも、『ちょっと待った』が今は出来ていません」

「いつもは、ちょっと待ったをしながらコミュニケーションをとっているのですね?」
「はい、十分に待ってからしているつもりなんですけど・・」

「十分に待ってから話をする理由は?」
「うん、辞められないようにですけど・・」

「人手の変わりはすぐには見つからないものね」
「はい、そうなんです。見つかってもすぐにお客様と仲良くなれるわけではないし、職員同士の和も大切だし」

「そうですね。ご苦労がよく伝わってきます。でも、一方で、指示や命令を出さなければならないわけですね。現実として・・どんな工夫をしましょうか?」
「事務所は、人がいないときはあまりないんです。かといって、一回は、サービスを受けているお年寄りがどこかに必ずいますし・・」

「ないない、これもだめ、あれもだめ、という考えに戻ってしまいますね。場所を変える、時間を変える、この二つのポイント以外に、何か方法はないのかしら?」
「うん・・・まさか、車の中って言うわけにはいかないし。手紙は書いている時間がもったいないから、口で伝えたほうがいいでしょうし・・」

「ところで、どうしても、辻さん自身が言ったほうがいいのかしら?」
「え?・・副理事長でもいいのかなぁ・・」

「辻さんが、その職員だったとして、誰なら言われてもいい?」
「そうですね、やっぱり役職者でなければ、『何であんたに言われなきゃいけないの?』って思いますけど、理事長の私でなくてもいいかしら?」

「なるほど、理事長である辻さんじゃなくてもいい。それなら、誰ならいいのかな?」
「そうですね、訪問介護の職員は、リーダー制にしてあるから、リーダーでもいいかな?」

「そうですか、リーダーでもいい。では、リーダーさんとはいつ、話しますか?」
「リーダーも、現場には行っているわけですから、やはり、戻ってきた後かな?」

「本人にしても、リーダーにしても、戻った後のほうがいいわけですね」
「何を伝えたいんですか?ただ、小言を言われたという事実だけですか?」

「事実は事実として言って、私の気持ち、どうして欲しいとかこれは止めてほしいとか、そんなことかな?」
「それから?」

「うん・・・よくやっているという点も褒めてあげたい」
「褒めることと、小言を言われたという事実と、注意点を挙げるのかな?」

「はい、そうですね」
「それを、リーダーに伝えてもらうって感じかな?」

「そうですね。リーダーにまずは理解してもらって、間違いなく伝えてもらう」
「それが伝わると、職員はどんなふうに変わっていくんでしょうか?」

「うん・・行動がぴりっとしてくれたらいいな」
「なるほど、行動をぴりっとさせて欲しいのね?それから?」

「行動が変われば、お客さんの満足が高まって、職員も充実感が高まるんじゃないかな?」
「職員には、充実感を高めてもらいたいの?」

「給料がたくさん出せないから、どうしてもやる気が出ないんだと思う。だから給料を上げるわけにいかない以上、職員が自分自身でやりがいをもって仕事をしてもらうようにしないと、どんどん辞めていってしまうから・・」
「二つの視点があるようですね。給与の問題と、職員のやる気はリンクした問題だとは思いますが、だからと言って、いい加減な仕事をしているのではないか?と、辻さんが職員に意見をするのは、別の問題だと思うのですが、いかがでしょうか?」

「え?給料が安いから、やる気が出ないんじゃないでしょうか?」
「確かに、リンクした問題だと思います。でも、それとこれとを一緒に考えないほうがいいと思うのは、給料が多いから、少ないからやる気が出ないとか、行動が雑になっているというのは、辻さんの憶測でしかなく、事実かどうかわからないからです。事実を元に、行動を改めてもらいたいのであれば、まずは、仕事を大雑把にしないで欲しいという辻さんの考えを、リーダーに理解してもらい、間違いなく第一線の職員に伝えてもらうことじゃないでしょうか?」

「・・・」

深く考え始めた辻さんを前に、コーチは辛抱強く、このセッションを続けました。
当事者は、問題を抱えると、ついつい、渦中にいるために、問題の本質さえ理解することが出来なくなってしまい、結果、ミスコミュニケーションを起こしてしまいます。
コーチは、冷静に、客観的にクライアントの問題を見つめることが出来るからこそ、的確なアドバイスや、考え方を提示することが出来ます。コーチングは、自分以外の目を持つことが出来ることも、魅力の一つではないか?と、改めて感じるセッションでした。

若い起業家へのコーチング~戦略を立て、実行する経営者の支援にコーチングが有効であることに気づく~

起業をめざす人が増えています。若い人の場合は、職業経験年数も浅く、経営や人材育成に関するコンサルティングと、これまでの職業経験をいかにつなぐか、あるいは、いかに次の問題を引き起こさせないようにするかという防衛のためのコーチングセッションをご紹介しましょう。

「こんにちは、長田さん」
「こんにちはコーチ、前回は、適切なコンサルテーション、ありがとうございました。ホント!助かりました」

「お役に立てて、嬉しく思います。企業にとって、情報管理は重要な問題ですよね。今回は、たまたま早く分かったから良かったですが、派遣社員の人が家に仕事を持ち帰って家で仕事をされていたわけですよね、その結果、もしも顧客データを流失させたらトンでもないことになっていましたね」
「はい、正社員でない人については、私はこれまで社員として人材派遣会社からの社員との付き合いしかありませんでした。これまでは、同じ社員という立場で付き合っていましたが、派遣社員とはいえ、仕事熱心な人は、仕事を家でするために情報を持って帰ることが現実にあるんだということを考えていなかったので、正直、派遣社員の人を見る目が甘かったなと感じました」

「なるほど、これまでは同じ立場の社員だから、人材派遣会社の社員の立場をしっかり認識していなかったということでしょうか?」
「ええ、そうですね。使ってみてはじめて分かったことは、彼らの不安定な立場が理解出来ていなかったことですね。しかし、だからといって、私には正社員の管理をするという役目があるわけですから、派遣の社員ばかりにかまうことも出来ず、難しい立場だなぁと思いました。すべての社員の一人ひとりを、それぞれ、個別に管理するなんて、自分には到底出来ないと思いましたね・・・」

「なるほどね、一人ひとりを、それぞれに個別に満足させようとするような管理は、大変だということを学ばれたわけですね」
「はい。派遣会社の社員だからとか、自分が雇った社員だからということで区別はしてはならないと思いますが、実際には、手が回りません。派遣会社の社員の管理は、出来れば派遣元にお願いして、自分の社員の管理にだけ全力投球させてもらえたら・・と思いました。その上、今回のように顧客データを持ち帰って、自宅で仕事しようという人が出たことは、嬉しい反面、そんな大事なというか、基本的なこともちゃんと説明出来てなかった自分を、責めてしまいました」

「辛かったですね・・。今回、派遣会社の社員は、どうして自宅で仕事をするしかないと、考えてしまったんでしょうか?」
「やはり、私が、厳しく期限を守ってくださいといったことに原因があると思っています。期限を守って仕事をするのは当たり前ですが、残業契約のない派遣社員には、仕事のボリュームが適切ではなかったのではないかと反省しています」

「なるほど、期限を最優先してしまって、働く時間と、作業内容のボリュームが一致していなかったということですね」
「はい、そうですね。残業が出来ないのに、期日を守れ守れじゃ、無理ですよね」

「今回の問題で学習したことは何ですか?」
「はい、働く時間と作業の内容と、ボリューム(量)とのバランスを図らないと、相手を追い詰めるということでしょうか?」

「なるほどね、バランスをとらないと、思わぬトラブルを引き起こすことになるということを学ばれたわけですね」
「はい、そうですね」

「そのボリュームをとるためには、どうしたらいいんでしょうか?」
「はい、まず、もう、自分ですべてを管理しようとすることはやめようと思います。正直いって出来ないということに気づきました」

「具体的にどうしますか?」
「はい、私の下にいる部下に派遣会社の社員の管理を任せることにしました」

「部下に、派遣会社の社員をまとめさせるために、気をつけたほうがいいことは何ですか?」
「先にも申しましたが、派遣会社の社員は、どんなに自分がいっぱいいっぱいであっても、弱音を吐くところがありません。だから、小まめにコミュニケーションをとってもらって、ガス抜きすることだと思います」

「なるほど、小まめにコミュニケーションをとることが重要な要素である。他には?」
「はい、社員と同じように目標を持たせて、1週間、四週間、三ヶ月、六ヶ月の目標と達成について、管理することだと思いました。1日、1日での勝負ではなく、ある程度、長い目で見た目標達成や満足度を高めることが大事だということに気づかされました」

「なるほどね、時間的なゆとりがないからこそ、部下に任せてもいいことは任せる、自分がしなければならないことは自分でするけれども、優先順位をつけながら仕事を進めるということを学習されたわけですね」

「そうですね。私は自分ひとりで仕事をしていた気がします。自分以外の人を信頼していなかったのかもしれませんね」
「それだけ、ご自身にゆとりがなかったのかもしれませんね」

「そうかもしれませんね・・・」
「今回は情報の流出を防げましたが、今後こんな危機感を味わうことがないようにするために、人材管理というか、育成に努めれば防げますか?」

「いいえ、それだけでは完全ではないでしょう・・しかし、完全に防ぐことをめざすよりも、完全でなかったときにどうするかを含めて、企業防衛について、真剣に考えておくべきだと言うことは学習しましたから、社内にPJを立ち上げようと思います」
「人を信じないということですか?」

「そこまでは極端に思っていませんが、どんな場合にも備えがあれば憂いなしと言うことでしょうかね?」
「なるほどね、管理システムだけでなく、育成の仕組みが出来ればいいですね」

「そうですね。それにしても、会社を立ち上げるだけで精一杯意だったのに、いきなり人の採用や教育、管理をしなければならないなんて、自分に本当にこの先出来るのか不安です」
「コーチである私は、引き続き長田さんの支援をさせていただきたいと思っていますが・・」

「ええ、もちろんです。こんなにたくさんのことを、一人でやろうなんて思わないほうがいい。何でもお任せ出来ることはお任せする。お任せする順番は、コーチと一緒に決めればいい。今回の問題を未然に防ぐことが出来たのは、偶然だったと思います。しかし、これからは、偶然を当てにせず、自力で解決したいと思います」

情報の漏洩は、身近に潜む問題の一つです。もちろん、これを防ぐことが出来たことは何より嬉しいことでしたが、会社経営にコーチングの必要性をひしひしと感じました。

青年実業家の事業拡大の悩み~企業合併の利益と弊害のバランスをはかり、戦略を立てる~

青年実業家の日比野さん。起業して早八年。会社はようやく軌道に乗り始め、経常利益も順調に増えていました。自分は「運がいい、人に恵まれている」と、年齢に似合わず常日頃から感謝の言葉を多く口にする誠実な人柄が取引先や社員から信頼され、実直な企業経営が高く評価されていました。
そんな日比野さんに大きな転機が訪れたのは、企業合併の話が持ち上がってからでした。
借入金なしの企業経営姿勢を評価されたのか? 倒産寸前のライバル会社を買収しないかと持ちかけられたのです。
日比野さんの今日のテーマは、もちろん、この買収についてでした。

「おはようございます。今朝は少し肌寒かったように思いますが、どうですか朝の散歩は、気持ちよくすごせましたか?」

「いやぁ、道を歩いていても、どうも下ばかり見ているようで、すれ違う人に挨拶されて、初めて気づく始末で・・元気がないと見られたかも知れませんねぇ」

「日比野さんの元気がないことから、皆さんにどんなことを思わせるんでしょう」

「うん、これまでは自分から挨拶しなかったことがありませんから、私が挨拶をせずに通り過ぎていくことに対して変に思ったでしょうねぇ」

「人にも分かるぐらい、日比野さんの雰囲気が変わったんですね。ところで、日比野さんが気になったことは、どんなことですか?」

「この合併の話をいただいたときから、ずっと、こんなチャンスはない、大きくなれるんだから躊躇することはないと思って、正直嬉しいんです。ただ、吸収される側の社員の統制が自分で取れるのか?と考えると、今は、まだ、自分では無理なのではないかと思うんです。企業規模は、本来、相手のほうが大きかったわけですからねぇ」

「なるほど、自分の会社より大きな資本を持っていた会社を吸収するのに、吸収したほうの社員の統制をどうするか?ということが不安なんですね」

「はい、自分はやはり、零細企業の社長の器だと思うんです。中規模の会社の社員とうちでこれまで一緒にがんばってくれた社員が馴染めなければ、私は企業を大きくする意味がないと思うのです。しかし、誰かが、この会社を吸収しなければ、その会社の社員や家族は路頭に迷うわけで・・」

「どこまでが、日比野さんの責任範囲なんでしょうねぇ」

「うん・・・そうですね。この話が持ち上がらなければ、ライバル会社の社員だったわけですからねぇ。私が面倒見なければと言うのは、おこがましい話ですかねぇ」

「いや、おこがましいとは申しませんが、ずいぶん、責任を感じておられるようですから、その必要があるのかと思っただけです」

「そうですね。たしかに、客観的に見たらおかしいでしょうね。私自身が若い頃、買収された企業の社員だった経験があってね・・無力感と言うか、モチベーションが下がってどうしようもなかったときを過ごした経験があるもんだから、なんとか、あの気持ちを味わわせないようにしたいと思ってねぇ」

「そうなんですか、買収された側の企業の社員だったんですねぇ・・辛い気持ちが分かるだけに、慎重になるわけですね」

「慎重にというか、戦略を立てておかないと、今いるうちの社員のモチベーションも一緒に下がれば、致命的に生産性が落ちるわけですから、それは回避したいということです」

「なるほど、この合併は、チャンスであるとおっしゃっただけありますね。混乱なく、事業を続けたいとお考えなんですね」

「はい、粛々と事業を続けていかないと、お客様を悲しませることになってはいけませんし。何かいい方法はないものでしょうか?」

「ご自身の社員経験を踏まえて、日比野さんが出来ることはなんですか?」

「私が出来ることは、合併後の戦略を明確にすることと、吸収した会社の社員もされた側の社員も、これからは一緒に企業のために尽くして欲しいという気持ちを分かってもらうことかな?」

「なるほど、合併は戦略の一つとして行ったと言うことを明確にすることと、社員は一つになって企業のために尽くして欲しいということを分かってもらいたいわけですね?」

「はい、そうですね。」

「そのために、日比野さんはどんな方法でみんなに語りますか?」

「そうですねぇ。社内誌よりも、ビデオかなぁ・・」

「いずれにしても、直接ではないのですか?」

「いや、だめかな?直接支店を全部回るとなると、スケジュールの調整が難しくないかな?」

「幾つの支店を回ることになるのですか?」

「新しく増えるから、全部で八支店かな?」

「1日一つでも八日間ですよね?」

「そうだねぇ・・八日間だけど、今、すでに決まっている予定を調整するのは相手に悪いからねぇ・・」

「うん・・・社員のことを考えたり、お客様のことを考えたり、大変ですね。どちらか一つと選択を迫ったら、どちらを選ばれるんでしょうか?」

「一つに絞る・・難しいなぁ・・。やはり社員のモチベーションを下げないほうが先かなぁ・・」

「何もかもお一人でしようとなさっているんですが、誰か、日比野さんの代わりになれる方はいらっしゃらないのですか?」

「お客様を任せることも出来ないし、方向を示すのは、トップの仕事だし・・うん・・困りましたねぇ」

日比野さんは、確かに誠実に物事に真正面からまじめに取り組む性格ですが、どうも優先順位がつけられないようです。
こんなふうに、目標を一つに絞りきれないときのセッションは、堂々巡りに陥りやすく、最初に戻って、シンプルに目標を明確にすると良いときがあります。
何のためにそれをするのか。大きな決断をするときは、理性を優先するのか、感情を優先するのか。
挑戦するのか、現状維持を大事にするのか。チャンクアップとチャンクダウンを使い分けしてコーチングをしていきます。
迷いや戸惑い、不安が大きいほど、コーチの役割は重要になります。イメージが描けなくなっているクライアントには、選択肢を与えるためにも、明確なイメージを描くようにしましょう。
コーチが押し付ける形の指示や命令は、絶対に避けなければなりませんが、クライアントが自分で考え答をだしていくための質問の形をとった助言・提案、例えば「コーチはこのようにしたらいいのでないかと考えますが、どうお考えになりますか」このような問いかけを必要であれば勇気をもって与えることも大切です。

急に体調をこわしたラーメン屋さんの悩み~真剣に話を聴いてもらうことによるモチベーション向上効果~

ラーメン屋を営んで二十年。開店当初のラーメンブームに乗り、マスコミへの露出度も高く順調に十五年は「あっ!」という間に過ぎたという山形さん。忙しさにかまけて、休日もとらず、家族との時間も作れない毎日でしたが、「仕事を成功させるのが男の役目」と割り切った考え方をしていたため、夫婦の間に出来た溝が埋まらず二年前に離婚されたそうです。

今年に入って受けた健康診断により、肝臓が悪いことが判明。三ヶ月の入院が必要と宣告を受けてしまいました。店は、アルバイトがいるだけで、とても自分が入院中の仕事を任せられるような腕を持っていない為、急遽、店を長期休業とすることにし、ともかく体を治すことに専念することにしたにもかかわらず、廃業に追い込まれるのではないか、果たして復帰出来るのかと不安でならず、健康を害して悪い顔色が、なおさら、冴えない顔色となっている山形さん。
無料体験セッションをお受けにいらした最初の印象は、「この人、倒れそう・・・」というものでした。

「一生懸命、仕事に励んでいただけなのに・・。家族のためにと頑張っていたのに、気がつくと
離婚して一人ぼっち。入院同意書にサインを頼める家族がいない。手術が必要になっても、心配してくれる家族がいないんです。万一の時にも葬式を出してくれる人もいない。たしかに、特別、健康に気を配ってきたわけじゃない。でも、仕事をしても大して疲れるわけじゃなく、夜更かしをしないようにして朝だってすっきり起きていたし、体に悪いことはあまりしないようにしていたし。酒だって、お客さんに勧められたとき意外は飲まなかったし、タバコは、ラーメン屋を開業するときに1日の売り上げが三十万円になるまでは・・と願をかけて止めているうちに、自然に吸わなくなったし。何にも悪いことなんかしてこなかったのに・・・。どうして、私がこんな目にあわなければいけないんだ」

山形さんは、悔しそうに語ったままうつむき、言葉が続かなくなってしまいました。

「山形さん、お尋ねしたいことがあるんですが、よろしいですか?山形さんは今日コーチングを受けにこられているわけですが、コーチングってどんなものか、あらかじめ本を読んだり、情
報を集めたりしたことはありますか?」

「いえ、どういうものかわからなかったんですが、サラリーマンの若いお客さんが『コーチングがいいとか』、『コーチに相談するとすっきりして、ただよっていた霧がすっきりと晴れるような気がするとか』って言っていたのを思い出して・・。新聞のお知らせ欄に乗っていた案内を頼りに伺いました」

「そうですか。新聞をごらんいただいたんですね。ありがとうございます。今、お話をお聞きして、山形さんが抱えている悩みが、どれだけ深く大きなものか、私にはよく伝わってきます。しかし、山形さん。残念ですが、私はあなたの悩みを解決するのが仕事ではありません。あなたがこれからどんなふうに生きていきたいのかとか、どんな仕事をしたいのかとか、人生をどんなふうに計画して行動していきたいのかを具体的にイメージし、行動するための方法を一緒に考えるなど手助けをするのがコーチの仕事、つまり私に出来ることなんです。
現状の山形さんの苦労や不安はよく理解出来ました。残りの時間を使って、山形さんがこのセッションを通して、すこしでも前向きな気持ちを取り戻し、自分の人生は自分で決めることが出来ると感じられるようにしたいと思うのですが、いかがでしょうか?」

「そんな・・・」

「山形さん、山形さんにとって、健康を害したことは大きなショックだったのですか?
それとも、こういう生活だったら、ある程度体が壊れることも気がついていたのでしょうか?」

山形さんは、沈んだ表情のまま答えてくれました。

「実は決して健康に自信があったわけではありません。毎晩、遅くまで仕事をしていたし、新しいスープの開発のときは、何日も徹夜に近い状態になっていたこともあります。面白かったのでまったく疲れを感じませんでした。家族も気持ちは一緒に頑張ってくれていると思っていましたし・・・・。離婚してからの、ここ二年間くらいは、家族もいなくなってしまったので、家に帰る理由も目的もなくずっと店の奥の小さな部屋で寝ている始末でした。店が休みの日も研究しないと店がつぶれると思って他のお店のラーメンを食べ歩いていました」

「山形さんは、研究熱心だったんですね。私は山形さんがとてもまじめな努力家であると思います。ところで、山形さんが追求した完璧なスープの味は完成したのですか?」

「いや、完成はしていません。というか、どんな味にしたらいいか、まったくわからなくなってしまったといったほうがいいなぁ・・」

「そうですか。残念なお気持ちも、これからどうしたらいいのかという不安な気持ちでいらっしゃることもよくわかります。しかし、何にしても、まずは健康を取り戻すことが一番大切だと思うのですが、ご自身は今回の入院をどう受け止めていらっしゃるんでしょうか?」

「最初はやけっぱちでした。入院するのも止めようかと思い、せっかく先生がベッドを開けてくれた日を無視して、行かなかったんです。家族のためになるわけじゃないし。店だっていつまで持つかわからない。店をなんとかするしか私の人生はない。それなのにここで店を休むなんて、私から唯一の希望の店を取り上げるなんて・・・一体私の人生は、何のためにあったんだかと思うと、体に力が入らなくて。ただ、アルバイトしてくれていた吉山君が、『店長が帰ってくるのを楽しみに待ってますから。とりあえず働く次のバイト先は駅前のコンビニです。再開するときは、ぜったい声かけてくださいね。俺、店長のラーメンに対する頑固さが好きだったから・・』と言ってくれて。
家族は失ったけど、こんな自分のことを慕ってくれた奴がいたのかと思うと、入院して、体を治そうと思えるようになって・・」

「そうですか。今回の入院治療のきっかけは、アルバイトの吉山さんだったわけですね。
治ってお店を再開することが出来たら、彼を呼び戻してまた一緒にやりますか?」

「もちろんです。だからこそ、入院する決意をしたんだし・・」

そう言いながら、無料体験のセッションの時間が終わりました。
無料体験のセッションですから、残念ながらコーチとしてこれ以上の継続的な支援は出来ません。しかし、今、この時に感じていることを誰かに真剣に聞いてもらうだけで、人の意識はずいぶん変わっていくものです。山形さんも、最初は青白く生気のない顔をしていましたが、三十分の時間をともに過ごすうちに、顔に赤みが差し、少しだけですが、いきいきとした表情を取り戻してくれたように感じられました。

人生は、すべてをバランスよく過ごす力を備えておかなければなりません。
家庭生活、自己実現、仕事、健康、お金(経済力)など、いくつものバランスによって人生への満足感や、達成感が変わってくるものです。

私たちコーチにとって、人生のバランスがうまく図られているかどうかを客観的に冷静に、第三者の視点で見つめてあげることが使命であるのではないかを考えさせられるセッションでした。

他責にて仕事をしている人への初回のコーチング~コーチングへの正しい理解と自分で行動することに気づかせる~

初めて訪ねた病院の事務長さんとのコーチングです。
「経営戦略を立てて稼げる病院にしたいんです。このままでは病院はだめになってしまいます」と唐突に語る事務長さん。
「そのことについては、院長先生はどんなお考えなんでしょうか?」との質問に、「院長は、ドクターとしては腕は立つけれども、経営感覚は全くないと思います」と、語気を強めて訴える事務長さんは、明らかに苛立ちながらコーチングを受ける決心を話し始めました。

「病院はね、ドクターの資格がないと、経営は出来ないんです。でも、ドクターで経営の感覚を持っている人なんて、いないんじゃないですか?」

「ドクターに対する意見をはっきりお持ちのようですね」

「ええ、看護師だって余分に確保しないでいるから、みんな疲弊しきっている。にもかかわらず、一言の労らいもなく、自分の機嫌しだいで若手の医師や看護士を当り散らすし。見ていても気の毒ですよね。病床数の増減だって行き当たりばったりだから、職員の数もしょっちゅう見直さなきゃならない。忙しいばっかりだし、褒めないどころかしかられてばっかりという職場だから、ベテランの看護師はどんどん辞めるし・・・」

「なるほど、そこで、戦略を立てる必要があると思われたんですか?」

「ええ、もう、自分の首をかける気持ちで院長に進言したんです。『このままじゃ、病院は立ち行かなくなります。看護士は疲れきっているし、ベテランの看護師はどんどん辞めるし、このままでは医療ミスを起こしたり、看護師の労災問題などで新聞沙汰になりますよ?なんとかしなくては経営も立ちいかなくなりますよ』と。そうしたら、急に顔色が変わって、『そんなに危ないのか?』とおっしゃるから、長い目で見たら、倒れるということですと申し上げたら、どうしたらいい?と、下手に出られて・・」

「なるほど、院長先生が少し弱気になったんですね?」

「ええ、そうですね。それで、『経営を立て直すなら、やはり戦略が必要なのではないでしょうか?』と提案したんです。そうしたら、『そうか。戦略が必要か。その通りだな。戦略案を院長である私がつくってもいいんだが、私がつくるとそれは戦略案ではなくて決定になるので、ここはひとまず経験豊富な事務長、君のところでいい案をつくって持ってきてくれ。それで今後のことを検討していこう』って言われたんですよ」

「なるほど。院長先生は、それを事務長であるあなたの仕事にしたということですね?」

「おかしいとは思うんですよ。その役割は、病院の、経営者の役割だと思うんですが、とにかく病院が立ち行かなくなると困るので、私が考えようと思ったんです。院長に任されたのもすこしいい気分だったし、院長には考えられないから、自分しかいない。よしやってやろうって思いました」

「少しいい気分でやる気が出たのですね」

「ただ・・・」

「ただ、どうなさったんでしょう?」

「私には、荷が重くて・・すぐにはわからないんです。どうしたらいいのか・・・そこで、経営の勉強を始めビジネススクールに通うことにしたんですが両立が出来ず、投げ出してしまおううかと思ったりしました。挫折しかかっていたら、ビジネススクールの先生が、コーチングのことを教えてくださったんです」

「なるほど、では、実際に会話をしてみて、話す前と後では、どんな風に気持ちが変わるかをやってみましょうか?今日ははじめてのセッションですが、どんなことをテーマに進めましょうか?」

「え?話すテーマを自分で決めるんですか?僕の話を聴いて、アドバイスをくれるんじゃないんですか?」

コーチの言葉に対して明らかに不信感と不満を表情にした事務長さんは、コーチの質問に答えようか辞めようか、迷っているようです。

「無理にお答えになる必要はありません。答えたくないですという答えもあるんですよ。それでは、改めて伺いますが、すぐに解決してしまいたい問題をテーマにしたいと思いますが、いかがでしょうか?」

コーチの穏やかな表現に、意を決したように事務長さんは口を開きました。

「すぐ解決出来るアドバイスや方法がほしい」

「すぐに解決するためのアドバイスや方法がほしいのですね。では、最初に質問させていただいてもよろしいですか?」

コーチは、アドバイスするとも方法をあげるとも言わず、自分の話すことを質問という形として表現しました。
事務長さんは、コーチの話に了承して、コーチの次の言葉を待ちました。

「事務長さんは、人からの指示・命令を受けたとき、いつもどんな気持ちになりますか?」

「え?気持ちですか?仕事上での指示・命令は当たり前のことだから・・・」と言いながらも、はっとしたようです。

「そういえば、気持ちよく思ったことはありませんね。もっと別の方法があるのに・・と、心の中で考えています。ましてや、院長からなら、『またかぁ、自分は言うばっかりだなぁ・・』と思っていますね」

「なるほどね、気持ちよく思ったことはないんですね。では、こうしたら、ああしたらという助言はどういう気持ちで受け取りますか?」

「・・・(しばらくの沈黙の後)いやだけど、従っておかないと、院長の機嫌が悪くなる、と思い、しぶしぶ従っていますねぇ・・」

「なるほど、助言は、しぶしぶ従うわけですねぇ。ということは、院長先生からの指示・命令・助言は、間違っていると思っても、ほかにいい方法があると思っても従っている、その結果については、自分のせいではない、院長がやれと言ったからやるだけのことにすぎないということでしょうか。では、どうしたら、事務長さんは気持ちよく自分の考えどおりに行動するのでしょうか?」

「・・・ん・・・・」

事務長さんは、すっかり考え込んでしまいました。
だれでも、答えは自分の中にあるのです。しかし、それに気づかず過ごしている人がほとんどなのです。自分の持っている答えを封印して、上司の言うことにひたすら従っている人もいます。そのほうが責任をとらなくてもいいから楽だからだと思う人もいます。しかし、それで企業人としての使命が果たされていると言えるでしょうか。
自分の中にある自分の意見や考えを曲げずに、なおかつ、組織が目指す方向からは外れないように行動する。それが、企業人としての使命です。
コーチはコーチングを通じて、クライアントにそのことを自ら気づいていただくことに主眼をおき、クライアントを支援します。答えを提供するのではなく、クライアントが自分で持っている答えに気づくことを援助するのです。
戦略作りは、まさに、会社の今後の全てを左右するほどの重要な役割です。
使命を与えられたことに気づくためにも、コーチングはしばらく続きました。

歯科開業医コーチングにふれました~コーチングを体験して自己を見つめなおす~

歯科医になって五年半。石川さんは念願の開業にこぎつけました。
勤務医としての経験を元に独立し、晴れて開業医となり最初は無我夢中で走っていました。このごろ、自分は技術者として患者さんの歯を治療する歯科医として活躍したかったのか、それとも歯科の経営者として行動したかったのかに迷いが出てしまいました。独立して開業しているわけで、技術者としての歯科医師としての自分と、歯科経営者としての自分との両面で仕事をしていかなければならない。また、それがやりたくて独立したんじゃないかとは思うのですが、自分には両立出来るほど時間にゆとりがない、才能がないと悩み始めました。患者さんの治療をしていても、ふっとそれが頭をよぎるようになり、適切な治療が出来ているのか不安にもなってきて、気持ちは落ち込む一方でした。

そんなとき、歯科医師会の会合があり、何か参考になることはないかと参加してみました。宴席であったこともあったせいか、「私は歯科医として患者さんのことを最優先に考えているんです。しかし、個人で開業しているわけで経営というものも考えなければならないんです。

歯科医としての自分と経営者としての自分とは、矛盾した関係であると思い、それは両立出来るはずがないと思うんです。どちらかを犠牲にしなければ成り立たないわけで、そうすると歯科医ではなくなってしまうんじゃないか、自分がとんでもない男になってしまうんじゃないかととても不安なんです」自分の心の中のわだかまりを、酒の勢いで話し出したところ、地域でもやり手との評判の高い橋本先生が話しかけてくれました。

「石川さん、ぼくもさぁ最初はそう思ったんだよねぇ・・。患者は少ないし、高齢者ばっかりで時間にゆとりがあるから、なかなか話に付き合うのが大変で、ともすると予約時間がだらだらになっちゃって、別の患者さんからのクレームで、受付に飛んでいって、平身低頭謝って。何のために苦労して歯科医になり、独立したかわからなくなっちゃったんだよねぇ」

石川さんは橋本さんの話にうなづくばかりでした。ただ、石川さんはこの時「橋本先生、なぜ、そんなこと僕に話すのかな?ずいぶんやり手の先生と聞いているけど、苦労話はいつ自慢話に変わるんだろう?」と、懐疑的に感じたそうです。

その後も、橋本先生は「石川先生は、どんな歯医者になりたいと思っているの?」とか、
「子供の患者って、どうしたら増えると思う?」など、日ごろ石川さんが考えていることを話したくなる質問ばかりをしてくるので、ついうっかり話してしまいそうになりました。しかし、石川さんは「橋本先生は、私のアイデアを盗みにきているのかもしれない」という不安が生じ、同業者はライバルだと思い始めたそうです。そのことが石川さんの口を重くしていました。

その夜は、橋本先生の質問に対して答えをあいまいにしたまま自分の部屋に戻り、一人、飲みなおしていたのですが、橋本先生の質問が何度も頭によみがえり、石川さんは、自分に向かって、「それは・・・」と、答えてみたそうです。

翌朝、どうしても橋本先生ともう一度話したくなり、石川さんは自分から橋本先生を探し、朝食を一緒にとりたいと、自分から橋本先生に話しかけてみました。

橋本先生は、石川さんの突然の申し入れを快く受け入れてくれたばかりではなく、穏やかに石川さんが話す夕べの質問に対する答えを聞いてくれていました。
石川さんの意気込む姿が落ち着いたころ、橋本先生はゆっくりした口調で石川さんに質問をしました。

「石川先生、先生は、昨日はお話しにならなかったのに、どうして今朝は私に話してくれる気持ちになったのでしょうか?」
あまりに率直な質問に、石川さんはどう答えたらいいのかわからずもじもじしていましたが、思い切って答えてみました。

「いやぁ、橋本先生、ほんとうに申し訳ないことですが、先生の質問に答えると、自分のアイデアをとられちゃうような気がしたんです。だけど、あの後、部屋で自分に向かってたくさん話をしたんです。『どうしたい、こうしたい、こういう思いもある・・』とね。今朝、橋本先生のお姿を探してまで話したくなったのは、どうしてなのかわかりません。しかしこれだけは言えます。夕べ考えていたことを今朝、橋本先生にお話したら、夕べ考えたより、更にアイデアが膨らむのを感じて、驚きを感じています」
と、石川さんは素直に橋本先生に話しました。

橋本先生は、「僕はね、実は、患者さんの話を聴くのが苦手でね。ず~っと、治療中黙って仕事をしていたんですよ。ところが、ある日、おふくろがこっそり治療にやってきて、びっくりしながらも、いつものように仕事をしたら、治療を終えた後にこう言ったんですよ。『歯医者はマスクをしているから、目線で話をしなくちゃならない。言葉にならない言葉で語るのは難しいねぇ。今のお前の眼は怖くて、見つめられると思わず眼をつぶってしまうよ。お前の考えているところを読み取るために眼で会話するどころじゃないよ』とね。それで、考えちゃったんだよねぇ」

そのとき、橋本先生は初めて、マスクで顔を覆ったまま、いかに患者とコミュニケーションをとったらいいかを考え、先輩の歯科医から患者とのコミュニケーションには相手の考えていることを引き出すコーチングが効果あるよと教えられ、コーチングを勉強し始めたことを教えてくださいました。

「僕に今、話をしたら、夕べのアイデアが更に膨らむように感じたって言ってたでしょ?これって、大事なことなんだよ。経営者としても、歯科医としても、僕らの仕事はとても孤独なんだ。誰かに話をすると、アイデア取られちゃうように思うその気持ち、僕にもよく理解出来るからね。だからこそ、コーチと会話する時間が必要なんだと思うよ。何でも聴いてくれるから話しているうちに、思わぬことを思いついて嬉しくなったり、こんなに人の口と心を軽くするなら、自分も聴き方を習おうと学習出来たりね。経営者としてとか歯科医としてとか、難しいことは後で考えるとして、どうだろう、とにかく患者さんからありがとうという言葉がもらえる歯医者を目指して、突っ走ってみたらいいんじゃないかな?と僕は思うよ。報われない努力はない。石川先生は、真剣に自分の仕事と向き合っていると僕は思うよ」と、言われ、石川さんは心が暖かいものでいっぱいに満たされたような気がしたそうです。

「日々の忙しさに流されないようにその日に感じたことを日記につけることも大事なことだから必ず日記をつけたらいいよ。それは自分を自分自身でコーチングすることにつながるよ。セルフコーチングって言うんだ。そして、それで感じたことを今日みたいに人に話すことが大事だよ」と橋本先生から最後に言われました。

人に話すことによって、更にアイデアが膨らむのがコーチングの醍醐味です。

石川さんは、患者さんとのコミュニケーションのとり方を橋本先生に習ったような気がして、気分がスッキリ晴れて今日も一日頑張るぞと思ったそうです。

創業会長の力を活かす二代目社長の配慮

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震により被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
生きるために必要なものはたくさんあると思いますが、遠く離れている私達ができる支援は、皆さんに「勇気と希望」を忘れないようにしていただくことだと思い、心をこめて今号を記します。

さて、今回は、事業承継してまもない2代目若社長とのコーチングの続きをご紹介します。

コーチ:「前回は、先代社長のお父様と意見が違うことが、大きな障害となるのか・・・と言うところで終えましたが、前回から昨日までの間に何か、お考えはまとまりましたか?」
社長:「いやぁ、まとまったようなまとまらなかったような」

コーチ:「具体的にお話しをしていただきながら、まとめましょうか?」
社長:「はい、まず、意見の違いは障害ではなくて、不快に思っているだけのような気がします」

コーチ:「具体的になっていますね。嬉しいです。不快な気持は、社長にどう影響を与えるんですか?」
社長:「やる気をそがれるんです。ああ・・またか!って」

コーチ:「天を仰ぎたいって感じ?」
社長:「まぁ、そこまではいかないですが、かなり体を重くします」

コーチ:「他には?」
社長:「ただ、一方で、あまり親父の考えを否定するのはどうか?って思っちゃいます」

コーチ:「それはなぜ?」
社長:「一生頑張ってきた人だからね。それに、自分が否定されてやる気がそがれるんだから、親父も一緒だろうって。それと・・・可哀そうだという思いもある」

コーチ:「結局、お父様思いなんですね」
社長:「うん・・・やっぱり親父ですからね・・・」

コーチ:「さて、やる気がそがれる、不快な気持ちですが、どうしましょうか?」
社長:「そうですね。どうしたらいいんでしょうか?」

コーチ:「相手を変えようと思わないこと。これは今までも散々申し上げていますよね?」
社長:「はい、今さらかわりゃしませんし」

コーチ :「では、改めて伺います。二代目社長として、いま何をしたいのでしょう?」
社長:「安定した経営をし、社員を養うこと」

コーチ :「なるほど。それを実現するためにお父様の意見が自分と違う。違うと、やる気がなくなったり、不快になる。それを乗り越えるためには?」
社長:「そういうものだと思うこと。意見がそれぞれ違うことはよくある。部長とも違うのは会議でお互い歩み寄ることにしている。
ああ、そうですね。親父にももう一度、会議に参加してもらったらどうだろう。乗っ取られるから、この頃、正式なメンバーとして会議に出席するよう要請していなかった」

コーチ :「それでは、お父上の立場はないですもんね」
社長:「そうですね。余りにマイペースなので、社員が嫌になると思っていたのですが、自分が嫌だったことを棚上げしていました」

コーチ :「それで、会議は思うように進められますか?」
社長:「いやぁ、いろいろ脱線するだろうし、人の言うことを聴くとは思えない。だから、言いたいことだけ言わせて、早めに退席していただけるよう、自由な立場で出席してもらおうと思います。そのためには、全員が入る会議のほかに、古参の幹部社員だけの会議を1つ、作るようにします。」

コーチ :「それは何か、思うことが合ってですか?」
社長:「はい、古参の幹部社員は、親父の考えの癖や表現になれているので、冷静に受け止められると思うからです。もちろん、わたしもそれは出来ますし、わたしと考えが違うところは、すぐに自分の意見を伝えることができるので、齟齬が生じても、おそらくこの間よりもごたつかないで、別の会議に進むことができると思います。」

コーチ :「なるほど、それは実行できそうなアイデアですね。ぜひ、やってみましょう。」

というところで、セッションは終了させました。

父と子。関係は単なる社員と経営者と言うよりも複雑でしょうが、実は親と子なのだから、分かりあえる要素もたくさんあることでしょう。
父から見れば、幾つになっても子供は子ども。子供からすれば、親父の背中が丸くなり、小さくなったことを受け入れて、自分がしっかりせねばと力む。そんな関係が、お互い自然体になりさえすれば上手く行く。答えを見つけられるまで、しばらく見守って参りましょう。

二代目社長の自立

日本には、地域に根差す独特のお祭りがたくさんあり、中に奇祭として紹介されるものがいくつかありますね。
わたしが暮らす愛知県にもいくつかの奇祭がありますが、「国府宮のはだか祭り」もその一つです。
男42歳厄男が神様のお使いとなって、無病息災などを司ると言うこのお祭り。神男に触れることができると、1年、無病息災で過ごせるというものですから、少しでも触れようとする皆さんにもみくちゃにされてたいへんです。
人生80年という長寿社会を迎える昨今では、男40歳は、まだまだ、人生の折り返し地点に立ったばかりの若造と扱われる時代。不惑の歳に何を思うのでしょうか?
また、時代の変遷に流されず、お祭りは、文化として脈々と生き続ける姿に触れるたびに、守ることの大切さと難しさに思いを巡らせます。

さて、今回は、事業承継してまもない2代目若社長とのコーチングをご紹介しましょう。

社長:「やっぱり、昨日の会議も乗っ取られました! しかも、言いたいことだけ30分ほど、機関銃のように話して、さっさと妹の家に、ご飯食べに行っちゃったもんですから、残された自分と社員は、『あれはなんやったんや?』と唖然としちゃって。会議を元に戻すのに大変でした」
コーチ:「あちゃぁ・・・やっぱり元に戻っちゃいましたね。残念に思います」

社長:「でしょう?どうしたらいいですかねぇ・・・」
コーチ:「あまり、社長の心を先走って言葉にすることはよくないでしょうが、できれば、参加させたくないという感じですか?」

社長:「いつも、はっきり代弁してくれて助かります。自分で言葉にするよりは、罪悪感をもちませんから」
コーチ:「でも、それもできない?」

社長:「はい、あまり、何もかも取り上げたら、父親はどう生きたらいいかわからんくなるでしょう。これまで社業一筋でしたからね」
コーチ:「実際、そうなさったことがありましたね?」

社長:「はい、でも、本当に元気がなくなって。だから、今は銀行関係の仕事は任せとるんですわ」
コーチ:「業務を分けるという考え方ですね?」

社長:「でも、結局、毎日会社に来るから、古参の社員は、親父の言葉に従ってしまう」
コーチ:「お父様の件は、今、社長が社業を全うさせることと、どのくらい関係が深いのですか?」

社長:「うん・・・関係があるようなないような・・・」
コーチ:「遠慮があるだけではないですか?」

社長:「そうだといいんやけど・・・」
コーチ:「お父様は変わらないでしょう。これまで通り、これから先もずっと」

社長:「だから、困るんだよなぁ」
コーチ :「社長業ってなんでしょう?」

社長:「安定した経営をし、社員を養うこと」
コーチ :「なるほど。それを実現するためにお父様の意見が自分と違うことが大きな問題になる」

社長:「大きな問題かなぁ?・・・」

というところで、セッションは終了させました。

2代目社長は、まだまだ、自分がどんな戦術で経営しようと考えているのか、自分の考えをまとめ切れていません。それを、目の前にいる人が原因だと思い込むことで、自分を安心させようとしているだけかもしれません。
日本を支えている中小企業の社長たち。しっかり自分を見つめて、社業繁栄のために、自分の考えをまとめて、自立してほしいなぁと思います。

使命感を認識することによって仕事への誇りに気づかせる。

どこからか、杉の花粉が飛来してきましたね。
スギ花粉探知機のような自分の鼻が、恨めしいのはこの季節だけです。
匂いに敏感な鼻は、強みでもありますが、一方で花粉にすぐに反応する点においては、弱みでありましょう。強みと弱みは背中合わせ。
一年にこの時期だけ、強く感じます。

さて、今回は、自分は特別でありたいという思いが強い社員とのコーチングを考えましょう。

Aさん:「いつもお疲れ様です、コーチ。わざわざお越しいただいてますが、たいへんなお仕事ですねぇ」
コーチ:「皆さんが、営業に出られるのと同じですよ。Aさんこそ、海外のご出張もあるし。たいへんですね」

Aさん:「いやぁ、営業でも海外への出張があるのは私だけですから、他の人には理解できないでしょうけれども体は疲れますねぇ」
コーチ:「そうでしょうね。ところで、今日はどんなテーマに焦点を合わせましょうか?」

Aさん:タイムマネジメントについてお願いしたいんです」
コーチ:「具体的には?」

Aさん:「はい、その海外出張なんですが、平均して月に1回、5日間くらい出るんですが、ヨーロッパの出張では時差とかあるから、戻ってからの仕事が計画通りこなせず困っているんです」
コーチ:「なるほど。戻ってもすぐに時差に頭が切り替えられない?」

Aさん:「そうですね。克服しようとあの手、この手を使うんですが、どうしても、戻ったその日は、行動が鈍くなってしまって・・」
コーチ:「そうでしょうねぇ。たいへんですね」

Aさん:「といって、戻ったその日は休むわけにもいかないし」
コーチ:「今日のセッションのテーマは、タイムマネジメントだとおっしゃいましたが、タイムマネジメントするために、時差を克服したいと言うことなのかしら?」

Aさん:「ああ、そうかもしれません。何せ、社内では海外出張するのは役員のほか、ごく限られた人間だけなので、時差に悩まされながら仕事をしていることを話しても、同情されるだけで・・・」
コーチ:「なるほど。時差に悩みを抱える自分の立場は理解されていないと感じるのね?」

Aさん:「そうなんです。出張明けに休みなんて、ええ??って感じで、上司も快く思わないようなんです」
コーチ:「上司は、出張後のAさんに何を期待して出社してほしいと考えるんでしょう?」

Aさん:「出張先での取引先との会議の内容を聴きたがるんだと思います。実際、朝一番に報告をするようにしています」
コーチ :「上司の期待には応えているいるものの、時差は辛い。その後の仕事が計画通りに進められないと言うのが現状ね。理想は?」

Aさん:「理想は、報告はメールか何かで行って、翌日の午前中位はゆっくりしたいですね」
コーチ :「なるほど。そういう自分の意見を伝えたことはあるの?」

Aさん:「いやぁ、そんなこと言ったら、自分の価値を下げるみたいで。上司の代わりに、自分が海外出張できるんですから、弱いところは見せたくないです」
コーチ :「そうだね。時差を克服するのに時間がかかるのは、Aさんの弱みなんだね。では、強みを活かすとしたら、どんな強みをどんな形でいかせるんだろう?」

Aさん:「わたしの強みですか?・・・ん・・どうだろう」
コーチ :「行動予定を効率よく、合理的に立てる力が高いことをどう使うか?来週、また、一緒に考えましょう」

というところで、セッションは終了させました。

誰でも、自分は特別であると思いこみたいものではありますが、組織の中では、それぞれの強みをもつ社員が、強みを使って企業利益をあげるよう努力するのは、組織人としての使命であり、特別なことは何もありません。
今後のコーチングは、「自分の仕事にどんな使命があり、仕事をすることが誇りである」ということに気づかせる方向に設定することが、コーチの私としての最善を尽くすことなのではないかな?と、感じました。

行動基準を明確にすることによってやる気に気づかせる。

すでに2月に入りましたね。
予期できない天候の乱れにストレスをため込んでいませんか?
あっという間に一月が過ぎたことに、後悔していませんか?
まだまだ、時間はあると思うのが自分のためになるのか?
残り11カ月と考えた方が自分のためになるのか?
自分のためになる時間への思いを大切にしましょうね。

さて、今回は、人間関係が希薄になった職場での付き合い方をテーマに、コーチングを考えましょう。

新人:「コーチ、今度の職場の環境活動なんですけど、参加したくないんで、断ってもいいですか?」
コーチ:「ああ、会社の廻りを清掃したあと、BBQするっていう恒例の行事のことですね?」

新人:「土曜日に仕事すると彼女の機嫌が悪くなるし、それに休みまで、会社の人と一緒にいるのは嫌いなんで」
コーチ:「理由はそれだけ?」

新人:「ええ、まぁ、だいたい」
コーチ:「会社がしている環境活動に関しては、どう思うの?」

新人:「いや・・別に会社の廻りのごみを拾ったり、下水の掃除なんて必要ないと思います」
コーチ:「会社は、それが必要だと思って、環境活動をしているのかしら?それとも、何か他の理由があるのかしら?」

新人:「聴いたことないし」
コーチ:「聴きたいと思うこともない?」

新人:「どっちでもいいかな?会社で働いて、給料もらえて、休みがあればいいんで・・・」
コーチ:「そうだね。仕事ができて、給料がもらえて、休みがあればいいね。それだけのために会社に毎日行けてるの?」

新人:「まぁ、それだけじゃないですけど。職場の飲み会も、同期のは楽しいし・・」
コーチ:「なるほど。同期の人との付き合いは楽しいのね。じゃ、何がちがうのかしら?同期のと、上司も加わるのと」

新人:「緊張するっていうか・・何を話したらいいか、わからないし。だから、面倒になっちゃうんですよね」
コーチ:「話をしてくれって、上司は求めるの?」

新人:「いや、そうじゃないですけど・・」
コーチ :「どうかなぁ・・今度の環境活動、同期の人と一緒にやってみて、なぜ、楽しそうにやっているかを調査してみるっていうのは・・」

新人:「気が乗らないなぁ・・・」
コーチ :「気が乗らないことは、したくないのね?」

新人:「まぁ、そういうわけでもないけど。でも、厭だなぁと思って行ってもなぁ・・つまらないだけだしなぁ」
コーチ :「何かをする時、楽しんでやりたいというのが、あなたの行動の中心だったよね? じゃあね、楽しいっていうのは、どんな感じ?うきうきとか、わくわく感なのかな?」

新人:「わ~っという感じではないと思います。考えたことはないから、わかんないんですよね」
コーチ :「そうか、じゃ、まだ時間はあるから、環境活動に出席することの意味と、楽しむと言うことがどういうことなのかを考えてみようか?」

というところで、いったん終了にしました。
自分が行動するときの基準を明確にしないと、行動ができないか変えられない若い人が多くなっているような気がします。
企業の活動についても、モチベーションになるような仕組みが必要とされる時代なのですね。

自分の役割を認識させる

各地に大雪が降り積もっていますね。自然の営みに、人は無理に抵抗するよりも、それを受け入れ、したがっていこうとすると、生活の中に工夫が生まれます。そんな工夫をして楽しんでいる皆さん、どうぞご自身にありがとうを。頑張っているな!をどうぞ。

さて、今回は、自分の役割が理解できていない管理職とのコーチングを考えましょう。
専門的知識をもっていることが、逆に、いつまでも現場思考にさせているという上司。皆さんの周りにはいませんよね?

A氏:「いやぁ、ホントに毎日忙しくてねぇ・・いっぱいいっぱいです」
コーチ:「それはたいへんな毎日ですね」

A氏:「そうなんですよ。すっごく忙しくてたいへんなんですよねぇ」
コーチ:「具体的に、どんな忙しさがあるんですか?」

A氏:「そりゃぁ、もう、たくさんあるんです。例えば、現場で機械が止まるでしょ?そうしたら、僕は点検にいかなければならない」
コーチ:「係の社員はいらっしゃらないんですか?」

A氏:「いや、いますよ。でも・・・やっぱりわたしが確認しておかないと。また、同じ事故を起こして会社に損失を与えたくはないですからねぇ・・」
コーチ:「まぁ、そうかもしれませんが、それでご自身が忙しくなってしまうのであれば、部下の育成のためにも、お任せになられるのも一つの方法ではないですか?」

A氏:「理想は、部下が育ってくれて、任せることができることですかねぇ・・」
コーチ:「今、一番手放したい仕事はなんですか?」

A氏:「できれば全部・・と言いたいところですが、現状では難しいでしょう。現場の仕事は、自分がいなければ廻りませんから。よしんば任せたとして、責任は自分がとるわけですから、それ
なら、納得できるよう、自分が動くしかないです」
コーチ:「では、管理者としての自分の役割はどんな仕事をどんな順番でこなすことだと思いますか?」

A氏:「それは難しい質問ですね。毎日毎日、日々いろんな問題が発生するし。まぁ、管理者としての仕事は、ぼちぼちやっても遅れて取り返しがつかないことはなさそうだから、それが後回しにできるのかなぁ」
コーチ:「では、Aさんの上司は、Aさんにどんなことを期待して、管理者としたか、考えてみましょうか?」

A氏:「・・・・・・」

管理者がすべてリーダーだと考える必要はありませんが、A氏の職場では、リーダーであることも望んでいます。
リーダーは、チームのビジョンを描くという、他の人にはできない役割を与えてもらえます。
日々の業務を完全にこなすことは大切です。
しかし、リーダーにしかできない、ビジョンが描けないのであれば、
明日、危機に陥るかもしれないと言うリスクに備えておくことができないのであれば、それは、管理者と言えるのでしょうか?

A氏とのコーチングは、現在、自分の役割を認識させることをテーマに続けています。

価値を知る・・・的外れの上司の癇癪

ゆっくりになりましたが、今年もよろしくお願いします。
さて、2011年のスタート、皆さんはどんなふうに切られていますか?
わたしは、1月1日の朝6時から、地元のFM放送で番組を持たせていただいている関係から、初日の出は、スタジオで生放送を進めながら見ることができた。そんな1年の始まりでした。
番組内でも紹介させていただきましたが、今年の仕事への信念は、
「より多くの方の内なる力を引き出すことに全力投球する」と掲げました。皆さんはどんな目標をお立てになりましたか?
そして、それはどうすれば達成できるのでしょうか?
毎日こつこつと、同じことを繰り返しているようですが、昨日よりは今日、今日よりは明日の仕事の結果に満足する。そんな誠実さの中に、目標の達成があるのではないでしょうか?
そして、その目標の達成は、次の目標への道しるべとなって、また、新たな目標が見つかる。イノベーションは、技術や産業だけの話だけではなく、自分の中にこそ見出せるものだと信じて・・・皆さん、楽しみながら、感謝しながら前進していきましょう。

さて、今週は、入社以来初めての大型物件を受注した社員と上司のコーチングを取り上げてみました。
皆さんは、こんな新人に「かんしゃ(感謝)」ができますか?
それとも「かんしゃく(癇癪)」を起こしますか?

部下:「ようやく、契約書いただけました!!」
(会社に戻ると大声で、チームの皆さんに報告がありました)
係長:「よかったなぁ・・・よくやったなぁ!!自分も嬉しいよ」

部下:「ありがとうございます。ようやく契約書もらえましたが・・・」
係長:「もらえたけど・・? なんだ?」

部下:「はぁ、でも、それは係長がお客さんに裏でネゴしてくれてたんでしょ? 俺、知ってるんです・・・」
係長:「それはそうだが・・・君の熱意が、自分を動かしたんだよ。どうにかしてやりたいという気持ちをさ、引き出したんだから、君のねばりがちだよ」

部下:「でも・・・やっぱりこれは係長のおかげです。99%は係長の力です」
係長:「まぁ、そうかもしれんが、いいじゃないか。課長に追い込まれていただろ?今月も売れなきゃ、お前の席はないもんだと思えって。」

部下:「そうなんですよね・・・ホント、係長ありがとうございました。まだまだ、自分、ぜんぜん力ないっすよね」
係長:「じゃぁ、ぜんぜん力がないとしたら、どうしたらつくと思う?」

部下:「力なんて、そんなに簡単につくわけないじゃないですか?」
係長:「そりゃそうだが、何とか自力で売りたいんだろ?」

部下:「そんなこと言ってないじゃないですか? 今後も、係長、面倒見てください。よろしくお願いします」
係長:「ん?? じゃ、君は、今日の商談が自分の力だけで決まったことが悔しくて落ち込んでたんじゃないのか?」

部下:「はぁ・・・だから、そんなに急には力はつかないですって。それが今日までの商談でよくわかったから、係長にお礼を言おうと思ったんです」
係長:「・・・・・・」

どこまでも、他力本願な部下を前に、係長は、営業の基本である「自分の価値づけ」をさせ、人としての魅力づくりから、指導をし直しているそうです。人間力をあげなければ、いくら提案力や解決力が着いたとしても、物が売れない。そう危機感を抱いたようです。

ところで、このコーチングは残念ながら、上司と部下の価値観があまりに違うため、失敗に終わりました。
「二人のコーチングは、価値合わせをすることからやり直そう」。
部下とのコーチングに失敗し、危うく怒鳴り付けそうになったという係長と私のコーチングのテーマは、「価値を知る」と決めて、チャレンジ中です。

手を焼くよりも、工夫をする

今年も残すところ10日間を切りました。皆さんにとって、この1年はどんな時間でしたか?
わたしは、誕生月が12月と言うこともあって、1年の振り返りと、来年1年の計画を立てるのが、誕生日前後の習慣になりました。
前年12月に立てた目標項目さえ記憶にない・・・なんていうものもありますが、概ね、自分が描いたイメージに沿って時間が流れるようになりました。
来年からは、このブログの更新も、遅れることがないように・・
目標達成項目の1つに加えたことは、言うまでもありません。
と同時に、これに目を通していただく皆さんからの励ましによって、「人のために行動したい」というモチベーションが高まり、行動が左右されるという甘えん坊の特徴を生かして、皆さんからのメッセージによる励ましがいただけると、更に確実なものになると考えました。
どうぞ、皆さん、応援コメント、よろしくお願いします。

さて、甘えた話はここまでにして、今週は、そんな甘えん坊社員とのコーチングを事例にしてみました。
手を焼くよりも、工夫をする。
人育ては、自分磨き。皆さんなら、どういうコーチングをするか、考えながら読み進めてくださいね。

部下:「売上、できなかったら、また社長に激を飛ばされるんでしょうか?自分、正直、社長の熱さが苦手で・・」
係長:「まぁそういうなよ。社長は歯がゆいんだと思う。自分たちが数字さえ作れば、社長はもっと楽になれると思うんだが、何せ、経済が冷え込んでいるからなあぁ・・なんて、甘えてる場合じゃないし。ここ半年、予算達成できない月が多いからな。給料がもらえるのは、社長の熱さのおかげなんだし」

部下:「そうですね。でも、もうちょっと冷静に言ってもらえると叱られてる気がして、何とかしなきゃと思うこともできるんですが」
係長:「感情が入るのは仕方ないさ。そのくらい、社長が怒ってるんだって思えるだろ?」

部下:「そりゃぁそうですが、怒ったって売上できるわけじゃないし。もっと具体的に何が悪いか教えてもらえれば・・」
係長:「それは自分の役割だな・・部下の育成は管理者としての仕事の1つだからな。これからは、もっと具体的に注意するかなぁ」

部下:「そんなぁ・・・」
係長:「ところで、自分、どうしたら売れるようになるんだろうなぁ。
お客様のところでは結構、話が続くようなのに、肝心なところになるとお客様の口が開かない。何か思い当たることはないかな?」

部下:「そうですね・・・自分は一生懸命、自分の扱っている商品の話をしているだけなんです。でも、お客様は急に今日見なさそうに、途中で横向くんですよね。つまらないのかなぁ・・」
係長:「あのさ、君はお客様の話、どのくらい聞いてるんだろうなぁ」

部下:「話、聞くんですか? 売るのは自分で、お客の話しなんて、聴く必要あるんですかね?」
係長:「そりゃ、ニーズがあるかないかわからないところで営業はしづらいんじゃないのか?」

部下:「はぁ・・話し、聴くって何を聴けばいいんですか?」
係長:「どんな仕事をしているのか、どのくらいの社員数があるのか?
この商品を買っていただくためには、使って楽しい、嬉しい、便利になる、そういうイメージを描いてもらわなければ、売れるものも売れないんじゃないかな?」

部下:「はぁ・・・どうやって聞けばいいんですか?マニュアルないし」
係長:「じゃぁ、練習するか?付き合うよ」

部下:「はぁ、恥ずかしいなぁ・・」
係長:「みんな恥ずかしいけど、新人の頃はやるんだ。頑張ってみたらどうかな?」

成長したいけれども、何をしたらよいか戸惑う思う新人。残念ながら、自分では何をどうしてよいかわからない。そんな時は、その状況を見ていた上司から声をかけて、モチベーションを上げさせることでやる気が高まることが多いようです。
今は、即戦力になる人材を好む傾向にありますが、最初からすべての仕事ができる新人はいません。ゆっくり、じっくり育てる楽しさを感じてみませんか?

人材採用に関するコーチング

すっかり秋が深まりました。紅葉を楽しむ時間が持てそうですか?その時間を作るとしたら、何が必要ですか? 自分ですぐにできることは何ですか?
今週は、セルフコーチングからスタートしましょう。

ところで、先日来、正社員の採用に関するご相談をたくさん承っています。どのご相談も、学歴や職歴よりも「人柄がいちばん重要」ということでした。
仕事は教えればいい。
学歴は、学校卒業して長く経ってしまえば、参考程度にしかならない。だからこそ、採用が難しい・・と、頭を抱える経営者が多いようです。
今号は、そんな経営者の人材採用に関するコーチングを紹介しましょう。皆さんなら、どうしますか?

コーチ:「新規正社員の募集ができるのは、応募者にとっては何よりのプレゼントですね」
経営者:「そうですかねぇ・・その割に、今一つピンとくる応募者がいないんですけど・・」

コーチ:「なるほど、ピンとこないんですね?」
経営者:「なんかねぇ・・履歴書見るとたいがい、最初の会社に半年もいない。ひどいのになると、すごい大手のビッグネームなのに、1ヶ月しか続いていない。どういう神経してるのか?っ
て思っちゃいますよね?」

コーチ:「長く続いている人が必要ですか?」
経営者:「そりゃぁ、コロコロ変わっている人は、うちもすぐに変わっちゃいそうで厭じゃないですか?」

コーチ:「なるほど。コロコロ変わられては嫌なんですね?」
経営者:「だって、採用にはお金も時間もかけているんですからね。すぐに辞める様な人は採用したくないですよね」

コーチ:「なるほど。では、どういう人が必要ですか?」
経営者:「どういう人?・・・」

コーチ:「能力は何が必要ですか?」
経営者:「素直さかなぁ・・・熱意のある子もいいなぁ」

コーチ:「素直さのある人、熱意のある人ですね。でも、それは人としての資質で、能力ではないですよね?能力は?」
経営者:「どんな子が向いていると思いますか?」

コーチ:「それでは、どんな能力が必要か、言い換えるなら、どんな強みを持っている人を採用すると良いか、配属先の業務の洗い出しと、配属先の人と能力、資質の分析から始めてみません
か?」

採用の不一致は、応募者側にも問題がありますが、実は、採用する側にも、問題があるものです。
どんな人材が必要なのか、じっくり考えてから、面接を始めることが大切です。

経営者は、とかく近視眼的になりがちです。コーチが、冷静に、客観的に情報を分析して、時にはアドバイスを加えることによって、自分の考えを明確にする支援ができるものです。
思い込みを外し、具体的なイメージを描きやすくするためのコーチング、楽しんでくださいね。

「承認」の中でも扱いが難しい「叱る」について考えてみましょう

秋がゆっくりやってきたと思えば、すぐに紅葉のニュースが届くようになりました。相変わらず、人も季節も、忙しく時間が過ぎているようです。さて、今号からは、「承認」に焦点を当てて、考えていきましょう。

大人になると、人から褒められるチャンスは、とても少なくなりますね。
この前、人に褒められたのはいつですか?
それはだれからでしたか?

こう質問すると、ほとんどの人が「いやぁ~、褒められた記憶なんてこの頃にはないですねぇ・・」とおっしゃいます。

では、仕事をしている時間中、叱られたのはいつですか?
そう質問すると、「今も怒られたばっかりで、うんざりしていますよ」と、即座に答えが返ってくる、若いクライアントはたくさんいます。
承認=褒められることではありません。
叱られることも、承認です。

承認とは、相手の存在自体を受け入れ、認め合うことです。
だから、相手の成長を願って叱らなければならない時、タイミングを外さず叱る承認を恐れてはなりません。

ところで、タイミングが悪い叱り方の場合、部下はどう受け止めるでしょう。
成長を願うのは、上司としての心情ですが、それは部下にはなかなか伝わりません。
まして、タイミングを逃したら、逆効果になってしまうでしょう。
今号は、承認の中でも扱いが難しい「叱る」について、考えましょう。

事例)
A君「売れました!システム受注しました」

社内に戻り、直属の上司に嬉しそうに報告するA君。同じ課の皆さんも、拍手をしてA君の報告を聴きました。
そこへ、A君の指導をしている主任のBさんが戻ってきました。

Bさん「おい、おい、冗談じゃない。A君。君の今日の営業、あれな
んだよ?ぜんぜん、準備したとおりに勧められなかったじゃ
ないか?
一体全体、何を勉強したんだよ。勘弁してほしいよ。今日は、自分が一緒にいたから良かったけど、来月から、一人で営業に出るんだぞ。もっと勉強しないと、会社の名前に信用がなくなる」

A君「はぁ・・でも、今日の説明で、お客さんは何も言わなかったじゃないですか?B主任だって、今日は自分一人でやれって言ってくれたんで、思い切ってやったから、注文いただけたんじゃないんですか?」
Bさん「確かに、一人でやれと言ったし、自分はできる限り、今日は何も言わないようにして我慢したさ。だからと言って、あんな風に、何でもできます、やりますって・・お客をだますような営業、だれがやっていいって言った?」

A君「だましてなんかいません。あらかじめ、プログラマーにも聴いていたので、やれると言ったんですよ」
Bさん「やれるのはやれるけど、費用は見てもらわないと。せっかく有償で提供できるサービスも、全部、奉仕になっちゃった。プログラマーの作業量、考えないと・・」

A君:「はぁ・・・スイマセン・・・もっと勉強します」

A君は、この後、同僚や先輩に会うたびに、「せっかく売ったのに、怒られた・・」とこぼしたそうです。

Bさんは、おそらく、A君の初受注を目の当たりにできて、嬉しかったことでしょう。指導の甲斐があったと、自分を褒めたことでしょう。
しかし、同時に、今後の営業に課題があることを、強く感じたのではないでしょうか?
その、強い思いが先に、言葉に出てしまったのではないでしょうか?

事例)
A君「売れました!システム受注しました」
Bさん「初受注、嬉しいだろ?僕も嬉しいよ」

A君「ありがとうございます」
Bさん「これで、来月から一人で回ることに少し自信が持てたかな?」

A君「いやぁ、まだまだ不安がいっぱいです」
Bさん「それじゃぁ、自信がつくようにするために、今日の営業の進め方について、一緒に考えてみよう」

こんなふうに、A君のモチベーションと、嬉しい気持ちに配慮できたらどうなるでしょう・

皆さんがBさんなら、どんなコーチングを進めますか?
考えてみてくださいね。

「気づき」を支援する質問

今号は、「質問」の本質の1つ、「気づき」を支援する質問を考えてみましょう。

仕事の経験が浅ければ浅いほど、人は「頑固」になって、融通が利かなくなるようです。
なぜ、人の経験と思考の固定化が関連するのでしょうか?
その関連性について、私は次のようなことから検証できるのではないかと考えました。
経験が豊富であれば、経験したことの中から得た「気づき」や「知識」を総動員させて考えることによって、答えを手にすることができる。
逆に言えば、経験が少ない=知識が少ない、経験が少ない=工夫するにもゆとりがもてない。経験が少ない=達成感や充足感がない=自己信頼が低くなるという負の心の連鎖が起こり、結果、行動しないということになってしまいます。
経験さえあれば柔軟に考えられることも、未経験なことが多い人は、どうして良いかわからない、何を考えればわからないから思考が停止してしまうか、少ない経験から無理に答えを出そうとするため、無意識のうちに防衛的になり、行動する決意ができないというパターンに陥ってしまうようです。

「気づき」とは、急激に引き起こるものです。
「あ!!そうか!」「そうそう、そういえば・・」という言葉をクライアントから聴くことができるのは、コーチ冥利に尽きますね。
クライアントが、これまで手にできなかった「気づき」を手にする様子を見る時、この仕事を選んで良かった!と思うのは、私だけでしょうか?
皆さんも、相手の気づきを支援する質問、ぜひ、たくさん作って相手に刺激を与えてくださいね。

事例)
女性社員:「係長、職場の人間関係で悩んでいるんです。相談に乗ってください」
係   長:「もちろんいいよ。何か困っているのかな?」

女性社員:「主任のA子さんなんですけど、わたしが仮受注した案件だけ、わざとゆっくりマッチングさせてるので、クライアントへの提案が遅れ、いつも受注できなくなっちゃうんですよ。ホント、意地悪な性格なんで、困ってるんです。指導してください!!」
係   長:「それホント?彼女、そんな子じゃないけどなぁ・・・」

女性社員:「じゃぁ、わたしが嘘をついてるというふうに思ってるんですか?」
係   長:「ああ、いや、違う。気を悪くしないで」

女性社員:「係長知らないからそういうこと言うんですよね?私がどれほど苦労してオーダーもらってるか、ご存じないんですか?」
係   長:「いやぁそういうつもりじゃないんだが・・・」

女性社員:「営業は、売り上げに追われると言うのに、どうして内勤の営業部員は、のんびりできるんですか?不公平です」
係   長:「まぁ、その君のまじめさ、営業部としてもたいへん貢献してもらってると思うよ。ところで、君の抱えている問題を整理したいんだがいいかな?」

女性社員:「はぃ・・・」
係  長:「君が悩んでいることは、職場の人間関係だと言うことだが、主には、営業事務の女性との関係ということかな?」

女性社員:「はい」
係  長:「それは主任一人が関わっている問題?それとも、大勢の営業部所属の女性社員との問題なのかな?」

女性社員:「うん・・・・・主任一人との問題かもしれません」
係  長:「じゃぁ、仮説を立てよう。主任一人との問題だったとしたら、何を解決したいのかな?」

女性社員:「とにかく、早くわたしの案件だけ後回しにしないで、スタッフを選んでほしいんです」
係  長:「スタッフへの声掛けが遅れることがいやなのかい?」

女性社員:「だって、売り上げにならなければ、会社は困るじゃないですか?」
係  長:「そうだね。そのほかには?」

と、そのほかには、というやり取りをずっと続けます。(中略)

係  長:「君の仕事に対する熱意、ほんとうに伝わってくるよ。それが報われていないという現状も理解できた。でも、君は、この問題を自分のこととして受け止めているのかな?」
女性社員:「え?わたしの問題だと思っていますが・・」

係  長:「それなら、なぜ、主任との改善した後のイメージがわかないのだろうか?」
女性社員:「え?だから、それは・・・」

係  長:「今、自分から主任との関係を改善する方法を考えてみないか?
それができない限り、ずっと、君は主任との問題を整理できずに、楽しい仕事ができそうにないように思うよ。むしろ、主任に対する意地を張って、君が無理をしているのは残念だと思う。わたしができることは応援する。だから、相手が悪いというだけでなく、自分が望む形はどんな形か、そのためにどうするればよいか、すこし時間をかけて考えてみたらどうかな」

女性社員:「ああ・・そういえば、この頃、主任を困らせてやろうと思って、無理に仮受注していたかもしれません」

仕事は、楽しみながら進められるに越したことはありません。
あなたなら、こういう女性社員にどんなコーチングをしますか?
じっくり考えてみてくださいね。

質問のスキルアップ 2

今号では、行動を促す「質問」を考えましょう。

気づけてはいるのですが、行動できない。
そんな時は、行動するイメージができていない、あるいは、行動のための準備が整っていない、あるいは、目標そのものの設定に無理がある等、何らかの障害を抱えていることに気づかせる働きをもつ質問が必要になります。
質問されることによって、自分の心の奥底にある答えを導き出すことで、適切な次の1歩につなげることができるようさまざまな角度からの質問を作って、答えてもらうよう、働きかけてください。

事例)
新人A君:「係長、相談があるんですが・・・今、お時間よろしいですか?」
係   長:「もちろんいいよ。声のかけ方が、うまくなったね」

新人A君:「はぁ・・・そうですか?この間、叱られたので、覚えていました」
係   長:「わたしが叱ったかな? わたしじゃないんじゃないか?」

新人A君:「いえ、あの、係長ではなくて・・・主任のGさんに・・」
係   長:「ああ、G主任か。あの人、厳しいからねぇ」

新人A君:「いえ、あの、G主任が悪いわけではなく、僕が教わった通りにできないので・・」
係   長:「ところで、何の相談かな?」

新人A君:「あ、やっぱりいいです。僕が教わった通りにできないだけですから・・」
係   長:「?? いいのかな?」

新人A君:「はぁ、やっぱり・・僕って、何回怒られても覚えられなくて。物覚え悪いだけですね」

コーチングのスキルを覚えたばかりのころに陥りがちな事例です。
部下に声をかけられたら、とりあえず褒めなければならないという配慮から、部下の成長点を認めようと目についたことを褒めてみる。ところが、褒められた方は、褒められても納得しているわけではないし、自分が思ってもいなかったことを言われ、戸惑うばかりか、抱えている問題の答えは、「やっぱり自分に悪いところがあるんだ!」と思うことで自己納得をしてしまい、本題に入る前に自己解決してしまったという事例です。

相手の様子をうかがいながら、本題に入る前に話しやすい環境を作る目的のため、手段としてアイスブレイクするのは構いませんが、この事例のように、本題に入れず完結してしまったら、コーチングの本来の機能を果たせず、コミュニケーションは終了してしまいます。

相手の様子が深刻であれば、すぐに本題に入れるよう、会話の組み立てを工夫してみましょう。

事例)
新人A君:「係長、相談があるんですが・・・今、お時間よろしいですか?」
係   長:「もちろんいいよ。どうしましたか?」

新人A君:「はい、先日主任のGさんから、何度も同じことを言わせるな!と、叱られてしまったんです。自分では、十分注意したように思うんですが・・・」
係   長:「自分では注意したのに、G主任から叱られたんだね?」

新人A君:「はい・・・かなり落ち込んで・・やる気が出ないので、余計にG主任に怒られるし、わたしはどうしたらいいんでしょうか?」
係   長:「君が今、いちばん嫌なことはなんだろう?」

新人A君:「いちばん嫌なことですか? そうですね、G主任に怒られることかなぁ」
係   長:「そのほかには?」

新人A君:「そのほかですか?」
係   長:「そう、怒られることだけが嫌なんだろうか?」

新人A君:「はぁ・・実は、わたしは今の自分の姿が嫌いです」
係   長:「今の姿?落ち込んでいる姿が嫌い?」

新人A君:「はい、こんなことで落ち込んでどうする。自分の仕事をしっかりやろう!と、自分を励ましても、やる気が出なくて・・。G主任を見かけるだけで、胃の奥が苦くなるような気がするし」
係   長:「自分が、G主任から逃げてるように思うのかな?」

新人A君:「はぁ、そんな感じです」
係   長:「どうなりたい?」

新人A君:「すっきりしたい・・・というか、仕事でミスをなくすようにするためにどうしたらいいか、それが問題ですよね?」
係   長:「君は、自分の課題が何であるかも理解している。だけど、それでも体が動かないのに苛立っている。自分が自分らしく働く姿はイメージできているのか
な?」

新人A君:「実は、あまりイメージできなくなっています」
係   長:「急がずに、イメージしてみたらどうかな? ちょっと忙しく考えすぎているように思うよ。これから、私も協力するから、半年後出来るようになりたい仕事を考えてみよう。今日は悪いが、この後会議がある。続きは明日でもいいかな?」

もやもやしている新人A君の悩みが深いだけに、1度の相談では終われません。そんな時は、時間をおくことも必要です。

質問のスキルアップ 1

「質問」のスキルは、相手の「気づき」を促すもっとも重要なものの1つですが、皆さん、苦手とされるようです。

なぜ、質問のスキルが高いことが望まれるのでしょうか?

人材育成や自己成長に「考えさせる」ことの重要性が高いと言われる所以はどこにあるのでしょか?

自分で考えて答えることは、自分が望んでいることが何か、自分自身の答えを探ることであるわけで、望む通りに実行させることによってモチベーションは維持できるでしょうし、自ら望んで行動したことを果たせた時の充実感や達成感は、自己信頼を高めることに大きく寄与することになり、次もまた頑張りたいというモチベーションの正の作用を生むとされるからです。
しかし、人は常に自分のしたいことを正確に理解しているわけではなりません。
潜在的な欲求として持っている自分の考えが、わからなくなってしまっている、あるいは、持っていることにさえ気づかずにいることが多いのです。
上司や先輩の言う通りに仕事ができることは、ある一定のキャリアまでは大切です。
しかし、いつまでも、新入社員ではない訳ですし、現代社会のように一人ひとりの価値観が違い、情報が氾濫し、取捨選択が困難な時代こそ、現場の一人ひとりが会社を支えることが求められる以上、自分で考え答えを出さざるをえません。しかし、いくら一人ひとりが考え、その考えから判断した結果の行動が望まれたとしても、勝手に独走して良いということではありません。
企業理念に基づいて、同じ方向を見定めて進んでいることを確認する必要があるのです。
その確認のツールとしても、また、考えを十分に引き出すためにも、この質問のスキルは、承認スキルと同じくらい大切にして、十分皆さんがトレーニングを積み、同僚や上司さえも考えさせ行動させるよう、刺激を与えられるようになりましょう。

事例)
出勤した部下の表情が、冴えない時(観察の結果から会話を組み立てます)

質問者:「君は今朝、どんな気持ちで迎えましたか?」

(選択肢のない質問)

部 下:「はぁ・・相変わらず暑いなぁ~っと思いました」
質問者:「その暑さは、あなたにどんなふうに作用しますか?」

(深く掘り下げ、本質を引き出す)

部 下:「やる気を失わせます」
質問者:「なるほど、やる気を失わせるんだね。

(評価せず、本人の答えを復唱します)

では、どうしたらその失いがちなやる気を高めることができるかな?」

(対策を自分で考えさせるきっかけを作る 意図的になりすぎないように配慮)

部 下:「暑くなければ、多少は上がると思います」
質問者:「暑いというのは、気温・室温ということですか?」

(確認のための質問はシンプルに)

部 下:「はい、部屋の温度を少し下げてはいかがでしょうか?」
質問者:「他の女の子たちへの配慮はどうしようか?」

(自分だけのことを考えさせない)

部 下:「はぁ・・・我慢してもらうかなぁ?」
質問者:「抵抗が大きい気がするな。他にどんなことができるだろう」

(答えは1つではないことに気づいてもらうために、別の選択肢を考えさせる)

部 下:「他に?ですか・・・」
質問者:「例えば、扇風機を回すとか」

(提案も、質問になる)

部 下:「そうですね。自分の傍に扇風機をおいてそれで空気を攪拌しましょう」
質問者:「そうしたら、どんな仕事が進むかな?」

(具体的な行動をイメージさせる)

部 下:「いやぁ、実は・・見積もり出さなければならないのが2社ほどたまっているので、それを今日中に仕上げます」
質問者:「わかりました。では、わたしは、扇風機を探してきましょう」

日常の会話をコーチングにするヒント

部下:「あ~・・今日もダメでした!すいません」
係長:「あ~あ~、また0ですか?! いったい何してるんですかねぇ。他の皆は、6時間で成果がでて
るんだから、経済が悪化してるから売れないんじゃないんだよ。君の売り方が悪いんだよ!」
部下:「はぁ、あの・・・努力はしてるんですが」
係長:「結果がすべてだろ!営業が、0ですって報告して、何が努力だ、聞いて呆れる」
部下:「でも、今日もいつもどおり、訪問先のお客さんと話はできたんです。40分ほど、話して、いつも
の通り、うちの商品の良さを説明しました!」
係長:「だからどうした?話して売れないなら、君の能力が足らないってことだろう!なおダメなんじゃ
ないか?」
部下:「はぁ・・・すいません・・・」

いつもと同じ行動、いつもと同じ時間の使い方。いつもと同じ道を通り、いつもと同じ成果に終わる。
どうして人は、「いつもと同じ」ことを選択するのでしょうか?
今号は、そんな「いつも」からの脱出を促すことを考えてみましょう。

もちろん、いつもと同じ行動を起こすことが悪いのではありません。
しかし、いつもと同じことをしていて、満足感や充実感が高まらないのであれば、行動を変えてみて、結果を変える必要があります。
ところが、自分ではどう変化を起こしたら、自分の望む結果が出るのか見当もつかず、またいつの間にか同じ行動に戻ってしまうことになったことはありませんか?

人は、自分の経験を頼りに思考を巡らせます。
経験のないことにチャレンジしようと、脳は自然にはメッセージを送りません。
だからこそ、職場にも、家庭にも、社会にも、身近なところにコーチングの能力を身に備えた人が必要なのです。

コーチは、いろいろな面で、クライアント(相手)の考えを眺めることができます。
なぜなら、支援者だからです。
クライアントの(相手の)思考の穴を埋めたり、違う方向から見つめることができるから、質問をすることができるのです。
また、クライアント(相手)がきづかぬうちに望むものや、すでにある答えに気づかせるための関わりを持つことができましたよね?

コーチングは、構えてすることもできますが、日常のあらゆるシーンにおいて、自然体でできるようになることがいちばん!です。
いつもと同じ行動を繰り返して、「あ~あ」とため息漏らす人が周りにいたら・・・ぜひ、コーチングしてみてくださいね。

クレームは、業務改善の種。大事に育てましょう

「社長、申し訳ありません!クレームを出してしまいました」という管理職の社員に、更に追い打ちをかける社長さん。
今号は、そんなやり取りを通して、コーチングを考えてみましょう。

課長:「すいません、クレームになりました。社長があれほど力を入れられた新商品だった
のに、申し訳ないです」
社長:「なにぃ?どこが悪いってんだ?」
課長:「はい! 昨日、納品しようと思って点検していましたら、表面の磨きが足りないと
ころがあって、気になって修正させたんですが、やはりお客様から指摘されてしまっ
て・・」
社長:「あの商品は、輝きの素晴らしさが特徴の1つだと説明したはずだ!なんで、磨き残
しなんかに気づけなかったんだ?」
課長:「はぁ、あの~その前の成型のときから、すでに工程に遅れが出てまして、修正しよ
うと思ったんですが」
社長:「思うだけで仕事が進めば、俺は苦労はせん!誰のところで遅れが出たんだ?」
課長:「はい! 社長、社員には私からよく話をして、改善計画を出しますので、今はクレ
ームの処理をさせてください」
社長:「クレームの処理はもちろんだが、誰のところで止まったかわからんじゃぁ、改善の
しようがないだろうがぁ!」
課長:「はい、この件は、わたしも含めて、全員が少しずつ、改善することが望まれますの
で・・」
社長:「で、誰が怠けたんだ?」
課長:「・・・・」

どこの現場でも、聞こえてきそうな会話ですね。
この二人の思いは、おそらく一緒のはずです。
ゴールは、「良い商品を納品させたい」ということだと思います。
しかし、二人は立場が違うので、ゴールの見方と、ゴールの目指し方が違うのです。
だから、同じゴールを目指していても、会話が成立しないのです。
社長は、しくみに問題があるなら、それを最優先に解決することによって、次のロットからすぐに商品の完成度を安定させたいので、原因となった人を特定して、その仕事への適性があるかどうかを判断したいのでしょう。
そして、人を入れ替えてでも、すぐに体制を整え直した中で仕上げたものと入れ替えることで、クレームの処理だけでなく、お客様の満足を高めたいということなのでしょう。

課長は、人を特定するような犯人探しは、社員のモチベーションが下がるだけで、仕組み全体を見直すことによって、チームワークを高めて商品の完成度を上げて安定させたいと考えるのでしょう。また、このクレームの処理を優先させることが最重要事項だと考えてるのでしょう。

人は、他者の立場に身を置いて、物事を考えることが大切であることを知りながら、本当の意味で、立場を入れ替えたり、その人の思考を真似たりすることができない限り、相手の立場になって考えることはできません。
コーチは、そんな二人の思いを、それぞれ、整理して自分の思いに気づかせることができます。
お互いの会話が平行線のまま続くのであれば、ぜひ、コーチを探してみてください。
コミュニケーションの障害は、価値観の違いだけで起こるものではありません。立場の違いによる考えの差も、十分に理由になることに、コーチである皆さん、気づかせてあげてくださいね。

頑固な若手の育成を考える

「この頃の若い人は、融通がきかないね。こんな時はどうしたらいいんでしょうか?」
いつも元気なリーダーさんに、唐突に声をかけられました。
マニュアル世代と言われる若い社員には、頑なに自分の考えを貫き通す人も増えたように思います。
こんな人材とは、どんな関わりをもち、その考えでは通用しないことを、どう指摘するかについて考えてみましょう。

現代の若手社員は、大きくニ局化しており、一方の若手は、自分の考えをもたないで、指示・命令に忠実に従う、「考えないで楽しく仕事をしたい派」です。
一方の若手は、自分の考えがすべてだと指示・命令にもぐずぐずしか従わない「頑固」な人たちです。
どちらのタイプも、それぞれの特徴に気づかせ、企業の望む人材へと変身させていくよう、管理者は指導と育成に望んでいただくことが大切です。

今週は、この二つのタイプのうち、「頑固」な人材の育成を考えてみました。

上司:「どう?朝の連絡ついた?」
部下:「いえ、まだ・・」

上司:「お客さんがつかまらんのか?」
部下:「はぁ、あの~」

上司:「何時と何時に電話したんだ?」
部下:「いえ、あの・・まだ・・」

上司:「まだかけてないのか?」
部下:「はぁ~・・あの、資料がほしいと思うので」

上司:「ごちゃごちゃ言わんと、早く連絡とれ!」
(このあと、部下は元気なさそうな声で電話をかけていました)

このケースは、部下の「かけなかった理由」について掘り下げていませんので、部下は納得することなく、言われたことだけをしたという仕事になります。
これでは、部下の「自分は頑固」ということに気づくこともなく、1つの指示を済ませただけという経験になるでしょう。

また、悪くすれば、「この上司は、言ったことをすぐにしないと機嫌が悪くなる。だから、言われたことだけをすればいい」と悟るだけでしょう。
上司が急いだ理由について、部下が資料にこだわった理由について、コミュニケーションすることが大切ですし、その会話の中から、部下は気づくことが多いのではないでしょうか?
その仕事をするためには何を準備するのか? 何を優先したら良い結果につながる行動になるか?など、仕事の本質を学ばせるためにも、コーチングを活用ください。

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